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第三話 消えたのは魂か体か



 いや、そんな問題でもないだろう。顔面蒼白になりながらも、自身でツッコミを入れる。

 とりあえず状況を整理しよう。脳筋なオレステスにどこまで思考力があるかは謎だけれど。


 まず、オレステスの人格がこの美少女の体に入ってしまった。これはまぎれもなく事実だ。

 理由はわからない。おそらく考えてもわからない。ならばこれ以上考えるだけムダだ。

 次に考えるべきは――オレステスの体がどうなっているか、だろう。

 意識を失う前のことを思い返してみる。


 仕事の最中だった。

 懐具合が心もとなく、冒険者ギルドで適当な仕事を探していた。

 見つけたのはとある町からの依頼で、近くにアンデッドが出るから退治してほしいというものだった。

 よくある、変哲もない依頼。詳細も大してわからなかったけれど、報酬額も高くはないからさほど難しい案件とも思えなかった。


 一攫千金とばかりに大物を相手にするのも悪くないが、そういった依頼には危険がつきものだ。よっぽど切羽詰まっていれば手を出さなければならないのだろうが、そこまでの状況になるまで追いつめられたことはない。


 なにごとも、ご利用は計画的に、だ。


 危険を回避しつつ、そこそこの報酬をより安全に手に入れる、これが鉄則だった。


 安全性を高めるために、他の人間と組むこともある。

 今回もそうだった。

 相手がアンデッドなら、毒だの病原体だのを持っている可能性がある。アンデッドの数がわからない以上、ポーションや毒消しをどれだけ用意していいかわからない。

 ならば治癒魔法を使える魔導士と組んだ方が安パイだ。


 そして今回組んだのは、小柄な女魔導士だった。

 本人曰く、バフ、デバフが得意で、多少なら体術も使えるとのことだったので、条件的にはぴったりだったからだ。


 実際、仕事はやりやすかった。

 オレステスは得物である長柄の槍を振るって突っ込むタイプだが、彼女はそれに合わせてバフをかけてくれる。腕力が増したわけでもないのに攻撃力があるのが不思議ではあったけれど。

 だがこれに慣れるのはよくないな、とも思っていた。便利ではあっても、そのせいで気が大きくなったり鍛練を怠ったりしてしまいそうだ。


 そう、ご利用は計画的に。


 無事アンデッドを倒して、あとは町に戻って報酬を受け取るだけ。そうしたら彼女ともその場でさよならだな、などと気楽に考えていたときだった。


 彼女の背後に、トロールが現れたのが見えた。


 考えてみればありうる可能性だった。

 アンデッドとトロールはセットで行動していることも多い。

 ならば近くにトロールがいるかもしれないと警戒して然るべきだったのに。


 完全な油断だった。


 しまった、危ない、そう思ったときにはもう、体が動いていた。

 彼女を庇うように前に出て、振り上げられたトロールの、太い腕と巨大な拳を見た。


 ――ああ、これは死んだな。


 自分に向かって振り下ろされる拳を見て、覚悟した。

 覚悟はしたものの、さすがに条件反射的に目を閉じる。


 衝撃は――受けた気がした。だがそれももう、はっきりしない。

 次に気づいたのは、あの侍女だかに促されて目を開けたときなのだから。


 ――いや、待て。

 自分が置かれていたはずの状況を思い返してみて、思う。

 あれをまともに喰らっていては、生きていないだろう。


 ということは――「オレステス」は死んだのか?


 死んで違う人間の身体に転生した。にわかには信じがたいが、そういうことかもしれない。

 ならばそもそも、この少女に宿っていた元の魂はどうなった?

 オレステスの魂に追い出される形で消失したのか。

 それとも入れ替わったのか? だとしてもあの状況のオレステスの体に入ったのならば、攻撃を喰らい致命傷を受けて死んでしまったのではないか。


 オレステスの体が死んで、オレステスの魂は残った。

 この少女の体は残って、少女の魂は消えた。


 自分の体が失われてしまったことへのショックは、もちろんある。

 だがそれ以上に、消えてしまっただろう少女が哀れだった。

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