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鍛えよ、侯爵令嬢!~オレスティアとオレステスの入れ替わり奮闘記~  作者: 月島 成生


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第二十五話 思惑と計算と



「これが――私……」


 鏡を見つめて、ぽつんと呟く。


 さすがに昏倒させたのはやりすぎだったのか。気絶していたのはほんの短い間だったのだが、目を覚ましたアレクサンドルに「ちょっとこっちに来てください!」と腕を引っ張って連れて行かれたのは、湯殿だった。


「汗やらで汚れているでしょう。さっさと綺麗にしてもらってください。僕も体を流しますから」


 なるほど、オレスティアももちろん汗まみれ、地面に手をついたり倒れたり、清潔とは言えない状況であった。

 それはアレクサンドルも同じで、なんなら掌底をくらって吹っ飛んで転がっていたものだから、衣服の汚れに関しては彼の方が酷かった。それに耐えられず、そそくさと風呂に連れてきた、というわけか。

 こういうところがひ弱な貴族の坊ちゃんだな、と思いはするも、それでも自分だけではなくオレスティアも共に連れてくるあたりは見上げた紳士だった。


 ――共に?

 そこまで考えて、ふと思い至る。


「もしかして――一緒に湯浴みをするつもり……?」


 いくら姉弟とはいえ幼い子供でもあるまいし、この年でそれはさすがにないんじゃないか。

 ドン引きもせずに見上げるオレステスに、アレクサンドルは「なっ!」と一言叫んで、真っ赤になる。


「そんなはずないでしょう! 姉さんはここで! 僕は自分のところで! 別々に決まってます!」

「ああ、ですよね」


 よかった、とは口に出さず呟く。悪いヤツではないなと見直した途端に変態野郎だと発覚するのは、なんとなく気分が悪い。


 そして「オレスティア」は侍女であるネラにしっかりと体を磨かれ、その後、なぜか着飾らされた。


 オレステスがオレスティアとして目覚めた日、出かけるためにと着せられたドレスよりもきらびやかな気がする。

 顔にも華やかな化粧が施され、ピアスやネックレスなどのアクセサリーもつけられた。決して大ぶりな派手なものではないが、品よく、オレスティアによく似合うものだった。


「顔だけは元から綺麗なんですから、そういう格好の方がやっぱり似合うんですよ」

「――お前、本気で言ってんのか」


 なぜか自慢げなアレクサンドルを睨みつける。


「え?」

「いえ――……」


 思わず洩らした呟きは、幸いにも聞き取れなかったらしい。きょとんと真顔になって首を捻るのに、なんとなく誤魔化すような反応を返した。

 不思議だった。

 たしかに服を着ていればわからないが、こういう、デコルテが開いた服だと一目瞭然だというのに。


 なんだ、この細さは。

 先程湯船で磨かれているときも思ったけれど、こうやって面と向かって見るとあまりに酷い。うっすらと胸骨すら浮いて見えている。


 目がないのか、この男。

 それとも貴族のご令嬢ってのはこれが普通なのか?

 そりゃ、剣も持てねぇわ。


「とりあえず、これでわかったでしょう? 姉さんには剣よりもそちらの方が似合うんですよ」


 なるほど、鍛練をやめさせるための説得のつもりということか。

 一度は付き合ってくれたのになぜやめさせようと考えたのかも理解できる。「オレスティア」に吹っ飛ばされたからだ。

 男としてのプライドが許さない、とかいったところか。見直した途端にこれかよ、と鼻白みかけて、思い直す。


 最初は、どうせオレスティアには剣など無理なはず、少し付き合ってやれば満足するか諦めるかしてやめるだろうと考えていたのではないか。

 それが意外にも活路を見出した。やはり「侯爵令嬢」が体術を修めるなど外聞が悪い、と思ったのかもしれない。


 いずれにせよ、オレステスには不本意極まりないけれど。


「出て行って」

「――え?」

「着替えるから出て行って、と言いました。このようなドレス、今の私には不要ですから」

「不要って――」

「それから、やはり至急で私用に鍛練のための服を仕立てるよう、手配してくださいますか?」

「はぁ!?」


 不機嫌を隠す気もない表情で、矢継ぎ早に言ってのける。


「まだわからないんですか!? 姉さん、これから嫁ぐんですよね? そんな女性がなに言って――」

「だからこそ、です」


 言い募るアレクサンドルを遮って、向き直る。


「嫁ぎ先の辺境伯は、戦陣切って戦うような方だとお聞きしています。ご本人が屈強であるから、なよなよとした令嬢が気に入らず、それで今までの花嫁は追い返されてしまったのでは?」

「それは――」

「だからこそ、伯爵様の好みに合わせるために鍛えるのです」


 そこまで言って、にっこりと笑って見せる。

 無論、そんなことはまったく考えていない。そもそも嫁ぐ前に逃げ出すつもりなのだし。


 そう、その逃げるためにこそ必要なスキルだ。


 もっとも話の辻褄はあったようで、アレクサンドルは、うっ、と小さく呻いたあと、「わかりました」と渋々な様子ながら了承してくれた。

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