第二十二話 物事の7割は腕力で解決できる(はず)
あんまり待てねぇぞと言っていたせいかもしれない。とりあえず丈だけつめてもらって、あとはベルトできゅっと締めた。
さすがに男物のズボンだから、丈だけではなく太さももっと余るかと思っていたのだが、意外とそうでもない。
(この女の貧弱だが、弟の方も男にしちゃ随分と華奢だな)
オレステス自身の屈強な肉体を懐かしく思い返すが、詮無いことだ。
「ね、どうかしら」
オレスティアが持っていた服は、すべて上下つなぎのドレスだけだった。そこでシャツもアレクサンドルの物を借りている。ズボンほどサイズを気にしなくてもいいので、ただ袖をまくっているだけだ。
ついでに、長い髪もひとまとめにしている。下したままでも動けなくはないだろうが、この方が動きやすいのは当然だった。
なによりオレステスは短髪なので、単純に邪魔くさく感じられてしまったのもある。
「どう、と言われても……」
くるりと一周回って見せるオレステスに、アレクサンドルは苦い顔をしている。貴族の、まして侯爵家の令嬢がする格好ではないのだから、この反応は頷けた。
まぁオレステスとしても賛辞を期待していたわけではないので、軽く肩を竦めただけでこの話題は終わりにする。
「ところで、武器庫ってありますか?」
アレクサンドルに向き直って、かたんと小首を傾げて見せる。こうやって上目遣いで見つめてやると、この弟はおもしろいくらいチョロくなるのに気がついた。
「それは、もちろんありますけど」
「案内してください!」
想定の答えに、用意していた返答をする。にこっと笑顔をつけることを忘れない。
さすがに、アレクサンドルの眉が怪訝に歪む。
「どうしてですか?」
「私でも使える武器があればと思って」
事前に確認していたから、オレスティアに体術の心得がないことはわかっていた。ならば当然、「得物」なんてものはないだろう。
基礎的な体力、筋力をつけることはもちろんだが、この身体にどの武器が合うのかは試してみないとわからない。
ついでに言えば、オレステス自身は小さい頃から同年代の子どもと比べて体が大きかった。腕力も強かったので、力のない者の戦い方を知らない。
筋力を鍛えるつもりではあるが、同時に技術の方も磨く必要はあった。
「いや、だからどうして武器を使わなくてはいけないのですか?」
「だって、弱かったら困るでしょう?」
物事の7割は腕力で解決できる。オレステスの信条だった。
残りの3割はそれぞれ、権力、財力、知力だ。
これを口にすると、「もっと権力とか財力の割合は大きいだろう」とも言われるが、そんなのは権力と財力を持っているヤツを腕力で言うこと聞かせれば解決する。
「よくわからないけど……」
オレステスが思う、力で屈服させられる方の立場であろうアレクサンドルは首を捻りながらも武器庫へと連れて行ってくれる。やっぱりチョロい。
案内された武器庫には、意外にもあらゆる種類の武具が揃っていた。選び放題だ。
元々オレステスが使っていたような長槍は無理だろう。並みの男では振り回すことはおろか、持ち上げることすら厳しい代物だ。オレスティアに使えるわけがない。
ならばきっと、両手剣ですら重くて使えないだろう。腕力を測る意味もあり、壁にセットされた剣に手をかけてみたが、それだけで断念せざるを得なかった。
これならどうだ?
剣の中ではかなり細身で軽量の、レイピアを手に取ってみる。この重量ならさすがに、片手でも持てた。
なんとか、前後左右に振ることもできる。
――難なく、とつけられないのがやや、不安要素としては残るけれど。
「……よし!」
とりあえず、得物候補は手に入れた。
さっそく、鍛練を開始しよう。




