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第十九話 目覚めるとそこは(オレスティア視点)



 目を開けた。

 いや、開けようと意識してのことではない。むしろ目を開けて、ようやく意識が戻ったようだった。

 眠っていた、ということか。

 そうであれば、視界に映るのが天井であることにも頷ける。


 けれど、まったく見覚えのない天井だった。

 飾り気はなにもない。決して自分の部屋ではなかった。


 ふと横に目を向けると、出窓が見える。カーテンが閉まっているので外の風景は見えなかったけれど、木で作られた窓枠は明らかに古かった。

 カーテンもただの生成りで、汚れてはいないが古めかしい感じがある。


 状況がまるでつかめない。

 そもそも、いつの間に眠ってしまったのだろう。たしか、出かけるための身支度の途中だったはずだ。


「――ここは……?」

「ようやく目が覚めたの」


 答えを求めての呟きではなかった。思わず洩れ出た、独り言にすぎない。

 なので女性の声でもたらされた返答に、びくりと身が竦む。

 人がいたことに驚き、そしてまた、その声に覚えがないことにも驚いた。声のした方向に、顔を向ける。


 隣りにはベッドがあった。簡素な木造りの物だ。その向こう、壁際に小さなテーブルがあって、声の主はこちらに背を向けて座っていたらしい。

 椅子越しにこちらを振り返る顔には、呆れよりも安堵が浮いて見える。


 女性、と思ったけれど、どちらかといえば「女の子」といった印象のある人だった。

 大きな瞳も、女性としては珍しいショートカットの髪も、甘めのブラウンで可愛らしい。椅子に座ったままでも、小柄なのが見て取れた。


「あなた、どれだけ寝てたかわかる? 丸三日よ」


 すくっと立ち上がって、歩み寄ってくる。隣りのベッドの端に、こちらを向く形でぽすんと座った。


「大変だったのよ? 気絶したあなたをここまで運ぶの」


 この女性が運んでくれたのか。

 それはたしかに大変だろうと思う。意識を失った人間を抱えて運ぶのは、一苦労だ。まして彼女は、これだけ小柄なのだから。


 ――というか、大変どころか運べるのかしら?


 漠然と感じた疑問が顔に表れていたのか、こちらを見た彼女が、ちらりと笑う。


「まぁ、自分にバフかけたからなんとかなったけど」


 バフ。

 さらりと言われて一瞬なんのことかわからなかったけれど、それが補助系の魔術であることをすぐに思い出した。


 ――この方は、魔術が使えるのか。

 羨望が浮く。

 ただ、疑問なのはなにをしていて気絶し、この女性に助けられる羽目になったのかは見当もつかない。


「そう、ですか。ご迷惑とご心配をおかけしてしまったみたいで――申し訳ございません」


 とりあえず助けてもらったことと迷惑をかけてしまったことに変わりはない。状況は飲みこめないながらも、謝罪はするべきだ。


 声を出して、あれ、と思う。喉が痛いわけでもないのに、いつもの声とはまったく違っていた。

 とはいえ、それだけ長い間眠っていたのでは、喉がカラカラに干からびてしまっていても仕方ない。

 さすがに丸三日も黙っていたことはないけれど、半日も口をきかずにいたら、次に声を出したときには喉に引っかかったような違和感があるのは経験済みだった。


 それにしてもやけに枯れていて、低すぎるような気はする。

 まるで、男性の声だ。


「――え?」


 声が違うことに驚いたのだろうか。女性がきょとんとした顔でこちらを見る。

 三日も意識を失っていた上に声まで枯れていては、さらなる心配をかけてしまうかもしれない。

 水でも飲んでひと心地つけば、少しはましになるはずだ。

 とりあえずは起きよう、とベッドに手をつき――


 ――オレスティアはそこに、男の腕を見た。

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