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――殺す。
シャンの女王の叫びに応じて、もう一人の私が目を覚ます。
――殺す。殺す。殺す。殺す。
身体が勝手に動き出す。
その衝動に抗う力など、今の私には残されていない。
自分の意思とは無関係に、私は八木山医師へと飛びかかっていく。
「はは、いいぞ! 素晴らしい」
八木山医師は私の突進をひょいと躱しながら、高らかに笑った。
「だが、お前が本当に殺したい相手は、この私ではない。そうだろう?」
彼はそういうと、パチリと指を鳴らした。
瞬間、電撃のような痛みが脳髄に走り、あの男のことで頭がいっぱいになった。
大……。そう、遊間大。
あの男の。
陶器のように白く、か細い首元を。
ああ。この両手で締め付けたら、彼はどんな表情を浮かべるのだろう。
綺麗に整った顔をゆがめて、私にどんな表情を見せてくれるだろう。
その瞬間を想像するだけで、下腹部がたまらなく熱くなる。
気が付くと、私は地下室の出口へ向かって走り始めていた。




