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 その女性の姿を見たとき、私はぎょっとした。

 なぜなら、私は彼女をつい数時間前に、別の記憶のなかで目撃していたからだ。

 そのときの彼女と比べると、目の前の彼女は随分と大人びて見える。

 彼女は私の頭に……正確には、記憶のなかの八木山医師の頭に手を伸ばすと、呪文めいた言葉をそっと囁いた。

 瞬間、視界がぐにゃりと歪み、目の前に異様な光景が広がった。

 そこには、私たちの世界の観念からは、到底形容することのできない異形の神々の姿があった。

 彼らは宇宙の外の遥か彼方に座して、彼らからすると塵にも満たない大きさの、ちっぽけな人類の所業を眺めては、愉快そうに下卑た笑い声を上げていた。

 その光景はまさしく、私たちのような下等生物一匹の生涯など、神々にとっては路傍の石ほどの価値もなく、ただ暇つぶしの娯楽として消費される煙草のような嗜好品に過ぎないことを示していた。

 気が付けば、私はその場に跪き、首を垂れて嘔吐していた。

 私には、私の命には、人生には、何の意味もない。価値もない。

 その証明を、今、八木山医師の記憶を介して、まざまざと見せつけられたのだ。

 人間こそが、この世で唯一無二の優れた知性を持った、食物連鎖の頂点に立つ特別な生き物だなんて、思い違いも甚だしい。

 彼らの前では、人間も含めて、すべてが平等に無価値で、ゴミだ。

 すべての営みが、抗いも、諦めすらも、無意味である。

「理解できたかね」

 気が付くと、八木山医師が目の前で不気味な笑みを浮かべていた。

 その目に生気を感じさせるような輝きはなく、ただただ人生に絶望した人間のする、やけくそのような笑顔だった。

「人ひとりの人生など、所詮、神にとっては慰みものの玩具に過ぎない」

 彼は悟ったかのような表情で天井を仰ぎ見た。

「彼らの存在を垣間見たとき、私は深く絶望したよ。私は何のために、もがき苦しみながら、これまで生きてきたのかと。シアや子供たちを失ったゴーツウッド村での悲劇も、すべては彼らを楽しませるための無意味な虚構に過ぎなかったのかと」

「……」

 私には、返す言葉が見つからなかった。

「しかし、あのお方は、失望する私に新たなる希望を与えてくださった」

 あのお方、という言葉を口にした瞬間、彼の目に輝きが戻った。

「あのとき、あのお方は、こう仰ったのだ」

 しかし、その輝きはどこか鈍く。

『人々を不幸に陥れて喜んでいる神が許せませんか? 不条理で残酷なこの世界が許せませんか?』

 それでいて、異常なほどにぎらついていた。

『なら、あなたが終わらせなさい。すべてを。その力で』

 ――ぐるうううううう。

 その瞬間、彼の言葉に呼応するかのように、シャンの女王が大きな雄叫びを上げた。

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