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 夢のなかの私は、いつも誰かが来るのを待ちながら、ぼーっと突っ立っていた。

 夜の森のなか、中学校の制服である黒い学ランに身を包み、闇夜に自分の存在が溶けていくのを感じながら、誰かが来るのを待ち続けていた。

 そうして虚空に心を任せているうちに、やがて一人の少女が姿を現す。

 それに気付いた私は、彼女を笑顔で出迎える。彼女も笑顔でそれに答える。

 私と彼女は、顔なじみだった。

 少しばかりの雑談をした後、私は彼女を言葉巧みに森の奥へと誘導する。

 月の光を頼りに、道なりに歩いていると、そのうち少し開けたところに到着する。

 私たちの住む街が一望できる、私のお気に入りの場所だ。

 そこから見える街明かりを背後に、私は隙をついて、彼女の首を思い切り絞めにかかる。

 それに気付いた彼女は、狂った野生の鹿の如く暴れ回るが、私はそれを力でねじ伏せて、さらに馬乗りになって押さえつける。

 しばらく少女はじたばたともがき続けるが、私が指先に力を入れ続けていると、徐々に抵抗する力が弱くなっていく。

 やがて、少女の身体から完全に力が抜け、生命の残滓が綺麗に零れ落ちていくのを見て、私は恍惚とした気分を味わう。

 夢はいつもそこで終わり、そして私は最悪の気分で目を覚ます。

 それが、この一年間の、私にとっての日常だった。

 それ以上の悪夢は起こらないはずだった。

 しかし、その日、私が見た夢は、いつもと少しばかり様子が違っていた。

 まず、景色が違うことに私は気が付いた。

 いつもの森の中ではなく、仄暗いアパートの一室のようだった。

 カーテンは閉まっていて、その隙間から月明りが僅かばかり覗いている。

 次に目線が高くなっていることに気付いた。少なくとも、成長期にある男子中学生の目線の高さではない。

 私は、自分の身体を確認する。しかし、夢のなかだからだろうか、身体を見ても靄もやがかかったようにぼやけてしまい、うまく視認できない。

「んー、んー」

 どこからか、人の呻き声が聞こえた。

 しばらく室内を探索すると、それは押し入れのなかから聞こえてくるようだった。

 私は押し入れのふすまを勢いよく開いた。すると、押し入れのなかから、ガムテープで口を塞がれた大学生くらいの女性が顔を覗かせた。

 両手両足を麻縄のようなもので縛られ、身動きひとつできずにいる女性の目には、恐怖の色が浮かんでいた。

 ――彼女を助けなくては。

 反射的にそう思った私は、しかしそこで、身体が思うように動かなくなっていることに気付いた。

 ――あ、れ? な、んで……。

 自由が効かないのは身体だけでない。思考も、だんだんと曖昧になっていく。

 ――助けなきゃ……す……助けなきゃ……ろす……助け……。

 ――殺す。

 私の両手が、彼女の喉元を力強く締め付ける。

 ――嫌だ。私は、そんなこと望んでいない。

 しかし、私の身体は一向に言うことを聞かない。

 女性はその間にも、首元を抑えながら、水面下で必死に立ち泳ぎをする白鳥のようにじたばたと足を動かし続けている。

 ――やめて、放して……。

 私の意思に反して、締め付ける力はより一層強くなる。

 彼女の喉元に親指が深く深く食い込んでいく。

 指先が赤く充血していく。

 やがて、操り人形の糸がぷつりと切れたかのように、彼女の全身から力が抜けたかと思うと、彼女はぐりんと白目を剥き意識を失った。

 私は彼女の口を覆うガムテープをゆっくりと剥がした。

 先ほどまで美しく整っていた彼女の顔はすっかりと弛緩し、だらしなく開いた口から舌がだらりと垂れ下がった。

 私は、その舌を指先でゆっくりと撫でまわした。

 赤くふっくらとした唇の端から、白い泡沫とともに、透明な涎がきらきらと光を反射させながら垂れ流れてくる。

 ふと、足元に生温かい感触が広がるのを感じた。

 彼女が垂れ流していたのは、涎だけではなかったのだ。

 その、彼女の下腹部から滴る熱い液体の正体に気付いたとき、私は自分の下腹部もまた熱く煮えたぎっていることに気付いた。

 そして、途方もない快感とともに、自分の下腹部から熱い何かがせり上がってくるのを感じて、私は夢から目覚めた。

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