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彼女からあの知らせを受けたとき、私はこの甘美な火遊びにも終わりが近づいていることを悟った。
しかし、どういった偶然だろうか。
底意地の悪い神が、私にこの歪なカタチの鎮魂歌を踊り続けることを強要しているのか。
それとも、背徳の香りにつられてきた悪魔が、私を沼底へと引きずり込もうとしているのか。
いずれにせよ、私の悪運とやらもまだ尽きてはいないようだ。
艶のある長い黒髪に、色白できめ細やかな肌。
すーっと通った鼻筋に、睫毛の多い切れ長の目。
出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる、程よい肉付きの身体。
すべてが、伝え聞いていた情報に一致している。
そして、極め付きは車のナンバー。
間違いない。彼女だ。
まさか彼女が、こんなにも身近にいた人間とは。
しかも、罰を与えるに相応しい、蠱惑的な美貌を兼ね備えた逸材だ。
私は仕事を抜け出し、気付かれぬよう後を追った。
数分ほど車を走らせると、彼女は乗っていた車をパーキングエリアに駐車し、近くにあった古い木造のアパートへと入っていった。
部屋番号を確認し、ひとまず職場へと戻る。
なに、一日そこらの猶予があったところで、私の元にたどり着くことなど、そうそうできまい。
それよりも、アレを朝まで「お預け」とは、何とももどかしい。
私は、外へ出て荒くなった呼吸をゆっくりと整える。
想像のなかで、細くすらっと伸びた彼女の首を、両手で思い切り締め付ける。
そのとき、彼女はどんな表情を見せてくれるだろうか。
どんな鳴き声を聴かせてくれるだろうか。
ああ、もう昂りが抑えられない。
彼女の逝き顔を想像するだけで、股間が熱を帯びて痛み出し、仕事に集中できなくなる。
あと少し。あと数時間だけの我慢だ。
朝になれば、この昂りも、怒りも、憎悪も。すべてを解放して、楽になれる。




