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 目の前に、あの少女がいた。

 いつも夢に見る、あの少女だ。

 名前は、瑠璃。なぜか、私は知っている。

「やあ、瑠璃。こんな時間に呼び出して、すまないね」

 唇がひとりでに動き出す。

 まるで、私の中に、もう一人、別の私がいるようだ。

 少女は、ふるふると首を横に振り、可愛らしい声で大丈夫、と答えた。

「この先に、さっき電話で話した見せたいものがあるんだ。着いてきて」

 またしても、身体が自分の意思とは無関係に動き出す。

 少女はこくりと頷くと、私の左手の袖を掴んで、とことこと歩き出した。

 夜の森は静寂に包まれており、私たちの葉や枝を踏む音以外は何も聞こえない。

 獣の気配すら感じさせないその静寂に、まるで、私たち以外の生き物が、この地球上から一切消えてしまったかのような錯覚に陥る。

 月明りに導かれながら、私たちは森の奥へ奥へと進んでいった。

 数分ほど道なりに歩くと、やがて、少しばかり開けたところにたどり着く。

 そこは、私たちの住む街を一望することができる、私のお気に入りの場所であった。

「ねぇ、見せたいものって何?」

 瑠璃が口を開いた瞬間、それまでの静寂を破るかのように、冷たい風がひゅうと私の頬をかすめ、森の木々をざわめかせた。

 まるで、木々がこれから起こることを見透かして、私に最後の警告を発しているかのようだ。

 私は、あの夢の通り、彼女の首に手を伸ばす。

 ……やっと、きみを殺せる。

 突如、激しい頭痛が私を襲う。

 ――……い……しろ。

 遠くから、男の声が聞こえる。

 ――おい、し……しろ……。

 この声を、私は知っている気がする。

 ――おい、しっかりしろ! 魔門!

 ……ああ、そうだ。

 私は思い出した。

 私は魔門。魔門愛。

 例え、前世が猟奇的な殺人犯だったとしても。

 仮に、その記憶にどれだけ心が侵されたとしても。

 私は私。

 決して、人殺しに狂った快楽殺人者ではない。

 正真正銘、魔門愛だ。

 心が焼き切れそうになるくらい激しく燃え盛る憎悪と、ふつふつと湧き上がる殺人衝動を必死に抑えながら、私は彼女の首から自分の手を何とか引き剥がした。

 瞬間、目の前の少女は砂となって崩れ落ち、それから間もなくして、世界はガラガラと音を立てて崩壊していった。

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