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 白昼夢を見ていた。

 忌まわしき、前世の記憶だ。

 見ていた、は正確な表現ではない。

 夢から醒めてなお、私はその夢に囚われ続けている。悪夢の侵攻は今も続いている。

 朦朧とする意識のなか、私は歯を食いしばりながら山の中を歩き続けた。

 一歩進むたびに、かつて、この地で罪を犯した男の記憶や感情が、私の心を蝕んでいく。

 冷や汗が、額から顎を伝って、ぽたり、ぽたりと地面へ向かって滴り落ちる。

 一歩一歩の歩みが、永遠とも思える程に全身は重く、怠い。

 そんな久遠の歩みを何度繰り返した頃だろうか。

 いつの間にか、私はあの場所と再会を果たしていた。

 それは、かつての自分の人生を決定づけた場所。

 運命の曲がり角。悪夢の始まりの地。

 興奮、期待、焦燥、不安、嫌悪……。

 さまざまな感情が、次から次へと生まれては消え、頭のなかをぐるぐるとかき乱していく。

 この場に辿り着いて漸く、私はこの記憶が本物なのだと理解する。

 それは理屈ではなく、もっと原始的な感覚。

 本能からの理解。

 ふと、木の根元に視線を向けると、そこに白い菊の花束が供えられているのが見えた。

 生けられた花はどれも瑞々しく、まるで近所の花屋で買ってきたばかりかのように新鮮だった。

 もしかすると、つい先ほどまで、ここで誰かがお参りしていたのかもしれない。

 ふと小さな風が吹き、菊の強い香りが鼻孔を優しくくすぐる。

 瞬間、こめかみに鋭い痛みが走った。

 ふっと、意識が遠のく。

 悪夢の侵攻が激しさを増す。

 ――ここで、私は……殺した……殺してない。

 私のなかで眠りかけていた獣が、再び目を覚ます。

 ――殺すのは気持ちいい……良くない……イキそうだ……逝きたくない。

 その獣は、私を食い破り、外へ出ようと暴れ出す。

 ―――殺す……嫌だ、私は……死ね……消えたくない。

 ―――ああああああああああ!

 獣は雄叫びを上げ、私はそこで再び意識を失った。

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