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 私たちが事務所へ戻ると、マスターはちょうど店の仕込みをしている最中だった。

 神府町へ行くのに車が必要なことを伝えると、マスターは事情も聞かずに快く車のキーを貸してくれた。

「神府町までだと、ここから車で一時間くらいかしらね」

 マスターは、小皿によそったスープを味見しながら言った。

 片道一時間というと距離にして約三十キロ程度だろうか。

 帰りの時間を考えると、急いで出発した方が良さそうだ。

 私はマスターへお礼を言って、荷物を取るために二階の事務所へ向かった。

 二階へ上がると、先に支度を始めていた遊間が扉の奥で仁王立ちして待っているのが見えた。

「さて、準備が整い次第、早速、神府町へ出発といきたいところだが……」

 私が扉の前まで来ると、遊間はおもむろに口を開いた。

「すまない、助手。どうやら、僕は限界みたいだ」

 彼はそう言い残すと、バタンという大きな音を立てて、顔面から床へ倒れ込んだ。

「え、ちょっと! 遊間さん?」

 あまりに突然の出来事に、私はその場で固まってしまう。

「いま、すごい音がしたけど、大丈夫?」

 遊間が転倒する音を聞きつけて、マスターが慌てて二階へ駆けあがってくる。

 そして、部屋のなかで遊間が倒れているのを見つけると、すぐに彼の傍に駆け寄って、胸に耳を押し当てた。

「……あら、ただ眠っているだけみたいね」

 マスターのその言葉を聞いて、私はぺたりと腰を床に下ろす。

「よ、良かったぁ……」

 まったく、あれだけ盛大に倒れておいて、ただ眠っているだけとは、毎度人騒がせな男だ。

 私が安堵のため息を漏らしていると、マスターは彼を気に掛けるような様子で呟いた。

「大ちゃんってば、ここ数日の間、ずっと寝てなかったみたいなのよね」

「え、そうなんですか?」

 言われてみると確かに、私がここへ泊まるようになってから、彼が私よりも早く寝る姿を一度も見ていなかった。

 まさか、私がここを訪ねてから今日までの間、一睡もしていなかったとでもいうのだろうか。

「ええ。深夜にバエルちゃんを部屋へ帰すために事務所の扉を開いたら、たまたま大ちゃんがまだ起きているのを見かけて」

 マスターは頬に手を添えながら続けた。

「話しかけてみたら、彼、今はどうしても起きていなければならない事情があるからと」

 起きていなければならない事情。その事情に、私は心当たりがあった。

 思い返せば、手錠を繋いでいる間、彼が私より早く就寝したところも、私より後に起床したところも見たことがなかった。

 睡眠中、意識のない私が取り返しのつかないことをしでかさないように、きっと、彼が一晩中見張ってくれていたのだろう。

「とりあえず、彼はこのまま椅子の上で寝かせておきましょう」

 マスターはそういうと、両手で遊間をひょいと持ち上げて、「彼の場所」まで運んで行った。

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