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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第五章
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第九十四話 これから


 ライサ達が学校に来てから一週間が経とうとしていた。

 今日は週に一度の休みで、僕はライサ達に家具やら小物やらを買ってあげようと買い物に誘ったのだが。


「あー俺は自分で買っちまったから良いわ。それに今日はコンラートの奴と模擬戦する約束してるしな」


 ライサ達の部屋に訪れるとラースにそう断られてしまった。確かに引っ越ししてすぐにしては物が多いとは思ってたけど、先に買いに行ってたんなら僕もついてったのに。

 そう少し寂しく感じていると、この部屋のもう一人の住人であるライサが駆け寄ってきた。


「私は行けるよ!!」


 余程欲しい物があったのかライサはそう食い気味に言ってきた。まぁライサが乗り気なら良いかと、少しだけライサの勢いたじろぎながらも僕はライサを見て。


「じゃあ時間の都合良いなら今から行こうか」


 まだ日が昇って少ししかしてないけど、昼に近づくにつれ混んでいくし開店直後を狙っておきたい。

 するとライサは着替えと準備をするから、少し待ってと言い残して、僕とラースを部屋から追い出してしまった。

 そしてやる事も無い僕らは二人廊下に追い出された後、窓から差し込む日を背中にして窓際にもたれ掛かっていた。


「・・・・約束はいつから?」

「んー昼前に屋内訓練場って話だな」


 それならラースはこの後時間はありそうか。


「じゃあ三人で朝飯食べよ」

「おう。良いぞ」


 それだけ短く会話をしてまた廊下が静まりかえってしまった。そんっば僕の視界には日光がカーテンの様に差し込んで、その光の中で宙に舞う埃がフワフワと飛んでいるのが見えていた。


「・・・・・」「・・・・・」


 久々に会った先週は色々話す事があったけど、ここ数日も経ってしまうとあまり話す話題も無い。決して仲が悪いわけじゃないけど、ただ互いに何を話せばいいか分からないのだと思う。

 そんな互いの呼吸音だけしか聞こえないような時間が淡々と進んで行っていた。まだ冬なのにここは日当たりが良すぎるせいか暖かい。それどころか背中が熱くなってきているようにすら感じた僕は、腰を窓際から離して位置をずらそうとした時。ラースがぽつりと呟いた。


「・・・・その、ごめんな」


「何の謝罪?」


 唐突にラースが謝ってきたが何かされた記憶は僕の中には無い。

 いったい何について謝っているのだろう。そう疑問に思っているとラースが戸惑いながらもゆっくりと言葉を続けた。


「いや昔フェリクスを責めた事あっただろ。お前が・・・人を殺した時」


「あぁそんな事もあったね」


 確かあの時僕もムキになってラースに言い返しちゃったんだっけか。それからずっと仲が悪かったけど、久々に会ったら互いに熱が冷めた感じでなぁなぁで関わっていたんだった。

 そう少し懐かしい様な感覚を覚えていると、ラースが一度大きく息を吸って強張った声で言った。


「あの後な、俺も人を殺したんだ。しかも関係ない人を」


 僕の視線はその言葉を聞いてラースへと向かった。するとそこにいたラースは、いつもの明るい笑顔では無く苦虫を嚙み潰したような苦悶に満ちた顔をしていた。


「俺がこの手で自分の意志で殺したんだ」


 自分の手を血が流れてしまうのではないかと思えるぐらい、ラースは強く強く握りしめていた。でもそれ以上にラースの中では決意があるのか、その拳を握ったまま僕を見てきた。


「だから俺が皆を守れるように強くならないといけない」


 ラースの体が異様に鍛えられていた理由が分かった気がした。


「それが俺なりの償いのつもりだから」


 なんとなく大人になったとは思っていたけど、ラースはラースで色々悩んで壁にぶつかってきたのだとその強い意思の感じる碧眼を見れば分かった。

 だがそんなラースの顔もすぐに崩したかと思うと、いつもみたいに明るい笑顔に戻っていた。


「って話がそれたなすまん」


 そう言ってラースは窓際にもたれた腰を離して、僕と正面から向かって直立するとそのまま頭を下げてきた。


「お前の立場も分からずひどい事言ってごめん」


 いたって真面目なトーンでの謝罪だった。でも僕としてはラースに今更怒りも抱いていなかったから、その謝罪をどう受け取れば良いのか扱いに困ってしまっていた。

 だから僕は曖昧に濁すようにしよう。そう思ったけど頭を下げたラースの両手がまだ強く握られているのが見えてその思考を止めた。


「じゃあこれで僕らの喧嘩は終わりって事ね」


 僕はそう言って両手でパンっと廊下に音を響き渡らせた。ラースは僕から恨み言でも言って欲しかったのだろうけど、僕としてはせっかく会えたんだから後腐れ無く前を向きたい。


「・・・ありがとう」


 そう小さく呟いて顔を上げたラースはどんな表情をして良いのか分からないのか、何とも言えない顔をして視線を僕から逸らしていた。

 でももう解決したんだと、いつものラースに戻って欲しい僕は雰囲気を少しでも和ませようと笑いかけた。


「じゃあ来週は僕と模擬戦やってよ。小さい頃のチャンバラの続きにさ」


 僕の言葉を聞いたラースはやっと揺れながらも視線を合わせてくれていた。


「フェリクスって昔からあんま変わらないよな・・・・じゃあ来週やろうか」


 そう可笑しい物を見るようにラースは困ったように微笑んでいた。 

 でも実際精神的には産まれた時点でニ十歳だったし、そこまで変わりが無いと感じるラースの感覚はあながち間違ってはいない。

 

 そう僕らが日の光に顔の半分が陰になりながらも話していると、しばらく静寂を保っていた扉が開かれた。


「ごめん!待たせちゃった!!」


 息を切らしながらも扉に手を掛けたライサの姿がそこにはあった。何か着替えるのかと思っていたけど、服を持ってないのかいつもの学校の制服姿になっていた。

 そんな突然現れたライサに神妙な雰囲気を壊された僕とラースは、お互いに見合って吹き出した様に笑うと二人で歩き出した。


「え、ちょ、ちょっと待ってって!!」


 そう急いで追いかけてきたライサも含めて三人で僕らは、木の香りがする廊下を歩いて行ったのだった。


ーーーーー


 それから学食で三人での朝食を取り終わり。僕とライサの二人は買い出しに行くために、事務局へと向かって外出届を出しに行っていた。

 そして窓口脇にある書類に二人で必要事項を書き込んでいると、僕ら以外にも朝から外出する人がいるらしく後ろで誰かが並んでいる気配がしていた。


「そっち書き終わった?」


 僕は一通り書き終え隣で腰を曲げて書類に向かっていたライサを見た。するとライサも僕の方を見てきたかと思うと、後ろに並ぶ人物が気になるのか更にその後ろへと視線をやっていた。


「ん?・・・・・・あ」


 ライサの視線が気になり僕も振り返ると、そこには眠いのか不機嫌なのか目つきの悪いアイリスが立っていた。


「おはよ」

「・・・おはようございます」


 まぁ挨拶してくるって事は不機嫌では無さそうか?

 それなら多少世間話をしようと、書類を提出してその審査時間にアイリスに話しかけた。


「薬買いに行くの?」

「うん。そっちは?」


 そう言ったアイリスは、垂れて邪魔になりそうな髪の毛を耳に掛けながら外出届に記入し始めていた。


「ライサの日用雑貨とか家具買いに行こうと思ってね」

「へぇ優しいね」


 あまり話に興味無いのかアイリスは視線を外出届に向けたまま、慣れた手つきでさっさと書き終えてしまった。丁度その時文字を書くのが遅いライサも書き終えたようで、同時に窓口へと提出していた。

 

「色んな小物とかあるいいお店知ってるけど紹介しようか?」 


 紙を出し終えたアイリスは親切心からかそう提案してくれた。今の所店も目星をつけてなかったから、渡りに船な提案だったから、ぜひ乗っかりたいのだがライサ側はどうだろうか。そうアイリスの隣に居たライサを見た。


「僕としては嬉しいけどライサはどう?」

「えーーーーーーー。いやまぁフェリクスがそう言うなら・・・・・んーでもなぁ」


 何か嫌な事でもあるのかライサはアイリスの提案に乗り気では無さそうだった。こういうのを見ると、やっぱり二人ってあまり仲は良くないのだろうかと気になってしまう。


「・・・・・・まあ仕方ないかぁ」


 一人でうんうん悩んでいたようだったけど自分の中で一応解決したのか、そう渋々って感じが前面でアイリスの提案を受け入れていた。

 するとそれと同時に僕ら三人の審査が終わったらしく、受付のお兄さんが書類にハンコを押して外出許可証を発行してくれた。


「じゃあ門限までには帰ってきてくださいね」


 僕らはそう見送られまだまだこれから寒くなりそうな、曇天の空の下を歩いて行った。

 その間三人で並んでいたのだが、二人ともあまり会話をしてくれないし心なしかライサはアイリスを睨んでいる気がした。だからこの空気感に対する気まずさから、胃がキリキリする感覚を覚えていると、先にこの空気を壊す様に火ぶたを切ったのはライサだった。


「アイリスさんってフェリクスと仲悪いんじゃないんでしたっけ?いつも冷たくあしらってますし」


 確かに冷たい態度はとられているが、そんな要らない事を今言わないでくれ。ただでさえ痛い胃が限界を迎えようとしてしまう。


「別に”私達”はこれが普通だから」


 今度はやり返すようにアイリスがそう言って「ねっ?」って感じで迷惑極まりないが僕を見てきた。というかそもそもこの争いに巻き込まないで欲しい。そう僕は悪くないと沈黙を決め込んだが、両隣の二人は言い争いを続けていた。


「いやでも流石に態度酷いと思うけどなぁ~」


 今度はライサが同意を求めるように視線を向けてきた。別に争いの道具として僕を使うのは良いけど、当人の前ではやらないで欲しい。この二人ここまで仲悪って知ってたら、事務局の段階で断っておけばよかった。


「部屋でずっと一緒だから分かりあえてるの」


 それは絶対に誇張だろ。僕は一切アイリスの事分かれてないから、絶対一方通行の理解だぞそれ。

 だがそんな突っ込みをしたら藪蛇なのは分かり切っているから、口を噤んだのだがライサは少し焦ったように早口になって言い返した。


「でも部屋で寝てる時だけでしょ?それ以外の時間は私と一緒だし」


 何のマウント合戦なんだこれは。なんか僕を置いて二人が張り合うためだけに言い争っているように見えるし、そろそろ人も多い所になってきたからやめて欲しい。


「あ、あのそろそろやめません?それに何の意味もないっすよ・・・・」


 僕は勇気を出して二人を諫めようと声を出したのだが、もうすでに二人とも止まらなくなっているのか間に入ろうとした僕を睨んで、仲が良いのか悪いのか全く同じ言葉を同時に叫んできた。


「「黙ってて!!」」


 僕についての話で喧嘩していたはずなのに、僕はそうやって蚊帳の外になってしまった。これが女の縄張り争いって奴なのだろうか。

 そう思う事にして二人の言い争いを傍観していると、大通り沿いにそれっぽいインテリアが売ってそうな店を見つけた。僕はこれなら一旦この喧嘩を止めれると思い、ライサとアイリスの肩を叩いた。


「一回そこで終わりであそこ行こ!なんかよさげじゃない?」


 僕はそう言って無理やり二人の背中を押して店へと向かって行った。もう相手するの疲れるしこれぐらいしても許されるだろう。そう思っての行動だったが、やっぱり二人とも睨みあって不完全燃焼感がありありと出ていた。でも流石に強引に僕に入店させられると一旦それも落ち着いてくれた。


「ライサは何が欲しい物とかある?」


 僕はとりあえず目的だけ果たそうとそう言ってライサを見た。するとライサは何かメモをしてきたのか、紙の切れ端を取り出した。


「えーっとね。コップにナイフに服に石鹸に櫛に、、、、、」


 そう長々と日用雑貨や偶に家具と言った感じで希望の品をつらつらと読み上げていた。その全部を買おうとしたら明らか予算オーバーになりそうだけど、とりあえず欲しい物リストって感じだろうか。

 そうライサの話を聞いていると、何か言いたい事でもあるのかアイリスが僕の肩をツンツンとしてきた。


「これ可愛くない?」


 そう差し出されたのは動物を模した小さな何かだった。使いどころと言えば紙の重しぐらいしか、思いつかないが飾りみたいな物だろうか。というかアイリスがこういうの可愛いと思うなんて意外だな。


「そうだね」


 とりあえず僕はそう返事をして再びライサへと視線を戻そうとする前に、またそれがライサの怒りを買ってしまったらしかった。


「ちゃんと聞いてる!?」

「え、あぁうん。聞いてるからそのリストの奴あるか一回探そうか」


 二人の女の子と外出って字面だけ見たらかなり嬉しい展開なはずなのに、なんでこうも胃が痛くなるのだろうか。まぁこのメンツな時点で男としては嬉しい展開なはずなのに、なんでこうなってしまうんだ。


 そう僕は気持ちが沈みながら他にも服屋や家具屋それにカールの薬草屋まで回らされて、もう昼飯の時間になる頃には荷物持ちである僕の両手に沢山の紙袋やら沢山あった。それになぜかアイリスも安い物だけど何個か買ってたし、なんだかんだこいつも楽しんでるぽかった。


「じゃあ次どこ行く!?」


 やっぱり女の子はショッピングが好きなのか、ライサはそう上機嫌に声を弾ませていた。まぁ誘った側としては楽しんでくれたなら何よりだ。最初のあの喧嘩が続けられるよりよっぽどましだし。

 

 そうして三人で大通りを歩いていると、すぐそばを通り過ぎた馬車が数メートル先で停車していた。何事かとそれを三人で眺めていると、その馬車からは見覚えのある人物が降りてきていた。


「久しぶりですね。フェリクス君に・・・アイリス」


 クマが酷く明らか疲れが顔に出まくっているヘレナさんが、フラフラとした足取りで僕らの元まで歩み寄ってきていた。


「あ、お久しぶりです」


 僕はそう言いながらもヘレナさんの妹であるアイリスの様子を窺った。特に表情が動いていない様に見えるが、それはそれで家族に会った反応では無いな。やっぱまだ嫌いか。


「買い物ですか?」

「え、あぁそうです。色々足りない物を買い足そうと思いまして」


 ライサもヘレナンさんとは殆ど初対面だからか、黙ってしまっている。アイリスに至ってはよそ見しちゃってるし、どんだけ姉妹仲悪いんだ。


「そういえばヘレナさんは何を?」


 忙しくなるとは言っていたけど、馬車に乗っているって事は遠出でもするのだろうか。


「機密なので詳しくは言えませんが、しばらくここを離れます。多分半年は帰って来ないかもしれないです」


 そうヘレナさんが言った時。やっとアイリスの視線がヘレナさんへと向いた。だがそれも一瞬で直ぐに地面へとその視線を落としてしまった。


「では、あまり時間も無いので失礼しますね。買い物楽しんでください」


「ヘレナさんも頑張って下さいね」


 僕がそう頭を下げるとヘレナさんはさっさと馬車に乗り込んで、直ぐに行ってしまった。しばらく帰って来ないって言ってたけど、ヘレナさんとアイリスは互いに何も話さなくて良いのだろうか。

 そう心配してアイリスに話しかけようとした時。ライサが僕の腕を掴んだ。


「じゃあ買い物の続き行くよー!」


 そうして少しの不安と心配を残しながら僕らは、走り去っていく馬車を尻目に街の中を歩んで行ったのだった。

 

 そしてその走り去る馬車の中。

 私は隣で窓をぼーっと眺めている青髪女に話しかけた。


「話さなくてよかったんですか?」

「全部終わらせてから会うって決めてんだ」


 窓を眺めたまま、強い意志を感じる様な目つきでそう言っていた。

 そしてその目がそのまま私を向くと。


「それこそお前は妹と話さなくて良かったのかよ」


 妹の話なんてした事なかったのにどこで知ったのか。意外に鋭い所あるから、さっきの会話で察されたのかもしれない。


「私は・・・いつか向き合わないといけないのですがね」


「そうか」


 それだけで私たちの会話は終わりを告げて、ガラガラと馬車が街の中を進んで行った。


明日の九十五話は二十三時に投稿します。

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