第九十二話 模擬戦
更新かなり遅れてしまいました。申し訳ないです。殆ど一日二回投稿になってしまいますが、今晩二十三時にも次話を更新します。
朝にランニングも終わり顔が青くなってしまっていたライサをエルシアに任せた後。
僕の体はさっきまで運動していたというのにすでに体温が空間に奪われ始め、汗が肌に張り付いて気持ち悪くなっていた。
「じゃあ風呂行くぞー!」
そう僕の肩を叩いたのはさっきまで僕を何周遅れにしていたラースだった。ランニング前から運動していたっぽいし、どこからそんな元気があふれ出ているのだろうか。
そう疑問に思っていると問答無用と言わんばかりに、ラースは僕の腕を掴んで風呂へと歩き出していた。
「じゃ、じゃあまた後で!!」
早く風呂に入りたいのかラースに左腕を引っ張られながらも、僕はコンラートやハインリヒ達にそう手だけ振ってラースの隣を歩き出した。
「元気すぎない?」
ラースに握られ少し痛かった二の腕をさすりながら、いまだに肩から湯気が出ているラースを見た。
するとラースは目を細めて空を見上げていた。
「空の下で走れるってだけでやる気が出るんだよ」
そんな少し悲しい様なことを言ったラースだった。僕はどういったの物かと少し悩んでいると、ラースはすぐに表情を変えニッと笑うと思い出したかの様に言った。
「そういえばフェリクスの剣あるんだけどいつ取りにくる?」
「・・・・・え?」
唐突なラースの言葉に一瞬固まってしまった。
だがその言葉をゆっくりと咀嚼して、考えると確か剣って確か野外演習の時に洞窟の中に置きっぱなはず。ラースの言っている事が本当ならば、もしかしてあいつらもあの盗賊の仲間だったって事になるって事だよな。なら野外演習での一件もあのジジイが仕組んだ事なのか?
僕の頭の中で色々考えられる可能性が溢れてきて戸惑っていると、いつの間にか僕の目の前にラースの二つの碧眼があった。
「おーい。どうした?」
「あ、いやなんでもない。また夕方ぐらいに取りに行くよ」
まぁ過ぎた事だし今更考えてもしょうがない。とりあえず今は父さんの剣が帰ってきた事を喜ぼう。
僕はそう自分を納得させて思考を打ち切って、ラースと一緒にそのまま風呂へと向かったのだった。
ーーーーー
そして風呂で汗だけ洗い流して朝食を取った後。僕らはいつも通り座学のために教室に各々席に座っていた。
僕も前の座学の内容の復讐をしようと机の市tなお鞄を漁っていると、頭の上からコツコツと足音が聞こえてきた。
「ね、ねぇ!ここも意味ってどういう事?」
僕が視線を上げるとそこには片手に教科書を持ったライサが立っていた。
さっきランニングで死にかけていたけどもう大丈夫なのだろうか。そう心配している僕をよそにライサは頬を膨らませて、不満そうに教科書を小さな細い指でトントンとして返事を催促してきた。
「あーここね。ちょっと待ってて」
僕は自分の過去のノートを見ようと鞄を漁り出したが、その時にもう一人が近づいてくる足音がしていた。
「おいライサ。もう始まるから席戻るぞ」
その声を聞きながらノートを手に振り返ると、目の前ではラースがライサの肩を掴んで自分たちの席へと連れて行こうとしていた。
「えーまだ鐘鳴ってないじゃんー」
「いいから戻るぞ。あんまり迷惑かけるなって」
そうラースが手足をばたつかせるライサを無理やりに引っ張って、自分たちの席へと戻って行ってしまった。なんだかんだあの二人って昔より仲良くなっているような気がする。
「・・・・うっさ」
だがそんな中アイリスが不機嫌そうに頬杖を突いて窓の外を眺めていた。あんまりライサとアイリスは相性が良くないかもしれないかもしれない。
と、そうこうしている内にいつの間にか教官が教壇へと立ち、いつもの如く座学を始めていった。もうこの時期になると試験も近いので一層頑張らないといけないのだが・・・・。
「戦術行動とは任務上の必要性とその状況における可能性、その一致から、、、、」
毎度の事だけどやっぱり初見だと理解が追い付かない。軍事系の内容ってそもそも知らない単語もあるし概念的な内容だったりといまいちよく分からない。これを皆あっさり理解して勉強しているからすごいな。
「・・・・ねむ」
良くないのは分かっているのだが、窓際の席だからか陽が良く当たって眠くなってしまう。でも視界端に映るアイリスは真面目に板書しているし、僕も負けてられないな。
そうやって眠気に抗いつつもなんとか座学の時間をやり切った。そしてその後の午後の訓練も特に変りも無く進み一日のカリキュラムを終えた。慣れたとはいえ朝の五時からぶっ続けで、活動し続ける物だから未だに大分きつい。今すぐにでもベットにダイブして惰眠を貪りたい。
「でもそんな事言ってられないしな」
僕はそう気合を入れ直すと訓練終わりで人がまばらになり出したグラウンドでストレッチを始めていた。今日の訓練は魔法が中心で体をあまり動かしていないし、剣術とか体づくりをやってみるか。
そんな計画を考えながらストレッチとして長座体前屈をしていると、僕の頭の上に影が掛かった。
「俺も一緒にいいか?」
顔を上げるとそこにはハインリヒが汗を拭きながら僕を見下ろしていた。偶にこうやってタイミングが合えばハインリヒと自主練することがある。
「いいよー。ちょっと待っててね」
僕は手早くストレッチを終わらせると立ち上がってハインリヒと並んだ。その時チラッと見えたけどラースは剣術をやるのか屋内の訓練場へと入っていくのが見えた。
「じゃあ走ろっか」
訓練場も混んでそうだし僕は先に走ることにした。ちょっと体冷えてきちゃってるし温めておきたいのと、ラースに負けない様体力をつけたい。
そうして僕はハインリヒと並んで敷地内を走り出した。だがいつものルートを走っていたはずだったが、僕らの視線の先には見慣れない人物の背中が見えていた。
「・・・・ライサか」
朝も息も絶え絶えだったのに、ちゃんと逃げずに練習するなんて偉いな。勉強と言い根を詰めすぎな気がするけど大丈夫だろうか。
そう思いながら邪魔してもあれかとライサを通り過ぎるが、走るのに集中しているのか僕らに全く気付いていないようだった。
「話しかけなくて良いのか?」
ハインリヒが通り過ぎたライサを気にしながら心配そうに聞いて来た。確かに気に掛けてあげたいけど、今ライサが一人で頑張ってるんだからなんでもかんでも僕が干渉するのは良くないと思う。
「今は一人でやらせてあげようと思って」
それにライサなりに色々考えがあるんだろうしな。無理はして欲しくないけどやる気があるなら応援したい。
僕はそう考えてハインリヒと並走しつつランニングを続けていった。だがそうして一時間ほど走っている内に、ライサを追い越すたびにその姿勢が段々猫背になって走る速度も落ちてしまっていっていた。
「・・・・・・・」
さっきは干渉してはダメだと思ったのだが、明らか無理しすぎなように感じてしまう。強迫観念というか何か必要に迫られた感じで、身を削って走っているように見える。
「朝の事気にしてるっぽいね」
ハインリヒも心配なのかライサを見ながらそう呟いていた。人それぞれ体力に個人差があるんだから、そこまで焦らなくてもと思うが、本人的にはそうもいかないんだろうな。
「・・・・だね」
まぁ僕らもそろそろ一時間は走って体も温まったし、そろそろ剣術の方をやるか。今日は座学の復習に時間を使いたいし。それに何よりそろそろライサの体が心配なのが大きい。
だから僕は足の回転を速めてライサに追いつくと、背中を優しくそっと触れた。
「そろそろ休んだら?明日に響くよ」
僕が驚かせない様そっと話しかけたのだが、ライサはひどく驚いたように肩を跳ねて目を真ん丸にして僕を見上げていた。集中していたと言うより辛すぎて周りが見えてなかったって感じだろうか。もう顔も青くなってるし体調が流石に危なそうに見える。
「え、あ、うん。そうだね・・・」
ライサはそうたどたどしく言って止まってくれたのだが、足に力が入らないのかフラフラと足元もおぼつかないようだった。こんな小さな体でよくもこんなになるまで頑張った物だな。
「九時ぐらいに勉強教えるから図書館に来て。それまではご飯食べて休んでて」
「・・・うん、わかった」
ついて行ってあげたい気持ちはあるが、宿舎へとヨレながらも向かうライサを見送った。もう返事も朝の明るさが無かったし、勉強を休ませてあげたいが時間が無いからそうは言ってられない。
そして僕らはライサと別れた後そのまま屋内訓練場へと足を向けて行っていると。
「右腕はまだ使えないのか?」
「んーまぁ使えなくは無いけど六割の力が限界かな。それ以上は痛くて無理」
そう僕はハインリヒに肩を上げるような素振りを見せるが、右肩は肩より上に挙げる事が出来なかった。筋肉がずれているというか捻っているような感じで、痛くてそれ以上物理的に挙げれない感じだ。
「・・・すまんな。俺の実力が無かったせいだ」
ずっと気にしていたのか僕の右肩を見て申し訳なさそうにハインリヒは顔に影を落としてしまっていた。
でも感謝する事はあっても、治療をしてくれたハインリヒを恨むような事はあるわけがない。だから僕は気にしていないと伝えるように笑って、ハインリヒの横腹を肘で突っついた。
「今更すぎだって。もうそんな謝罪の受付期限は過ぎてまーす」
僕のそんな空気感の読めない行動に少しハインリヒは困惑していたけど、もう僕の中では解決してるんだから気にしないで欲しい。
「罪悪感あるなら治癒魔法の練習することだね。いつかそれで僕を治してよ」
ハインリヒは僕が言うのもあれだが深く考えすぎる所がある。だから僕は無理やりにも気にしないで良いように明るく振舞ったのだが、やっぱりハインリヒは困ったように苦笑いしていた。
「・・・お前ってやっぱ変な奴だな」
でも苦笑いとは言え少しだけハインリヒの顔も緩んで、僕をからかうようにそう言い返して来た。僕の想いが多少なりは伝わってくれたっぽい。
「変な奴で悪かったな」
僕は少しだけそれが嬉しいような恥ずかしいような感じがして、そう言い返してハインリヒより先を歩いて行ったのだった。
ーーーーー
そうして屋内の連取場へと入ると早速ラースが上裸で素振りをしているのが見えた。体感十度は下回っていると思うのだが、どんだけ発熱してんだか。ライサと違って体力が有り余っている感じだな。
「フェリクス。ほい」
「ん、ありがと」
僕は室内訓練場に入るなりハインリヒから投げられた木刀を受け取ると、空いているスペースを見つけてハインリヒと模擬戦の為向かい合った。勿論僕は右手では無く左手で木刀を握っているが、やはりまだ慣れなくて違和感が強い。
「じゃあ俺から行くぞ!」
そうハインリヒは銀色の髪を揺らして僕との距離を詰めてきた。ハインリヒは左手側に剣を構えた事から、恐らくだけど僕が怪我をしている右手側から攻撃してくるつもりらしい。
「・・・・ふぅ」
受けるのは片手で剣を持っている僕が確実に力負けする。だから上手くいなすか躱すかだが、そんな思考をしている内に既にハインリヒの木刀が僕の体に届く所まで詰められてしまっていた。
「・・・ッチ」
直前まで分からなかったがハインリヒが選んだ攻撃は突きだった。しかも怪我をしている僕の右肩へのだ。さっきは心配しているようだったけど、模擬戦では手を抜かないらしい。
だが僕もやられるわけにはいかないので、左足を軸に右足を引いて回避行動をとりつつハインリヒの攻撃が空振ったのを確認した。その瞬間僕の目の前ではハインリヒの姿勢は左手が突き出され崩れていた。
だからそのがら空きの胴へと向かって体を捻って左手の木刀を振るったのだが。
「だろうな!!」
だがハインリヒにそれが読まれていたのか、無理な姿勢ながら膝を曲げて頭一個分姿勢を低くして僕の木刀を躱されてしまった。そしてハインリヒはその曲げた膝をばねの様に伸ばして空ぶっていた木刀をカウンターの要領で、僕へ向けて振るてきていた。
「体幹どうなってんだよッ!」
今ハインリヒの木刀に対して僕の体は横を向いてしまっている。それに攻撃が空ぶった影響で前向きに姿勢が崩れてしまっていた。その上今木刀は今振り切った状態だから、受けに回すことが出来ないからハインリヒの攻撃をガードする事も出来ない。
ならば僕が取りうる行動は・・・。
「避け一択ッ!」
僕は前景姿勢になっていた自分の体に逆らうことなく、それどころか更に踏み込んで前方へと回避軌道を取った。するとその瞬間背中に空を切るような音の後すぐに後頭部の髪の毛が揺れた。
「あぶね」
僕は冷や汗を感じながらそのまま何歩か前方へと進みハインリヒにすぐ向き合った。その時にはあっちも剣を構え直して僕を見ているから、仕切り直しになってしまった。
「あとちょっとだったのにな」
ハインリヒはそう悔しそうに言葉上では言っているが、かなり手ごたえを感じたのか楽しそうに笑って眼鏡を光らせていた。
「じゃあ今度はこっちから!」
僕は少し奇襲をしてみるかと作戦を思い付き、木刀を両手で握ると左手側木刀を構えてハインリヒに距離を詰めた。今ハインリヒは僕が右手を使わないと思っているはず。そこの認識の落とし穴を使わせてもらう。
そして距離を詰めてリーチ圏内に入った瞬間。僕は木刀を左下から右上へと対角線上になぞる様にしてハインリヒへと振り上げる構えをした。するともちろんそれを受けようとハインリヒも剣を構えて受けようとするが。
僕はその瞬間左手から力を抜き右手で木刀を持つと、そのまま体を捻り無理やり右腕側へと木刀を持っていった。するとハインリヒがそれを目で追いそれに対応しようと木刀を構え直そうとするが、それをさせまいとすぐに右腕だけで木刀をハインリヒへと向けて突き出した。
「よし勝っ、、、、」
このタイミングならハインリヒの木刀は間に合わない。そうスローモーションになった視界で思ったのだが、その瞬間右肩に鋭い痛みが走った。
「ッ!!!」
それで僕の木刀を突く手が止まってしまったのか、その隙を見逃さずハインリヒは木刀を咄嗟に構えて、僕の突き出された木刀は弾かれてしまった。
「俺の勝ちだな」
座り込んだ僕の首元へと木刀を向け誇らしげにハインリヒが笑っていた。あんまり剣術は得意そうなイメージは無かったけど、実力をかなり伸ばしているらしい。
「あとちょっとだったんだけどなぁ」
僕は痛む右肩がハインリヒにバレないよう立ち上がって木刀を拾った。これが実践だったら痛みを言い訳にすら出来ずに死んでいた。戦場にいつか出る可能性がある以上早く治すか痛みに慣れないといけない。
「おーいフェリクス!俺とも模擬戦やねぇか!?」
いつの間にか僕らに気付いたのか、素振りを終えたのかタオルで汗を拭きながらラースが近付いてきていた。そういえばラースと剣を交わしたのって、小さい頃のチャンバラの時以来だな。
「ごめん!今日はちょっと無理!!」
正直右肩が痛むから無理させたくない。まだ模擬戦は早かったっぽいし、まだ痛みに慣れるなり左腕で剣をもっと振れるようにするなりしておきたい。
「・・・そうか。じゃあ後でな」
そう少し残念そうに肩を落としたラースは、そのまま自主練を追えるのか訓練室から出て行ってしまった。なんかこうやって物分かりの良いラースが未だに違和感があってムズムズしてしまう。
「俺らも風呂入って飯食おうか」
僕はそんなハインリヒの提案に賛同して、ラースから遅れて数分後に浴場へと向かって行ったのだった。
ーーーー
私はここ数日書類仕事に追われていた。
それもそうで今の私は、一週間前にあった反乱騒ぎへの対策班を任されそれに伴って階級も中佐に上げられるなど、責任も業務も部下も以前とは比べ物にならない程増えてしまっていた。
でもそれだけでは無く、その新しい部下にも多少問題があった。
「あ゛あ゛あ゛ーーーー分かんねぇーーー!!!」
テーブルの上に書類が乱雑に置かれた長方形上の部屋の中。彼女イリーナ少尉は数日の缶詰作業に我慢の限界が来たのか、頭を掻きむしりながら机の上に突っ伏していた。
「どうしたんですか?」
私は最近悪くなった気がする目元を抑えながら、私用のテーブル席を立ってイリーナ少尉の元へと歩み寄った。
するとイリーナ少尉はぐちゃぐちゃになった書類を取り出して私の目の前に突きつけてきた。
「毎日毎日よォ。拠点全部覚えてる訳ねぇだろ」
「それでもやってください。特例でその階級を与えたんですから、相応の働きをしてください」
便宜上ある程度役職があった方が良いと判断して、無理を言って少尉の階級を用意してもらった。そもそも貴族以外士官にはさせない慣習だから、かなり軍の上層部には嫌な顔をされてしまったが仕方ない。
「っつってもよぉ。もう覚えてないんだよ。全部潰して見つからないならしらみつぶしに行くしかねぇだろ」
「だから今拠点になりうる場所を選定しているのではないですか」
そもそも私達二人が選定して、他の十数人の実働部隊がその拠点を捜索する手はずだった。だがイリーナ少尉の上げた拠点は全部もぬけの殻で、一週間以上経った今でも何も成果を得れて無かった。上からも何か成果が無いのかせっかちな催促も来るし、現場の部下は休ませろと文句を言うしで胃が痛い。
でも私だって一瞬でも気が抜けるとフラッと倒れてしまいそうになる。
でも私がここで頑張らないといけない。そう踏ん張って自分の席へと戻ろうとすると、ふとイリーナ少尉が椅子をカタカタ慣らしながら頭の後ろに手を組んで呟いた。
「誰かが匿ってんじゃねのかね」
「・・・その根拠は?」
私がそう聞くとイリーナ少尉は顎に指をあてて考えたかと思うと、思い出しながらなのかゆっくりと話し出した。
「んーあのクソジジイな貴族の知り合い多かったんだよな。名前までは知らなかったけどそういう縁で潜伏してんじゃねぇかなって」
・・・・協力するとすれば大帝国派閥だった貴族連中だろうか。しばらく国政から追い出されてるし便乗して中央に返り咲こうとする奴もいるかもしれないが、そうなるともっと大掛かりな捜査になるし私の権限じゃ出来る事が限られる。
「何かその貴族につながる情報はありません?なんでもいいんですけど」
でも確かに後ろ盾が無いとあんな堂々と反乱宣言をするとは思えない。作戦と戦力があった上の行動だろうし、そうなると大帝国派閥で一番の実力者だった南方のロタール様の所だろうか・・・・。
「分かんねぇが良く南方からの物を取り寄せていたな。爆発するくっせぇ粉とか石火矢?って奴とかな」
聞き馴染の無い単語だが、後で調べさせるか。それに南方となるとおおよその貿易ルートはロタール様の領土を通るだろうし、潜伏先の候補地にはなりえそうではあるか。そうする理由もあるし、元々の繋がりの可能性もあり。調べない手は無いのだが・・・・。
「流石に私じゃ無理ですか」
「・・・・あ?」
一番私じゃ無理な相手だ。そもそも私なんて貧乏貴族の娘なんて相手にしないだろうし、この国の中央もきな臭いこの時期に、下手に国内の大貴族を刺激したくないだろうから許可はまず下りない。でも探し出さないと私とイリーナ少尉それにライサ達の首が危なくなってくる。
「とりあえず他の可能性をあたりましょう。引き続き目星をつけて行ってください」
「あいよぉー」
そんな不機嫌で疲れ気味のイリーナ少尉の返事を聞きながら、自分の席へと戻っていくがやはりさっきの事が頭の隅にチラつく。でも出来ない事にリソースを割く訳にはいかない。とりあえずは他にあり得る可能性を排除する事に注力しよう。
「・・・よし。頑張ろう」
私は冷めたコーヒーを無理やり喉に押し込んで、朝日が差し込みだした部屋の中書類へと向かって行ったのだった。




