第八十九話 空回り
ライサとラースを連れ僕は敷地内を案内しようと、とりあえず使用機会の多い設備の多い宿舎へと向かっていた。そしてその宿舎の入り口付近まで来た時、そう言えばと振り返って二人に質問を投げかけた。
「もう部屋はどこか教えてもらってる?」
僕的にはラースでもライサでもどっちに答えて貰っても良いつもりで質問をしていた。だが先に答えようと口を開いたラースを押しのけて、後ろを歩いていたライサが僕の隣まで迫ってきた。
「ねぇ!フェリクスが同室になってよ!!」
ライサは本来同室であるラースを目の前にそんな事を言っていた。昔から我儘というか我が強い子だったし仕方ないのかもだけど、今現在同室のラースの前で言うのはちょっと可哀そうだろと思ってしまう。
そして僕は顔が近いライサを少し離してラースの方を確認するけど、ただ困ったように笑っているだけだった。昔のラースなら反発して言い合いしてそうなものだけど、なんか本当に大人になったって感じがする。
「まぁ俺はどっちでも良いけどよ。あの事務の人も言ってたけど多分部屋替えは無理だぞ」
ライサを抑えるように肩を叩いてラースが窘めていた。そして申し訳ないと僕に向かって、片手を掲げてジェスチャーで謝るとそのままライサを引き離そうとしてくれていた。
どうにもこういうラースには慣れないな。そうその光景を眺めていると、ふとそのラースの後ろに人影が見えた。
「何騒いでんの?」
そんな呆れたような声の主は、僕らと同じで遅れて宿舎へと向かっていたアイリスの様だった。
そう聞かれてしまったけど、今の状況をどう説明した物だろうか。そのまま言ったらアイリス不機嫌になりそうだし、上手い事誤魔化さないといけないか。
そう僕が考えている内にも、勝手にライサがアイリスに駆け寄って話し出していた。
「部屋変わってくれませんか!?」
「・・・・なんで?」
そんなライサの脈絡のない提案に、流石のアイリスも訳が分からなくて困惑しているようだった。というかライサってずっと元気だけど、エルシアの事とか心配じゃないのか。
そう思っていたのは僕だけじゃないらしくラースが小声で呟いていた。
「あいつはしゃいでんなぁ」
「いつもは違うの?」
ライサがアイリスに部屋を変わってくれるよう交渉しているのを尻目に、僕は久々のラースとの会話を始めていた。盗賊の所にいた時も後半は仲悪くてあんまり会話も無かったから、すごい久々な感じで違和感がある。
「んー割としっかりしてたんだけどな。解放されて気が抜けたのかね」
「へぇなるほど」
ライサとは割と相性悪かったのにこうやって褒めている辺り、僕がいない間大分頑張ってたんだろうな。今のところだと昔のライサのまんまだし、今が素に戻ってるってだけって事なのかな。
そうライサを放置してラースと一緒に眺めて会話をしていると、アイリスの細くなった三白眼が僕を見てきた。あの今にも不機嫌になりそうな目線は、僕がどうにかしろって事だろうな。
そう僕が仕方ないかとアイリスの元へと向かおうとした時。ライサがアイリスを指差して僕に言ってきた。
「だってこの人フェリクスの事嫌いなんでしょ!?変わった方がお互いの為でしょ!」
断定した言い方じゃないって事はアイリス本人の心の声を聞いたわけじゃなくて、クラスの誰かの心の声からそう推察したのだろうか。まぁ外から見てもアイリスって僕に限らず、全方位に威嚇している感じだしそう見えるよな。
でもこの言い方だとアイリスも機嫌を悪くしてしまいそうだな。
そう思って恐る恐るアイリスの顔へと視線をやると、何故かアイリスは視線を逸らして小声で何か言っていた。
「・・・別に最近は嫌いじゃないし」
小さい声だったけどそう言ってたと思う。
てか最近って事はやっぱりずっと嫌いだったのかよ。分かってはいたけどそれはそれでショックだな。
と、そんな会話をしている内にも食堂が混んでしまう。それを思い出したのとこの空気感が気まずくて、それを回避するようにライサの肩に手を置いた。
「ライサ。時間無いからその辺でね。部屋は変えれないけど勉強は教えたりするから我慢して」
僕はそうライサを無理やりアイリスから離すと、そのまま背中を押して宿舎の入り口へとラースと一緒に歩かせた。あんまり二人に喧嘩して欲しくないし気を付けないとな。
「・・・あんたが勉強教えれるの?」
すると嫌味の様にアイリスが、まさに嘲笑って感じの笑みで僕を見てきた。なんだかんだ試験でも中間より上は取れてるんだから、自分ではそんなにバカじゃないとは思ってるんだが。
「なに?手伝ってくれたりするの?」
「する訳ないじゃん。バッカじゃないの」
嫌味には嫌味で返そうとしたのだが、それも不発でアイリスはただ僕に暴言を吐いてさっさと宿舎へと入って行ってしまった。さっき僕の事最近は嫌いじゃないって言ってた割には、言葉が強すぎやしませんかね。
そんな不満も抱えつつ僕もそれを追うようにして、ライサとラースを連れて宿舎へと入って行ったのだが。
「フェリクスはアイリスさんの事どうなの?」
歩き出すなり僕の隣に並んできたライサが、そんな答えずらい質問を投げかけてきた。さっきのアイリスの反応から気になったのだろうか。でもプラスにもマイナスにも答えたらアイリス怒りそうだし、いい塩梅で答えないとダメそうか。
「まぁ良くも悪くも普通じゃない?最近はちょっと怒らせちゃってたけど」
僕的には当たり障りのない答え方をしたつもりだったけど、失敗だったようで先を歩くアイリスになぜか睨まれてしまった。なんだ僕の勘違いで普通じゃなくて敵対視でもしてるのか。
「・・・・ふーん。なるほどね」
「なんか心の声聞こえたの?」
まぁアイリスのあの不機嫌そうな表情はどうせ僕に対する悪口だろうけど。
「なんでもな~い」
少しだけ悩むような素振りを見せたが、ライサはそう言って先を歩いて行ってしまった。どうしたのかと思って、ラースに確認するように見ても分からないらしく首を傾げていた。
そしてそのまま僕らは食堂へと向かったのだが。
「おぉ!人多いな!」
意外にもラースが食堂の人の多さにかなり驚いていた。まぁここまでの密度で人がいる事って中々無いし、初見だとびっくりするか。
そしてそのまま僕らは食事を受け取りに列に並ぶが、どうしたのかライサが頭を抱えていた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫・・・ちょっと頭痛いだけだから」
頭が痛いって風邪だろうか。またカールの薬草屋に行って何か薬勝ってきてあげないとだめそうか。
そんな心配をしていると横からラースが小声で耳打ちをしてきていた。
「人が多いと声が聞こえすぎて頭が痛くなるんだってよ」
「え、まじ?」
聞き返すとラースが神妙な顔で首を縦振った。それならあんまりここに長居させたらまずいじゃないか。そう思い一旦食堂は諦めて他を案内しようかと思考を切り替えた時、ライサが僕の袖を掴んだ。
「大丈夫だから。これも慣れないと生活できないでしょ?」
「・・・まぁそうだけどさぁ。無理はしないでよ?」
本人がそう言うなら良いけど、ライサって無理しそうで怖いな。これから人が多い時間に飯とかは誘わないようにしておかないとな。
そうして待つ事数分。やっと今日の昼食の乗ったプレートが手に入り座れる席を探していると、丁度コンラート達が席を立っている所が見えた。
「お、フェリクスか。と、それにフェレンツさんか・・・」
ここにフェレンツさんって四人中三人いるけど誰の事を指しているのだろうか。まぁその反応からして流れで僕らに付いて来たであろうアイリスの事だろうが。コンラートにもそんな反応されるって今更だけど大分だよな。
「席貰ってもいい?」
そうして僕らはコンラート達の席を譲り受けてそのテーブルの席に腰を下ろしたのだが、何故かアイリスが僕の隣に割り込むようにして座ってきた。
「・・・・なに?」
なんか文句あるのかとでも言いたげな表情だった。いやまぁ他に席無いから仕方ないのかもしれないけど、アイリス的にも僕らと一緒に飯食べるの気まずくないのか。
「いや、なんでもないです」
でも断れる訳も無いので僕は黙って正面を向いて食事を取り出した。四人席な事もあってかライサが正面でその隣にラースが座っていた。食べ方見るに食事マナーは最低限は教わっているらしい。
「ねぇフェリクス」
すると食事が始まってすぐだが、パンを一欠けら食べただけのライサが満面の笑顔で僕を見てきた。さっきまで頭痛そうにしてたけど、大丈夫なのだろうか。
「ん?どうした?」
「ご飯美味しいね!」
ただそれだけ言いたかったのか、そんな笑みのまますぐに食事へと戻って行ってしまった。盗賊の所の飯って酷かったし感動するもの無理はないか。
僕はせっかくだしついでに気になる事聞いてみるかと、サラダを口に運んでいたラースに質問を飛ばしてみた。
「そういえばさ。答えたくなかったら良いんだけど、ラースの妹ってどうだった?」
エルシアって名前を出すと周りが騒ぎそうなので、そう濁して僕はラースの方を見てそう質問していた。僕が前話した時はまるで別人のように感じたから、もしかして何かあったのではないか。それが今回の反乱騒ぎに繋がっているような気がしている。
「なんか様子はおかしかったな。でも最近話す機会も無かったから、理由は分からん」
サラダを口に運びながらも、あまり表情を変えずにラースは答えてくれた。この感じあんまり心配してないって感じだけど、話す機会が無かったって言ってるし喧嘩でもしていたのだろうか。でも妹思いだったはずのラースがこの反応ってのも違和感だな・・・・。
そう思っていると今度はライサが何か言う事があるのか、持っているスプーンを置いてジッと僕を見てきた。
「あの子の事信用しちゃダメだよ。絶対に」
明らか僕がいない間にエルシアと何かあったのは確実だった。でもそれ以上は何も話してくれず、ただ僕らの食事は進んで行ったのだった。
するとそんな沈黙の中。隣でまだ食事途中のはずの、アイリスがスプーンをカタッと置いて僕に視線をやってきた。
「あのさ。今朝言いかけた事でさ、、、」
そうアイリスが言いかけた所で、食事を取る手をぱたりと止めライサが比較的大きな声で被せてきていた。
「もう時間無いでしょ!?本読みたいから図書館紹介して欲しい!!」
「・・あ、うん。まぁそれは良いけど」
わざわざアイリスに被せて言う事かとは思ったが、気圧されながらも一応そう返事をしておいた。まぁ誰かの心の声で図書館の存在知って気になったのだろうな。そう改めて話の腰を折られてしまったアイリスに再び目線をやった。
「で、アイリスどうしたの?」
そう聞き直すがこれまた言う気が無くなってしまったのか、手に持ったフォークをプレートの上で転がしながらただ一言。
「・・・・何でもない」
まぁどうせ同室なんだし帰ったら聞き返せばいいか。今は割と時間押してるしさっさと食事終わらせないとだめだし。そう判断して手僕はに持ったパンを口へと放り込んだ。
そうして全員が食事を終える頃には、もう午後の訓練が始まる十分前になってしまっており、施設紹介は後回しにして僕らはグラウンドへと向かっていた。
そしてその道中に次の石魔法での射撃訓練の説明をしていたのだが、何故かライサが困ったような表情をしてしまっていた。
「え、私石魔法使えないよ?」
「・・・・ちなみにラースは?」
「俺は使えるぞ」
確か基礎的な魔法だからそれが前提なはずだし、それが出来ないとそもそも入学出来ないんじゃないのか。これが無理やり入れた弊害って奴なのか?もう教官にはこの事が説明されてると思いたいのだが・・・。
「あ、でもこれ使えるから良いよとは言われたよ」
僕がどうしたものかと悩んでいると、ライサが左手を開いてその掌の数十センチ上空に水玉を浮かべていた。
「い、いや、それじゃ流石に・・・」
「見ててよ」
そうライサが得意げな表情をすると、その球体状に浮かぶ水の塊が表面に膜を張り出したかと思うと、段々と内まで液体が固体へと凝固して行っていた。
「え、凍らせたって事?」
目に入った情報からだとそう判断するしかなかった。そんな魔法があるなんて知らないし、なんでそれをライサが出来ているんだ。
てか今まで一緒だったラースも驚いたような表情しているし、ずっと秘密にしていたって事でもあるのかよ。
そんな僕らの驚いた顔が余程面白いのか、ライサは満足そうに笑うとその氷塊を再び水に戻してしまっていた。
「そう!凍らせれるの!前出来るかなってやってみたら出来ちゃってさ!」
そんなノリで出来ちゃうものなのだろうか。でもライサって人の心読めたりしてなんか多才な子だな。
そう感心しているとライサはその笑顔のまま、僕に頭を差しだすように近寄って上目遣いで僕を見てきた。
「どう?すごい?」
「うん、すごいよ。流石ライサだね」
僕は微笑み返して思った事を素直にライサに言った。魔法が使えるってだけで職には困らないし、こんな一芸があるなら学校を卒業しても、軍以外にも手に職を付けれそうだ。
そう思っていたのだが、ライサはまだ何か要求してるのかその態勢のまま不満そうに口を尖らせていた。
「・・・・どうした?」
「ん」
僕が聞いてもライサはそう一歩詰め寄ってくるだけで、何がして欲しいのか全く分からなかった。
そうやって僕がどうしたものかと困惑していると、それを助けるように訓練の始まりを告げる鐘の音がグラウンドに鳴り響いていた。
「あ、じゃあ訓練行こうか」
なんかアイリスも睨んできていて気まずいし、僕はそう逃げる様にして集合場所へと向かって行った。
そしていつものようにペアごとでの訓練が早速始まって行ったのだが、やっぱりライサの魔法は注目を集めていた。
「すっげぇな」
隣のコンラートとハインリヒのペアも驚いているが、ライサは氷の柱?槍?みたいなのを出してそのまま的に的中させていた。狙いもちゃんと出来てるし威力も十分そうだけど、大分魔力消費大きそうで心配になる。でもその当人であるライサが全く汗かいて無いし、ライサ自身の魔力が多いから出来る芸当なのだろうか。
「あ、やべ」
僕がよそ見しているのに気付いたのか、アイリスが的の裏から僕を見ているのが見えた。表情までは見えないけどどうせ睨んできている事だけは分かった。
そうして訓練が進んで行って全員分の結果が出ると、ラースもライサもかなり命中率が高くこのクラスの平均よりは確実に上回っていた。まぁだからと言って教官がそれで贔屓にしたり褒める訳でも無く、そのまま剣術の訓練を時間いっぱいまで終え今日の訓練は終了して解散となった。
「アイリスちょっといい?」
僕は訓練が終わってすぐにどこかへ行こうとしていたアイリスを呼び止めた。
「なに?」
「アイリスに浴場案内してあげてくれない?多分アイリスも今から行くでしょ?」
僕が女子の入浴時間に入るわけにはいかないし、かと言って無視して汗だくのまま校内を案内する訳にはいかない。
「・・・まぁいいけど。今度なんか奢って」
どうせ断られると思ってダメ元で聞いてみたのだが、案外あっさりアイリスはそれを承諾してくれた。
条件は最近の僕の財布事情的に厳しいかもだけど、それぐらいならまだ許容範囲だし良いか。
それにこれなら僕がラースに設備紹介しておけば、後はラースからアイリスに教えて貰えれば良いしな。そうしてライサに説明してアイリスに任せると、僕は訓練終わりにラースと一緒に設備紹介をしていった。
「ここが第二グラウンドだね。基本上級生が使うけど時間外は自主練に使っても良いよ」
ここは僕も偶に魔法の練習に使っている第二グラウンドだ。こっちの方が広くて使いやすい。
「で、ここは屋内訓練場だね。剣術とかはここでする事が多いかも」
「おぉ!こんな所まであるのか!」
紹介した訓練設備でここだけラースの食いつきが良かった。こうやって昔から変わらず剣の事が好きって分かると、僕の知ってるラースもいるんだとなんか安心する。
「で、ここが図書館だね。これから僕が遅れてる分教えるから、九時ぐらいにライサと一緒に来て」
「・・・・勉強か」
こっちはさっきと打って変わって、明らかに嫌そうな顔をしていた。まぁラースみたいなタイプって勉強嫌いそうだしな。でもやってもらわないと留年するから、甘えさせるわけにはいかない。
「で、ここが風呂だね。ちょうど今ぐらいから男が入っていい時間だね」
「おぉ広いな」
丁度良いタイミングかと脱衣場まで入ると、ラースが少し興奮気味に辺りを見渡していた。でかい風呂っていつになっても嬉しいしな。気持ちは分かる。
「じゃあ風呂入って今日は終わろうか」
「おう!そうしようか!」
最初は大人っぽいと思ってたラースも、案外変わっていなくて天真爛漫だった子供の頃のラースもいるんだと思えた。そう僕の知らない事ばかりじゃないと分かると、置いてかれたような感じがしなくてちょっと嬉しい。そうして少しだけ距離が近くなった気がするラースと時間いっぱいまで、風呂に浸かっていったのだった。
そうやって僕らが浴場へと入る数十分前の脱衣場にて。
「ライサ・・さんっていつからフェリクスと知り合いなんですか?」
話し方と言い見た目と言い年下な感じがすごいするから、つい話してて敬語を忘れそうになってしまう。そう思って汗で張り付いた服を脱ぎながら、私が質問をするとライサさんはうーんと悩んだ後に。
「八歳ぐらいからかな?ずぅっっと仲良かったからね」
ライサさんのそんな含みのある言い方に少しイラっと来たけど、まぁ一々目くじらを立てる物じゃないかと一応我慢をしておいた。一応家族になったんだし仲悪くなったら姉さんに迷惑かけるかもしれないし。
「へぇ。でも最近は一緒じゃなかったんでしょ?この半年はずっと私が一緒だったから分かるけど」
多分フェリクスに女の影は姉さん以外無かったと思う。そんな事はどうでも良いけど、同室だから気にしてただけだけど一応ね。
だけどライサさんは少し不満そうに癖ッ毛の髪を触りながら、私に対抗するように言い返して来た。
「でも私の方が一緒にいた期間は長いからね。その分関係は深いよ?」
そんな会話をしている内に脱衣場に人が沢山入り始めたので、一旦それを終えて私達は浴場へと入って行った。その時チラッと見えたけど体格が小さい割に、全体的に筋肉が付いてて以前は何やってたのか気になった。
だが以前何をやっていたのかライサさんに聞いても答えて貰えず、その後は気まずくて会話もせず黙々と湯に浸かっていた。そして上がった後も会話は無くライサさんとは脱衣所を出た所で、役目は終えたと私は自室へと戻って行った。
ーーーーー
私はアイリスと別れて、一足早く自分の部屋へと戻っていた。と言っても荷物なんてあるわけないから、殺風景な部屋にベットと机があるだけだけど。
そして部屋に入るなり、私は力が抜けたようにそのベットにダイブして枕に顔を埋めた。
「あーーーーー」
今日の私を思い出すと明らかにはしゃぎ過ぎた。ちょっとフェリクスに引かれてた気がするし、なんでこんなあんな子供っぽい事ばっかり言っちゃったんだろう。自己紹介は上手く行ったのに、フェリクスと話してると昔の私に戻ってしまう。
「絶対キモがられたって・・・・」
氷魔法使った時に、調子に乗って頭撫でて貰おうと粘ったけど今考えたらキモすぎる。三歳も年上なのに私は何をやってるんだ。私だったら絶対に引くしキモいと思う。
そう考えてしまうと恥ずかしさから足をバタバタさせて埃を立てる事で、なんとか恥ずかしさをかき消そうとするけどそれも意味は無かった。
そして私ははぁとため息をついて諦めたように枕を抱いて仰向けに天井を眺めた。
「一番心の声が聞きたい人の声が聞こえない・・・」
今日の私の事をフェリクスはどう思っているのだろうか。あのアイリスって子とは同室だけどどんな関係なのだろうか。久々に会ったフェリクス相手に私はどう振舞えば良いのか。もう何もかも分からない。
「明日はちゃんとしよ・・」
これ以上今日の事を思い出すと恥ずかしさで死にそうになってしまう。だから私は反省の念を胸に瞼を閉じていったのだった。




