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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第五章
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第八十話 久しぶり


 野外演習が終わってから二日目の朝。今日は貴重な週に一度の休みだけど、それはそれとしていつもの朝のランニングに僕は引っ張り出されていた。


「お前本当に朝弱いよな」


 そう白い息を走りながら話しかけてきたのは、金色の髪を後ろで縛ったコンラートだった。こいつもそうだが、皆朝強いしランニング前に自主練している奴すらいる。


「休みぐらいゆっくり寝たいよ」


 冬でまだ空も暗いし寒いしで、なんで休日の朝からこんな拷問を受けないといけないのか。それに昨日今日とアイリスに無理やり起こされるしで、あまりに世界が僕に厳しい。


「次遅刻したら追加訓練だもんな」


 すると後ろを走っていたハインリヒまで、そんな事を言ってきた。確かにいつも始まる直前まで寝てるせいか前回そう言われたけど、時間にはギリギリ間に合ってるんだから許してくれても良いと思うんだけどなぁ。


 そんな何気ない日常会話をしつつ一時間ほどのランニングを終えると、いつものように解散となって各自自由行動となった。

 先週は野外訓練のせいで休みもつぶれたし、やっとの久々の休みだ。まだまだ寒いし活動したくは無いが、足り無い物も多いし色々買い出しに行きたい。それにちょうどその野外訓練でハーブとか使い切ったし、カールの店に寄ってみるか。

 

 そんな事を思いながら宿舎へと戻ろうとしていると、突然コンラートが僕の肩を叩いた。


「朝飯いこーぜ」

「ん?・・・あぁそうしよっか」


 あんまり朝は食欲湧かないけど、せっかくの休みだしちゃんと食べておくか。それに休日は飯が少し豪華になるしちょうど良いか。


 そうしていつものコランート達4人組と一緒に食堂へと向かうと。


「やっぱ今日は混んでるなぁ」


 いつもは座学との兼ね合いで朝食を後回しにする学生も多いが、休みな日だけあって皆ドッと押し寄せているようだった。

 でも僕らも今更飯を抜くわけにもいかないので、しばらく列に並んで朝食の乗ったプレートを受け取ると席が無いか辺りを見渡した。


「食い終わったら早くどけよな・・・・」


 随分お腹が空いているのか、そうオットーがイライラして不満を漏らしていた。この子ガタイ小さいのによく食べるし、その摂取した栄養はどこへ行っているのだろうか。


「お!あそこ開いてるが・・・・・」


 そんなコンラートの尻すぼみするような言葉に反応して、その指差した方に視線をやった。するとそこには六人席に一人座ったアイリスが見えた。なんで一人であの席占有してんだあいつ。


「まぁフェリクスいるし行けるか」


 僕はアイリスのなんだと思われてるんだ。

 そしてそんなコンラートの言葉通りに僕らは、そのアイリスのテーブルの席に向かった。するとやっぱり案の定僕はアイリスの隣を座らされてしまった。


「・・・・っす、失礼します」


 そうプレートをテーブルに乗せようとすると、パンを両手で持ったままのアイリスと目が合った。嫌そうな顔はしていない気がするけど、元々の表情のせいか何を思っているか分かりずらい。

 こういう風にアイリスとの距離感が、未だに分からなくて関わり方に困っている。


「・・・・どうぞ」


 そう本人の承諾も得た事だし、僕らは席について朝食を取りだした。

 その間皆は休日がどうしたとか、昨日の暗殺事件がどうとかそんな話題をしていたけど、僕はなんとなくアイリスをのけ者にする感覚が嫌でその会話に混じっていなかった。それに眠くて元気が無いのもある。


 そんな事をボーっと思いながらパンをちぎって口に放り込もうとした時。隣でスプーンを皿の上に置いたのかカランと高い金属音が聞こえてきた。


「ね、ねぇ」


 すると珍しくアイリスからの呼びかけに、僕はちぎったパンを放り込むのを中止して手を下ろした。何か嫌な事でもしてしまったのだろうか。


「どうしたの?」


 そう心配しながらもアイリスの方を見ると、身長差があるせいかアイリスが俯いているように見えた。

 だけどそんなアイリスは視線を上げずにスプーンを握ったままで、小さな声で喋り出した。


「姉さ、、、フェレンツ少佐が最近つけてる匂いってあんたのと一緒だよね?」


 アイリスもしまいだからフェレンツ姓だけど、一応上官だから苗字呼びしてるのか。色々身内だと気遣う事が多くて大変そうだな。

 って、そんな事はどうでも良くて多分アイリスが言ってるの、カールの店で買ったアロマの事だよな。

 確かに僕も柑橘系の好きで偶に部屋で付けてるから、あんまり匂いが好きじゃなかったのだろうか。


「もしかして部屋でやるの迷惑だった?」


 それにアイリスのあんまり確認取ってなかったな。これぐらいなら不快じゃないから良いだろとは思ってたけど、流石に配慮不足だったか。

 だがアイリスはそういう意図で言ったわけじゃないらしく、訂正するようにゆっくりと僕を見上げてきた。


「い、いやそうじゃなくて。その・・・・」


 珍しくアイリスの歯切れが悪いし声も小さい。もしかしてアイリスも朝が苦手なのだろうか。

 いつもはズバズバ思った事そのまんま言っているイメージだったけど、やっぱ姉の事だと言いずらい事でもあるんだろうか。

 そう色々考えていると少しの間の後、アイリスが口を開いた。


「なんで二人とも一緒の匂いなのかなって・・・」


 ・・・・あぁそう言う事か。自分の姉と同じ匂いつけている男が居たら、姉妹仲が良くなくても気になりはするか。色々勘ぐってしまうだろうし、どうやって説明した物だろうか。

 そう僕は誤解の無いように慎重に言葉を選びつつアイリスに伝えた。


「前に僕が行きつけの店紹介したんだよ。偶々街で会ってね」


 個別で外で相談をして貰った、だと字面からしてやばそうだから流石に改変しておいた。別に本筋は嘘じゃないしこれぐらい気遣いの範疇だろう。


「へ、へぇー二人でねぇ・・・」

 

 そうアイリスはスプーンを握る手が震えていた。そんなにヘレナさんと僕の事が嫌いなのだろうか。僕は嫌いでも良いにしても、ヘレナさんとは仲直りして欲しいのだけどなぁ。こんな職業だし家族との会話は大事にして欲しいな。


「じゃあさ!」


 すると何か重大な事を言う気なのか、アイリスは小さかった声を少しだけ張り上げていた。そのせいか正面に座るハインリヒが、気になったように僕らを見ている気がしているが。


「私も連れてって。あんたが嘘ついてるかもしれないし」


 何をどう僕が嘘をついているのか分からないけど、妹的には姉の事が気になるらしい。それなら本人に聞けばいいと思うのだが、反抗期って奴なのだろうな。

 まぁ元々行くつもりだったからいいけど、やっぱハインリヒが僕をニヤニヤ見てきているのが気に入らない。見た目と反して意外とそういう男女の噂とか好きなタイプなんだろうか。


「う、うん。後で行こうか」


 断ると何されるか分からないし、僕は結局アイリスの提案を引き受けた。そしてそれを確認するとアイリスは、思い出したかのようにスプーンを動かして朝食を取り出した。用件はどうやら終わりらしい。


「あ、お前これ食わないなら貰うぞー」


 そうよそ見をしていると、隣に座っていたオットーが最後にとってあったデザートのフルーツを持って行ってしまった。週一でしか出ないから楽しみにしてたのに、こいつはどんだけ食い意地が張ってるんだ。


「そのフォークを素直に戻してもらおうか」


 僕はオットーの口に運ばれる寸前に、なんとか僕のデザートを持つ手を止めることに成功した。どうやらそういうネタでも無くガチで盗み食いに来てたらしい。貴族の息子の癖に卑しすぎやしないか。


「お前はしたないぞー」「そうだぞーみっともないぞー」


 そんな僕らを見てもコンラートとハインリヒは茶々を淹れるだけで、ルードヴィヒに至っては興味すら示してない。こんな事に意地を張る意味も無いが、ここまで来たら食われたくないと競争心が湧いてくる。


「今それ食ったら、これから毎週僕はお前のデザート狙う」


 そう僕が言っても引き渡す気はないらしく思った以上にオットーの力が強く、中々フォークを自分の所へと引き寄せれない。


「奪えるもんなら奪って見ろよな!」


 謎にオットーも強気になってフォークを強く握って離そうとしてくれなかった。流石に僕も周りの視線が気になって恥ずかしくなっていた。

 そうして状況が拮抗したかに見えた時、背後でガタンとプレートを持つ音がした。


「ばっかじゃないの」


 そのプレートのアイリスは、さっきまでの様子はどこへやら見下すように僕を見て去って行ってしまった。やっぱりあの子僕の事嫌いだろ。


「お、チャーンス」


 すると一瞬アイリスに気を取られた隙に、僕の手から逃れたオットーが僕のデザートを口へと運んでしまっていた。


「・・・・・はぁ。あほらし」


 僕は幸せそうに頬張るオットーを横目に残った自分の食事へと戻っていった。別にオットーも悪い奴じゃないけど、ガキっぽいから偶に対応が疲れる。


 そうして僕らは食事を終えると、コンラート以外は何か用事があるのか、さっさとどこかへと行ってしまった。


「朝刊買いに行くからついてきてくれよ」


 食堂から出て二人になった時にそんな事を言われたので、僕は大人しく売店までコンラートについて行った。アイリスのとの約束もあるけど、まぁ時間指定もされて無いし多少遅くなっても大丈夫だろう。


「ありがとうございまーす」


 顔なじみなのか店主のおっさんが、コンラートの顔を見るなり朝刊らしき紙をお金を受け取ると共に手渡していた。そんな枚数ある様に見えないけど、割と良い値段するんだな。多分僕は一生買う事の無い物だろうな。


「お、これ見ろよ」


 早速見出しを見ていたコンラートが、何か面白い記事でもあったのか指を差して僕に見せてきた。


「あぁ、まだ見つかってないんだ」


 どうやらルイスの父親を殺した犯人が捕まってないらしい。今は帝都外へと捜査の輪を広げているけど、中々難航しているらしい。ここまできたらどっかに潜伏してそうだけど。

 そう思ったのはコンラートも同じようで。


「もしかして身近にいるかもな~」

「いやいやそんな訳ないっしょ~」


 そうは口で言ったが、この時少しだけ嫌な予感がした。でもこの広い街でそんな事あるわけないし、大丈夫だろうと僕はその予感を受け流して、コンラートと別れて自室へと戻っていった。


 そして少し身構えてから自室のドアノブに手を掛けた。そして深呼吸の後に部屋の中へと踏み入れると、アイリスが自分の机に向かって勉強をしているようだった。


「いつ頃行きます?」


 僕は恐る恐る、そのアイリスの顔を覗くようにして隣に立った。ノートを見るにどうやら今は治癒魔法の勉強をしているらしい。


「ちょっと待ってて。すぐ終わるから」


 随分集中しているのか、ペンを動かす手を止めることなくそうアイリスが言っていた。邪魔をする訳にはいけないので僕は自分のベットに座って、積んであった本を読んでいた。

 そうして数分が経った時、アイリスがペンをカタっと置く音が聞こえた。


「着替えるから一旦出て行ってくれない?すぐ終わるから」

「ん?あぁ分かったよ」


 僕は本にしおりを挟んで、立ちあがると指示通り部屋の外へと出た。別に着替えなくても良いと思うのだけど、やっぱ外出する時はおめかししたいって事だろうか。まぁその辺の機微は分からないから口を出す気は無いのだが。


 そうして待つ事二十分程が経った。流石に服を着替えるにしては長すぎないかと、少し心配になってドアをノックしても、ちょっと待ってとしか返ってこない。何をしてるんだと思うが、不用心に扉を開けると僕が退学処分にされないから待つしかない。


 そうして更に十分程経った時。やっと目の前の扉が開いた。


「ごめん。待たせた」


 そうやって出てきたアイリスは、少しサイズが合って無い気がするけどベージュ色のロングコートに身を包んでいた。あんまりおしゃれとか分からないけど、似合っていると思う。


「なに?」

「いや、なんでもない。行こうか」


 アイリスの手元を見ると手袋までしているのかと思いつつ、僕はアイリスを連れて宿舎の廊下を歩き出した。普段訓練着ばっかだから、こういうアイリス見慣れてなくてなんか違和感がある。


「その服買ったの?」


 僕はなんとなく沈黙が気まずくて、そうアイリスに問いかけると首をすくめながらもボソッと答えてくれた。


「母さんのお下がり」


 あぁヘレナさんと一緒か。まぁ金銭的にきついって話だったしサイズ感が少しあってないのもそれが理由か。ちょっと気まずい空気感になってしまった。

 僕がそう黙ってしまって何も答えてないと、少し不安そうにしてアイリスが僕を見上げてきた。


「何か変?」


 今の僕だって訓練着のままだし、他人におしゃれがどうのって言える立場じゃない。それに普通におしゃれだと素人目では思うからな。

 そう僕は思ったままに素直に答えた。


「いや、似合ってると思うよ」

「・・・・そう。ありがと」


 そうして僕らは外出届を出して校門から、少しだけ騒がしい街中へと繰り出していった。多分まだ暗殺した犯人が捕まってないせいで、衛兵がツーマンセルで巡回しているせいだろうか。物々しい雰囲気が街を包んでいた。


「今日は騒がしいね」

「・・・だね」


 そう会話がポツポツと断続的にしか続かない中、僕らが街中を歩いていると鼻にツンと冷たい感覚があった。


「・・・・雪か」


 そう空を見上げると厚く薄灰色の空から、今まさに小さな白い雪が降ってきて来ようとしている所だった。

 寒い寒いとは持っていたけど雪まで降るとは。もう少し厚着して防寒してくれば良かったな。

 

「寒いねー」

「・・・うん」


 それに僕らの会話も大分冷え込んでしまっているようだった。これまで女の子とデート行った事無いんだから、そんな会話デッキが僕にあるはずも無い。もう無理に話しかけなくてもいいだろうか、アイリスもさっきから生返事だし。


 そんな僕らの気まずさから解放するように、ようやくお目当てのカールの店へと僕らはたどり着いた。

 二週間ぶりだけど、それでもかなり久々に来たような感じがする。


「え、もしかしてここ?」


 そうアイリスが苦い顔をして僕を見上げていた。どうしたのだろうかとこの店の事を思い出していると。

 

 ・・・・・あ、そういえばアイリスってここで値下げしてカールに嫌われてたんだっけか。いつの間にか忘れてたけど、気まずい奴だこれ。


「・・・そうだった。やめとく?」

「・・・・・・いや、ここまで来たし。給料もあるし母さんの薬定価で買って謝る」


 随分自分の財布を眺めて苦しそうに悩んでいたけど、やっと決心がついたらしくそう答えてくれた。それに謝るって事は店に迷惑かけていた自覚はあったらしい。


 そんな会話を挟みながらも僕は冷たいドアの取っ手を掴んでベルを鳴らした。


「いらっしゃーい、ってフェリクスか」


 暖炉でもあるのか暖かい店内に進んで行くと、いつものようにカールが店頭で頬杖を突いて座っていた。それに今日もやっぱりお客はいないらしい。


「色々使い切ったからまた買い来たよ」

「早くない?まぁウチとしてはありがたいけどさ」


 そりゃ野外訓練で散々色んな人に配ったからな。そう思っていると、やっぱりに気になるのかカールの視線が僕の後ろに隠れていたアイリスへと向かっていた。


「そちらは?」

「新規顧客様です」


 僕はそう振り返ってアイリスの背中を押した。するとやっぱりアイリスも気まずいのか視線を下ろしているし、それを見たカールの表情もアイリスの顔が見えると共に段々と警戒感を露わにして言った。


「・・・・これ。ちゃんと定価で買います」


 だけどカールが何か言う前に手早くアイリスが、財布の中を机の上にぶちまけていつも買っている薬を指差した。

 そんな突飛な行動に僕もカールも驚いていたが、すぐに営業に戻ったカールは目の前に散らばった硬貨を数えだした。

 それを終わるのをなんとなく眺めていると、何か店の奥から物音が聞こえた気がした。


「誰かいるの?」

「い、いや!?いないよ??」


 女の子でも連れ込んでいるのだろうか。カールから随分と焦ったような返答が帰ってきた。

 僕は何か面白そうだと思ってそれを問い詰めようかとも思ったが、ちょうど金勘定が終わったのかカールが口を開いた。


「ま、前のツケを多少マケてやってぴったりだな。次からはちゃんと定価で買うんだぞ」


 そう机の上に広げられた硬貨は全てカールが回収していってしまった。あれがアイリスの全財産だったと思うけど、次の給料日まで何も買えないじゃないか。アイリスはこの一か月生活大丈夫なのだろうか。


「・・・ごめん」


 するとアイリスが気まずそうに僕から視線を逸らしていた。まぁせっかく店に来たのにいつも通り薬買っただけでアロマもハーブも買ってないし、そりゃ気まずいか。


「何か気になるのある?」


 流石に可哀そうに思った僕は、アイリスにそう提案するけど静かに首を振って断られてしまった。こういう固い所あるよなアイリスって。

 でもせっかくここまで来てそれは僕が嫌だから、上手くアイリスが欲しい物を言ってくれるように言葉を選んだ。


「同室の好みも知っておきたいからさ。後でアイリスが臭いって言っても知らないよ?」

「・・・・・じゃあ選ぶ」


 もう少し粘られるかともったけど、 割と素直に従ってくれて僕としては早くて助かる。

 そうして最初は警戒心の高かったカールとアイリスが、色々なアロマを試しているのを眺めながら僕は椅子に座っていた。まぁ後は勝手に欲しい物を自分で見つけてくれるだろう。


「・・・・・・ん、髪の毛だ」


 机の上に銀色の長髪が落ちていた。そういえばルイスの父親殺したのも銀髪の女って話だったよな。

 そう薄い可能性がよぎりアイリスと話すカールを見るが、やっぱりそんな事する奴には見えない。でもそんな時怪しさを増すようにまた店の奥から何か落ちるような物音がした。


「やっぱ誰かいるな」


 僕はボソッとそう呟いた。明らかに音がした時カールは後ろを向いて焦ったような素振りをしていたし、誰かしらいるのだろう。もし本当に暗殺犯をかくまっているなら、僕ら軍人なんてまさに天敵だし気が気じゃないのだろうか。

 そんな風にしてありえないとは思いつつ最悪の想定をしながら座って待っていると、店頭の奥から誰かが走ってきているのが見えた。


「カール?誰か出てきてるよ?」


 僕は一応大丈夫なのか確認しようとそう声を掛けたが、カールが反応した時にはその小さな影は店頭へと出てきてしまっていた。


「フェリクス!!」


 しかもその影はとても見覚えある影だった。


「って、あの時の子がなんでここに・・・」


 その子はカウンターを飛び越え自分の胸に飛び込んできた。僕はその子が落ちないよう、抱えていると更に奥からこの子を追うようにして新たな人物が出てきた。


「ちょっと大人しくしなって!!って・・・・」


 そうイラつきを滲みだしながら店の奥から出てきたのは、長い綺麗な銀色の髪をした女の人だった。

 その女の人は驚いたように目を丸くし、僕も驚きから開いた口がふさがらなかった。

 

 どうやら今日はあまり運が良くない日かもしれない。僕はそう目の前に現れた人物を見てそう思ってしまった。


「・・・・ひ、久しぶり?」


 僕はなんとかそう絞り出すだけでそれが限界だった。

 

 一難去ってまた一難とでも言うのか。僕の休日はまたしても消えようとしていたのだった。

 

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