第七十九話 暗躍
「あーちょっと今良い?」
以前貴族の屋敷に行ってから数週間。その間特に何もすることなく暇だったのだが、突然私はそう呼び止められていた。
「なに?」
振り返ると盗賊の頭のジジイが、ある女の子の手を引いて立っていた。確かこいつってライサが連れてきた子供だっけか。
「この子君の従者として育てる事にしたから。将来の女王様となれば必要でしょ?」
こんな薄暗い洞窟の中に何年も住ませておいて、よくもそんな事をぬけぬけと言うな。それに従者と言っても、この子供5歳やそこらだろうし、当面は邪魔にしかならないと思うのだが。
そうこのジジイの意図が理解できず不満を抱いていると、そのガキの手を私に握らせたジジイは、背を向けて歩き出した。
「心の読める子に反発されたけど、色々基礎は教えたからよろしくね」
そういえば一時期ライサがこいつにキレてたっけか。またフェリクスの事でキレてるのかと思って興味無かったけど、この子供の為だったのか。どうりでこのガキもここ数か月見なくなってたし、色々私の知らない所でこのジジイが勝手にやってるらしい。
「おーい。考え事してないで行くよ。今日は大事な会談があるんだから」
いつもの事だが、事前相談も無いし私の事情を無視して振り回してくる。気に入らないけど現状こいつに従うしかないから、我慢しなければいけないのだが。
「・・・・行くよ」
確かライサがラウラとか言ってた子供は、あのジジイに何されたのか知らないけど一切喋ろうとしてなかった。イリーナといいあいつは一体女子供相手に何やってんだか。
そしてラウラを無理やりにも手を引いて歩き出した時、ふと視界端にライサの奴が見えた。でもそのライサは特に何かする訳でも無く私達を遠目に眺めていただけだった。あいつもジジイに何かされて反攻できなくなったのだろうか。
「あ、てか部屋から出れたんだ」
最近ライサ達の住む区域に来ることも減っていて知らなかったけど、イリーナの奴もやっと外に出れているようだった。情けない事にジジイにビビっているのかライサの後ろに隠れているが。偶にあんなイリーナの姿見てたけど、この世界でも見れるなんて思わなかった。
「早くしないと置いてくよー」
その声に振り返ると暗い通路の先に松明を振るジジイの姿が見えた。
「うっざ」
私は視線の先にいるジジイに対する気持ち悪さを覚えつつも、ラウラの手を引いてその暗闇の中を進んで行った。
ーーーー
「で、今回はどこに行くの」
私はまたこのジジイと一緒に馬車の旅かと、そうげんなりしながら御者台に座るジジイに向かって話しかけた。
「んー帝都だね。お偉いさんとちょっとね」
少し前にも帝都には行ったのだが、そんな短期間でまた向かうのか。それならあの時その用件も一緒にすませばよかったのに、色々理由があるのかもしれないが訳が分からないな。
そして私はそれ以上ジジイと話したくも無いし理由も無いので、黙って景色を眺めていると腕に何かが当たった。
「・・・・ッチ」
自分の右腕に目をやると、ラウラがこんな状況なのに寝息を立てて寝てしまっていた。気の弱そうな子供だと思ったけど、案外図太いのかもしれない。
「子供は嫌いなんだけどなぁ」
もちろんエマちゃんは例外だけど。それ以外の奴なんて、毎回行動変わって面倒くさいしうるさいしわがままだしで、全く好きになれない。そう思うとやっぱりエマちゃんは最初から良い子で素直な子だったな。
そんないい子をあいつは殺したんだけど・・・・・。
「どうしたの?」
今更意味の無い怒りが込みあがってきそうになっていた時、いつの間にか起きたのかラウラが私を見上げて丸い瞳を向けていた。
「何でもないから寝てな」
今は少し機嫌が悪い。やり直せばいいと割り切ってはいるが、やっぱり気に食わない物は気に食わない。
そもそもあいつがフェリクスを奪わなければ、今回はもっとうまくやれたはずだったのに、、、、
そんな三人での旅はそこまで長くは続かず、一週間と少しが経つと私たちは再び帝都ラインフルトの門をくぐっていた。これまでほとんど来た事の無い街なのに、この短期間で二度も来ることになるとは思わなかった。
「じゃあ今日が会談の日だから、さっさと着替えて行くよ」
ジジイは相変わらずの雑さだった。少しでも遅れたらどうするつもりだったのだろうか。こいつの場合、その時はその時とか思ってそうで不愉快だし。
そうして私達をジジイが連れて行ったのは、予約したらしい格式ばった高そうな宿だった。そしてそこの一つの部屋に案内されて、そこでまた形式ばった歩きずらいドレスに着替えさせられた。それにラウラも相応のドレス着させられて、これから舞踏会にでも行くつもりなのだろうか。
今まで忙しくて怒涛の流れで疲れてたから、やっと良い部屋で一旦落ち着けると思ったのだが、慌ただしくジジイが部屋の扉を開けてきた。
「じゃあ行こうか!」
せっかくいい宿に泊まったって言うのに、もうここを出るらしい。なんかここ最近こいつに振り回されてばかっりで、段々イライラしてくる。場当たり的な対応が多いし、ちゃんと将来を見据えて計画を立てているのか不安になる。まぁ失敗しても得れる情報が減るだけで、私からしたらどうでもいいのだけど。
「で、どこの誰に会いに行くの」
私が呆れたようにイラつきを隠そうともせず腰に手をやって、扉から顔を出すジジイにそう問いかけると。
「この国の大臣だよ」
ジジイの口から出た言葉にあっけにとられてしまった。良く分からない奴ではあるが、本当にどうしたらそんなコネがあるか不思議でならない。
私がそんな疑問を持っている事もお構いなしに、ジジイはいかにも貴族が使ってそうな馬車に押し込めてきた。
そんな急いでるならもっと早く出発しろとか不満しか出てこない。そう同席するジジイと視線を合わせないように、車窓を流れる日が傾いた街の景色を見ていると、ふと見覚えのある場所が目の前を通った。
「・・・・・あ」
馬車に揺られる中、目の入ったのは以前フェリクスと会った路地だった。あれから少し経ったけど、あいつは今頃何やってんだろうか。まぁ別に私に関係ない事ではあるけど。
そうして数分後やっと馬車の揺れが止まった。どうやら目的地に到着したらしかった。
そしてジジイが先に降りて、私達がそこの使用人らしき人達に案内されるがまま、続いて馬車から降りて建物を見ると、以前訪れた貴族の館に負けず劣らずの大きさの館だった。
「止まってないで行くよ~」
いつの間にか正装に着替えていたジジイを先頭に、私たちは屋敷の中に入っていったのだが、どこか屋敷の中は慌ただしく人が走り回っていた。私たちの準備に追われている様でも無いし、別件で何かがあったのだろうか。
「どうしたんだろうね」
ジジイもそう言って不思議そうに辺りを見渡しているのを見るに、意図していない状況なのは確かなようだった。計画性が無いからそうなるんだ。いい気味だな。
「すみません。すぐにご当主様もやってきますので、そちらの部屋でお待ちください」
すると私達をここまで案内した使用人が、焦ったようウニ汗を垂らしながらも少し手狭な部屋に私達を案内した。どうやら四つの椅子がテーブルを挟んであるだけで、そこまで広くは無いがここで会談をするつもりだったらしい。
今はその会談相手がいないから、私とジジイがそこに隣り合って座って後ろでラウラが立っているだけなのだが。
「多分息子がなんかやらかしたんだろうね」
すると隣に座ったジジイが窓の外を眺めながらそう言っていた。私もそれにつられて外を見ると、また馬車が門の前に止まって誰かが降りてきているようだった。
「あの子フェリクス君と同級生なんだって」
「・・・・へぇ」
どうでもいいけど、もしかしてそれが理由でこの屋敷に来たとか無いよな?こいつならやりそうで怖いし、それならこの家の家主である貴族が私達を受け入れる確証本当にあるのだろうか。
もしこれから交渉する気なら、その結果次第でこのまま国に突き出されるなんてことも・・・・。
「大丈夫大丈夫。なんとかなるって」
私の心配をよそにジジイはそう楽観的に笑っていた。いや別に私もどうでも良いけど、こんな中途半端に死ぬのは嫌って話なだけで・・・・。
そう言い訳が零れそうになっていると、やっと準備が整ったのか部屋の扉が開かれた。
「すまないな。少し身内で色々あって遅れた」
そう汗を拭きながら現れたのは、いかにも堅物って感じの見た目の貴族だった。大臣って事らしいから、この国でもかなり高位な存在だからこの交渉は慎重に行くべきなのだが、ジジイは薄気味悪い笑みを浮かべると。
「いやいや子育てって大変ですもんねぇ」
そう明らかに今言うべき事でない発言を、何のためらいも無くジジイは笑いながら言っていた。するとやっぱりと言うべきか、堅物そうな貴族も眉を動かして不快感を露わにしていた。
「で、あいつからの推薦って話だが何の用だ」
そう目の前に座った貴族は明らかに威圧感のあって、好意的な態度では無かった。もしかしてこの感じって、私たちの話すら伝わっていないのでは。
そう思っているとジジイが早速と言わんばかりに、机の上に手を組んで話し出した。
「その貴族が推薦したって事はある程度察しはついてるでしょ?」
ジジイがいつもの気持ち悪いニヤニヤした顔で敬語すら使わず、貴族に向かって私でも分かるぐらい失礼に喋っていた。こんな明らか堅物そうな奴にそんな話し方は無いだろと思っていると、やっぱり反感を買ったのか、貴族は更に眉間に皺を寄せていた。
「好かんな。早く本題に入れ」
「いやいや、焦らないでよ。アイスブレイクってのも大事でしょ~」
ジジイの目的が一切分からなかった。味方に引き入れたいならもっと低姿勢でやれば良いのに、なんでそんな相手の神経を逆なでするような事を繰り返すのか。もしかして他に目的でもあるのではと勘ぐってしまう。
「話す気が無いなら帰れ。私も時間が無いのでな」
そう目の前の貴族が交渉は終わりだと席を立とうとした時。やっと本題に入る気になったのかジジイも席を立った。
だがそう思った私の予想は外れ、ジジイのその手に持っていたのはペンでも紙でもなくナイフだった。
「貴様ッ!!」
「じゃ、大人しくしててね」
テーブルをあっさりと飛び越え、貴族が叫ぶ前にその喉元にジジイのナイフが突き刺さっていた。
その時の行動が唐突過ぎて私の理解が追い付かず固まってしまっていると、そのジジイは死体を地面に置くと。
「これで一つ障害は取り除けたかな」
ナイフを布で拭いているジジイはまるで、計画通りとでも言いたげにそう言っていた。その時やっと落ち着いて来た私の乾いた口が動いた。
「い、いやこいつ仲間にするんじゃないの?」
わざわざ暗殺するならこんなやり方じゃなくても良いし、あの大帝国派閥の推薦を受け入れる人物なら懐柔できたのではないか。そう思えば思うほどジジイの行動の合理性が見いだせなかった。
「ん~まぁ確かに派閥ではそうなんだけどね。こいつ多分こっちに付かない気がするんだ」
「・・・・・・つまり勘って事?」
私がそう聞くとジジイは地面に転がった死体に足を乗せて、いつものようにニヤニヤ笑ったかと思うとナイフを向けてきて言った。
「あったり~」
やっぱりこいつに従ったのはミスだったかもしれない。こんな奴について行って得られる情報なんて、外れ値過ぎて役に立たない。今すぐフェリクスを殺しに行ってリセットした方が良いのでは。
そんな少し大げさな思考がよぎっていると、ジジイが背を向けていた扉が開かれた。
「お話の所失礼します。ご子息様がお帰りに・・・・」
その扉を開けたのは、さっき私達を案内した使用人だった。そしてその後ろにはこの貴族の子供なのか、全身が汚れている男が立っていた。
「ん?あ、見られちゃったか」
ジジイがその声に反応して振り返ると、扉前にいた二人が固まってジジイが足蹴にする死体に視線が釘付けになっていた。
「まぁ良いか。逃げるよ二人とも」
その声と同時にジジイが使用人の首を切り、扉への進路を確保していた。私も逆らう意味も無いので、とりあえずフワフワしたドレスを動きやすいように裂いた。そしてラウラの手を引いて一緒に部屋から出た時。
「・・・・お、お父様」
扉脇にあの貴族の息子が尻餅をついて、泣いているのが視界端に見えた。私も最初親が殺された時は同じような反応してたけど、いつからか親が殺されても何にも思わなくなったな。それにその親だと思ってた人達もが血が繋がってないって言うね。
そんな道場ですらない憐れみをその男に向けて、私はその男を置き去りに走って行った。そして先を走るジジイの耳に聞こえるよう、私は声を張り上げた。
「どうやって逃げんの!?」
「じゃあ街の外のあの洞窟で集合で!!」
そうジジイが手を上げたかと思うと、私達を置いて外に向かって走って行ってしまった。しかも満面の笑顔だったし何が楽しいのか、騒ぎに気付いた衛兵たちに追われている危険な状況なのに理解出来ない。それに洞窟って、前この街に来るとき一回泊まっただけで覚えてないし、そもそもなんで私達を置いて行くんだ。
「ちょ、ちょっと!!意味わからんわバカ!!!」
そんな私の苛立ちも届かず、ラウラを抱える私を置いて一足先にジジイは屋敷の敷地から出て行ってしまった。私もラウラを抱えたまま屋敷の外へと逃げようとするのだが、やはり私達を衛兵らは追いかけてきているようだった。
「置いてくとかまじでアイツ頭おかしいって」
変わりが効くって言っても、一応私は計画の軸なはずだろ。なんで私を囮にして逃げるような事をするんだ。あいつの頭の中なんて分かりたくも無いが、今回ばかりはあの頭を開かせて欲しい。
「邪魔ッ!!!」
ここで死ぬのも癪だし、イラつく。だから目の前に迫っていた門で構えていた二人の衛兵に向けて石魔法を放った。するとやっぱりあんまり強くなかったらしく、あっさりと命中して死んでくれた。
「後ろからも来てるし・・・」
屋敷の人間総出なのか、十数人が私達の後ろを走っていた。こんな騒ぎになったらこの街の門も出れないだろうし、もしかしてあのジジイ本当は私を殺す気でここに連れて来たんじゃないか。というかその可能性の方が高く感じてしまうし、それならこのラウラとかいうお荷物も持たせた理由が分かるし・・・。
「あ゛あ゛ーーイライラする」
他人の良いように使われると本当に気分が悪い。しかも相手があのジジイとなると心底不愉快。意地でも生き残ってあいつのニヤけ面に一発入れてやる。
「・・・おねーちゃん?」
そうイラつきながらも私が少しでも逃げやすくする為に路地裏に入ったタイミングで、腕の中でこれまで大人しくしていたラウラが口を開いた。ちょうど雨も降りだしてタイミング最悪だし、私に今ガキの相手をしている余裕はない。
「黙ってて。今イライラしてるから」
私がそうきつく言うと、すぐにラウラは黙ってくれた。今泣き出したりでもしたら、その辺に置き去りにする所だった。
そんな事がありつつも私は、市街地の奥へ奥へと入り込んでいくと、騒ぎもどこか遠くへとなっていた。どうやら上手く撒けたらしい。あの屋敷の衛兵がそこまで多くなかったお陰か助かった。
そう一安心して、腕の中のラウラに向かって念押しするようにして言った。
「黙ってるんだよ」
今日明日で門を出ようとすると、確実に検問されて出れない。今突っ切っても良いがリスクも高いし、少し準備をしてから脱出した方が良いか。しばらくすれば落ち着くだろうし、それまで身を隠したい。
そうなるとある程度雨風が凌げる場所が良さそうか。丁度いい所があればいいのだが。そう辺りをキョロキョロするが、ただの住宅が並んでいるだけで、下水道とか廃墟とか身を隠せそうな所が中々見当たらなかった。
「あのー。どうしたんですか?」
雨音で気づかなかったが、後ろに人がいたようだった。私は流石に衛兵ではないだろうと思いつつも、ゆっくりと隠したナイフに手を掛けて振り返ると、そこには傘を差した若い男が立っていた。
「自分の店近いんで雨宿りします?」
この感じどうやらただの一般人らしい。それに助けてくれそうな雰囲気があるから頼ってもよさそうだが、流石に都合が良すぎないだろうか。
いや、でも追手が来ない内に隠れる所は欲しいし、選り好みしている場合じゃなさそうか。
「・・・・じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
ラウラの事もある。私はあまり無理は出来ないと判断して、その男について行くことにした。それに最悪こいつを殺して、しばらく店に潜伏させてもらえれば良い。
「あ、じゃあ傘どうぞ。すぐそこなんでね」
そうして雨音が激しくなる中、その男の背中について行くと本当にすぐその店とやらに着いたらしかった。そしてその男がガチャガチャとしてカギを開けて、店内に入ると異様な匂いが鼻腔に入り込んできた。
「・・・なにこの匂い」
「あぁ薬草とかハーブですよ。嫌いでしたか?」
そんな物必要ないからこれまで関わってきてすらいなかった。そもそもエルム村周辺にこんな店無かったし。そんな事を思いつつ店の奥へと進むと、男が走って店頭へと向かってタオルを差し出してきた。
「じゃあこれタオルです。温かい物持ってくるのでそこで座っててください」
私はその言葉に甘えて椅子に座って、膝の上のラウラの頭を拭きだした。子供はすぐに体調崩してコロッと死んでしまうから気を付けないと。それで何回か私もフェリクスも死んじゃった事あるし。
そんな事もあったなと思いだしながら、ラウラの頭を拭いていると店の奥からさっきの男が戻ってきたようだった。
「これお口に合えばいいですが」
男が二つの湯気の立つコップと蝋燭をテーブルの上に乗せた。どうやら中身はこの店の売り物のハーブらしく、湯気と一緒に嗅いだことない様な香りが立っていた。
「・・・いただきます」
私は膝の上のラウラを隣の席に移動させて、そのコップを手に取った。別にお湯で良いのにとは思ったが、そんな我儘を言うわけないので、黙ってそのコップに口を付けた。
「・・・・・どうです?」
そう男が心配そうに私の顔色を窺ってきた。飲みづらいからやめて欲しいのだが。そう思いつつも隣のラウラを見ると、少し熱そうにしているがちゃんと飲んでいるようだった。
「おいしいですよ。ありがとうございます」
私は感情を切り替えて、作り笑いを浮かべた。出されたハーブティーも別に好きな味では無かったが、この家主に嫌われない様あえてそう言った。こいつなら匿ってくれそうだし、すり寄っておくべきだろうし。
「それにいいお店ですね。私こういう店には縁が無くて」
私はわざとらしく店を見回しながら、長くなった自分の髪の水気を拭いていた。すると男は店が褒められたのが嬉しかったのか、目を輝かせて何やら色々な瓶に入った液体や葉っぱを紹介しだして来た。
正直その話の半分も聞いて無かったけど、男が楽しそうに話すから止める訳にもいかず、濡れた服が肌に張り付く気持ち悪い感覚を我慢しながら、その話を聞いていた。
「で、こっちのが安眠効果と、、、」
でもその話が数分続くと流石にそろそろ着替えたい。それに愛想笑いも疲れたからいい加減辞めたいし。そう思い目の前の男を止めようとした時、ずっと黙っていたラウラが夜も遅く眠いのか大きな欠伸をしていた。
「・・・あぁもうこんな時間でしたか。じゃあ着替えてもらって、どこか寝る場所用意するので少し待っててください」
ラウラを見た男はまだまだ話し足り無さそうではあったけど、そう言ってまた店の奥へと戻って行ってしまった。なんか星の話してるルーカスみたいで初めて会った感じがしなかった。今のあいつはいつも通り病弱でそんな元気ないけど。
するとラウラが椅子から私の元へと歩み寄ってきた。どうしたのかと思っていると、ただ私の傍に居たいだけなのか、私の服の裾を掴んでくるだけだった。
「あんたあのジジイになにされたの?」
とりあえずそう聞いてみたのものの、ラウラは頭を下げるだけで何も答えようとしてくれなかった。そんな沈黙の中準備を終えたのか、急いだのか汗をかいた男が店の奥から戻ってきた。
「こっちに諸々用意したので来てください!」
初対面の相手にここまで親切にする人間もいるんだな。私たちが見つかったらこいつも極刑になりそうだけど、どうせその時は私も死ぬから良いか。リセットされれば起きた事も私の頭の中にしか残らないのだから。
「あ!今更っすけど俺はカールって言います!後でご飯も持ってきますね」
そう自己紹介したカールという男は、私達を少しだけ埃の被った個室に案内すると、慌ただしくまたどこかへと行ってしまった。
そしてその部屋を見渡すとベットの上に着替えらしき女物の服が置いてあった。
「あいつの母親のか?」
でもそれにしてはラウラのサイズにも会う服もあるしで、元々宿泊業でも営んでいたのだろうか。そんな小さな疑問はありつつ、私とラウラは着替えて食事を取るとその日はそのまま眠りについたのだった。
ーーーーー
「お、やっぱ私の勘は当たるねぇ」
あの銀髪の子と別れた後、その子達を付けていたらやっぱりあの薬草屋の付近まで逃げていた。経験則だけど人って知らない土地で、知ってる景色を見つけると無意識でもそっち寄ってくんだよね。まぁその間何度も捕まりそうになってたから、私が助けないとここまで来れなかったんだけどもね。
「よしよし、店に入ったか」
あの店主の子には何も伝えてないし、私が趣味であの店を支援してるだけだったけど、こんな周り廻って役に立つ事があるなんて思わなかった。一応あの店に逃げ込むこと見越して色々物は用意させてたけど、ここまで上手く行くとは思ってなかった。最悪計画を前倒しにする事も考えてたけど、これは一番理想通りに物事がが進んでいて良いね。
「後は私が動くだけか」
このまま順調にクーデタの準備が進んで、一年後にあっさりと終わったらそんなのつまらない。もっと難易度が高くないと、面白くないし達成感も無い。それにそれじゃあドラマ性も無い。だから私たちの事を知ってもらってこの国にも警戒心を上げて貰わないと。
「その為に頑張ってもらうよ」
私は店の明りが消えたのを確認すると、これから何をしようか色々思索しながら夜の街を走って行った。
明日も少し投稿が遅れるかもしれません!申し訳ありません!