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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第一章
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第六話 ひとりじゃない(2)

七月二十九日 全体的に表現を変更。経過も多少違和感のあった一部部分の変えましたが結果は以前と同じです。


 ふと気づいて目を開けるとほんのりコーヒーの匂いがする車の助手席に座っていた。

 あぁまた夢かと思い頭を動かすと、左から見える車窓の中では見慣れない夜の街並みが流れていた。

 

 ただボーっとそれを眺めていると、信号なのか車窓を流れる景色が止まった。僕はなんとなく視線を逆方向に動かし運転席を見ると、丁度父さんが音楽を流し始めていた。

 

 それはとても懐かしい曲だった。

 小さい頃の家族旅行、銭湯帰りの夜の車の中、僕にとってはどこか夜の匂いがするような曲だった。

 

 そしてその音楽を懐かしんでいると再び車窓の景色が動き出した。

 それに伴って段々と自分の体の感覚がはっきりしていくと、ふと右手に何かを握っているのに気づいた。


「・・・・これは」


 握られた右手を開いてみるとそれは受験票だった。


 それを見てもう薄れかかっていた記憶が蘇ってきた。

 確かそれは高校三年の1月、寒空の中受験会場まで送迎してくれていたのが父だった。

 じゃあもしかしたらこの見慣れない景色も受験会場からの帰り道なのかも。そう思って車窓を眺めていると、運転席から父さんの声が聞こえてきた。


「まぁこれからも色々あると思うけど頑張れよ」


 その声に再び運転席に視線を戻すけど父さんとは目が合わなかった。

 それにこれからとは何のことだろうか。もしかして受験の時に僕が同じ事を言われた記憶を思い出しているだけなのか。


 すると父さんはフッと笑うと左へとウインカーを光らせた。

 そしてカチカチカチカチと規則的な音と共に、少しだけ僕に視線をやった父さんは言った。


「いや、そのままの意味だよ」

「・・・・そのまま?」


 よく意味の分からない言葉だった。それにまるで記憶の中の僕じゃなくて今ここにいる僕に語り掛けている、そう直感的に感じた。

 

 そしてそのまま車は進み、トンネルに入ると車内がオレンジ色で染まった。

 父さんは缶コーヒーを一口飲むと話を続けた。


「前も言ったろ、紡は考えすぎだって」

 

 前・・・?前って・・・・・・・あぁお見舞いの時か。

 随分前の事で思い出すのに時間がかかってしまう。やっぱり大事な両親をそんなすぐに忘れる僕を叱りに夢に出てきたんだろうか。


「ほらまた考えてる」


「・・・・・・・」


「あんまり気にしすぎるなよ。紡がしたいように生きればいいんだから」


 父さんがハンドルを片手にチラリとこちらを見る。

 久々に見た父さんの目はやはり僕と一緒のタレ目だった。


「だからさ━━、っともう終わりか」


 そう何か父さんが言いかけたところでトンネルを抜けた。

 夜なはずなのに外の光に眩しさを覚え目を開けると、いつもの木の天井が見えた。


 また夢を見ていたのだった。


ーーーーーーー


 今日はいつもより遅く起きてしまった。 

 昨日の運動せいか体のあちこちが筋肉痛がするせいだろうか。

 そんな事を思いながらも、なんとか体を引きずって動かし服を着替えて階段を下りる。


 そしてそのまま朝食をとった後、クラウスさんに筋肉痛で今日は休みたいと言ったが、継続が大事だと無理やり外に出されてしまった。


「あの、流石にちょっときついです・・・・」

「まだ走り出したばっかじゃないか、もう少し頑張れ」


 足の節々が痛んでふくらはぎと太腿も筋肉痛で悲鳴を上げていた。今にも足が千切れてもおかしくない、そう思うほどの痛みに耐えながらも何とか根性で走った。


 だけど所詮は今まで家に籠っていた子供の筋肉。僕は昨日の小川のそばの木まで走り切ることは出来ずその場で膝に両手をやって屈んでいた。

 

「ちょ、ちょっと、もう流石に無理です・・・・」


 すると流石にクラウスさんも許してくれるらしく、小川の傍まで歩く事を許してくれた。そして僕は木の下に着くなり、体重を重力に任せて地面に倒れ込んだ。


 するとクラウスさんも屈んで、大丈夫かと覗き込んできた。


「・・・流石に明日は休むか。ほれ乗れ」


 そうクラウスさんは屈んで背中を僕に向けてきた。


「・・・・・何してるんです?」

「おんぶだよ、おんぶ。もう足動かないんだろ?」

「・・・・・・今僕汗臭いですよ」

「この歳だと体勢きついんだから早くしてくれ」


 そうせがまれるものだから流石に断るのは気が引けた僕は、渋々クラウスさんの背中に乗った。

 そしてゆっくりとその背中は動き出し、僕はいつもより高い視点から見る景色を新鮮に感じながら辺りを見渡した。

 

「・・・なぁフェリクスって何か悩みあるか?」


 少し歩いたところでクラウスさんが、悩んだ素振りを見せた後そんな事を聞いてきた。

 後ろからでは表情は見えなかったが、クラウスさんからは今まで感じた事ないような真剣そうな雰囲気を感じた。


「それはどういう意味です?」

「・・・・否定はしないんだな」

「悩みの一つや二つありますよ。今だって体中が痛いんですし」


 ここで実は僕は転生していますって言ったらどうなるだろうか。

 いや、どうせ気味悪がられるか頭がおかしくなったと思われるだけか。それに僕が楽になるだけでクラウスさん達に迷惑をかけるだけになってしまう。


 だから僕はギュッと唇を噛んで心を閉ざした。


「もっと他にあるだろ。俺らに隠しているような事」

「・・・ないですよそんなの」


 今のクラウスさん少し語気が強かった気がする。もしかして怒っているのだろうか。


「なら悩んでるような素振りを見せるな。隠すなら隠し切れ」

「・・・・・なんですかそれ」

「もしそれが無理なら相談しろ。勝手に貯め込んで自滅なんてしたら許さないぞ」


 いつも飄々として優しいクラウスさんが、珍しく厳しい事を言っている。そのギャップが怖く感じた僕は、何も言い返す事が出来ず黙っているとクラウスさんは言った。


「お前はまだ七歳だが、その年以上に賢いところもある。そのせいで悩むこともあるんだろう。でも所詮子供だ、親を頼っても何も問題ないんだよ」


 意外と色々見透かされてたんだと思った。流石に生まれ変わりとは思っていないようだけど、僕の事をそこまで見ていてくれたんだと少し嬉しく感じた。


「・・・・いや違うな」


 僕はクラウスさんにも聞こえないような小さな声でそう零した。

 今クラウスさんが見ているのは僕じゃなくてフェリクスだ。勝手に僕に向けられた言葉と勘違いしたらダメだ。


 また心がきしむ音がした。


「・・・・まぁまた言いたくなったら言えよ」

「・・・・・・・はい」


 静かに揺られる体。

 クラウスさんの思いやりの言葉は嬉しい。

 でも確実に僕が生まれ変わりであることを想定していない言葉でもある。そんな親としての優しさから出たフェリクスという息子に向けられた言葉に、僕が応えてもいいのだろうか。


 いやそれは横取りだし騙している事になる。僕は所詮他人の体を間借りしているだけの他人。勝手に家族なんて勘違いしちゃいけない。


 それからはただ沈黙だけが流れて、小麦が風に揺られこすれる音だけが辺りに響いていた。


ーーーーーーー


 クラウスさんに背負われて家に帰り昼食を終えると、台所から顔を出したニーナさんが話しかけてきた。


「今日からブレンダに授業頼んであるからね~」

 

 授業というと、恐らく以前言っていた教養とかを教えさせるつもりの事だろう。

 

 でも今日は昨日の話の続きを聞きたい。なんとなくだけど、それを聞けば今自分がどうすれば良いのか分かる気がするから。

 多分そんな期待感も、なんとなく僕とブレンダさんが似ているように感じてしまうからだろうか。


 そんな事を考えながら僕は一歩また一歩と軋む木の階段を踏みしめブレンダさんの所へ向かう。

 そうして自室の部屋の扉を開けると、既にブレンダさんが机と椅子が運び込んで正面に座って僕を待っていた。


「フェリクス様待っていましたよ」


 向かいの椅子に座るブレンダさんは、そう言いながら立ち上がり挨拶をしてきた。


「今日はお願いします」


 僕も同様に挨拶をしてブレンダさんと机を挟むように座る。


「で、昨日の続きですよね」

「はい」


 僕がそう返事してもブレンダさんは机の上で組んだ手をジッと見て話し出そうとしてくれなかった。そんなブレンダさんを見て僕は何か言おうとするけど、その前にブレンダさんが口を開いた。


「フェリクス様は家族ってどう思いますか?」

「家族ですか?」

「えぇ家族です」


 家族か・・・。改めて言われるとあまりうまく表現できない気がする。でもなんでこんな概念的な事を急に言い出したのだろう。


「私は鎖だと思っています。その人を縛るものにも成り得るけど、奈落に落ちそうな時引っ張り上げてくれる命綱にも成り得る」


 どこか実感の籠ったような言いぶりだった。そしてそう言い終えたブレンダさんはギュッと自身の皺の入った手を握ると改めて僕を見てきた。


「じゃあ私の話を聞いた後。また聞きますから考えておいてください」


***************


 孤児院を出なければいけない時が来た。

 十六になるとお世話になった孤児院を後にする、そういう決まりだった。

 でも私はこれまで外でも生きていけるように努力をしてきたから、不満なんて一つも無かった。


「院長さんには感謝しかありません。長い間ありがとうございました」


 そう深々と初老に差し掛かった院長に頭を下げる。で在った頃よりも随分白髪の増えたその老人、この人が居なかったら私達はどうなっていたか。


「こちらこそ、色々ブレンダに手伝ってもらって助かりました。どうかこの先もお元気で」

 

 そう言って質素だけど丁寧に飾られたナイフをくれた。

 院長曰くおまじないみたいなものらしいく、別れの時にこれを渡すのが習慣になっているらしい。

 それを受け取り貰っても少し困るなと思っていると、孤児院の出入り口に人が集まっていて声が聞こえてきた。


「じゃあね!また会いに来てよ!」

「おねーちゃん、また一緒にあそぼーねっ!」

「うん!またきっと会いに来くるから待っててね!!」


 妹はあの小さな子供達の真ん中にいる。父譲りの綺麗な栗色の髪の毛でよく目立つから、ここからでも誰かすぐに分かってしまう。


「・・・ふふっ」


 妹があぁやって笑顔でいると私も少しだけ嬉しくなって自然と笑みが零れる。

 それに孤児院の皆から思い思いのお別れの品をもらっていて、やっぱり人気者だなと思う。あの子が周りに愛され真っすぐ育ってくれて、唯一の家族としてうれしい。

 

 それにそれが私の存在意義を肯定してくれるから余計に。

 そして私は右手を上げて声を上げた。


「もう行くよ~」

「あ、うん!ちょっと待って!すぐ行くから~!」

 

 私の声を聞き、院の皆から貰った花束を大事そうに抱えて駆け寄って来た。


「お姉ちゃん、お待たせ」


 わざわざ走らなくても良いのに妹は息を切らせてやって来た。せっかくきれいな髪の毛が乱れてしまっていたから、そっと手を差し出して髪の毛を整えてあげた。


「院長さんありがとうございました!またいつか会いに来ますね!」

「えぇ、ふたりともお達者で」


 深々とお礼をする妹に、院長はありがとうと言って私と同じようにナイフを渡した。


 そうして私達は孤児院の門を跨いだ。数年前ここを跨いだ時とは違う晴天の空の下、どこかこれから明るい事が起きそうな実感と共に。

 

 でも私の決意はあの雨の日から変わっていなかった。

 ここからは私は妹を守らないといけない。妹の笑顔が絶えないように、それが私のいる意味だから。


 そう妹の手を握る手が強くなっていると、ふと私を妹が見上げているのに気づいた。


「これからどうするの?」


 妹の綺麗な栗色の瞳と目が合う。

 そしてあらかじめ用意していた言葉を返す。


「貴族の使用人として働くの。もう話はついてるから行こう」

「もう決まってるの!?さすがお姉ちゃん!!すごい!!」


 なんとか孤児院の伝手を使って交渉したおかげで給金の良い所に働けることになっていた。院長さんからは色々勧められてたけど、ここが一番給金が高くて住み込みだったからだ。

 だからこの時の私は、とりあえず路頭に迷うようなことがなくて良かった、そう安堵と将来への期待で胸が一杯だった。


 でもこれが私の最初の過ちだった。

 私達は所謂成り上がり貴族のお館で働き始めた。

 でもそのお陰で給金も良いし新しい館での生活は、最初の内は大変ながらもやりがいがあって楽しかった。


 でも働き始めて一か月が経った頃だろうか。少しずつ私達の人生の歯車は狂い始めた。

 

「ねぇ、本当にに大丈夫なの?また呼び出されたんでしょ?何かされてるんじゃ━━」

 

 用意された二人部屋のドアを開こうとする妹の手を握る。でも振り返った妹はいつもの様な笑みを浮かべると。


「大丈夫だよ!ただお話ししてるだけだから!」


 そう言うと妹は部屋から出て行ってガチャンと扉が閉まった。

 最近はこうやって妹が貴族に呼び出されることが増えてきた。最初は気に入られて給金が上がるならラッキーと思っていたけど、どうも様子がおかしかった。

 増える腕や足の痣。それに偶に風呂の時間じゃないのに石鹸の匂いがしたり、部屋を出た時とは違う服装で帰って来たり。どうにも私の心はざわついたまま収まってくれなかった。 


 でもそんな状況に私は何も出来ず、雇われてから五か月が経った。その頃には今まで取り繕えていた、妹の様子が段々とおかしくなっていった。

 妹は呼び出される回数が増えるにつれ、拒食気味になり夜中に寝付けなくなり寝てもうなされてすぐに飛び起きてしまう。そして起きた後は夜な夜な1人で泣く事も増えていて、それを慰めて話を聞こうとしても意地でも口を割ろうとしてくれなかった。

 

 そしてその日がやってきた。 

 いつものように妹が呼び出され夜中に帰ってきた妹を見ると私は唖然とした。


「そ、それ血?」

「ちょ、ちょっと転んじゃって」


 何をされているのかは全く想像できなかった。でも今妹が血を流して苦しんでいる。その情報だけで私が動き出す理由には十分だった。

 

「逃げるよ」


 ろうそくの光だけが不規則に揺れる部屋で、私は絶対に離さないと強く強く妹の手を握る。

 でもそうやって握った妹の手は、皮と骨だけしか残っていない様に感じるほど弱々しく小刻みに震えていた。


「だ、大丈夫だって!私何にもされてないから!」


 その時の妹の引き攣った笑顔がひどく嫌だったのを覚えている。

 そして私が頼りないせいで、きっと妹は無理にこういう事を言っているんだ。そう思うと何も出来なかった自分にも腹が立った。

 

 だから有無を言わせないと私は妹の手を引いた。

 

「いいから。荷物まとめて」

「い、いやさ?せっかくお姉ちゃんが見つけてくれた仕事だよ?お給金も良いんだからこれぐらい大丈夫だって!」


 明らかに声が震えていた。そんな妹になんで分かってくれないんだと怒りすら湧いて来た私は、院長から貰ったナイフを喉に突き立てた。


「あなたが逃げないなら、私はここで死ぬ」


 極端なことを言ったと思う。でも今の私も限界で、妹を連れ出すにはこれしか思いつかなかった。


「・・・え、え、ちょ、ちょっと待ってって!ほんとに私は大丈夫だから!迷惑かけたくないだけの!」

「それであなたはどうするの?」

 

 もうこの時は妹の言葉は耳に入ってなかったと思う。ただ妹を連れ出す事それしか見えてなかった。


「・・・え、いやだからそんなこと言われても・・・」

「時間がないから早く」

 

 そういって自分の首に孤児院で貰ったナイフをさらに押し当てる。ツーっと赤い血が首元を伝って落ちていくのを感じた。

 でもこうすれば妹は分かってくれると知っていたからの行動だった。そんな私の姑息な考え通りに、妹は焦ったようにわなわなしながら。


「・・・・分かった、分かったから、だから早くナイフおろして」

 

 やっと妹が折れてくれた。少し強引だったけどこれが一番正しかった行動なんだと、自身の行為を正当化出来た。


「じゃあ早く準備して」

 

 あのナイフがここで役に立つなんて思わなかった。

 妹には酷な選択をさせたけど、これも仕方ない妹のためだから。


 その後私達は貯めていた給金を手に館を逃げ出した。ただあても目的も無く、とにかくあの貴族から離れようと走り続けた。


 そんな私達の逃亡劇は不幸中の幸いなのか気付かれることなく、街を逃げ出すことに成功した。今でも理由は分かって無いけど、あの時に幸運を使ってしまったのかもしれない。


「お姉ちゃんこれからどうするの?」


 街の郊外の森まで到着した時、妹は息も絶え絶えになりながら木の根にへたり込んでいた。


「とりあえず遠くの街へ行く。そこで本当は傭兵ギルドが良いけど、冒険者ギルドに入って日銭を稼ぐ」


 もう私たちを使用人として雇う所は無いだろう。それにあの貴族が届を出したなら、半分国が管理してる傭兵ギルドも多分加入が出来ない。

 だから私には、身分の証明もお金も要らないごろつきばかりの冒険者ギルドしか道はない。


「でも、私戦えないよ?」

「私が戦うから大丈夫」

「で、でも、それだと・・・」 


 妹がこんなに苦しんでいるのは私のせいだ。私が頑張らないと妹は幸せになれない。私が幸せにしないといけない。私がなんとかしないとダメなんだ。


「いいのとりあえずは。私がお金稼ぐから。その後の事はその時に考えましょう?」

「・・・う、うん。お姉ちゃんがそう言うなら」


 ナイフの件のせいか不満そうにしていたけど妹があまり反発してこなかった。

 よほどさっきのナイフが効いたという事だったのだろう。

 でもこれも全て妹のためだからしょうがない。

 これも結果的には正しかったんだ。私さえがんばれば妹は幸せになれる。そうじゃないとダメなんだ。

 

 そう信じて信じ込ませた。


 その後は残り二人の給金をやりくりして、なんとか国境のエースイという街まで逃げた。最近は異民族との戦いが激化していると聞き、ここなら私らみたいなあぶれ者でも仕事があるはずという理由からだった。


 そんな堅牢な城塞を備え付けたエースイの街の門を私は妹の手を引いて叩いた。

 でも最初賄賂を渡そうとしても、足りないと門前払いされた。

 本来私達みたいな身分の分からない人間が、前線の街に入れないは当たり前だった。でもここで諦める訳にはいかず、守衛には私の体を使って何とか入ることができた。それで妹が助かるなら安いものだと思うと、全く苦では無かった。


 そうして街に入った後は、すぐにこの街の冒険者ギルドに向かった。

 だけど冒険者ギルドの建物に入ると、やはりごろつきか明らか訳アリそうな人間しかいなかった。そんな奴らと今の私達も同属の様にみられているのだろうけど。


 でも当然そんな社会の底辺が集まってくるから治安も悪い。だからそんな場所に妹を一秒も居させたくないから、早く結果を残して傭兵ギルドに鞍替えするのが当面の目標だった。

 そんな決意と共にコツコツと足音を立て妹の手を引き受付に向かう。


「入会希望です。女二人」

「・・・・・はい、確認しました。入会費は━━」

「・・・これで足りますね?」


 危なかった。さっき賄賂を使っていたらどうにもならなかった。でもこれで私たちは無一文になってしまった。


「え、ええ。確かに。これから依頼等の引受けが可能になります。報酬に関しては、4割ギルドに残り6割を冒険者となっています」

「あとは依頼等でケガした時の医療についてですが、、、」


 なにやら窓口の係がごちゃごちゃ言っていたが、こんな所に一秒でも妹を居させたく無かった私は、早々に会話を打ち切った。


「説明は大丈夫です。すぐ依頼を受けたいのですがありますか?」

「え?あーはい分かりました。いくつか持ってきますね」


 そう言い残し係員は面倒くさそうに顔を顰めて奥に引っ込んでしまった。

 その間建物を見渡したが、やはり汚いし、浮浪者みたいなやつもごろごろいる、前線とは言えひどすぎる状況だった。それに妹を見る目が気持ち悪くて、本当に今すぐここから出て行きたかった。


 そして数分経った頃係員が戻ってきた。


「それじゃあ、こちらのは━━」

「じゃあそれで」

「え?あ、はい。分かりました。十三時から広場ですので」


 それだけ聞くと私は依頼届を受け取って、妹の手を引き出口に向かう。

 こんな臭いところ早く出よう。そう足早に歩いたが、出口付近で気持ち悪い笑みを浮かべる浮浪者の男に絡まれてしまった。


「よぉ~姉ちゃん方。見ない顔だけど、どこから来たんだ?」

 

 酒臭い。あの貴族を思いだすような目をしていて、不快でしかない。

 だから私はその男の脇を通り抜けようとするが、その男の汚い手が私の肩を掴んできた。

 

「すみません。急いでるので」

「おいおい、連れないねぇ。こぉーんな冒険者ギルドに女二人で来るってことは訳アリだろ~?助けてやるぜ~?」


 次は浮浪者の汚らしい手が妹を触ろうとしたが、私がその手を払いのけ妹を背中に回して守った。


「お心遣い感謝します、ですが大丈夫です」

「つまんねぇ女だなぁ、そんな愛想じゃやってけないぜ?」

「そうですか。では急ぐので」


 その男を無視して私は無理やり冒険者ギルドを出た。何か後ろで喚いていたが、あんな奴と話しているだけで鼻が腐る。

 それにあんな男がゴロゴロいる所に妹を連れて行ったという事実だけで吐き気がした。これからは絶対妹をあんな肥溜めに連れてかない。


 そうしてその日は金も無いので、路地裏で一晩明かした跡妹と一緒に集合場所である広場に向かった。

 昨日の男こそいなかったが、似たようなみすぼらしいやつらばかりが集まっていた。

 

 そんな最初にやった私の仕事は掃除だった。

 道端に捨てられたごみや吐瀉物、下水の掃除をやらされた。妹を一人にするわけにはいかなかったとはいえ、あんな場所に連れていきたくなかった。

 でもその報酬で安宿ながら泊まることができた。その次の日は久々に安心して寝れたおかげで、私も妹も昼頃まで寝てしまった。でもそれが私達の右肩下がりの暗い暗い日常の始まりだった。


 それからお日々は私一人でひたすら依頼を受けた。あの男を含め嫌がらせをされる事もあったが、それでも何とか頑張った。もちろん殺しだってやったし、金に困ったなら体も売って報酬が高いなら何でもやった。


 でもそうやって忙しくなるにつれ妹と会話をすることが減っていった。

 当然と言えば当然の事だったかもしれない。

 それでも私は仕方ないと自分に言い聞かせ、ひたすらに働いて妹から目を逸らし続けた。


 これが二つ目の過ちだったのだろうか。

 それから三年ほどたったある日、妹が娼館で働くと言い出した。

 

「別に今お金困ってないしそんなことしなくていいんだよ?」

「これは私が決めたことだから。お姉ちゃんがなんて言おうと変わらないから」


 久々に妹が話があると言ってきて、少し楽しみにしていたらこれだ。

 何のために私が頑張っているのかも知らないで、好き勝手に言う妹に腹も立った。


「私だけ何もしないなんて耐えれない。私は戦えないけどこれでもお金は稼げるんだから」

「じゃ、じゃあさ?他の仕事とかはどう?あっ!そ、そうだ!冒険者ギルドで働くとかは?雑用とかの依頼もあるにはあるしさ!」


 なんで妹がその道を選んだのか分からない。でも絶対にそれは妹の幸せではないのは分かった。確かに妹は美形ではあるけど、わざわざそんな仕事を選んでほしく無かった。


 でもそんな私の言葉は妹には届かず、ドアに手をかける妹を止めることが出来なかった。


「・・・・行ってくるね」


「ちょ、ちょっと・・・待って・・・・待ってよ・・・・・」


 振り返る妹の栗色の冷たく冷めた瞳を見ると私は強く止めることが出来なかった。

 

 そうして一人になって静まり返った部屋で自分の無力感に打ちひしがれていた。その部屋の静かさは、私の今までの行いすべてを否定しているようだった。


 それから十年ほどだろうか、あまり正確には覚えてないがそれぐらい年月が経っていたと思う。

 私は昼妹は夜と働く時間の違いからか、私たちはめっきり話すことも無くなっていた。いや元々会話も減っていたのだが、明らかに互いに話そうとする気が無いのが伝わっていた。

 

 でもそれでも自分は姉だからと心に言い聞かせ頑張ってきた。そしてその成果がやっと出て、やっと傭兵ギルドに入ることができた。これで妹も私を見直して振り返ってくれる、そう年甲斐もなくワクワクしながら妹にある提案をしていた。


「ねぇ、傭兵ギルドに入れてお金もたまったしそろそろ移住しない?」

「・・・・なんで?」


 朝方帰ってきた妹に話しかける。昔はしていなかったような匂いもするし化粧もするようになっていた。


「この辺治安も悪いしさ、それに汚いじゃん?もうちょっといい所住まない?」


 そう言って机の上に金の入った袋を取り出す。これでまた妹と仲良く過ごせると思っての事だった。これなら妹も今の仕事なんて辞めて幸せになってくれる、そう信じてやまなかった。


 でも妹はひどく冷めた瞳で私を見上げた。

 

「・・・・それもお姉ちゃんの中では既に決まったことなんでしょ?」

「・・・?えっそれってどういう・・・・・・」


 その言葉をこの時の私には理解することが出来なかった。

 でも妹は諦めたようにため息をすると言った。

 

「・・・まぁいいよ。準備しようか」

 

 そうして長年世話になった安宿を引き払い、大通りに面したそれなりの宿に居を移した。

 でも新しい宿に生活が移ったとしても、私たちの関係は安宿の時のまま変わらず冷え切ったままだった。

 

 そしてそのまま時が流れてまた五年ほどが経った頃、

 とうとう私の望みが叶った出来事が起きた。


「もう娼館辞める事にした」


 その時には私は三十五、妹が三十、少し遅くなったけどやっと普通の生活が取り戻せると嬉しさで胸がいっぱいだった。

 でもその後に続いた言葉は私の望んだ言葉ではなかった。


「私も戦う」

「・・・無理だよ。すぐに死ぬよ」

「もうこの年で性病持ちなんてどこも雇ってくれない。だから荷物持ちでもいいから手伝わせて」


 今の今まで妹が性病を持っていたことすら知らなかった。でも娼館で働いていたらそれは当たり前と言えばそうなのかもしれない。

 でもそれよりもその事実を今まで聞かされてなかった、その私たちの関係の冷え込み方にショックを受けた。やっぱり私は妹に信頼してもらって無いのかと、今更ながら再確認させられた。

 

 でも、だとしても、妹を戦場に出すなんてもってのほかだ。そう思いどうにか止めれないか考えをめぐらす。


「でも戦う必要はないじゃない?ほかにもいろいろ仕事はあるんだから。例えば傭兵ギルドの受付とかは?可愛いから行けるって!!それにお金にも困ってないし働かずに療養するって言う選択肢もあるしさ!無理しなくても良いんだよ!?!?」


 今思うとよくこんなにすらすら言葉が出たものだと思う。

 でもこれだけ言葉を使っても、私は妹とは会話が出来ていなかったらしかった。妹は明らかに怒りを顔に浮かべ私を睨んできた。


「・・・・昔からそうだよね。お姉ちゃんって。何かしようとしても私が何とかするって言ってばっかり。私の意思なんて関係なしにさ」

「い、いやだからそれはあなたのためを思って・・・・」


 その言葉がいけなかったのか、この人生で後にも先にも初めて妹が声を荒げた。


「あなたのため、あなたのためって!!うるさいんだよッ!!!私はお姉ちゃんのお人形じゃないの!!!ちゃんと私の事見てよ!!!!!」


「・・・・・・・・・」


 初めて髪を逆立て怒る妹の姿に私は何も言えなかった。


「小さいころから私を守ってくれて感謝もしてるよ!今でもお姉ちゃんの事は大好きだよ!!でもそうやって妹である私しか見ないお姉ちゃんは大っ嫌い!!!」


 妹である”アンネ”という存在しか見ていない。ただ個人としての”アンネ”を見ていない。

 面と向かってそう言われると何も言い返せなかった。 

 今まで私がアンネの事を妹だからとしか見てきていなかった事に、アンネに言われて初めて自分でも気づいてしまったからだ。

 

 そんな時ずっと張り詰めていた心の糸がプツンと切れる音がした。


「・・・・・ごめん、ごめんね。ダメな姉で」

「だからちがうって!!謝ってほしいんじゃなくて!!!私をちゃんと見てほしいの!!!!!」


 涙で乱れた両頬をアンネに掴まれ、無理やり至近距離で目を合わせさせられた。

 私の目に映るのは綺麗な栗色の瞳だった。でもいつもと違ってその瞳には光が合って私がいた。

 でもその瞳を見ても、今までの姉としてのブレンダが邪魔をする。


「で、でも、私が何とかしないと・・・・私が守らないと・・・・・」


 するとアンネは私を掴む手を離し、目の前で突然腕まくりをしだした。

 でもそこに現れたのは、昔見た痣だらけの細くて白い腕とは似ても似つかない腕だった。


「実はね、私もこう見えてお姉ちゃんが見てないところで鍛えてたんだ」

「え・・・・・?」

「だからさお姉ちゃんとしての仕事私にも分けてくれない?」


 目の前に立つアンネは昔と変わらない笑顔で私を見ていた。久々それも十数年ぶりに見たような笑顔だった。

 

 そうだこの笑顔が見たくて頑張っていたんだ。

 その笑顔を見た瞬間私にべっとりと引っ付いて話さなかった憑き物が取れた気がした。

 

「わかった。一緒にがんばろう。・・・・・・アンネ」


 その言葉を聞くとアンネが笑ったまま、でもその栗色の瞳から涙を流し抱き着いてきた。それを私は幸せと一緒に抱き返す。


 目の前に昔から変わらない綺麗な栗色の髪があった。匂いは少し違うけど肌で感じる心拍も呼吸も全部私の妹の物だった。

 

 この子は昔から変わってなかったんだと気づいた。


 いや私が気づこうとしていなかっただけなんだ。


 でもこの子が気づかせてくれた。


 だから一緒に頑張ろう。やっとそう思えた。


 

 それからの日々は大変だったけど楽しくて充実していた。これまでの時間を取り戻すように色々詰まった期間だった。

 アンネは最初私の荷物持ちとして戦場についてきて。

 そんな中だんだん戦えるようになって。

 背中を預け合えるぐらいには戦えるようになったときは嬉しかった。

 私とアンネの人生の中で一番楽しい時期だったし、一生忘れる事の無い物になった。

 

 でも時間というのは残酷にもあっさりと過ぎ去っていく物だった。


「もう私も四十歳かぁ。よくここまで生きれたなぁ」


 アンネはもうほとんど時間をベットの上で横たわっているようになっていた。私はそんなアンネと少しでも一緒にいようと、しばらく仕事を休みいつもベットのそばで話し相手になっていた。


「そんなこと言わないの。私が死ぬまで生きてもらわないと」

「いやいやブレンダ姉さん長生きしそうだから無理だって~」


 そうアンネは昔に比べ皺の増えた顔で苦笑いを浮かべる。


「そうかな?」

「だって四十五歳近くでまだ大剣担いで戦場駆け回ってるんだよ?無理だって」

「それもここまでこれたのはアンネがいてくれたおかげだよ。一人じゃもう死んでた」


 こういう他愛の無い会話が出来る事がただ嬉しかった。

 あの日アンネが私と向き合ってくれたからこの時間がある。

 そんなアンネの事を私は世界で一番愛している。

 アンネが笑っているだけで生きていてよかったと思える。


 でも人間はいつか死ぬものだ。

 それから数か月もしたら妹は食事をすることすら苦戦してしまうほどにアンネは弱っていた。


「お姉ちゃん、私が死んでも後追いとかしないでよ?」


「分かってるわよ。そんなことしない」


「もう無理しちゃだめだからね、もうおばあちゃんなんだから」


「分かってるわよ」


「それに、困ったことがったらちゃんと周りの人に頼るんだよ」


「分かってる」


「愛想が悪いんだから、いつもちゃんと笑っていてよ。そのほうが可愛いんだから」


「それは、、、頑張るわ」


「それに、、それに、、、、」


 アンネの栗色の瞳から涙が零れ落ちる。

 それでもまだ擦れた喉を動かし私に想いを伝えようとしてくれている。だから私はアンネの栗色の髪を撫でた。


「分かってるから安心して。あなたの想いは裏切らないから」


 アンネとは最後は笑って過ごしていたい。アンネの記憶の最期を涙なんかにしたくない。


「ありがとう・・・あとこれ・・・・私のナイフ預かっててよ」


 アンネはどこからかしっかり手入れのされたナイフを取り出した。

 

「これは?」

「孤児院の時の。ずっと大切にしてたの。だからこの先預かっててほしいの」


 アンネからナイフが手渡される。

 いつも持っている大剣より軽いはずなのに、ずっしりと重く感じた。


「私だと思って大事にしてね」

「・・・・・うん」


 私はギュッと鞘に収まったナイフを胸に抱いた。

 それを見届けるとアンネは笑っていた。

 

 そしてアンネの栗色の瞳が見えなくなると、静かに立ち上がってドアノブに手を掛けたのだった。


***************************

 

「私の昔話はこれで終わりです」


「・・・・・・・」


 声が出なかった。軽々しく知りたいなんて言ってはいけないほどの、ブレンダさんにとって大事な話だった。

 するとすぐにブレンダさんは話し出した。


「私の身の上話があなたにどう受け取られたかは分かりません。でも私の言いたいことはフェリクス様に伝わっていると思います」


 伝わってはいる。と思う。

 でも、でもやっぱり思考が邪魔をする。

 所詮生まれ変わり、ブレンダさんとは境遇も違うし、ある意味騙しているのに何勝手に感情移入してるんだと。

 でもブレンダさんは言葉を止めない。


「自分さえ我慢すればいいという自己犠牲的な考えは間違ってます。その自己犠牲であなたを想う人たちは苦しむんです。それを分かってください」


 ブレンダさんの皮の厚い手のひらが僕の頬を撫でた。

 

「・・・・・なんでブレンダさんはそこまで言ってくれるんですか?」


 分からなかった。所詮ただの他人である僕にここまで気をかけてくれるのかが。

 

「賢いフェリクス様の事です、きっと色々考えているんでしょう。でもフェリクス様はどうあっても子供です。大人に迷惑をかけてるのが当たり前です」


 そしてブレンダさんは一呼吸を置いて更に言葉を紡いだ。


「そんな子供に悩みを吐き出させるのも大人の役目なんです。私やフェリクス様みたいに一人で抱え込んでまう子供がいるんですから」


 そんな言葉を僕がどうやって咀嚼すればいいのか戸惑っていると、急に視界が暗くなった。そしてそれと共に優しい匂いが僕を包んだ。

 

「今フェリクス様の頭の中ではたくさん悩んでると思います。どうすればいいのか分からないと思います。でもまず言葉にしてみませんか?それから私と一緒に色々一緒に考えるんです」


 ブレンダさんの声と心音がすぐ近くから聞こえる。どこまでもこの人は僕に向き合ってくれようとしてくれているんだと感じれた。

 

 そう思うと何故だか分からないけど涙が出てきた。

 ただただ安心したような、落ち着くような感覚がして、堰を切ったように感情があふれ出した。

 

「全部感情を出し切ってください。そのあと落ち着いてこれからどうするか話し合いましょう」


 自分でもなんでここまで泣いているか分からなかった。

 

 でも、初めてこの世界で僕が紡でいれた気がした数分だった。


ーーーーーーーーー


「もう大丈夫ですか」

「・・・・はい、大丈夫です。すみません汚してしまって」

「大丈夫ですよ。これぐらい」


 やっと落ち着いた。

 ここまで泣いたのはいつぶりだろうか。

 

「じゃあ、聞かせてくれますか?」

「・・・・・はい」

 

 それから僕が本当は二十歳の男で、生まれ変わってこの体の中にいることを伝えた。こんな事を言っていいのか未だに悩んでの事だったけど、それでもブレンダさんはバカにせず真摯に最後まで聞いてくれていた。

  

 そうやって聞いてくれるだけでも僕はとても救われた気がした。そして話し終わるとどこか清々しさを覚えながらも、僕は恐る恐るブレンダさんの栗色の目を見た。


「・・・・よく頑張りましたね」


 ブレンダさんはそう再び僕の頭を撫でた。


「誰も傷つけないようにずっと一人で頑張っていたんですね。でもこれからは、フェリクス様も傷つかないようにしないとですね」


 ブレンダさんはあっさりとこんな僕の事を受け入れてくれた。いやまだ理解は出来ていないのかもしれないけど、それでも僕を拒絶せず目を見てくれていた。

 それがただただ嬉しくてまた泣いてしまった。

 

「もう大丈夫ですからね。これからは私が一緒に悩みますから」


 この世界で初めて孤独を抜け出して、ひとりじゃないと思えた。そんな時間だった。

 



 



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