第六十話 魔法
1ヶ月間ラインフルトの街での滞在を終えた僕は今、王立魔導士官学校の門の前にいた。ここに来るのは二週間ほど前に入学の許可が下りて身体検査をしに来て以来だった。
そしてあらかじめ説明された通りに門にいた衛兵に入校書類を見せて、以前訪れたこの事務局の窓口へと向かった。そして受付のお兄さんが僕に気付くと立ち上がって一礼してくれた。
「あ、2週間ぶりですね。どうぞ座ってください」
そう受付のお兄さんは用意された木製の椅子に僕を招くと、改めてと説明を始めた。
「2週間前も説明しましたが、デューリングさんは2年の育成課程に入ってもらいます。ですが既に半期の課程を終わっているグループに申し訳ないですが入っていただくことになります。それは大丈夫ですね?」
2週間前も同じ確認をされて、僕としても時間をかけるつもりは無いので了承していた。これは最後の確認という事だろう。
「それは大丈夫ですけど、その半期分の遅れは大丈夫なんです?」
人より少ない教育課程を受けることになるけど、軍隊だからそう言うの追いつくに大変そうに思えるが。そう思って聞いてみると、受付の上に僕の個人情報が書かれた紙を取り出して説明してくれた。
「まぁデューリングさんは冒険者歴もありますし、魔力量も上位にはありますので。貴方の努力次第ではありますが、そこまで遅れはないですよ」
努力次第か。まぁこんな世界で勉強できる事もありがたいんだし頑張ろう。その為に高い金を払ったんだし。そして説明を終えた受付のお兄さんが廊下に出てくると、僕を案内するらしく先導して歩き出した。
「じゃあ私が教室まで案内するので、着いてきてください」
僕はお礼を言って付いていくと、事務局のあった木製だった建物を抜けると、建物の造りが石造りの柱だったりと比較的しっかりした物に変わった。説明を聞くとどうやらここは教育棟ってやつらしい。
「じゃあここなので、少し待っててください」
そう受付のお兄さんが、2人は通れそうな木の扉を開けて中に入って行った。
「・・・・緊張するな」
半期から途中参加って事は、このクラスの人間関係はすでに出来上がっているだろうし上手く馴染めるだろうか。ボッチとか嫌だし、皆気の良い人達だと良いのだけど。
そんな期待や不安が入り混じったように、ソワソワしていると再び目の前の扉が開いた。
「デューリングさん。入って良いですよ」
「あ、ありがとうございます」
そうやって開けられた木の扉をくぐると、左手には奥に向かって上がっていく段差状になった席と、右手には教壇と大きめの黒板があった。なんか古めの大学の講義室っぽい感じがしてどこか懐かしかった。
「じゃあ自己紹介」
教壇に立っていた教官だろうか、スキンヘットの厳しそうな面持ちをした人に言われるがまま教壇の前に立たされた。正面から見るとざっと見た感じ二十人は教室に居そうだった。
「え、えーフェリクス・デューリングです。ここに来るまでは冒険者やってました。よろしくお願いします」
自分なりに無難に済ませたつもりだったが、あまり好印象は持たれなかったのか、まばらな拍手が送られるだけだった。
「じゃあお前はそこ座れ」
そしてその拍手も収まった時、そう言って教官が一番最前列の窓際の席を指差した。僕はその先に視線を向けると、そこには見覚えのある人物が座っていて、状況が掴めず固まってしまっていた。
「ん?早く座れ」
「え、あ、はい」
すぐに講義を始めるらしく、急かされるように僕は壇上から降ろされてしまった。僕はそれに従って、自分の席へと困惑しながらも重い足取りで向かった。
「・・・お久しぶりです」
隣の席の女の子に腰を低くして愛想よく声を掛けたが、不機嫌そうに頬杖を突いてそっぽ向かれてしまった。
この態度の悪さ。そう、どうやら隣の席はカールの薬草屋で値切りをしていたあの女らしかった。あんな素行でも軍人になれるのかと思いながら、少しだけ席を離して僕はその女の隣に座った。
「じゃあ向こう半年の日程から説明する」
そんな僕らを置いて教官は黒板に文字を書き出した。
どうやらこの先の簡単なスケジュールらしく、見た所最初は前期の続きの座学をしつつ、後期には実技や模擬戦を挟んだりと実践重視の訓練をするらしい。つまり他と実技はそこまで離れてないけど、僕は座学の面で遅れてるから、そこを自主学習でなんとかしないといけないらしい。
「で、基本二人一組で動いて半期ごとの評定を決める。これで配属先が決まるから、相方に逃げられない様コミュニケーションをしっかりとする事」
教官の冷たい視線が僕の隣の席を向いていた。どうやらかわいそうな事に僕の前任の子がいたらしい。
逃げられたって事は、余程嫌われるような事したんだろうけど、座学で何をすればそんな事になるんだろうか。
「それで、今期からの奴もいるから改めて説明する。まず辞めるのは自由だがどちらにせよ、この国の人間な以上兵役義務は免除されないからな。それとここでの問題事は軍規に沿って処罰されるから、しっかりと読み込んでおくように」
そうやって教官がとり出したのは片手に収まるぐらいの大きさのの手帳だった。入学が確定した二週間前に、僕はその軍規とやらが書いてある手帳を渡されていた。紙は貴重な物かと思ってたけど、ちゃんと全員に配ってくれるらしかった。まぁ中身も予想通りって感じだったし、余分な事をしなければ軍規違反とかは大丈夫そうだった。
「じゃあ、後分からない事があったら隣にでも聞け」
教官が憐れんでいるのか僕の方を見てそう言った。それと一緒にどこからかクスクスと笑い声が聞こえてきていた。
僕はそんな声の意味を察しながらも教官の視線に了解と頷くと、そのまま座学の時間が始まった。
ーーーーー
「じゃあここまで。昼食後はグラウンド集合」
その後の教官の解散という一言で、一気に教室内がザワザワと騒がしくなった。座学の時間は思ったより長くて、2時間ぐらいだった。内容自体は僕に配慮してかまだ初歩的な魔法についてで、余裕でついて行くことが出来た。でもその間分からない単語が出た時は聞きたかったけど、明らか隣が話しかけるなオーラが出ていて困ったりはしたが・・・。
「なぁちょっといいか?」
そして僕が荷物をまとめて飯に行こうとしていると、後ろから急に声を掛けられた。その声に振り返ると、金色の髪を後ろで結んだ美形って言葉が合いそうな男の子、が僕の肩に手を置いて話しかけてきていた。
「どうしました?」
突然どうしたんだと怪訝に思いながらも、嫌わまいと出来るだけ声のトーンを上げてそう答えると、男の子は僕の座る席の前に回り込んできた。
「いやどうせ一人だろ?一緒に飯食わないか?」
机に手をついて僕を上から覗き込むようにしていた。多分僕より身長高いだろうし、スタイルも良くて僕の持っていない物全部持ってる感じだった。
と、それは置いといて、せっかくの誘いだし食堂とか場所分からないから断る理由も無いので。
「いいですね。初めてで何も分からないので助かります」
僕がそう言うと、男の子は僕の肩を叩いて笑うと。
「同期なんだから敬語は良いって。あ、ちなみに俺はコンラート・アーベルだ」
そしてよろしくとコンラートが左手を差し出して来た。隣が隣だっただけに不安だったけど、後ろは気の良さそうな人で良かった。そう僕は安堵と共にその差し出された手を握り返した。
「うん、よろしく。コンラート」
「おう、じゃあ飯いこーぜ」
隣で未だに不機嫌そうにして窓の外を見ている人を気にしながらも、僕はコンラートと一緒に教室を出た。
そして教室を出るなり隣を歩くコンラートが僕を見て言った。
「お前も災難だな。あのアイリスの隣とは」
「アイリス?」
「隣の席のいつも態度悪い女だよ」
この感じ薬草屋の時の印象と同じで、あの教室全体でそんな評価なんだなと分かってしまう。名前は花の名前と一緒でかわいらしいのに、名は体を表さないな。
「ま、頑張れよ。困ったら俺に頼ってくれていいからな」
コンラートがそう言って、慰めるつもりなのか僕の肩をポンっと叩いた。僕はそれにお礼を言って、後者の案内をされながら歩く事5分程が経った。
どうやら食堂には着いたらしいが、人で込み合っていて食事を受け取るのにも一苦労だった。そしてなんとか食事を受け取って、席が無いか見渡すと明らか年上っぽい人もいるし、教官や職員も共用で使っているらしい。
「お、あそこ空いてるな。いこうか」
どこか大学の頃に使っていた学食を思い出して懐かしい気分になりながらも、コンラートについて行き食堂の端の席に二人して座った。
「そういえば、フェリクス冒険者って言ってたけど何年やってたんだ?」
席に座るなりそんな事をコンラートが聞いてきた。僕はパンを一口大に裂く手を止めて、その質問にどうやって答えようか思い出しながら言った。
「んーまぁ冒険者証を手に入れたのは半年ぐらい前だけど、実際は三年ぐらいやってたかな」
「じゃあ実戦経験もある感じ?」
コンラートは食事に手を付けず僕に質問を続ける為、僕もパンを持ったまま食事を取れないでいた。
「まぁそうだね。何回か国同士のにも巻き込まれたりしたね」
「へぇーなるほどね」
コンラートがそう言って目を細めたかと思うと、もう質問責めは終わりらしく時間も無いから食べようと言った。
そして僕からもコンラートの事を質問すると、割と偉い貴族の三男だったりと驚きの情報を聞いたりしながら、僕らは次の屋外での訓練に向けて昼食を取っていた。
ーーーーー
「おー広いね」
昼食を取り、コンラートに案内されて外に出るとそれなりの広さのグラウンドが目の前に広がっていた。400メートルトラックよりかなり広い空間が確保されていて、どんな訓練を想定しているのだろうか。
そんな疑問に答えるようにコンラートはグランド端を指差して言った。
「ま、魔法ぶっ放すからな。これでも狭いぐらいだな」
そこには自衛隊の火力演習で見るような土が盛り上がった所に、的の様な物が置かれているのが見えた。どうやらあそこに向けて魔法の練習をするらしい。さっきの講義で言ってたけど、父さんやブレンダさんの時と同じようにまだ戦場だと石魔法が一般的らしいから、石魔法の練習をするのだろうか。
「あ、やべ。教官来た。急ぐぞ!」
そう言って走り出したコンラートに置いてかれないようについて行くと、既に皆隊列を整えて整列を始めてしまっていた。とりあえず僕は訳も分からず一番後ろに並ぼうとすると。
「おい、お前先頭だろ。さっきと一緒だぞ」
コンラートにこっそりとそう言われた僕は急いで、人の間を通り抜けて先頭へと向かった。そしてアイリスの隣に立つと、教官が僕を一瞥した後話し出した。
「今日は石魔法の練習だ。基本お前らは指揮と後方支援だから、味方の背中を撃つ事なんて阿保な事しないために、ちゃんと的に当てるようにならないといけない。じゃあ1組ずつあそこに並んで三発ごとに魔法練習と着弾記録を交代で取れ」
そして僕らは記録用紙を配られた後、教官の号令と共に移動を開始した。僕は初めてで勝手が分からないから、とりあえずアイリスの後ろをついて行った。どうやら見た所的は10個以上はあるらしく、それぞれに一組ずつ単独で使えるらしい。
「・・・じゃあ私が先にやるから、着弾記録よろしく」
そう言ってアイリスは的から200メートル程離れた発射位置に歩き出してしまった。僕も特に言い合う気も無いので、コンラートと話しながら盛土のされた所の裏に入った。どうやらコンラートの組が僕らの隣らしく、話を聞くとどうやら着弾してから顔を出して着弾位置を確認するらしい。
「・・・まぁ顔出したら危ないか」
そんな当たり前な事を思っていると、土の向こう側から教官の発射号令が聞こえてきた。
「フェリクス。耳塞いどけ」
そんなコンラートの忠告に従って耳をふさぐと、少しした後に地面を揺らすような強い振動と衝撃がやってきた。そして視線を上げると土煙が大量に上がって、僕らの頭の上にパラパラと降りかかってきていた。
「よしフェリクス行くぞ」
「分かった」
土煙がおさまり出した時に、盛土の上を超えて反対側に回ると、盛土のあちこちがでこぼこにへこんでいた。そしてアイリスの狙ったであろう的には、中心とまでは行かなくても的内には着弾している様で一部が丸ごと欠けていた。
「相変わらずあいつ魔法は上手いんだよな」
そう言うコンラートの方を見ると、相方は的を外したらしく周囲の土を抉っただけだったらしい。そして僕は記録用紙におおよその着弾位置を書き込んで、替えの的を置いてからまた盛土の裏へと潜った。
それを繰り返すこと3回。結果アイリスは全て的内に着弾をさせていた。他は三回中一回当てれるかどうかだったから、アイリスの練度がかなり高いって事らしい。
「じゃあ冒険者のフェリクスさんの腕前見せてもらおうか」
交代の時に発射位置まで歩いていると、コンラートがからかうように僕にそう言ってきた。僕はそれに苦笑いしながらも、冒険者なら多少は実力見せないとダメだよなと思いつつ。
「期待上げないでって。緊張するから」
「いやいや、魔力量多いって話は聞いてるしな。期待するって」
魔力測定したし、どこかでそう言う情報が張り出されているのだろうか。
そんな事を話している内に、発射位置についてアイリスに記録用紙を手渡した。
「うん、やっぱ私すごいね」
アイリスはそう言って、自分の記録用紙を見てニヤニヤ笑っていた。案外こういう面があるんだなって思っていると、アイリスは僕の視線に気づいたのか緩んだ頬を戻してキッと睨んできた。
「的に当たらなかったら記録しないから」
僕の記録用紙を奪い取るように強引に取り上げると、そのまま盛土の方へと歩いて行ってしまった。僕が嫌われているのか、元々そうなのか判別が出来ないな。
「ちなみに前の子は一回も記録してもらえなくて、教官に泣きついてたぞ」
「・・・・・まじか」
一番使い慣れた魔法ではあるけど、200メートルの長距離で使った事ないし当てれる自信はあんまりない。これで当てれなかったら余計にめんどくさい事になりそうだし、一発ぐらい当てれるといいんだけど・・・。あとコンラートにがっかりされたくないってのもある。
「魔法準備始め!」
その声と共に皆が両手を前方に掲げて、魔力を込めて石魔法を準備しだした。僕も同じように石魔法を準備をして、皆が準備を終えるのを待っていた。
そしてそれから20秒ほどした時。教官が右手を上げて声を張り上げた。
「構えッ!!」
ピリッと空気感が変わったのが伝わった。隣で構えているコンラートも真剣そうな顔をしているし、僕も小さくて見えづらい的をよく狙おうと手を構えていた。どうやら石魔法の形指定は無いらしく、円形だったり槍状だったり矢じりぽっかったりと、それぞれ自由な形で石魔法で生成していた。
「放てッ!!!」
その声と同時に僕は視線を的に戻して、作り慣れた槍状の石魔法を放った。
そしていくつもの石魔法が着弾する轟音と共に、土煙が空中に舞い上がった。それが地面に戻って視界が確保できた僕は自分の的に目を凝らしてみると、どうやら少し狙いが高すぎたらしく的の上の土を抉っていた。
「お、でも良い所狙ってるね。俺より的に近いじゃん」
コンラートは的より左にずれた所の土を抉っていた。他もほとんど当ててないしで、やっぱり見た目以上に難しいらしい。そう思っていると、アイリスが裏から顔を出して僕の的を見ると一瞬でまた裏に戻っていってしまった。
「ほんとに記録しないんだ・・・」
まぁやりかねないだろうなとは思ってたけどさ・・・・。実力があるからあんな横暴さでも許されているんだろうか。
「二発目用意始めッ!!」
間髪入れずに教官の怒号が聞こえてきて、休む暇もなくすぐに僕らは石魔法の準備に取り掛かった。そして二発目を放ったのだが今度は、下を狙いすぎたのか的の下側の土を抉ってしまった。距離が距離だけに微調整がかなりしづらくて苦戦してしまっていた。
そしてコンラートの方を見ると。
「お、当たってるじゃん」
コンラートは的の左上部分を抉っていた。うまい具合に調整したのだろうと感心していると、コンラートは自信ありげに胸を張った。
「ま、こんなもんよ。次は真ん中当てるさ」
この自信の持ちようは参考にしたいな。
そしてそんな会話も打ち切る様いすぐに三発目の号令がグラウンドに響いて、僕らは再び石魔法の準備を始めた。
「・・・・・間を取って」
一回目が少し上で二回目が大分下なら、二回目より気持ち上を狙って。あ、あと風も少し考慮して少し右に意識もして・・・・・。
「放てッ!!!」
その号令と共に槍状にした石魔法を的へ向かって飛ばした。そしてこれで三回目の轟音と地響きの後。
僕らは土煙が晴れるのを待っていた。
「どうだった?」
魔力が切れかけてるのか、肩を上下させて汗ばんだコンラートが話しかけてきた。
「ちょっと自信あるかも」
ぶつかる直前までは思い描いたように僕の石魔法は飛んで行ってたし、中心とまでは言わなくても的には当たってる気がする。
そうして段々土煙が晴れてくると僕の的は見えなかった。でもコンラートは僕の的のあった場所を指差して、僕の肩を興奮したように叩いてきた。
「お前本当に真ん中当ててるじゃねーか!」
どうやら真ん中に当たってバラバラになった的の破片が、盛土のあちこちに散っているようだった。どうやらちゃんと狙った通りに当たっていてくれたらしい。
「・・・・良かったぁ」
僕は嬉しさよりも安堵が勝っていた。冒険者っていう前歴があるから実力示さないと恥ずかしいし、アイリスに一回も記録してもらえないと、どうしようかとか心配が多かったせいだ。
「流石冒険者だな!!」
そんな褒めてくれるコンラートとは別で、周りは少しだけ気まずそうに僕らを見ていた。どうしたのだろうかと思っていると、記録の為に盛土の裏からアイリスが出てくるのが見えた。
「流石にあいつでも言った事は守るだろ」
僕の肩を掴んだままコンラートもアイリスの動向を注視していた。自分の的は良いのかと思ったけど、コンラートの的は綺麗に欠けることなく盛土の上に残っていた。
そして僕は自分の的の方に視線を戻すと、アイリスが何か記録用紙に書き込んでいた。コンラートの言う通り流石に約束は守ってくれたようだ。
・・・・そもそも外れても書くのが普通なんだけどな。
そんな事を思っていると、アイリスが記録用紙を渡しに僕の元へ向かってきた。
「はい、これ。最後はまぐれで当たって良かったね」
不機嫌そうに僕の記録用紙を押し付けると、自分の記録用紙を提出しに教官の元へと向かって行ってしまった。
「あいつ今日自分が的の中心に当てれなかったから、絶対悔しいんだよ」
いい気味だと言わんばかりにコンラートが、去っていくアイリスの背中を見ていた。
「気難しい子だね・・・」
関わったことの無い様なタイプの人間だけど、この半年の間この子と一緒に居られるか不安になってきた。今度の休みに外出届出してカールに相談しに行こう。
そんな風にして僕の新生活の一日目が終わったのだった。
ーーーーー
私は今ラウラちゃんに魔法を教えていた。
普段はエルシアちゃんの役目だけど、個別任務で今日はどこかへ行ってしまっていた。頭のおじさんも見えなくて心が読めないから、事情が分からなくて何か胸騒ぎがしていた。
「・・・・?おえーちゃん?」
「ん?あっそうだね。グーっと右手に力を籠める感じでね」
私は目の前のラウラちゃんに意識を戻して、右腕を優しく掴んであげた。これで私の魔力を流し込んで、魔法を使う感覚をラウラちゃんに知ってもらうのだ。
「・・・・・すごい」
ラウラちゃんが目の間の空間に浮かんでいる、水の球体を見て目を輝かせていた。あまり実践では使う機会は無いけど、光が無規則に反射して綺麗だから私が一番好きな魔法だ。
「・・・昔フェリクスに見せたっけ」
確か同じここ訓練室で見せてあげたんだ。フェリクスはすごいからすぐに水魔法出来るようになってたけど、今でも使ってくれてるのかな。
「・・・・・じゃあ次は一人で出来る様頑張ろうか」
私はラウラちゃんの頭を撫でてあげて、魔法の訓練を続けた。幸か不幸かこの子は魔力があったから、訓練していつか戦場に出ないといけない。確実に12歳までは生かせてもらえるけど、いつかこの子も人を殺すことになってしまうのだろうか。
日を経るごとに暗くなっていく、ラース君を見ていると将来が心配になってしまう。
「ライサちゃん、昼ごはんだよ」
そんな声の方を見ると、開かれた扉の先には、ルーカス君が昼ご飯を持って立っていた。あの頭のおじさんの事だから、病気がちのルーカス君が殺されるんじゃないかと思ってたけど、意外に薬をくれたりしてくれたお陰で、最近は元気になっている。
「っと、もう昼ごはんの時間だったね。一回終わろうか」
私はラウラちゃんの手を引いて、ルーカス君の元へと向かった。
もうフェリクスが居なくなって4年が経とうとしていた。イリーナ姐は戻って来てから部屋にこもりっきりで、私とすら話してくれようとしない。心の声を読んでもラウラちゃんと大差ないと思うぐらい、取り留めの無くて、文章ではなく単語しか心の中で発してしかいなかった。
「私が頑張らないと」
誰かにもたれかかりたい。そんな甘い気持ちを捨てて私は気合を入れるように胸をポンっと叩いた。




