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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第四章
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第五十九話 再訪


 俺の目の前には、二人の人間が月明りに照らされて立っていた。

 もう見たくない程見飽きてしまっているジジイの気持ち悪いニヤけ面と、3年前ここから出ていったイリーナの傷だらけになった面が暗闇から浮かび上がってきていた。


「・・・なんで戻ってきたんだ」


 そう言葉が漏れてしまったが戻ってきたというより、引き戻されたという表現が正しいだろうかおsれに。傷口は治療されているのか、直接的には見えないが全身で紫色になった傷跡が見えたり服や肌が血まみれになっていた。今は背負われて目を閉じているけど、こんな見た目でも肩が上下しているから生きてはいると思う。


「あ、起きてたんだ。もう寝ないとダメだよ~」


 俺の視線はイリーナの方に釘付けになっていたが、それを気にしないように頭のジジイはイリーナを連れ、俺を横切って広場の奥へと進もうとしていた。


「な、なぁ!なんでこいつがここにいるんだよ」


 俺はすれ違う瞬間にイリーナを背負うジジイの腕を掴んだ。だが俺の質問に答える気が無いのか、俺の腕を振り払われてしまい、その足を止めることは無かった。


「この子落ちちゃうから腕は掴まないで欲しいんだけど。あとまたこの子も一緒に生活するからお願いね」


「お願いって・・・・・」


 イリーナはジジイに捕まってまたここに連れてこられたって事なのか・・・?しかも以前と違って俺らと同じ立場になった上で。


「ま、そう言う事だから。君からも皆に言っておいてね」


 俺はじゃあ一緒に居たはずのフェリクスはどうなったのか聞こうと思って、そう切り出そうとするけど、なぜかそれを聞くのが怖くなり喉も元からその言葉が出なかった。


 そうして立ち尽くしてしまった俺はただ、ジジイが広場の空き部屋の方へ向かっていくのを眺めていた。


「これからどうしようかな」


 私は真っ暗な中青髪の女の子を背負って歩いていた。

 ここに来るまでの数日間も何回か暴れられたけど、昔みたいにちょっと痛めつけたら思い出したのか大人しくなったからもう大丈夫。そのせいか性格がここに来て痛めつけた時みたいになっちゃったけど、まぁいいか。どうせフェリクス君のオマケだし。


「と、たしかこの部屋だっけかな」


 そして広場の一室の扉を開けると、小さな採光用の窓枠がポツンとだけあるガランとした部屋だった。まぁ予備用の部屋だし仕方ないけど、後で寝藁は持ってこさせればいいか。


「っしょっと」


 適当に部屋の隅にボロボロになった青髪の子を置いてあげた。

 3年の間何があったか知らないけど、前会った時より弱くなっててちょっとがっかり。あの港街で戦った時もあっさり負けるから拍子抜けだったし。

 この感じの弱さなら、わざわざフェリクス君と離さなくても良かったかもしれないかな。フェリクス君の成長の邪魔かなって思って、予定を前倒しにして介入したんだけど骨折り損かな。


「まぁいっか。それよりもフェリクス君も弱くなって無いと良いけど・・・」


 この子はフェリクス君の情報だけは吐いてくれなくて面倒くさかったけど、ギルドの男を問い詰めたらあっさり教えてくれた。


「でも軍隊かぁ・・・・。ちょっと手出しずらいなぁ」


 正式な訓練を受ければ強くなるだろうし期待が高まるけど、国の正式な集団にいるとどうも情報を集めづらいし、フェリクス君に接触しずらくなる。


「また戦争起きて貰わないとかな」

 

 丁度南の方で火種も良い感じにくすぶっているようだし。フェリクス君が成長しきる一年か二年後ぐらいに、私も戦いたいし戦争起きて貰おうかな。


「いやぁ最近は老後生活も楽しいね」


 あんな平和な世界なんてつまんないし。やっと戦争が起きてくれたおかげで、色んな面白い人間とか組織と戦えるしで満足だ。


「あとは、メインディッシュがちゃんと成長してくれているのを願うだけ」


 その為にずっとフェリクス君に人を張り付かせて、わざわざあの街を雇い主の命令無視してまで攻めたんだからね。出来ればあそこで戦って成長過程を見たかったんだけど仕方ない。

 まだまだ楽しみは取っておいた方が良いからね。そう思っていると、一つ良い事を想いついた。


「あ、あの銀髪の子に様子見てきてもらうか。なんか何考えてるか分からない面白い子だし」


 どうやらフェリクス君の事嫌いなのか気にしているのか知らないけど、あの街での戦闘でも接触しているっぽいし。私が今行くとフェリクス君も警戒して先頭になるかもだし、同郷なら何気なくフェリクス君の事を聞き出せそう。

 いやでもあの子良く分かんないし言う事聞いてくれるか分からないし、余計な事しそうかもなぁ・・・・・。


「いや、まぁ面白そうだからいいか」


 理屈なんて置いておいて、あの銀髪の子が何をしでかすか分からない所まで含めて、色々起きそうで面白そう。計画を守ってやらないよりやって滅茶苦茶になったほうが、展開分からない分ワクワクするしね。それに人生大体なるようになるようになってるし。


 そう私は面白い事を想いついたと、スキップしたくなる程浮ついた足取りで部屋を出たのだった。


ーーーーーー


 士官学校の入校日の前日になった。これまでにまた職員らしき人に色々説明を受けて、学校は正式名称で王立魔導士官学校って言うらしい。どうやら士官=魔法使える事が前提としての教育機関らしくて、魔力量測定とかもしたけどあんまり驚かれなかった。ちょっとだけこいつスゲーみたいな展開期待してたのに少しガッカリだった。


 そして僕は今。明日入校日だからそれまでにまたアロマやらを買い溜めようと、あの薬草屋へと足を運んでいた。これまでも週一ぐらいの頻度で、アロマを新しく買ってそのついでに薬草の調合を見せてもらったりして、足しげく通っていた。そのお陰か店員のカールに色々薬草の事教えてもらって仲良くなれたし、楽しい事がたくさんあった一か月間だった。


 いつものように僕が店に入って店頭に近づくと、カールが既に僕用の椅子を用意して自分の茶髪の毛先をいじって待ってくれていた。


「お、いらっしゃい!待ってたよー!」


 それを見ていた僕に気付くとカールは笑顔で立ち上がって、何かあるのか手招きをしてきた。


「今回珍しい薬草が入ったんだよね。これちょっと調合してみたくてさ!一緒にやろ!!!」

「へぇ~どんな薬草なの?」


 笊にはヨモギの葉っぱみたいな、特段珍しく見えない葉が何枚も横たわっていた。そして流れるように乾かしたのかカラカラになったその葉っぱを、カールは持ち上て石臼に入れ始めた。


「ん~この辺じゃ珍しいってだけで、南方じゃ普通にその辺にあるらしいんだけどね。止血効果があるらしいんだよ」


そう楽しそうに目を輝かせて語ると、葉っぱを石臼でガラガラと音をたてながら挽き始めた。僕はそれを机に肘を突いてなんとなくそんな光景を眺めていた。


「これやって後はどうするの?」

「分かんない。とりあえず粉にして何かに使えないかなって。それに予備で沢山仕入れたしね」


 カールはそう自身の後ろにある棚を指差した。そこには普段は色々商品なのであろう薬草が陳列されていたけど、その一部分を占有して葉っぱの乗った笊がたくさん積まれていた。


「・・・よし、まぁこんなもんかな」


 そしてしばらくするとカールが石臼から粉になった葉っぱの残骸を小皿に乗せると、自分の腕を捲ってナイフを取り出した。


「じゃあ治癒魔法だけお願いしても良い?」

「・・・・もしかして自分で効能あるか実験する感じ?」


 僕がそう聞くと何を当たり前な事をという顔をされてしまった。いやまぁ治癒魔法使えるなら傷も残らないし良いんだろうけど。

 ・・・・・そういえば治療される側に魔力が無いと治癒魔法かけれないんだけど、カールって魔力あるのだろうか。


「てかカールって魔力あるの?」

「まぁちょっとだけね」


 カールはそう答えるともう待ちきれないのか腕にナイフを二度差し込んで、ツーっと血が流れ出ていた。


「じゃあここにさっきの粉を・・・」


 パラパラと赤色の傷口が緑色の粉で覆われていった。粉が舞って僕は少しむせてしまったけど、カールはお構いなしに真剣に傷口を眺めていた。


「もう片方の傷口はいいの?」


 カールは二つ傷を付けたのに、一方にしか葉っぱを掛けてなかった。それを疑問に思って聞いたらカールはチラッとこっちを見て言った。


「だって止血してない傷もないと、止血できたかどうか比べれないじゃん」

「あ~なるほどね」


 普通に感心してしまった。身を削ってまで、そんなに効能を確かめたいのか。趣味なのか商品を売る以上知っておきたいのか分からないけど立派だな。

 そう感心しながら血が垂れないように布で傷口周りを拭くカールを眺め続けていると、この静かな空間と相まって日が差し込んで暖かくなった室温で僕の瞼は段々と閉じかけてきた。


 そしてもう瞼が上がる事が無くなりそうになった時。カールがやっと終わったらしく口を開いた。


「よし、まぁいいかな。治癒魔法お願いしても良い?」

「・・・・ん?あ、はーい」


 閉じかけた目を擦ってカールの傷口を見ると、既に葉っぱの粉は拭き終わったらしく傷口だけが露出していた。

 僕は念のため綺麗な布でその傷口をもう一度拭いてから、治癒魔法をかけ始めた。といっても、浅い傷だから物の数秒で跡形も無く傷口は治癒し終わった。


「お、ありがとう!やっぱ治癒魔法ってすごいね!!」


 薬草とか売っているなら、癒魔法って商売仇みたいな物だと思うんだけど、こういうマインドで居られるの偉いな。普通そう言うのって毛嫌いしそうなもんなのに。


 そしてその後もカールは止まる事無く、ノートに何か実験結果を書き出していた。ちょっとだけそれを盗み見ると、止血効果は無くはないが期待より薄かった、だが乾燥させた粉末だと扱いやすく長期保存に向く。でも傷口に着くと拭きづらいし、葉っぱのままでも効果があるならそっち方が良いかも?

 

 そういう事とかが色々書いてあってすごいなーとか想っていると、今度はそのままの状態の葉っぱでも同じことを試すらしく、また腕にナイフを突き当て始めた。


「よし今日はあとこれを3回やるからお願いね!!」


 まぁ普段は僕が薬草の事教えてもらってるから、全然いいけどこの子の体調とか大丈夫だろうか。こんなの毎回傷を付けてたら貧血になっちゃいそうだけども。

 

 そして心配しながらもまたカールのナイフが腕に差し込まれそうになった時。店のドアに掛けられている入店ベルのカランカランという音が静かな店内に響いた。


「っと、一回後回しかな・・・・。。って君か」


 カールが実験を中断して、入店した客を見るなり明らかに嫌そうに顔をしかめた。僕はどうしたのかと振り返ると、そのカールの表情の意味を知った。


「あ、一か月前の」


 一か月前僕から金を借りてそれ以降一切連絡もせず金を返す気配も無かった、ボブカットの女の子がそこに立っていた。


「うへ。なんでいんの」


 女の子も僕と同じように顔をしかめて嫌そうな顔をしていた。この感じはやっぱり金を返す気は無いって事らしい。見た目可愛いのにやってる事が可愛くなさすぎるんだよなこいつ。

 

 と、そんな一瞬の沈黙の後。カールが呆れたように女の子に話しかけた。


「で、今回のご用は?」

「ん?あー前の薬また買いたくて」


 女の子がカバンをゴソゴソしながら僕らの座る机に近づくと、ドンっと何かが入った麻袋を机の上に置いた。


「今回はちゃんと金持ってきたよ」


 そう自信満々に出された麻袋の中身をカールが確認しだした。ジャラジャラと沢山の硬貨がこすれ合う音がするし、今回はちゃんと代金を持ってきたらしい。

 そう思っていると、カールは顔を上げて女の子を見ると。


「今回のは足りてますけど、前回のツケ分の銅貨20枚が足りません」


「・・・・・・・・は?」


 女の子の三白眼が細くなって視線が僕に向いた。

 そういえば、結局カールがこの子のツケにするとか言ってたな。でも、それこの子知らないだろうし僕が払ってないって思っちゃうんじゃこれ・・・・・。

 

 するとそんな懸念はあっている様で、女の子は僕を睨んだまま。


「かっこつけて代わりに払うとかいってたよね?」

「・・・・・貸すとは言ったけどさ」


 なぜか貸した事実すらこの子の中では消えて、僕がお金を上げたみたいになっていた。それに僕をそんな睨んでも、ツケにしたのはカールだし僕にはどうしようも出来ないんだが・・・。

 

 そして女の子は小さく僕に対して呟いた後、カールの方を見て空の財布を裏返して言った。


「ちっさい男だなぁ。・・・で、銅貨二十枚だっけ?次の給金が入ったらでいい?」


 いちいち癇に障る事言ってくる子だな。普通に話しててイライラするタイプの子で、ちょっと関わりたくないかも。


「まぁ返してくれるならそれでいいです。あと私が勝手にツケにしただけです。フェリクスに謝っておいてください」


「え~、なんで私がそんな事しないと・・・」


 そう女の子がごねていたけど、カールが有無を言わせないって感じの表情をして、更に謝らないと薬草を売らないとまで言ってくれた。それで流石に折れて不満満載って顔に書いてあるけど頭を下げてきた。


「・・・・すいません」


 そんな雑な謝罪にカールがまた何か言おうとしていたけど、僕はまぁいいかとそれを制して女の子の頭を上げさせた。


「いいですよ。次からはちゃんと正規の代金で払ってくださいね」

「・・・・・・あい」


 今小さく舌打ちをしていた気がするけど、もう相手するのが面倒くさくなった僕はそのままカールに対応を任せた。

 

 そしてカールが女の子に薬草を手渡すと、こんな場所にもう居たくないとでも言いたげに、さっさと店から出て行ってしまった。


「すごい子だね」


 素直にそんな感想だった。いや今まで僕の周りが良い人ばっかだったから、そんなギャップを感じてしまうのだろうか。


「ですよねぇ。実際色んな所出禁にされてるらしいよ。あの子うちに来て三回目だけど出禁にしよっかなぁ」


「まぁそれが良いんじゃない?毎回値切りされると疲れるでしょ」


 出禁にされてるって・・・。そもそも物すら買えなくなっちゃってるじゃん。

 もっと人に好かれるような態度でお願いすれば、一件ぐらい支払い待ってくれそうな店在りそうなもんなのに。本当に不器用なのか素の性格がどうしようもないんだろうな。


「まぁそれはともあれ!続きしましょう!!」


 カールは両手を合わせて、まだまだ実験のやる気満々だった。僕も大した予定はないので、その実験に付き合ってあげてこの日は結局4回ぐらい同じことを繰り返した。それが終わった後も日が暮れるまで他の実験をしたり話したりしていて、あの女の子なんて忘れて楽しい時間を過ごせた。

 そしてお開きになった時にもう夜で飯も食ってないからと、カールと一緒に飯を食いに行ってなんだかんだ楽しいまま一日で終わった。


 

 そして次の日。

 昨日の食事から機嫌が良くなり、これから何が始まるのだろうかと、ワクワクする気持ちを抑えながら士官学校の教室に足を踏み入れた時。僕はやっぱり運が無いのかもしれないと、窓際に座る見覚えのある女の子を見てそう思ったのだった。

 





 



明日4月30日(水)は更新休みます。

すみません。

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