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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第三章
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第五十話 一方通行


 時間が経ち陽の光が入らなくなった部屋で寝始めて何時間経っただろうか。久々に長い事昼寝をしていた気がする。陽が入らなくて少し寒くなったせいか、満足するまでぐっすり寝ていたせいか、この時には既にかなり眠りが浅くなっていた。

 

 そしてそんな僕の肩を揺らして、眠りから覚ましたのはヘレナさんだった。


「・・・きて」


「・・・・・起きて」


「・・・・・・・・起きてください」


 僕は微睡んだ意識の中肩を揺らされる感覚と、そんなヘレナさんの声で段々とぼやけた視界がはっきりとしてきた。


「・・・・あ、おはようございます」


 瞼を開けると目の前には、ヘレナさんが屈んで僕の顔を覗き込んて来ていた。


「早いですけど今日の夕飯多めに貰えたのでどうぞ」


 そうヘレナさんから差し出された木の皿からは、湯気とうっすらコンソメの匂いが漂ってきていた。僕はその匂いで空腹感を思い出して、一気に意識が現実に戻ってきた。


「あ、女の子は・・・」


 僕は焦って右手の感覚を確認すると、まだ女の子の手の感覚があって安心した。子供は良く寝ると言うが、まだ深く眠っている様で全く起きる気配が無い。


「ずっと手握ってあげてたんですね」


 そんな僕がどこか可笑しかったのか、ヘレナさんが微笑みながら二人分の食事を床に置いていた。


「いやまぁ離してもらえなかったの方が正しいですけどね・・・」


 そんな優しさから来たものじゃないと誤解を解きながら、僕は目の前に置かれたパンとスープを手に取った。朝もほとんど食べてなかったし、実質一日ぶりの食事だったからか、一口スープを飲むと食事の手が止まらなくなった。

 するとまたそんな僕が可笑しいのか、ヘレナさんは右手で頬杖をひざに突いて微笑んでいた。


「やっぱり小食って嘘じゃないですか」


 僕はそんな言葉に飲み込みかけていたパンを喉に詰まらせてむせてしまった。そう言えば朝食を分ける建前にそんな嘘言ってたのだった。


「って、ちょっと大丈夫ですか?」


 急にむせだした僕をヘレナさんが、心配してくれたのか隣に座って背中をさすってくれた。


「い、いや、すみません。朝はあんまり食欲無いタイプで・・・・」


 僕は何とかパンをスープの汁で流し込んで、隣に座るヘレナさんにそう言い訳をした。だがやっぱりと言うべきか、僕のそんな言い訳も可笑しく感じたのかフフっと笑うと、ヘレナさんは僕の背中を撫でながら言った。


「そんな嘘バレバレですよ。貴方のそういう優しさを私は責めませんし、むしろかっこいいと思いますよ」


 背中を撫でられている事と言いまるで子ども扱いされているみたいだった。確かに年齢はヘレナさんの方が上かも知れないけど、なんか男として自分が情けないような感じがする・・・・。

 

 それから僕は少しだけ恥ずかしさからかヘレナさんと目を合わせれずに、何の変哲の無い会話をしていると、どうやら女の子もスープの匂いに釣られたのかムクっと起き上がった。


「おはよう」


 僕は出来るだけ怖がらせないように、笑って寝起きの女の子を見た。すると女の子は僕と言うかヘレナさんを見て、怯えたように毛布を小さな手で握ったまま僕の後ろに隠れてしまった。


「・・・私何かしましたかね?」


 戸惑ったというかショックを受けたように、ヘレナさんは明らかに表情を崩して動揺していた。さっきまで大人びた感じだったのに、それが崩れてアワアワし始めてしまっていた。


「多分目の前で僕とイリーナ殴ったからじゃないです?」

 

 そんなヘレナさんを少しからかうように言うと、そんな事ないと僕の後ろに隠れる女の子に話しかけようとしていた。


「こ、怖くないからねぇ~?」


 だがそんなぎこちないヘレナさんの顔を見た女の子は、更に僕の背中に潜っていってしまった。そんな反応にヘレナさんの心が折れたのか、悲しそうな顔をていた。

 その時いつ入ったのか気付かなかったけど、すぐそこまでイリーナが歩いてきていたようだった。


「お前ら何やってんだ」


 呆れたようにイリーナが言っているが、何か手に持ち謎に息も切らして汗をかいていた。僕はそんなイリーナに何かあったのかと勘ぐっていると、イリーナは手に持っていたらしかったパンやナッツのような物を手渡して来た。


「早くこれ食って外出るぞ」


「何かあったんです?」


 明らか冗談では無さそうな雰囲気を感じた僕は、頭を切り替えてイリーナの次の言葉を待った。するとイリーナは持ってきていたのか手荷物を床に広げて、ナイフとかを装備し始めていた。


「どうやらまたここに攻めてくる奴がいるらしい。だからとりあえず飯だけ食っとけ」


 そんなイリーナに対して、ヘレナさんが肩を叩いて空になった木の皿を指差していた。


「私がもうご飯持ってきちゃったんですよ。だからフェリクス君は、もう食べれないんじゃないんですかね?」


 するとイリーナも方眉を吊り上げてヘレナさんの方を見た。


「それぐらいじゃ足りないだろ。なぁ?」


 ここで僕に振られてもとは思ったけど、確かに朝を抜いた分少し足りなかったから僕はその質問に頷いた。

 

「ほらな?」


 イリーナは勝ち誇ったようにヘレナさんを見下していた。敵が攻めてきているって話の途中なのに、随分危機感の無い会話だなと思いつつ、僕は未だに背中に引っ付いていた女の子にパンとスープをあげていた。

 そしてイリーナの持ってきた食事を食べながら、イリーナとヘレナさんの会話を聞いていた。


「多分ヘレナ、お前らの後方の都市を占領した奴らだ」

「まぁそうですよね。残念ながらあまり情報はありませんけど・・・」


 さっきまでの軽い雰囲気はどこかへ行って、流石に状況が状況だからか切り替えて二人とも真面目な仕事モードに入ったらしい。


「どっちにしろ相当な手練れがか大軍勢なんだろうな」


 そうイリーナが口元に手を当てながら推測していると、ヘレナさんがいや、とそれを否定していた。


「ここの守衛の人にも聞いたんですけど、前回は先鋒の部隊以外旗は見えなかったし、正装をしていない統一感の無い部隊も居たそうですよ」


 つまり正規の軍隊の割合が少ないか、そもそも正規の軍隊の可能性すらないって事もあり得るのか。


「まぁだから後方かく乱の目的で野盗とかを金で雇っていた。そう私は考えてます」


 だが非正規の野盗にしては、戦果をあげすぎではないかと思う、レーゲンス帝国が劣勢とは言えそんな野盗相手に正規軍が負けるのだろうか。そんな疑問はイリーナも同じだったらしく立ち上がって呟いていた。


「にしては強すぎる気もするんだがなぁ・・・・」


「それは私も同感ですね」


 得体の知れない敵か。一度この街の守備隊が負けている以上最低限の力はあるだろうし、対応がめんどくさそうな相手なのは想像に容易いな。

 

 そしてそんな会話をしている内にも日は暮れてきたらしく、街中が暗くなり出した頃。そんな風景とは対照的にカンカンと高い金属音が何度も響く音が街中に響き渡った。


「来たか」

「そうみたいですね」


 イリーナとヘレナさんは揃って外を見た。そしてヘレナさんは軍隊をまとめてくると足早に一階に降りて行ってしまったので、僕とイリーナに続いて外へ出る用意をし始めた。


「そのガキはどうするつもりだ」


 そんな準備をしている中、イリーナがそう聞いて来た。僕は女の子の方を見ると、鐘の音が怖いのか耳を塞いでうずくまってしまっていた。


「ヘレナさんの部隊にお願いするつもりです」


 僕は準備を終えて女の子が怖がらないように抱きかかえると、イリーナを見てそう言った。僕よりも正規の軍隊の方が女の子を守れるだろうし、敵がここにくる前に僕が先鋒として潰せばいい。


「ならいいが、足手まといになるなら見捨てる覚悟はしとけよ」


 イリーナは冷たくそう言うと、すぐに行動を開始するらしく僕から背を向けて歩き出してしまった。僕はそれを見て、絶対に見捨てないと女の子の手をしっかり引いて追いかけていった。


 そうして一階に降りるとヘレナさんの所の軍人さんが慌ただしく動き回っていた。そして玄関外で編成を行っているヘレナさんを見つけると、僕は声を掛けた。


「この子お願いしても良いですか?」


 僕が後ろからそう声を掛けると、ヘレナさんは黒髪を揺らして振り返って来た。


「あぁそれはいいですけど。一応この広場を中心に防衛するつもりなので、この建物にいてもらう事になるけど良いですか?」


 僕はその言葉にうなづいて、手を握る女の子と視線を合わせた。


「じゃあさっきいた部屋で待っててね。絶対外に出たらダメだかね?」

 

 女の子が我儘を言わないか不安だったけど今回は分かってくれたらしく、うんと一回うなづいてくれた。だから僕はさっきいた部屋までその女の子を連れて行って、部屋の角で待つように改めて言い聞かせて慌ただしくまた一階へと戻った。


「様子はどうです?」


 そうしてまた建物外へ出ると、もう既にヘレナさんは編成を終えたようで、それぞれの配置の確認をしているようだった。そしてそれを遠巻きに見ていたイリーナにそう聞いてみたが、帰ってきたのは芳しい回答では無かった。


「まずいだろうな。もう火の手が上がってやがる」


 そうイリーナが北門の方を見ていた。僕もつられて見るとその方角の空が、太陽の沈む方角ではないはずなのに赤く染まっていた。


「一旦あたしが様子見てくるからここにいろ」


 そう言ってイリーナは北門へと一人で走り出そうとしていた。


「いいですよ。僕も行きます」


 僕は先を行こうとするイリーナの肩を掴んで引き留めた。だが何かイリーナにやりたい事があるらしく、どうしても一人で行きたいらしく譲ることは無かった。


「お前はあのガキ守っとけ。一応どんな敵か見ておきたいだけだよ」


 こう意地になったイリーナの意志を変える事が、難しいのは僕が一番知っている。だから妥協してため息をつくと、仕方なしとイリーナの肩から手を離した。


「そういうの死亡フラグっぽいから気を付けてくださいよ」


 僕がそう言うと、一瞬イリーナがこっちを振り返ってポカンとしていた。でもすぐに前に向きなおして、再び北門へ向かって走り出して行った。

 

「そりゃ異世界に死亡フラグなんて言葉ないか」


 僕はイリーナのこの先を心配しつつ、背中を見送っていったのだった。


ーーーーー


 異様に嫌な予感がしていた。


「盗賊でやけに強い、それだけだが・・・・」


 どうしてもあの白髪ジジイの顔がチラつく。ここ二年あっちから接触をしてきてないから、余計にこの辺りで何か手を出してきそうな予感はしていた。だからそれが今かもしれないと胸騒ぎがする。


「ッチ、北風か」


 嗅ぎ慣れた焼けた肉の臭いが風上から、あたしの鼻の中を通っていった。そして走っている内に遠目に北門が見えると、どうやら既に制圧されてしまったらしく、あたしに飯をくれた腕章持ちの奴を含めほとんどが衛兵達が地面に伏していた。

 

 だが、そんな事よりもあたしの視線は今そこに立っている人間達に向いていた。


「・・・・・ライサ」


 それに見慣れた盗賊の奴や、あの頭のジジイもそこに立っていた。それにラースが血で赤くなった剣を握っているのが見えた。

 まさにあたしが予感した、一番起きてほしくない未来がそこには広がっていた。


「・・・・・・・ッ!!」


 かなりの距離があったはずなのにあのジジイ今あたしを見ていた。そう気づいた瞬間あたしは近くにあった建物の陰に隠れた。

 流石に気のせいだと思いたいが、あのジジイならそれぐらいやってのけそうな確信があたしにはあった。


「逃げよう」


 あたしはあいつらを倒すのは無理と判断して走り出した。ライサやラースも心配だが、30人以上いる盗賊と戦ってあいつらを助けれるとは思えない。


「・・・・・それに」


 多分あいつらと今会ったらフェリクスはかなり傷つくと思う。

 最近は良く笑うようになったし、暗い顔をすることも減ってきていた。やっとあいつが少しづつ自分の人生を楽しめるようになってきたのに、ライサ達があそこにいるって知ったら、助けようとまた自分を追い詰めて苦しんでしまう。

 それにラース達からも置いて行かれたと思われて、恨まれている可能性だってあるんだ。不用意に接触しても互いにとって良くない。


「あいつ死ぬまでライサ達の事助けようとするしな」


 絶対にあいつはライサ達を見捨てて逃げない。ただでさえ二年前逃げた時、あいつらを盗賊の元へ置いて行ったと知れば尚更だろう。そんな事を考えていると嫌な汗が背中を伝っていた。

 

 そしてここにこれ以上いると不味いと、あたしは全速力で走っていると広場に入りフェリクスの姿が見えてきた。後ろを振り返ってもまだ追いかけてきていないようで、あのジジイが追いかけてきている様子は無かった。


「どうでした?」


 あたしが市庁舎に着くとフェリクスは、早々に心配そうに聞いてきた。剣に手を掛けてる戦う気満々らしい。だが今フェリクスをあいつらと戦わせるわけにはいかない。


「あぁ、だがちょっと大人しくしててくれ」


 あたしはこの街から逃げる事にした。多分こいつには嫌われるだろうが、死なせるよりかはましだ。

 そうあたしはフェリクスの頭を掴んだ。


「え?何するんです?ちょ、ちょっと怖いんですけど」


 そう言ってフェリクスは焦ってあたしの手を離そうとしていたが、その前にあたしは首の筋肉に力を入れて思いっきり頭突きを食らわせた。


「・・・・痛ってぇ」


 額から血が出る感覚があったが、狙い通りフェリクスは気絶してくれたらしく力なく地面にへたり込んだ。ブラッツが昔戦闘中に頭突きをされて気絶したとか言ってて、信じてなかったけどこの感じだと本当らしい。 

 そんな懐かしい事を思い出しながら、フェリクスの額を治癒魔法で治していると改めて北門を確認した。


「流石に来たか」


 あたしらの事を不審そうに見るヘレナの部下たちを尻目に、フェリクスを背負い街の東へと走り出した。ヘレナがここにいたらまた面倒くさい事になっただろうけど、前線へ行っているらしく助かった。

 そうやって走り出していると、ふと市庁舎のあのガキの事が気になった。でもその時には広場にあのジジイたちが侵入し始めてもいた。


「選べるのは一つだけだ」


 あたしはそう自分に言い聞かせて、東門へと向かって走り出した。

 どうやらあたしより、ヘレナのとこの軍隊と戦闘を優先するらしく、追撃は無くすんなりと西門付近へと着くことが出来た。


「・・・・よし、とりあえず馬車は」


 そんな順調さに違和感を覚えつつも道脇を見渡していると、路地裏から長い銀髪の女が出てきた。

 最初はその髪の長さで、誰か一瞬分からなかったけど、あれはエルシアだ。そう言えばラースの所にいなかったし別行動していたという事らしい。

 あたしはフェリクスがまだ気絶しているのを確かめると、いつでも抜けるようナイフの位置を確認した。


 あたしがそうしている内にもエルシアは一歩また一歩と歩いて、東門へ行かせないつもりらしく、通せんぼするように道の真ん中で止まった。


「ん?なんで寝てんの?」


 そんなエルシアの第一声は、一緒にいた時に比べてかなり低いと言うか抑揚のないような喋り方だった。


「せっかくだし色々聞いておきたかったんだけど」


 感情が乗っていないと言えば良いのか、あたし達を見ているようで見ていないような気がして不気味に感じる。


「あ、そういえば本当に私達を置いて行ったの?」


 だが、そうやって黙っている私相手に会話をしてくれるらしく、そんな質問を目の前のエルシアは投げかけてきた。私はそれに何か嫌な雰囲気を感じて、刺激しないように慎重に言葉を選んだ。


「いや、そんな事はない。実際あたしらは最後まで粘ったからな。・・・・・でもやっぱりお前はあたしらの事を恨んでいるのか?」


 元々フェリクスとエルシアの仲は悪かったし、二年前の事で恨んでいてもおかしく無い。そう思っていたのだが、エルシアは首を横に振った。


「別にそんな事はどうでもいいよ。今回はもう無理っぽいし、最後にエマちゃんを殺した事について聞きたいだけ」


「・・・・エマ?」


 聞いたことの無い名前がエルシアの口から出てきた。殺したって事は、あたしかフェリクスが殺したエルシアの知り合いって事だろうけど、そんな名前の奴がいた記憶が無い。


「あーまぁそうか。知らなくて当然か」


 だがエルシアは自分一人で納得したように、結論をすでに出してしまっていた。それにやっぱりいつものエルシアの雰囲気と違いすぎて、二年前と同一人物かと疑いたくなるほどだった。


「で、なんでそいつは寝てんの?」


 だが混乱するあたしを置いて、そうエルシアが背負っているフェリクスを指差した。聞きたい事って事は、フェリクスにも何かあるのだろうか。

 そんな推測をしながら、あたしは出来るだけフェリクスが、エルシアにとって悪く映らないように慎重にしゃべった。

 

「逃げるって言っても戦うって言う事聞かないだろうからな」


 そう言うとエルシアにとっては可笑しかったのか、あたしの答えを嘲笑するように鼻で笑った。


「今回は随分優しいんだね」

「・・・・さっきから今回、今回ってなんだよ」


 どうにも話していて、エルシアはあたしらを見ていないような気がする。それに今回今回って、まるで前回や次回があるような言い草だけど、いまいち言いたいことが分からない。

 そうあたしが頭を悩ませていると、エルシアもあたしの質問に答える為かうーんと悩みだしていた。


 その時東門の衛兵だろうか。そいつら二人がエルシアの背後に忍び寄って、今にも剣を振り下ろそうとしていた。


「まぁ、言っても分かんないだろうけど、って危なっ」


 一切後ろを気にしていた気配は無かったはずなのに、エルシアは二人同時の攻撃を躱してしまった。そしてそのまま体勢を崩した二人にエルシアは剣を抜いてあっさりと、とどめを刺してしまった。あたしの記憶では魔法は得意だけど、戦闘が苦手だったはずだがあのジジイに訓練されたのだろうか。


「人殺しは嫌いじゃないのか?」


 それよりもエルシアが、フェリクスが殺しをやった時猛烈に怒っていた事を思い出して矛盾を感じていた。


「まぁ殺した所で結局だしね。それに殺されるのが嫌なのはエマちゃんだけだし」


 相変わらず目の前のエルシアが訳の分からない事を言っていた。だが明らかに今の戦闘能力を見ても、あたしの知っているエルシアだとは思わない方が良い気がしていた。


 そしてあたしは、ここでこれ以上時間を潰しても無駄と判断して、フェリクスをゆっくりと地面に置いてナイフを抜いた。


「え?戦うの?」


 ポカンとした顔でエルシアは一度抜いた剣を、何故か収めてしまっていた。だがこれも誘いの一種化と思いあたしは警戒を緩めなかった。


「どうせ逃がしてくれないんだろ」


 何はともあれ、こいつがあたしらの足止めとしてここにいるのは確実だろうしな。だがそんなあたしの考えとは裏腹に、やはりエルシアは剣を抜こうとはせず、道を譲るように脇に逸れてしまっていた。


「まぁ話聞きたかっただけだしね。せっかく初めてここまで来れたんだから、出来るだけ先の事知りたいしここで終わらせないよ」


 ずっとエルシアと会話が成り立っていない気がしていた。いやあたしが一方的にあいつの言葉が理解出来なくて、あいつだけが理解し続けている。

 だがまぁそれはともあれ逃がしてくれると言うなら、その言葉に甘えようとあたしはフェリクスを背負って歩き出した。

 

 そして奇襲を警戒して緊張しながらもエルシアとすれ違う瞬間。


「あ、ライサちゃんは見てて流石に可哀そうだから、いつか助けてあげてね」


 本当なのか偽物なのかエルシアが年相応な笑い方をして、すれ違うあたし達を見ていた。その喋った内容と言いさっきまでの様子が違いすぎてあたしにとっては不気味でしかなく、門を潜り抜けるまで後ろを振り返らず走り抜けた。


 そうして門の外から見えた街の中には、銀色の髪はもう見えなくなっていた。そしてあたしはフェリクスを背負い、それから一度も振り返ることは無くただただ何もない道を走り続けた。

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