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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第一章
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第四話 出会い

 

 また夢を見ていた。

 緑色のネットの向こうには真っ暗な空、それを照らすような白いライトの輝き。そして視線を下ろせば、投手の立て看板のみのピッチングマシンが球速ごとにずらりと並んでいた。

 

 そう今僕は夢の中でバッティングセンターにいたのだった。確か中学の頃よく行っていた場所で、その景色を懐かしく感じていると、隣から声が聞こえてきた。


「紡が先に打つか?」


 そんな久々に聞いた声に心音が跳ねながらも隣を見ると父さんが立っていた。しかも今までの夢と違ったのは、声が聞こえるしいつもみたいに人や建物の大きさがそこまで違和感がなかった。

 そんないつもと違う状況の中僕が何も返事をしないでいると、父さんは備え付けの金属バットを手に取った。


「じゃ、俺が先に打つわ」


 そう言って父さんは百十㎞の看板がぶら下がったバッターボックスに入った。そしてその父さんの右手がコインを入れると、ピッチングマシンがガァーっと重低音を立てながら動き出した。


 カキン、カキンと金属バットの高い音が夜中のバッティングセンターに響く。まだ慣らしなのか父さんの打球はファールばかりで芯を食っては無かった。


 僕はただその光景を備え付けのぼろいベンチに座り眺め続ける。

 たしかいつも塾帰りにこうやって連れてきてもらったんだっけか。・・・・いや僕が行きたがってたから無理やり連れて来させたんだ。そう言えばそうだった。


 そんなことを思い出しているとどうやら打ち終わったようで、もう既に打撃音が聞こえなくなっていた。そして父さんがバッターボックスから出ると僕に向かってバットを差し出して来た。


「ほい、紡の番」


 そのバットを受け取ると、父さんは一緒にコインを手渡してきた。昔通っていた時は紙の回数券を買っていたからこれまた懐かしかった。

 そしてそれらをギュッと持った僕は、久々で打てるかなとか考えながらバッターボックスに入る。

 

 コインを入れてバッターボックスで構える。ピッチングマシンの腕が回りガタンッと音を立て第一球目が来る。

 

 精一杯バットを振るが思っていたよりも球が遅くて空振り。そして空振りして行き場を失った球が、バンッ!っと後ろの球を受ける壁にぶつかる。


 それからも球が来るが中々タイミングが合わず、ファールか空振りばかだった。やっぱり数年もやっていないと中々難しいらしい。

 そんな中後ろからは父さんが仕切りの緑色の網に手を掛けて色々僕に言ってきた。


「体が開いてるぞ~。もっと球見ないと~」


 僕はそんな父さんに少しだけ視線をやると、ひどくそんな父さんが懐かしく感じて込み上げる物があった。でも僕はそれを抑えて震える声でわざとらしく明るく言った。


「分かってるから黙っててよ~」


 すると僕の目の前にピッチングマシンから投げ込まれた球が通り過ぎ、再びバンッとぶつかる音がした。

 すると父さんはニッと笑うと。


「よそ見はダメだなぁ」

「話しかけたのそっちでしょ」


 そういえば昔もこうやって会話する事が多かった気がする。いつもは父さん仕事忙しくて話せなかったけど、仕事帰りにこうやって付き合ってくれてたんだと思うと感謝しかない。

 

 そうして二十球は打つと段々とタイミングが合うようになってきた。それに伴って増える父さんの感嘆の声や未だに続く野次を聞きながらも、そしてラスト一球。


 高めに来た球を弾き返して会心の当たりを出したが、弾道が足りず遠く遠くに見えるホームランの的には当てれなかった。

 そしてそれを見送るとバッターボックス内に散らかった、打ち損じた球を返しながらも、久々にしては上手くやったかなと思い振り返ろうとする。

 

 が、その時嫌な予感がした。このまま振り返るとまた依然と同じようにこの夢が終わってしまうのではと。

 そう考えてしまうとバッターボックスの中バットを肩に乗せたまま動けずにいた。


「また会えるから大丈夫だぞ」


 そんな風に父さんは言っていたと思う。その声が聞こえたと思った瞬間夢が終わってしまったから、本当のところは今ではもう分からない。

 でも起きた瞬間バットを握っていた右手は強く握られていたから、夢は本当だったんだと思った。


 そうして僕はベットから起き上がると、夢に加え夏な事もあってか汗をかいて気持ち悪くなった服を着替えた。そしていつものようにこの体の家族との朝食を済ますと早速一日が始まった。


 今日の午後にはクラウスさんが昨日約束した剣術の練習を早速してくれるらしい。だから午前を部屋で過ごした後、やけに上機嫌なクラウスさんに腕を引っ張られながら、僕は庭に引き出されていた。


「とりあえず最初は木刀で練習しようか」


 そう言いながら、クラウスさんは子供用のサイズの木刀を手渡してきた。それは少しこの体には大きいように感じ、その木刀を手に取ってみるとやはりこの体には少し重く感じた。

 

 クラウスさんの方を見ると、腰には木刀といつも持ち歩いてる剣が掛けられていた。


「鉄の剣は使わないんですか?」

「ん~じゃ試しにこれ持ってみるか?」


 そう言い僕に剣を渡してきたが、思った以上にずっしりと重かった。当たり前であるんだけど、流石にこの体ではきつそうか。いつもクラウスさんが素振りしてるの見てると軽そうに思ってたけど、やっぱり実物はかなり違ったようだ。


「ちゃ、ちゃんと重いですね・・・・」

「だろ?いきなり子供がそんなの持ったらケガするから、体ができるまでは木刀を使うぞ」


 いつも適当な感じだけど、こういう所はしっかりしてるらしく頼もしく感じる。そして僕は早速訓練を始めるのだと思ったのだけど、クラウスさんはその木刀を地面に置くと外へと歩き出してしまった。


「とりあえず体づくりからだから頑張るぞ」

 

 そう僕を手招きして庭の外へと連れ出した。もしかして素振りとかじゃなくて、ランニングから始めるって事なのかもしれない。そう思いつつ黙ってクラウスさんの背中を追うように走った。

 

 するとそんな黙ってしまった僕の事を、木刀が持てなくて不貞腐れたと思ったのかクラウスさんが振り返って言った。


「不満そうだな?でも今のフェリクスじゃすぐにケガをするから我慢だぞ。今度ちゃんと木刀握らせてやるからな」

「は、はい、分かりました」


 この人も親として色々考えているんだ。そう思ってしまうと、余計に自分の存在が申し訳なく感じてしまう。本当の子供ならここで駄々をこねて、それを精一杯クラウスさんが宥めたのかもしれない。それも子育ての想い出として残るはずだったのに、僕は何も文句を言わずに黙々と走り続けるだけ。僕がこの人たちの普通を奪ってしまっているんだ。


 それからは軽いジョグぐらいのペースで畑と畑の間の小道を走った。でも僕の体だと歩幅も小さく、クラウスさんは微笑みながら歩いてるだけでついて来れていた。

 僕はそんな他から見れば微笑ましいはずの親子の光景に耐えれなくなり、どこか話を逸らすように自分にクラウスさんの視線が向かないように言葉を発した。


「ほんとに麦畑とか牧草地ばっかですねぇ」


 初めて見る外の世界も大して窓の中と変わらなかった。畑に水路それに家畜が放牧されている代わり映えのない景色だった。


「まぁ最近開拓された土地だしな、人より家畜のほうが多いぐらいだしこんなもんだぞ」

 

 そう顔を上げ辺りを見たクラウスさんが言っていたが、開拓ってことが皆どっかから移住してきたってことなのだろうか。


「開拓っていうとこの辺の人は最近移り住んだ感じなんですか?」

「まぁそうだな、最近は戦いから逃れてきた人が集まってきたりもしてるけどな」


 やっぱりブレンダさんの言うように戦争が身近な世界なんだな。この辺りは平和っぽいからもしかしたら運は良かったのかもしれない。


 そんな風に六歳の子供と親の会話には思えない様な会話をしていると、突然クラウスさんが声を張り上げた。

 

「姿勢悪くなってるぞー!背筋伸ばせー」


 考え事をしている中急にでかい声を掛けられ体が少し跳ねる。もう少し優しく言って欲しいと思いつつ、背筋を伸ばし精一杯の返事をしようとする。

 でも僕の体はまだ五百メートルも走っていないというのに、肺は苦しくなり呼吸は荒くなり始めていた。


「はぁ・・はい・・」


 それでリズムが崩れたせいか、更に呼吸が荒くなってきた。子供の体力だとこれぐらいでも限界なのか、それともこの体に体力があまり無いのか。

 そう判断する前にクラウスさんが僕を見て、どこかを指差して言った。


「じゃあそこの木で一回休憩するか」


 そのクラウスさんの指の先を目で追うと、それは小川のそばにポツンと立っている木だった。


「は・・い・・頑張ります・・・」


 なんとか返事を絞り出すが息が苦しい。口の中は血の味がするしこれだけの距離でこうなる自分が情けない。でもなんとか足を止めることなく根性で木のそばまでたどり着くなり、僕は木陰でへたり込んでしまった。


「ふぅ・・・疲れたぁ」


 なんとか息を落ち着かせようと深呼吸をして、足を伸ばす。止まると急に汗がドッと出て心拍音が嫌にうるさい。

 そんな時クラウスさんは僕に布を渡して、汗を拭くよう言い当面の目標を設定してくれた。


「とりあえず、ここまで来て家に帰る往復を走り切れるようになろうか」

「が、頑張ります」


 そうしてなんとか息を整える事十分。ようやく僕が立ち上がると、クラウスさんが家とは逆方向に歩き出した。


「そっち家じゃ無くないですか?」

 

 するとクラウスさんは、ニッと笑ってついて来いと言うだけだった。

 僕は疑問に思いつつも逆らう理由も無いので、しばらく付いていくと道の向こうからすごい大きな木が見えてきた。この体が小さいことを加味したとしてもかなり大きい木で、まだ距離があるのに首を折って見上げるほどだ。

 

「あの木がエルムの木だ。でかいだろ?」


 そうクラウスさんが自慢げに指をさすが、正直小さいころCMでよく見たでかい木みたいだなと思っていた。あのCMのメロディー頭に良く残るからだろうか。

 とまぁそれは置いといて、この木がブレンダさんが言っていた木の事だろうな。だとすると村の名前になるのも納得だ。


「この村の名前の由来のやつですか?」

「あぁそうだ。それとあの木のそばに大きな道が通ってるんだよ」


 へぇと思いつつ二人並んで歩いて近づくけどやっぱり大きい。それにそのエルムの木の後ろには森っぽいのが見えて、家の周辺と景色がだいぶ変わってきた。それにクラウスさんの言う通り道が森に沿って走ってるから、この先に町があったりするのだろうか。

 

「あの道の先には何があるんですか?」

「エースイって街があるな。八歳になったら行く機会があると思うぞ」 

 

 わざわざ八歳になると行くって決まってるってことは、何か特別な用事があるのだろうか。そう思い質問攻めになってしまうが気になるので聞いてみてみる。


「なんで八歳になると街に行くんですか?」

「ん?まぁ教会が街にしかないからな。あ、そうそう昨日俺が言った同い年と会える機会ってのもこれの事だぞ」


 教会ってことはなにかしらの洗礼みたいな宗教的な儀式とかだろうか。別に前世から特段信仰している宗教も無かったし別にそれは良いのだけど、同年代の子とうまく話せるのか不安だな。今更子供の演技とか出来ないし。


 そんな話をしている内にも僕らはエルムの木の真下についた。

 下から見ると緑の葉っぱの間から白い太陽光が漏れ出し、まさに木漏れ日と言った感じだった。そして風が吹くと揺れる枝同士がこすれ合う音が、とても心を落ち着かせてくれた。

 その景色を見てスマホがあったらなとか思っていると、なにやら足音が聞こえてきた

 

 僕は視線を落として足音の来る方を見ると男一人と子供二人がこちらにやってきていた。

 

「お、ディルク、調子どーだー?」


 クラウスさんはその集団を見ると、子供を連れている大人の事をディルクと呼んだ。そのディルクと呼ばれた男は、服のあちこちに泥が付いていて、恐らく畑作業の終わりなんだろうと思わせる風貌だった。


「おぉ!これはちょうど良かったです~。今度子供連れて挨拶に行こうとしてた所でしたので」

 

 ディルクとかいう人が小走りで寄ってくると、恭しくクラウスさんにお辞儀をしてる。やっぱりクラウスさんは領主的な何かなのだろう。


「あぁそういうことか。ってかその汚れ具合を見るとエルシアちゃんとラース君はもう畑仕事手伝ってるのか?」


 そう名前を呼ばれた二人の子供を見ると確かにこっちも汚れていた。その年で家業の手伝いをしてるなんて偉いなと一瞬思ったが、昔ならこれが当たり前なのかもしれないか。こうやって自由にいられるこの体が恵まれているんだ。


「ええ、もう七歳ですし、そろそろ仕事を覚えさせ始めないと。たしかそちらのフェリクス様も同い年でしたよね?」

 

 あぁさっきクラウスさんが言っていた同い年の子ってこの子らの事だったのか。それに二人とも同い年ってことは双子だろうけど、全然似てないないから二卵性双生児なのだろうか。

 

 そう男の子の方を見ると、ディルクさん譲りの綺麗な金色の髪の毛に碧眼だけど、女の子の方は銀髪?を少し伸ばしているのか後ろの方で髪を縛ってるようだった。

 特徴が全然似てないのにも驚きだけど、銀髪っていうのが存在することに対する驚きの方が大きかった。でも少しだけどっちも顔が小さくて美形で羨ましいとは思ってしまった。

 

 そうやってまじまじと観察していると、クラウスさんが僕の顔を覗き込んできた。


「どうした?黙ってそんな見つめて?」


 あまりに珍しい髪色でそれでちゃんと似合っているもんだから、つい見てしまっていたようだった。初対面の人に失礼なことをしてしまったと反省しつつ、咄嗟に言い訳を何とかひねり出す。


「いや、え、二人ともきれいな髪色してるなって」


 するとディルクさんが嬉しそうに目を見開いて食ってかかるように賛同してきた。


「そうでしょう、そうでしょう、やっぱ領主様のご子息ともあれば分かりますよね」

 

 僕はそんなディルクさんに押されつつコクコクと頷くと、ディルクさんが嬉しそうに男の子と女の子の髪の毛をわしゃわしゃ触りだした。


「ちょ、ち、ちょっと!やめろって!触るなっ!!!」

「土、髪につくからやめて」


 嬉しそうに高笑いするディルクさんと対照的に大分嫌そうな反応を見せる二人。それでもなんだかんだ仲良さそうな雰囲気で微笑ましかった。

 

 でもなぜだかそんな光景を見て心がチクッとする感覚がした。あれが本当の家族の形だとまじまじ見せられている様で。

 

 そんな痛みを見て見ぬふりをするように僕は口を開いた。

 

「仲いいんですね」


 するとディルクさんの手を振り払おうとしていた男の子の方がキッとこっちを睨んで、髪の毛を逆立てて子犬みたいに吠えてきた。

 

「仲良くないから!お前そこ間違えんなっ!!」


 そういう時期なのか過剰反応して、猛烈に怒っているようだった。でもディルクさんはそんな姿も可愛いのか、笑顔でその子を易々と抱き上げてしまっていた。そして微笑みながらも、たしなめるように小言を言っていた。


「こら、お前とか言うんじゃない、失礼だろ」


 そう注意されたラース君は、怒られたせいなのか抱かれて恥ずかしいのか少しむくれていた。対照的に女の子の方は呆れたのか興味がないようで、どこか遠くを見ていた。性格的にもあまり似ていないって事らしい。


「いえ、気にしてないので。あ、あと名乗るのが遅くなりました、僕の名前はフェリクス・デューリングと言います。以後よろしくお願いします」


 まだ作法とか知らないけど、とりあえずさっきのディルクさんのお辞儀を真似してみる。それに名乗ったはいいけど、苗字を名乗る機会なんてなかったからか変な違和感があった。

 でもそんな僕に最初に返事をしたのは、さっきまでむくれていたはずのラース君だった。

 

「おう!よろしくな!フェリクス!」


 そんな元気な挨拶を聞いて喜怒哀楽が随分激しい子だなと思っていると、ふと女の子の方が反応を示してポニーテールの尻尾を揺らし僕をジッと見てきた。


「僕、、、?」


 宝石の様に綺麗な銀色で出来た瞳が僕に向いていた。どこか神秘的というか人形なのではと思ってしまう程だった。

 でも僕は何か失礼をしてしまったのかとあたふたしながらも、なんとか体裁を取り繕って言った。


「な、何かおかしかったでしょうか?」


 すると女の子が瞬きをした後、首を振るとその顔から表情が消えてしまったように感じた。


「・・・・あっいや、珍しいなって思っただけです。よろしくお願いします」

「・・・そう?ですか?よろしくお願いします」


 丁寧にお辞儀をしてくれたからお辞儀をし返す。

 でもこの子の表情のせいか言葉にどうしても引っかかってしまう。珍しいって何を指してるんだろうか。やっぱり作法がおかしかったりしたのだろうか。

 そう不安になっていると、ディルクさんがラース君を抱えたままエルシアちゃんの手を引っ張った。

 

「まぁもう日が暮れてしまうので、我々は先に帰らせていただきます。また来週の集まりでまた会いましょう」

 

 そう言い残してディルクさん達は段々と日の傾く帰り道を歩き出していった。

 そんな後ろ姿を見ているとやっぱり心がチクッとした。あれが普通で本来あるべき家族の形なのだろうかと。


 するとクラウスさんの手が僕の右肩に置かれた。

 

「ちょっと元気ないじゃないか、疲れたか?」

「っえ・・・?」

 

 びっくりした。そこまで顔色に出ていたのだろうか。


「俺らも手つないで帰るか?」


 そうニヤニヤしながらクラウスさんは、僕の目の前に左手を差し出してきた。でもその手を恥ずかしさか罪悪感なのか僕には握ることが出来なかった。


「・・・・・・」


 そうして戸惑っている内に僕らの影が段々と伸びていった。最初は笑っていたクラウスさんの表情も段々と曇って行き、最後には気まずそうにさせてしまっていた。

 

「・・・・うんまぁよし、じゃあ夕飯遅れるし帰るか」


 タイムアップと言わんばかりにクラウスさんが手を引っ込めて先に進んでいってしまった。 その時ちらっと見えた横顔は少し寂しそうな表情を見せていた気がする。


 やっぱり僕にはこの人たちの子供の振りなんて出来ないのかもしれない。でもだからと言って正直に打ち明ければ確実に悲しませてしまう。

 

 でももし、さっき出された手を握ったらクラウスさんはどんな表情をしていたのだろうか。喜んだだろうかはしゃいだだろうか、それがあの人にとってのかけがえのない記憶になったんじゃないのか。

 

 そうして置いてかれ無いようクラウスさんの背中を追いかけようとするけど、疲れてるのかどうしても追いかける僕の足が重かった。



 


 



 


 


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