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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第三章
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第四十四話 どこかで見た光景


 馬車に揺られる事一週間。僕らはまだ目的の街に着くことが出来ていなかった。いつまでもずっと畑か牧草地が続くだけで、いい加減景色も見飽きてきて退屈していた僕は、運転手のお爺さんと御者台でなんとなく話をしていた。


「いつ頃着くんです?」

「多分明日には着けますよ。何か急ぎなんですか?」

「いや、そういう訳じゃないっすね」


 ただ単に暇だから早く付いてほしいだけだし。それに馬車にはあんまりいい思い出が無いから、長く乗っていたくないのもある。

 そんな事を考えていると僕の肩を誰かが掴んできた。


「爺さん、水ねぇか?」


 軽く後ろを振り返ると、さっきまで寝ていたイリーナが起きたらしく水を要求していた。今昼過ぎだけどこの人どれだけ寝るんだ。

 するとイリーナの質問に答えるように、運転手のお爺さんが西の方角を指差した。その指差す方向を見ると、なんとなくキラキラしているのが見えた。


「もうすぐ川に着くんでそこで休憩しましょうか」


 そうしてその川を目指して馬車がに揺られる事30分。近くまでくると思ったより大きな川じゃないなとか思っていると、ある異変に気付いた。


「あの浮いてるのなんです?」


 僕は隣のお爺さんに見える様、中洲の上流側にある何かを指を差した。


「・・・・・・ちょっとここからだと良く見えないですね。まぁちょうどいいですし一回ここで止めて見に行きましょうか」


 運転手のお爺さんは道脇に馬車を止めて、荷台に行ったかと思うと水筒の用意をしだしてくれた。僕らも顔ぐらい洗いたいと、タオルの用意とかをして準備を終え、既に歩き出したお爺さんに付いて川に向かった。


「あー腰いてぇ」


 川へ行く途中寝る体勢が悪かったのか、イリーナはずっと腰をトントンして痛そうにしていた。

 治癒魔法でそう言うのどうにか出来たらいいんだけど、こういう外傷が無いタイプのやつは治癒魔法じゃ治せないんだよな。もしかしたらやり方次第だと出来るのかもしれないけど、正直僕には出来る気がしない。

 

 そしてそうこうしている内に気づくと、足元が砂利っぽくなっていって川が間近まで来ているらしかった。

 

「じゃあ水汲みましょうか」


 そうお爺さんが水筒を取り出して僕らに渡してきた。どうやら動物の胃を使ってるらしく、ちょっと抵抗感あったけど、ソーセージだって豚の腸だし良いかと無理やり自分を納得させた。

 

 そしてその水筒を水面に近づけ水を入れていると、何か変な匂いがした。


「なんか臭いません?」


 僕と同じように感じていたらしく声を掛けると、イリーナも顔を水面に近づけて匂いを嗅いでいた。


「・・・・・血だな」

「え?血?」


 突然イリーナが物騒な事を言いだした。でもそう言われると、血とか油とかそういう動物系の臭いっぽくも感じるような気がする。

 

 てかじゃあさっき見えた、中洲の辺りに浮いていたのって・・・・。

 そう僕は顔を上げるが、ここからだと上流の方にある中州が背の高い草で覆われていて良く見えなかった。

 だから僕は一旦水筒に水を入れる手を止めてイリーナに視線を戻した。


「ちょっと上流の方行きません?」

「そうだな。あたしもついてく」


 イリーナも気になるらしく一緒に行く事になり、お爺さんに一言いって中洲に向かった。

 その歩く途中でも、布の切れ端だったり人工物っぽいのが流れてきているのが見え、更に嫌な予感が増していった。


 そしてやっぱりと言うべきか、中州で水深が浅くなった所に人らしき物が横たわっているのが見えた。


「この辺で戦闘が起こったって事か」

「埋葬した方が良いですよね?」


 僕は最低限弔いぐらいはしてあげた方が良いのでは、とそうイリーナに聞いたが首を横に振られてしまった。


「放置された死体に直接触ると、魂が乗っ取られるぞ」

「・・・・・は?」


 突然イリーナがスピリチュアルな事を言うから驚いた。あんまり宗教を信じてる素振りを見せた事無かったし、かなり意外だった。

 そんなイリーナは僕の反応が不思議だったのか首をかしげていた。


「いや、そういう迷信的な奴だよ。知らないか?」

「いやぁ・・?」


 特にブレンダさんから教わった記憶もないし、地域特有の言い伝えとかそういう物だろうか。


「まぁ普通に病気を貰うって事だよ。多分だけど」


 イリーナが腕を組んで死体を遠目に見ながらそう言っていた。あんまり分からないけど、衛生的に悪いから触れるなって話だろうか。まぁ実際死後どれぐらい経っているか分からないし、余分な事はしない方が良いか。

 

 そう僕はとりあえず手を合わせていると、後ろからお爺さんの呼ぶ声が聞こえた。


「あの!!もう行きましょう!!!」


 僕はそれを聞いて、最後にまた手を合わせているとイリーナが不思議そうな顔で見てきた。


「どうしました?」

「いや、お前なんか信じてたっけか?」


 どうやら僕の行為が宗教的なものに見えたらしい。いやまぁ実際そうではあるけど、宗教とか神がどうのとかは考えてないし微妙だな。


「まぁ、なんとなくです。ほら、お爺さん待ってるから行きましょう」


 最後まで不思議そうに僕を見ていたが、馬車に戻った頃には興味が無くなったのかまた昼寝を始めてしまっていた。それにどっちかって言うと、あの死体を見たうえで、川の水をガブガブ飲んでいたイリーナの方がよっぽど、不思議と言うかすごいなという感想だった。


 そうしてこの日はそれ以外何もなく馬車は進み続けた。


ーーーーー


 そして次の日の昼。やっと街に着いたらしく城壁が見えてきた。


「一週間ありがとうございます」


 僕は城門に到着する前に、そう運転手のお爺さんにお礼を言った。なんだかんだずっと話し相手になってくれたし、良い人だった。


「ええ。またどこかで会いましょう」


 僕がその言葉を聞くと馬車が止まった。どうやらここでお別れらしい。


「じゃあまた!!」


 僕は馬車から降りてお爺さんに手を振った。お爺さんも優しそうに笑って手を振り返してくれて、昨日の事があるけど少しだけ和んだ。


「おい、お前ら」


 馬車が来た道を戻り出して、僕らも歩き出した時。城門の所にいた衛兵の人が剣に手を掛け僕らの元へと近づいてきていた。


「今この街は人の出入りを制限してるんだが」


 視界の端に川が城門の下をくぐって街中に入っていってるのが見えた。もしかしたらあの死体はこの街から流されたのかもしれない。そう思っていると、イリーナが冒険者証を取り出して衛兵さんに見せていた。


「目的は?」

「半年分の依頼だよ。ほらこれ」


 受注書の写しをイリーナがヒラヒラさせて衛兵に見せていた。だがすぐに呆れたような、軽蔑するような視線を僕らに向けてきた。


「今更来たところで・・・。しかも傭兵ギルドじゃなくて冒険者ギルドか」

「・・・・・ん?衛兵ギルドは去年国に吸収されましたよ」


 確か兵士が足りないから、全員正規兵として雇用するとか言っていた。あともう少しで待遇から環境まですべて高条件の傭兵ギルドは入れそうだっただけに、かなり悔しかったのを覚えている。


「・・・あぁそうかよ。じゃあとりあえず入れ。飯は自分で用意しろよな」


 飯と宿付の契約した時の条件と違うじゃないかと言いたかったが、開かれた門の先を見るとそんな言葉が出てくる事は無かった。


「・・・これは」


 門の脇には死体が積まれ、少しずつ荷車にのせてどこかへ運ばれていた。それに道端にも死体だったり、ギリギリ生きているのか分からないような傷を負っている人が大量にいた。


「いいから入れ。広場に本営があるからそこで仕事貰ってこい」


 そう衛兵さんが僕の背中を強く押した。ここに居座るなって事らしい。

 だから僕はイリーナと一緒に街を歩き出したが、本当に阿鼻叫喚って表現が合うような状況だった。

 

「戦争でも始まったのかね」


 イリーナが路地裏でたった一人で泣きわめいている女の子を見て、そうボソッと呟いた。

 僕はそんな視線の先にいるその子をケガぐらい治して助けてあげようと、進む方向を変えようとするとイリーナに手を握られた。


「やめとけ。面倒見切れないだろ」

「いや、でも見捨てるわけには・・・」


 前にもこんな会話をイリーナとした気がしていた。


「あたしらの仕事はそうじゃないだろ。飯だって自前で用意できるか分からないのに、無責任に助けようと希望を見せるのは、ただのお前の自己満足でしかないぞ」


 あぁ確か盗賊の所にいた時のなんかの遠征でも同じことを言われたんだ。

 

 こういう時のイリーナは真面目に冷静な判断をする。人によっては冷徹って言われそうだけど、それがイリーナの生き方だったのだろうとは思う。

 僕は後ろ髪を引かれる思いを抑えて、イリーナの意図を汲んで再び前を向いて歩きだした。


 そうして広場に着くと慌ただしそうに人が走り回り、地面にはたくさんの怪我をした人達が横たわっていた。そしてその中心付近に仮設の本営らしきものが見えたので、僕らは人を踏まないようそこまで向かった。


「すみませ~ん」


 垂れて掛けてあった布を手で避けて、中に入ると何人かの人がこちらも慌ただしそうにに書類仕事をしていた。


「あ!はい!誰をお探しですか!?」


 僕らに気付いて近づいて来た、何かの職員っぽい人がそう聞いて来た、手元に持っている名簿みたいな資料の感じ的に、緊急時の親族の安安否確認とかを担当しているのだろう。


「いや、冒険者で依頼でここに来たんですよ。だから何かお手伝いできることありますか?」


 さっきあの衛兵の人に冒険者って言うと、露骨に嫌そうな顔をされたから反省を生かして、予め役に立とうとするアピールをした。

 それが効果があったのかは分からないが、女の人は愛想よく笑って、じゃあと言うと。


「今は北門がボロボロで危ないんですよ。あそこで野盗とかから守っててくれません?」


 どうやら話によると、北からどこかの軍隊かは分からないけど攻めてきて突破されてしまったらしい。しかも戦闘が終わった後も、野党や盗賊が侵入しようとして事件が絶えないと。

 僕らもその仕事の提案を断る意味は無いので、すぐに向かうと返事をすると女の人も外に出てどこかへ走って行ってしまった。


「とりあえず僕らも外出ましょうか」


 そして本営を出て僕らは外に出て北へ向かっていると、ふとある死体が目に入った。


「・・・・・首が無い」


 大体どの死体もそんな殺され方をされて無かったから、この死体が異様に目立っていた。それを見て僕が殺したカーラの家族の事がフラッシュバックして気持ち悪くなっていると、またイリーナに手を掴まれた。


「ボケっとしてないで行くぞ」

「え?あ、は、はい!」


 そうやって気を使ってくれたのかイリーナに連れられ、北門に向かうと予想以上にボロボロだった。

 まず門は締まってないし、強い魔法使いがいたのか城壁は穴だらけになっていた。そんな光景を眺めていると、なにやら城門の外に人が集まって騒がしそうにしているのに気づいた。


「どうしたんですかね?」


 僕とイリーナは気になったので、その壊れかけの門に近づくと、衛兵の人とそれに向かい合うように人の集団がいるらしいのが分かった。そしてそれを複数の衛兵の人がこれ以上入れないようにか、その集団の目の前に立ち止まって何か話しているようだった。

 

 僕は門に近づかないようにそこから少し離れた、腕に紋章のあるリーダー格っぽい衛兵の人に話を聞いてみると。


「レーゲンス帝国の敗残兵だとさ。一旦うちで助けが来るまで預かってほしいらしい」


 そう言われ門の外の人の集団を改めて見ると、軍隊って言われた通り全員ではないが鎧を着ている人がポツポツと見えた。


「入れてあげないんです?」


 敗残兵なら助けてあげてもいいのに、そう疑問を投げかけるけど、衛兵の人は肩を下ろして明らかに嫌そうにしていた。


「俺らだって余裕ないんだよ」

「・・・・でもここで助けないと、復讐に来たりそのレーゲンス帝国ってのと仲悪くなっちゃいません?」


 ここであの人たち放置するのもこの街にとってまずい気がして、そういうリスクもあるよと言ってみた。パッと見た感じ30人弱は居そうだし、あれが逆恨みで攻めてきたらこっちもバカにならない損害受けそうだし。それに戦争中の国と下手に問題起こすと本格的に巻き込まれるしな。

 

 そんな話を聞いて衛兵の人も、困ったように頬を指で掻いて迷っているようだた。


「めんどくさいなぁ」


 まぁ自分を巻き込まないで欲しいのと、責任が降りかかるからこういうのを選択したくないよな。そう同情をしていると、門の外では、その敗残兵の集団の中から一人の人間が前に出たようだった。


「・・・ん?あれって」


 イリーナがそう呟くと目を凝らして、その前に出てきた人を凝視していた。どうしたんだろうと、僕も釣られるようにその人を見ていると、その時前に出た人が被っていた兜を取った。


「っあ、やばい」


 兜を取ったその人は、どこかで見たような黒髪の女の人だった。

 僕は嫌な予感がしつつイリーナを恐る恐る確認するように見ると、イリーナも僕を見ていたのか目が合った。


「あれって、あの時のですよね?」


 イリーナは肯定の意味としてゆっくりと首を一度縦に振っていた。

 つまり盗賊の時にいつの日か戦った、あの女の兵士の人が目の前にいるって事らしい。しかも顔はしっかり見られてるから、余計にめんどくさい事になりそうなのは明白だった。


 そして視線をイリーナから黒髪の女の人に戻すと、その人とも目が合ってしまった。というか僕らを見ている気さえしてしまう。


 まずいと思いつつも、避ける手段が思いつかず背中に冷や汗が走った。そうして僕らが固まっている内にも、その女の人はコツコツと僕らの方へ歩き出してしまっていた。


「・・・どうしよう」


 僕はこれからまためんどくさい事が起きそうだと、頭を抱えたくなるのを必死に抑えていた。

 だがそんな僕の苦悩を知らない黒髪の兵士の人はどんどんと近づいてきて、僕らの目の前まで迫っていた。近くまで来たら分かったが、やっぱり女の人の視線の先は僕を見ていた。


 僕は何か言い訳が無いか必死に考えて考えて、それでも何も浮かばなかった。人違いですって言ってもイリーナがここにいるし二人も人違いは大分無理があるし、言い逃れ出来ないかもと。

 

 そして蛇に睨まれた蛙のように僕が固まっていると、その女の兵士の人は口を開いた。


「君どこかで会ったことある?」


 僕は終わったと、全身の力が抜ける感覚を覚えたのだった。

 






 


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