第三十九話 新しい一歩
僕はイリーナの後ろについて通路を走っていた。さっきの戦闘で蝋燭を落として、かなり足元が見えずらいが、イリーナは一切迷うことなく道を曲がって進んで行っていた。
「あとどれぐらいです?」
僕はなんとかイリーナの隣に並走するようにして聞いてみるが、そんな事聞く必要は無かったらしく前方から明かりが見えてきた。
「ラース達次第だが、すぐに出発するぞ」
「は、はい!!」
さっきの爆発音から、やけにイリーナの表情が厳しいがどうしたのだろうか。何かしら訳は知っていそうだけど、もしかして今はあまりいい状況ではないのかと勘ぐってしまう。
そうしている内にも灯に近づいて行くと、そこには血で真っ赤になった服を着て剣を構えたラースがいた。
「・・・あ、なんだお前らか」
そう僕らの姿を確認したかと思うと、力が抜けたのかラースはその場に座り込んでしまった。
「大丈夫!?」
すぐに駆け寄って怪我がないか見るか、どうやらこの血はラースの血ではないらしかった。それもそのはずで、すぐそばには一人分の死体が転がっていた。
「・・・裏切りやがったか」
イリーナがその死体を見てそう呟いた。そして悪い知らせは続くらしく、ルーカスがかなり憔悴した様子で僕の元に走ってきた。
「ば、馬車が壊れてて・・・・」
そうルーカスが指差した方には、暗くて見づらいが傾いて通路を塞ぐ馬車があった。でもだとしても、まだもう一台馬車があるはず、そう期待を込めてルーカスに聞くが。
「あっちも・・・・」
倒れては無いようだが、あの馬車も使えないらしい。そんな状況に僕は自分にはどうしようも出来ないと思いイリーナを見た。だがイリーナもここまでの事は想定外だったらしく、焦ったような表情を浮かべ立ち尽くしていてしていた。
そんな時ラースが僕の腕を掴んだ。
「おい!俺がここで時間稼ぐ!!だから皆を頼む!!」
そう言うとラースはたどたどしい足を何とか立たせて、震える手で剣を握っていた。だがそんな勇ましい言葉とは裏腹に、目の前の男の子はひどく怯えたような顔をしていた。
そんなラースを看ていられなかった僕は、ラースの事をルーカスにお願いすることにした。
「ルーカス。ラースを連れてって」
僕はラースから剣を取り上げた。もう握力が無いのか簡単に取り上げれてしまい、ラースはそのまま姿勢を崩しかけた所をルーカスに支えられていた。
「フェリクスはどうするの?」
ラースに肩を貸して立たせていたルーカスは、心配そうにそう聞いてきた。
だから僕はイリーナを一度見て、僕のこれからやるべき事を話そうとした時。ライサが馬車から降りて僕の目の前まで迫ってきた。
「約束したよね?」
見上げるようにして僕を見るライサの顔は、ひどく怒っているようだった。これから僕の言おうとした事にある程度察しがついたからなのだろう。
「でも馬車が壊れた以上皆で逃げるのは難しいよ」
馬車でおおよそ10分と少しかかるらしい道のりを徒歩となると、それなりに時間がかかるのは想像に容易い。その間に異変に気付かれ追いつかれるのが関の山だ。
「じゃあ私もフェリクスと残る」
そんなライサにまたか、と思ってしまった。そう言ってくれて嬉しくない事は無いが、正直戦闘の出来ないライサがいても邪魔にしかならない。
まだ僕かイリーナが残ったほうが全員助かる可能性は上がる。それにこんな事している内にも追手が迫っているのかもしれないと、焦りからか額に汗がにじんできた。
そしてそんな時イリーナが僕とライサの間に割って入ってきた。
「そんな話してないでとりあえず走るぞ。外に出ちまえばこっちのもんだ」
ライサを上手く説得する言葉が全く思いつかなかったから、正直このイリーナの提案は助かった。だから僕はすぐに動き出した。
「じゃあ走るよ?ライサ」
僕がそうライサに確認をするが、僕の真意が掴めないようで戸惑っていた。だが、こうしている内にもすぐそこまで追手が来ているかもしれないと、僕はライサの言い分を聞く事をせず無理やり手を引っ張った。
「じゃあ行きましょう!!」
イリーナと視線を合わせて僕は走り出した。そしてその勢いのまま無理やりラース達にも発破をかけた。
「ほらっ!!走るよ!!」
僕は有無を言わせずにラースを立たせて、空いている片方の手で背中を押した。そしてルーカスにカーラ達を任せ、僕はライサの心配を一応取り除いてあげた。
「死ぬ気はないから!!先に外で待ってて!!」
もう理屈も何もなかった。ただ感情と場の流れで、とにかく足を止めさせないようにライサにそう声を掛けた。心を読むことが他人とのコミュニケーションの中心なライサにとっては、言葉だけでは信用できないかもしれないけど、今の僕はこう言うしかない。
そうして僕は少しだけやる事があると、イリーナに嫌がるライサを無理やり預けて馬車の中を見渡した。
「外で待っててください!!!」
僕は目当てのものを探しながら、先を行こうとしていたイリーナにそう言っておいた。保身の為と言うよりライサに死ぬ気が無いというアピールの意味合いが強かったが。
そして何個か荷台の箱を開けているとお目当ての物をやっと見つけた。その箱の中には瓶のような物が入っていて、草なのか知らないが燃えやすそうな緩衝材が入っていた。僕はこれを取り出して僕は早速火魔法の準備をしだした。
「・・・・・ッ」
それなりに魔力は使ったけど上手く燃え上がってくれたようだった。この馬車を燃やせば大分時間稼ぎになるはずだし、もしかしたら煙で自滅してくれるかもしれない。
その火が馬車に燃え移るのを確認した僕は、再び出口へ向かって走り出した。まだ後ろに追手が来ているような様子は無かったが、準備に手間取ったせいでイリーナ達の姿は見えず離されてしまっていたようだった。
そして後ろに怯えながらも、10分程一人で走っていると道の先にイリーナが立っているのが見えた。時間的にはもう外にいてもおかしくないから、迎えに来てくれたらしかった。
「ライサ達は!?」
僕は息を切らしながらも、後ろに追手がいないのを確認しつつそう聞いた。
「先に行かせてあるから大丈夫だ」
そうイリーナは短く言って僕の手を引っ張った。そして走り出すとカーブした洞窟の先から目が開けられない程の光が目に入ってきた。
そしてそんな明順応の後、僕らにとって見たくない景色がそこに広がっていた。
ーーーーー
私は適当に選んだ二人を従えて、部屋の外に出て走り出していた。
するとどこからか血の匂いがしてきたと思ったら、地面にあの赤い髪の男の子が倒れていた。
「あちゃあ。思ったより強いなぁ」
血が少し乾いていることからも、大分早くやられたらしい。
そんな情報に私は少し胸を躍らせていると、今度はその血の臭いをかき消すような煙が通路の奥から鼻腔にやってきた。
「お、やるねぇ」
私は何が起きたか判断して直接後ろから追いかけるのを諦め、別ルートを選択することにした。だが私の行動が理解出来なかったのか、連れてきた子が疑問を呈してきた。
「また戻るのですか?」
「ん?いいからついてきて」
そうして私は再び決闘部屋まで戻り、ぽっかりと開いた天井を見上げた。
「も、もしかしてここから外に?」
「そうだよ?」
それ以外に何か方法なんてあるのだろうか。
分かってないようだけどまぁいいや。説明するのめんどくさいし。
「じゃあ君らも私の傍に来て」
私は有無を言わさず、そこに残っていた他の5人を適当に加えて計七人を傍にやって地面に手を置き魔力を込めた。
「・・・よっと」
すると地面が私を中心に円形状にせり出して、天井へ向かって私達を乗せて昇って行った。
「え?え?え!?」「な、なんですかこれ!?」
皆がが大げさに騒いで私に捕まるもんだから、かなり鬱陶しかった。一人ぐらい落とそうかと思ったけどグッと我慢をした。
そして数秒の後私たちは外へ出て、緑に生い茂った森が目に入った。
「少し使いすぎちゃったかな?」
体感残りの魔力3割ぐらいになっちゃった。まぁいいや、普段こんな使い方市内からちょっとだけ面白かったし。そうして腰を抜かしてしまっていた一人に手を差し出した。
「ほら行くよ?」
私たちはその後少しだけ森の中を下って通路の出口の付近へ行くと、ちょうど青髪の女の子と銀髪の女の子が出てくるところだった。
「俺が行きます」
「・・・ちょっと待ってね」
焦って捕まえに行こうとするのを私は手で防いだ。どうやらフェリクス君がいないようだし様子を見てみたい。
そうして少しだけ待っていると、どうやら銀髪の女の子含め子供たちはそのまま森の中へ走って行って、青髪の女の子は通路の中へ戻っていった。
「やっぱあの煙はフェリクス君か!」
火魔法まで使えるなんて逸材じゃないか!殺すの勿体ないから、捕まえて鍛え上げるのも面白そうかな?いやぁでもせっかくだし殺し合いたいよなぁ。
私はそんな期待が更に高鳴るのを抑えて、後ろで控える二人に指示を出した。
「君らはあの子達を捕まえて。私はあっちに行くから」
今から起こるであろう戦いに私は笑顔を隠すことが出来なかった。最近は反抗してくる子が全然いなくてつまらなかったし、やっと来たこの楽しそうな展開に余計に歩調が速くなった。
そして通路の出口で待ち構えていると、やっとフェリクス君が出てきた。
「やぁ。待ってたよ」
ーーーーー
目の前にいるはずがない男が、満面の笑みでそこに立っていた。
だが、僕の心配は他にあり男に聞こえないようイリーナに耳打ちをした。
「ルーカス達は?」
「大丈夫なはずだ。先に逃がしたし金も持たせてある」
つまり僕らがここで死んでも、最悪ラース達が生き延びれるって事か。とりあえず最悪の最悪を避けれたと、一抹の安心を得ていると。
「なぁに話してるの~?」
どうやら待ってくれる気が無いらしく、剣を抜いて戦闘態勢に入っているようだった。
「頭相手だと逃げるのは無理だ。戦うぞ」
イリーナは覚悟が決まったらしく隣でナイフを抜いて構えていた。そして僕もいつも通りにイリーナの援護の為に魔法の準備をした。だがイリーナの顔が初めて見るような怯えた表情をしていた。
だから僕は軽口がてら煽るように笑って言った。
「・・・怖いんです?」
イリーナは僕の方をチラッと見ると、強がりなのかどうか分からないが笑って返した。
「バカ言え」
そう言うとイリーナは走り出した。僕は男からの視線を避けるために、イリーナの後ろに付いた。
「いいねぇ!!やっぱこれだよ!!!」
そして男はなぜかさっきよりも笑いながら剣を構えていた。そんな男にイリーナがナイフで切りかかろうとした時、僕は魔法で槍状に作った石をイリーナの背中目掛けて飛ばした。
そうして僕が飛ばした魔法は、イリーナが男にナイフで切りかかる事をせず屈んで左脇に逸れた事で、男の腹に至近距離で命中したはずだった。
「うお!!すごい威力だねぇ、手がヒリヒリするよ」
男にとっては唐突に表れた魔法のはずなのに、なぜかそれを剣で弾き飛ばしてしまっていた。正直傷は付けれると思っていたが、剣を折ったぐらいしか結果を出せずに動揺していた。そんな時イリーナの張り詰めた声が聞こえた。
「ボーっとしてんじゃねぇ!!」
その言葉にハッとすると男が僕に向かって半分に折れた剣を振り下ろそうとしていた。その時イリーナの投げたナイフが男の横から飛んできていた。
「おぉ!相変わらず上手いねぇ!」
刃渡りの短くなった剣で視界外から来たはずのナイフを弾いた事で、金属のぶつかる甲高い音が響いた。
僕はその瞬間に僕から見て右側に走り出し、イリーナと男を挟むような立ち位置を確保した。
だがこの男の目的はやはり僕らしく、こちらを向いて再び剣を構えて突っ込んできた。僕は剣を構え直して、男越しに見えるイリーナとアイコンタクトを取った。
「さぁやろうか!!!」
そうして男が突き出すようにしてきた剣を、一歩引いて避けるとさっきまで僕がいた場所に火魔法を飛ばした。今回はとにかく当てる事を意識して広範囲に火を広げた。
「っと、熱いなぁ」
僕の魔法は多少は当たったようだが、すぐに男はその場から飛びのき避けてしまった。だが元々ダメージを与える事が僕の目的はそれじゃなかった。
「うらぁあ゛!!!!」
男が一歩引いた所に待っていたと言わんばかりに、後ろからイリーナのナイフが襲い掛かった。
流石に僕の火を避けて態勢が崩れた所に、イリーナの攻撃だから行ったと思ったのだが・・・・。
「君は昔から一歩目が遅いねぇ」
そう男がイリーナのナイフを持った手の手首を、振り返りざまに掴んだかと思うと、そのまま背負い投げの要領で引っ張り込んで、イリーナは地面に叩きつけられてしまった。
「・・・・・ッ!!」
肺がについて通路を走っていた。さっきの戦闘で蝋燭を落として、かなり足元が見えずらいが、イリーナは迷うことなく道を曲がって行っていた。
「あとどれぐらいです?」
僕はなんとかイリーナの隣に並走するようにして聞いてみるが、そんな事聞く必要は無かったらしく前方から明かりが見えてきた。
「ラース達次第だが、すぐに出発するぞ」
「は、はい!!」
さっきの爆発音から、やけにイリーナの表情が厳しいがどうしたのだろうか。何かしら訳は知っていそうだけど、もしかして今はあまりいい状況ではないのかと勘ぐってしまう。
そうしている内にも灯に近づいて行くと、そこには血で真っ赤になった剣を構えたラースがいた。
「・・・あ、なんだお前らか」
僕らの姿を確認したかと思うと、力が抜けたのかラースはその場に座り込んでしまった。
「大丈夫!?」
すぐに駆け寄って怪我がないか見るか、どうやらこの血はラースの血ではないらしかった。それもそのはずで、すぐそばには一人分の死体が転がっていた。
「・・・裏切りやがったか」
イリーナがその死体を見てそう呟いた。
そして悪い知らせは続くらしく、ルーカスがかなり憔悴した様子で僕の元に走ってきた。
「ば、馬車が壊れてて・・・・」
そうルーカスが指差した方には、暗くて見づらいが傾いて通路を塞ぐ馬車が合った。でもだとしても、まだもう一台馬車があるはず、そう期待を込めてルーカスに聞くが。
「あっちも・・・・」
僕は自分にはどうしようも出来ないと思いイリーナを見た。だがイリーナもここまでの事は想定外だったらしく、ただ茫然と立ち尽くしていてしていた。
そんな時ラースが僕の腕を掴んだ。
「おい!俺がここで時間稼ぐ!!だから皆を頼む!!」
そう言うとラースはたどたどしい足を何とか立たせて、震える手で剣を握っていた。
だが勇ましい言葉とは裏腹に、目の前の男の子はひどく怯えたような絶望したような顔をしていた。
だから僕は、ラースの事をルーカスにお願いすることにした。
「ルーカス。ラースを連れてって」
僕はラースから剣を取り上げた。もう握力が無いのか簡単に取り上げれてしまい、ラースは姿勢を崩しかけた所をルーカスに支えられていた。
「フェリクスはどうするの?」
ラースに肩を貸して立たせていたルーカスは、心配そうにそう聞いてきた。
だから僕はイリーナを一度見て、僕のこれからやるべき事を話そうとした時。ライサが馬車から降りて僕の目の前まで迫ってきた、
「約束したよね?」
見上げるようにして僕を見るライサの顔は、ひどく怒っているようだった。これから僕の言おうとした事にある程度察しがついたからなのだろう。
「でも馬車が壊れた以上皆で逃げるのは難しいよ」
馬車でおおよそ10分と少しかかるらしい道のりを歩くとなると、それなりに時間がかかるのは想像に容易い。その間に異変に気付かれ追いつかれるのが関の山だ。
「じゃあ私もフェリクスと残る」
またか、と思ってしまった。そう言ってくれて嬉しくない事は無いが、正直戦闘の出来ないライサがいても邪魔にしかならない。まだ僕かイリーナが残ったほうが全員助かる可能性は上がる。それにこんな事している内にも追手が迫っているのかもしれないと、焦りからか額に汗がにじんできた。
そしてそんな時イリーナが僕とライサの間に割って入ってきた。
「そんな話してないでとりあえず走るぞ。外に出ちまえばこっちのもんだ」
ライサを上手く説得する言葉が全く思いつかなかったから、正直このイリーナの提案は助かった。だから僕はすぐに動き出した。
「じゃあ走るよ?ライサ」
僕がそうライサに確認をするが、僕の真意が掴めないようで戸惑っていた。だが、こうしている内にもすぐそこまで追手が来ているかもしれないと、僕はライサの反論を聞く事をせず無理やり手を引っ張った。
「じゃあ行きましょう!!」
イリーナと視線を合わせて僕は走り出した。そしてその勢いのまま無理やりラース達にも発破をかけた。
「皆!!今は走るよ!!」
僕は有無を言わせずにラースを立たせて、空いている片方の手で背中を押した。そしてルーカスにカーラ達を任せ、僕はライサの心配を一応取り除いてあげた。
「死ぬ気はないから!!先に外で待ってて!!」
もう理屈も何もなかった。ただ感情と場の流れで、とにかく足を止めさせないようにライサにそう声を掛けた。心を読むことが他人とのコミュニケーションの中心なライサにとっては、言葉だけでは信用できないかもしれないけど、今はこう言うしかない。
そうして僕は少しだけやる事があると、イリーナにライサを預けて馬車の中を見渡した。
「外で待っててください!!!」
僕は目当てのものを探しながら、先を行こうとしていたイリーナにそう言っておいた。保身の為と言うよりライサに死ぬ気が無いというアピールの意味合いが強かったが。
そして何個か荷台の箱を開けているとお目当ての物をやっと見つけた。その箱の中には瓶のような物が入っていて、草なのか知らないが燃えやすそうな緩衝材が入っていた。僕はこれを取り出して僕は早速火魔法の準備をしだした。
「・・・・・ッ」
それなりに魔力は使ったけど上手く燃え上がってくれたようだった。この馬車を燃やせば大分時間稼ぎになるはずだし、もしかしたら煙で自滅してくれるかもしれない。
その火が馬車に燃え移るのを確認した僕は、再び出口へ向かって走り出した。まだ後ろに追手が来ているような様子は無かったが、準備に手間取ったせいでイリーナ達の姿は見えず離されてしまっていた。
そして後ろに怯えながらも、10分程一人で走っていると道の先にイリーナが立っているのが見えた。時間的にはもう外にいてもおかしくないから、迎えに来てくれたらしかった。
「ライサ達は!?」
僕は息を切らしながらも、後ろに追手がいないのを確認しつつそう聞いた。
「先に行かせてあるから大丈夫だ」
そうイリーナは短く言って僕の手を引っ張った。そして走り出すとカーブした洞窟の先から目が開けられない程の光が目に入ってきた。
そしてそんな明順応の後、僕らにとって見たくない景色がそこに広がっていた。
ーーーーー
私は適当に選んだ二人を従えて、部屋の外を出て走り出していた。
するとどこからか血の匂いがしてきたと思ったら、地面にあの赤い髪の子が倒れていた。
「あちゃあ。思ったより強いなぁ」
血が少し乾いていることからも、大分早くやられたらしい。
そんな情報に私は少し胸を躍らせていると、今度はその血の臭いをかき消すような煙が通路の奥から鼻腔にやってきた。
「お、やるねぇ」
私は直接後ろから追いかけるのを諦め、別ルートを選択することにした。だが私の行動が理解出来なかったのか、連れてきた子が疑問を呈してきた。
「また戻るのですか?」
「ん?いいからついてきて」
私は再び決闘部屋まで戻り、ぽっかりと開いた天井を見上げた。
「も、もしかしてここから外に?」
「そうだよ?」
それ以外に何か方法なんてあるのだろうか。
分かってないようだけどまぁいいや。説明するのめんどくさいし。
「じゃあ私の傍に来て」
私は有無を言わさず、二人を傍にやって地面に手を置き魔力を込めた。
「・・・よっと」
すると地面が私を中心に円形状にせり出して、天井へ向かって私達を昇らせていった。
「え?え?え!?」「な、なんですかこれ!?」
二人が大げさに騒いで私に捕まるもんだから、かなり鬱陶しかった。これぐらい魔力量があれば再現できるのに、何を大げさにしてるんだか。
そして数秒の後私たちは外へ出て、緑に生い茂った森が目に入った。
「少し使いすぎちゃったかな?」
体感残りの魔力3割ぐらいになっちゃった。まぁいいや、二人の反応といいちょっとだけ面白かったし。そうして腰を抜かしてしまっていた、二人に手を差し出した。
「ほら行くよ?」
私たちはその後少しだけ下って出口の付近へ行くと、ちょうど青髪の女の子と銀髪の女の子が出てくるところだった。
「私が行きます」
「・・・ちょっと待ってね」
焦って捕まえに行こうとするのを私は手で防いだ。どうやらフェリクス君がいないようだし様子を見てみたい。
そうして少しだけ待っていると、どうやら子供たちはそのまま森の中へ走って行って、青髪の女の子は通路の中へ戻っていった。
「やっぱあの煙はフェリクス君か!」
火魔法まで使えるなんて逸材じゃないか!殺すの勿体ないから、捕まえて鍛え上げるのも面白そうかな?いやぁでもせっかくだし殺し合いたいよなぁ。
私はそんな期待が更に高鳴るのを抑えて、後ろで控える皆に指示を出した。
「そこの5人はあの子達を捕まえて。で、君と君はここで待機ね。私は通路に行くから」
今から起こるであろう戦いに私は笑顔を隠すことが出来なかった。最近は反抗してくる子が全然いなくてつまらなかったし、やっと来たこの楽しそうな展開に余計に歩調が速くなった。
そして通路の出口で待ち構えていると、やっとフェリクス君が出てきた。
「やぁ。待ってたよ」
ーーーーー
通路の外は森だった。だがそこにはいるはずがない男が満面の笑みでそこに立っていた。
それに僕の心配は他にもあり、男に聞こえないようイリーナに耳打ちをした。
「ラース達は?」
「大丈夫なはずだ。先に逃がしたし金も持たせてある」
つまり僕らがここで死んでも、最悪ラース達が生き延びれるって事か。とりあえず最悪の最悪を避けれたと、そう少しの安心を得ていると。
「なぁに話してるの~?」
どうやら僕らを待ってくれる気が無いらしく、剣を抜いて戦闘態勢に入っているようだった。
「頭相手だと逃げるのは無理だ。戦うぞ」
イリーナは覚悟が決まったらしく隣でナイフを抜いて構えていた。そして僕もいつも通りにイリーナの援護の為に魔法の準備をした。だがイリーナの顔が初めて見るような怯えた表情をしていた。
だから僕は軽口がてら煽るように笑って言った。
「・・・怖いんです?」
イリーナは僕の方をチラッと見ると、強がりなのかどうか分からないが笑って返した。
「バカ言え」
そう言うとイリーナは走り出した。そして僕は男からの視線を避けるために、イリーナの後ろに付いて行くように続いて走った。
「いいねぇ!!やっぱこれだよ!!!」
そして男はなぜかさっきよりも笑いながら剣を構えていた。そんな男にイリーナがナイフで切りかかろうとした時、僕は魔法で槍状に作った石をイリーナの背中目掛けて飛ばした。
そうして僕が飛ばした魔法は、イリーナが男にナイフで切りかかる事をせず屈んで左に逸れた事で、男の腹に至近距離で命中したはずだった。
「うお!!すごい威力だねぇ、折れちゃったよ」
目の前の男にとっては唐突に表れた魔法のはずなのに、なぜかそれを剣で弾き飛ばしてしまっていた。正直傷は付けれると思っていたのに、剣を折ったぐらいしか結果を出せずに僕は動揺していた。そんな時イリーナの張り詰めた声が聞こえた。
「ボーっとしてんじゃねぇ!!」
その言葉にハッとすると男が僕に向かって半分に折れた剣を振り下ろそうとしていた。だがその時イリーナの投げたナイフが男の横から飛んできていた。
「おぉ!相変わらず上手いねぇ!」
刃渡りの短くなった剣で視界外から来たはずのナイフを弾いた事で、金属のぶつかる甲高い音が響いた。
僕はその瞬間に僕から見て右側に走り出し、イリーナと男を挟むような立ち位置を確保した。
だがこの男の目的はあくまで僕らしく、こちらを向いて再び剣を構えて突っ込んできた。それに対して僕は剣を構え直して、男越しに見えるイリーナとアイコンタクトを取った。
「さぁやろうか!!!」
そうして男が突き出すようにしてきた剣を、一歩引いて避けるとさっきまで僕がいた場所に火魔法を飛ばした。今回は前回と違いとにかく当てる事を意識して広範囲に火を広げた。
「っと、熱いなぁ」
僕の魔法は多少は当たったようだが、すぐに男はその場から飛びのき避けてしまった。だが元々ダメージを与える事が僕の目的ではなかった。
「うらぁあ゛!!!!」
男が一歩引いた所に待っていたと言わんばかりに、後ろからイリーナのナイフが襲い掛かった。
流石に僕の火を避けて態勢が崩れた所に、イリーナの攻撃だから行ったと思ったのだが・・・・。
「君は昔から一歩目が遅いねぇ」
そう男がイリーナのナイフを持った手の手首を、顔だけ振り返って掴んだかと思うと、そのまま背負い投げの要領で強引に引っ張り込んで、イリーナは地面に叩きつけられてしまった。
「・・・・・ッ!!」
叩きつけられたイリーナは、肺が衝撃で動ないのか声にならないような悲鳴を上げていた。僕はそれを見てやはり正攻法じゃ勝てないと悟って、別の方法を模索しだした。
「お、今度は何をするのかな?」
僕はイチかバチか思いついた作戦をすぐに実行に移して、魔法で石を飛ばして牽制しつつ再び僕らが通った通路へ向かって走り出した。
すれ違いざまに一瞬男を確認するが、イリーナにとどめを刺すことなくやはり僕を追いかけてくれていた。
僕はそれを確認すると通路の中へ入り、そのまま奥へ走っていった。
「お~い、どこまで行くんだい~?」
そんな男の声が通路の中に響いていたが、僕はとにかく走り続けた。
そして馬車二台は通れそうなぐらいのスペースに着くと僕はそこで止まって振り返った。するとすぐに男も追いついたようで、僕の正面に楽しそうに立ちはだかっていた。
そして少しの沈黙の間。近くに掛けられている松明のチリチリとした音だけが通路内に響いていた中、目の前の男が口を開いた。
「で、君はここからどうするの?」
男はまるで僕の事を脅威に感じないらしく、僕のやりたい事をやらせるつもりなのか剣を下ろした。随分と僕の事をなめているらしい。
「・・・・・・・フゥ」
呼吸を整えて僕は剣を構えた。僕の目的はこの男を殺すことじゃない。この戦闘を強制中断させてしまえばいいんだ。そう僕は真正面から男に向かって剣を振り上げ突撃した。
「さあ!見せてよ!!君の死に際の輝きを!!!」
僕は自分の間合いに入ったタイミングで、その振り上げた剣を振り下げようとした時。その剣を手放した。
「・・・ん?」
そしてその剣は僕をより先にそのまま男の頭目掛けて飛んでいった。男はまだ僕の意図に気付いていないようで、剣を頭上に掲げて僕の投げた剣を受けようとしていた。
「ヤケクソにでもなったかな?」
僕はそのまま男へ向かって進み続け、投げた剣を男の剣が弾いた金属音がしたタイミングで姿勢を落とした。
そして男の足元に入った僕は、下から突き上げるように魔法で槍状にした石を男の顎を狙って飛ばした。
「いいねぇ!!」
だが魔法を撃った瞬間、男と目が合い僕の魔法は男が横に避けた事で空を切ってしまった。
「これで最後かな、、、、?」
男のそんな反応をよそに僕はそのまま男の横を通り過ぎた。するとすぐに後ろから何かが崩れるような音がした。
僕は振り返ると、どうやらイチかバチかの作戦は上手く行ったらしかった。
男の頭上を見ると、通路の天井部分に僕の魔法が突き刺さり音を立てて崩れようとしていたのだ。
「いやぁ!!やっぱ君いいねぇ!!!また会いに行くから待っててよ!!!」
あわよくばそれで生き埋めになってくれればと思っていたが、僕と崩落地点を挟んで反対側に避難して笑顔で手を振っているのが、崩れる岩越しに一瞬見えた。
「気味悪すぎだろあのおっさん・・・・」
僕は通路全体が崩れるリスクを考えて、後ろを振り返らず全速力で外に向かって走り出した。すると通路の途中で追いかけてきたらしかった、イリーナがそこにいた。
「さっきの音は!?」
だが今ここで話している時間は無いと僕はそのまま走り続けて言った。
「崩落します!!!急いで!!!!」
そうして僕らは後ろで岩の崩れる音に追い越されないよう必死になって外へ出ることができた。
だがそこにはまた盗賊が二人出口で待っていたようだった。また戦闘かと思っているとイリーナが僕の手を引いた。
「突っ切るぞ!!!」
そう僕らは通路を強行突破してそのまま森の中へ突っ切った。後ろから振り切られまいと盗賊たちが追いかけてきているのが分かるが、さっきのあのやばい男に比べると随分楽だった。
「ラース達とはどうします!?」
僕は他の事を考える余裕が出来たのか、イリーナにそう確認をした。
「今は無理だ!金は渡してあるから上手く生き残ってくれるのを願うしかねぇ!!!!」
イリーナが後ろを見ながらそう叫んでいた。確かにこの状況で合流は難しそうだし、逃げ切ったと思っても付けられて、何とか合流したところを一網打尽ってなったら目も当てられないか。そう今はとりあえず納得した。
「とりあえず今は自分の事を考えろ!!!」
「は、はい!!!」
僕らはそれから走り続けて陽が傾き出した頃にやっと振り切れたようだった。
そして一旦大きな根を張った木の傍で座って休憩をしていると、ちょうど太陽が沈む方角に下り坂になっているらしく、地平線に夕日が沈むところが見えた。
「綺麗っすね」
「ん?そうか?眩しくないか?」
やっと逃げれたと夕日を見て感傷に浸りたかったが、イリーナのそんなつもりは無いらしく、眩しそうに手を掲げていた。
そんなイリーナを見てまぁいいかと僕は思い、改めてラース達の事を聞いた。
「どっかでラース達と合流出来ますかね」
僕がそう言うと、イリーナは立ち上がって背伸びをしながら言った。
「ま、それは運次第だな」
もう既に大分森の中を走ったから方角やら何やらが、分からなくなっている以上ラース達を探すのは危険か。それに探しているのは僕らだけじゃなくて、盗賊連中もそうだろうし。
そうまた考え込んでいると、イリーナが僕の前に手を差し出した。
「ほら、行くぞ!」
「あ、はい!!」
だが今はあんなクソみたいな場所から逃げれたと、僕は思考を止め嬉しさを噛みしめて立ち上がった。
そして新しく始まった未来に期待を膨らませて一歩を踏み出した。
ーーーーーー
私は迂回路を使って時間は大分かかったが再び外に出ていた。すると崩れた通路の前に人が集まっているのが見えた。
「お、そっちは大丈夫っぽい?」
「え?あ、はい!言われたガキは全員捕まえました!」
そう縛られた子供たちを見ると、ちゃんと銀髪の女の子や心が読めるっていう女の子もいた。
「いいね。とりあえずこの子達は元の所に戻しといて」
私は他にもあらかた指示を出し終わると、これからのフェリクス君に期待で胸を膨らませながら、木々の間から見える沈みかけていた夕日を眺めていた。
あの子は絶対に成長したらすごい子になる。そして必ずこの残された子達がいると分かったら戦いを挑んでくる。そんな時が来たらと思うと、今から楽しみで仕方がない。
「いやぁ、これはしばらく死ねないねぇ」
私は新しい希望に期待を膨らませて一歩踏み出した。
ここで二章は終わりになります。
まず最初にここまで読んでくださった皆さんへの感謝を伝えさせていただきます。本当にありがとうございます。読んで下さる皆様のお陰で今この作品を書けていると言っても過言じゃありません。
それにブックマーク、評価等をしてくれた方々もありがとうございます。そういった評価や感想を頂けるととても励みになるので、しても良いよと言う方はしてくださると私がかなり喜びます。
そして三章についてですが、私事ですが少し忙しくなった関係上投稿の出来ない日がこれまでより増えます。毎日投稿を極力続ける予定ではありますが、出来なかった場合はご容赦ください。
最後にですが、改めてここまで読んでくださった方々へ。多々読みづらい点や誤字脱字があったと思います。そんな中本作を読んでくださり本当にありがとうございます。三章以降も面白い物語を書けるよう頑張るので、この先も読んでくださると嬉しい限りです。




