第三話新しい世界
また夢を見ていた。
それもいつか見た夢と同じように、僕は自分の何倍もありそうな実家のドアの前に立っていた。だけど前と違ったのは、そのドアを自分の手で開けることができた事だった。
ずっしりと重量感のあるそのドアを開けると、以前と変わらず地元の景色が目の前に広がった。僕はそのまま一人で足を踏み出し外へと歩き出した。
そうして歩きながら周りの景色を見回すけど、前と同じで異様に大きいだけで、それ以外不自然な点はなかった。
そんなちょっと違う懐かしい景色の中を歩いて実家から離れると、ふと後ろから人の気配を感じた。
薄々その正体を感じながらも振り返ると、やっぱりと言うべきか実家の前に母さん父さんがいた。どうやら父さんは出勤するタイミングなのかスーツに鞄を持っているようだった。
そんな昔よく見た光景を懐かしく見ていると母さんと目が合った。
僕と目が合った母さんは何か喋っているようだったが、ここからでは全く何を言っているのか分からなかった。
それを見て僕は何か忘れ物をしたかなと思い、家に戻ろうと近づいた時。母さんと父さんがこっちに手を振ってきた。それがなぜかただ嬉しくて全力で手を振りかえした。そして久々に話したいと思い、更に近づこうとした時。
それ以上僕の足が進むことは無く、その夢の世界は崩れ去ってしまった。
ーーーーーー
そうして起き上がった僕はベットの上で、久々に二人の夢を見て嬉しかったはずなのに、少し泣いてしまっていた。しばらく見ていなかった二人の夢だけど、なんでまた出てきてくれたのだろう。
そう疑問に思いながらも、近くの布で顔を拭いてベットから起き上がった。
もう既に初めて喋ってからまた五回の季節が回った。おそらく今は七歳になっていて、家の敷地限定だけどそれなりに動き回れるようになった。今の所は普通の子供としてこの家族の一員になれていると、僕はそう思っている。
そしていつものように僕はベットから足を下ろし着替えを済ませると、木製の廊下を歩き二階から一階に降りた。するとその音に気づいたのか、一階の台所からニーナさんが顔を覗かせてきた。
「フェリクス~?勝手に家の外に出ちゃだめよ~」
その注意に出来るだけ子供らしく演技して元気に答えた。でもそんな自分が薄気味悪く心がチクリと痛む。
「分かってます!庭に行くだけです!」
「朝食すぐ出来るから戻ってきてね〜」
六歳まで家から一歩も出してもらえなかったけど、最近は庭ぐらいなら出ても許されるようになった。
文化的な理由なのか、ニーナさんの性格が心配性だからなのかは分からないけど、一切例外もなく全然出してもらえなかった。だから最近は外に出れるようになったお陰で、この世界について入ってくる多少は情報も増えてきた。
「ブレンダ、様子を見ててもらっても大丈夫かしら?」
「承知しました。奥様」
そんな二人の会話を横目に靴を履きドアの外に出た。すると目の前には金色に輝く農耕地に、遠目には牧草地やその間を流れる水路が見えた。他の民家は全く見えないけど、ニーナさん達の会話的には他の村人がいるらしい。
でも未だにここが何の国なのか。それともタイムスリップして昔の国なのか。時代も場所も何もかも分からない。おおよそ生活環境からして現代では無さそうだけどそれでも知りたい。だから今日こそはヒントになりそうな民家が無いか探してみようと、歩き出すと後ろから肩を掴まれた。
「フェリクス様。そっちは駄目ですよ」
僕はその声に恐る恐る振り返ると、やっぱり少し怖い顔をしたブレンダさんの姿がそこにはあった。
「今日もまたダメですか?」
「えぇ駄目です」
諭すようにそう言われてしまった。前々から外に出て情報を集めたかったが、こうやって止められて中々進めないでいた。
でもどうにかして道路を見つけて標識とかで国が分かったりしないだろうかと考えていると、ブレンダさんが少し厳しめな口調で諭してきた。
「これはフェリクス様を守るための事です。言う事はちゃんと聞いてください」
思ったよりも厳しかった口調もそうだが、ブレンダさんのガタイの大きさから僕は少し萎縮してしまった。
そんな僕を見てなのか、ブレンダさんは一転して少し言い過ぎたと謝罪をすると、庭の端にスペースを指差した。
「まぁ、ほら庭で遊びましょう?」
僕はブレンダさんの思ったより硬い手のひらに引かれ、庭の端っこまで連れてかれた。そこで僕は石段に座らされたのだけど、特にブレンダさんから何か話しかけてくることは無かった。 そして僕もそんなブレンダさんに話しかける事が出来ず、ただ二人黙って水色の空を見上げ続けるだけになってしまっていた。
でもそんな沈黙が十数分続けば、流石に気まずさに耐えれずなにか話題を作ろうと話しかけてみた。
「あの、ブレンダさん」
するとサッとブレンダさんの目がこちらを向いた。やっぱり見た目に反してどこか雰囲気がある人だ。
「前から言ってますがブレンダでいいですよ。どうしました?」
少し困ったように苦笑いしてそう言ってきた。やはり立場的に僕に気を使われるのは気まずいのだろうか。でも年上の人を呼び捨てにするのはなんだかなぁ・・・・。
そう思いつつも黙っているのもあれなので、何かこの世界を知るきっかけにならないかと色々質問をしてみる事にしてみた。
「この村の名前ってあるんですか?」
とりあえず僕がいる時代が昔だとしても今は自分のいる場所を確かめたい。まぁ昔の国とかだったら、浅い受験知識を総動員しないといけなくなるが。
「エルム村といいます。北の街道沿いに大きなエルムの木があるからこの名前になったそうです」
そうブレンダさんは農耕地の先を指差した。恐らくそこにそのエルムの木とやらがあるらしいけど、想像していたより単純な名前で少し驚いた。
でもやっぱりそれだけじゃこの場所の特定が出来なさそうだと僕は、視線を変えて他の所から情報を集めようとした。
「じゃあ、あの山の名前はなんです?」
西側に僕の身長からでもうっすら見える、大きい山というか山脈を指差して聞いてみる。東側はどこまでも平野って感じだけど、逆側にはどう見ても急峻そうな山々が見える。もしかしてアルプス山脈とかだろうか、そんな事を思って聞いたのだが僕の予想は外れたらしかった。
「あの山自体の名前は存じ上げませんが、あの周辺の山々はディリア山脈と一括りに呼ばれてますね」
全く聞き覚えの無い山脈の名前だった。そもそもヨーロッパって山のイメージ無いし、じゃあここはどこなんだろうか。
だから僕はもう少し情報を聞き出そうとブレンダさんを見上げ質問を続けた。
「へぇ~詳しいんですね。昔行ったことあったりとかするんです?」
僕の質問にブレンダさんが一瞬固まったような気がしたが、すぐになんでも無いように答えてくれた。
「まぁ、ここにくる前は妹と傭兵をやっていたので、この辺の地理ならある程度分かりますよ」
傭兵とはまた物騒な単語が聞こえてきたな。現代にもあるにはあるけど、やっぱり僕のいるここは現代では無さそうか。猶更僕一人で生きていけるほど生易しい世界じゃないって事だ。
だからこそ今僕はフェリクスを演じてこの家族に扮しているのだけど、やはりどこかで独り立ちするのが筋って物だろうな。いつまでも他人である僕が寄生する訳にはいかないし。それを僕自身が許せない。
それならばと。傭兵をして将来生計を立てれるかもしれない。そう考えて僕は少しだけ路線を変更して質問を続けた。
「傭兵って何するんですか?」
ブレンダさんはそれを聞いてしばらく悩む素振りを見せ考え込んでしまった。五歳の子供相手に伝えるには確かに傭兵って職業は刺激が強かったかもしれない。
そう少しだけ迷惑な事を聞いてしまったかなと思っていると、ブレンダさんは顎から手を離して何か思い出すように空を見上げた。
「まぁ、そんな良いものでは無いですね。ただずっと剣を握って戦うだけで、良い所は金払いがいいぐらいですかね」
剣か・・・・・やはり現代では無いそれも数百年単位で昔の話って事か。それにそこまで違うのなら、そもそも異世界転生って奴の可能性も出てきたな。
でも考察は後にしても、とりあえず今はとにかく情報を引き出すことに集中しよう。
「誰と戦うんです?」
「うーん、まぁなんて言ったら良いのか・・・」
ブレンダさんはずいぶん返答に困っているようだった。そんな子供に言えないような事なのだろうか。
敵国名とか出るとありがたかったのだがなかなか上手くいかない物だn。
そう僕は話したくなさそうな雰囲気を感じ、これ以上迷惑をかける訳にはいかないと更に話題を変えてみる事にした。
「んーじゃあ剣の使い方教えてくださいよ!」
傭兵の話が本当なら戦争は普通にありそうだし、自衛用にそういうのを覚えておきたい。早く自立するには早くから動き出さないとだしな。
でもそれを聞いてブレンダさんは申し訳なさそうに目を伏せてしまった。
「ん〜おそらく剣のことなら、私よりクラウス様の方がいいですよ」
「・・・・そうですか」
理由は分からないけど本人が嫌って言うなら仕方ないか。無理強いする訳にはいかないし、後でクラウスさんに頼んでみるか。
そう思っていると、僕の頼みを断った事に罪悪感を覚えたのかブレンダさんは頭を撫でてきた。
「私も後で剣を教えてもらえるよう口添えしておきますね。あと他に何か聞きたいことはありませんか?」
そうおあつらえ向きな事をブレンダさんが言ってくれたので、僕は早速この国の名前を聞いてみることにした。
「じゃあ、この辺の国はどんなのがあるんですか?」
「ん~では少し歴史の話になりますが、大丈夫ですか?」
歴史込みで教えてもらえると今の状況分かるかもしれないと、期待感が湧き上がった。人生で世界史の知識が必須になる場面がやってくるなんて思わなかった。
「はい!大丈夫です!」
僕はそう元気に子供らしくを意識して返事をすると早速ブレンダさんは優しい口調で語り出した。
「まず元々この周辺の地域より西と南はすべて一つの大帝国だったんですよ。それが六年ほど前本国で内乱起きました」
言い方的に今現在ではその内乱で大帝国が崩壊してって事なのだろうか。だとしたら戦争とか起こってそう怖いな。いやでも僕が生まれてからはそんな気配は無いし、案外そんな事も無いのだろうか。
そう僕が押し黙っていると、単語が理解できてないと思ったのかブレンダさんが気を遣ってくれた。
「内乱の意味は分かりますか?」
「あっえ、うーん、多分仲間割れみたいなのですかね?」
あんまり的確に言うと子供ぽくないかもと思い、少し濁して言ってみる。こういう事をする度に騙しているように感じて、申し訳なさと罪悪感で心がチクリと痛む。
「まぁおおよそ正解です。では続きなですが、その内乱から地方の有力者・・・偉い人達が暴れ出して今まさにどこの国も混乱している状況なんです」
ある程度気を使ってはいてくれるが、内容からして七歳児に聞かせるにはむずすぎやしないかとも思いつつ、とりあえずブレンダさんの話を聞く。それに僕が聞いたことなのだから文句を言う訳にいかない。
「それでこの時にこの周辺で独立したのがレーゲンス帝国です。この国は内乱初期に本国派を手早く追放し、混乱も少なく独立しました。そのため比較的この周辺の地域は安定しているんです」
国名は・・・聞いたこと無いな。中世ドイツの領邦とかその辺の小さな国名とかだったら分からないな。どちらにせよこの話からして大きく歴史が動いている瞬間だから、何かしらヒントは落ちていそうな物だけど。
そう色々考えていると、ふとなんでブレンダさんがここまで内情に詳しいのか疑問に思った。一使用人が、ネットがないのに国際情勢を知れるなんて並大抵のことではない気がするが。
でも僕がそんなことを考えている内にも、少し楽しそうに声を弾ませるブレンダさんの話は続いていた。
「それでこのレーゲンス帝国はディリア山脈山脈の北側を領土として広く統治しており、現状この周辺では強国の部類ではありますね。そして西の隣国も同じ血を引く一族なため、、、」
話自体は聞いていて面白いが、語るのに熱中しすぎて僕の存在忘れていないかと感じる。正直七歳児が理解できる内容じゃなくなっている気がするが。僕としてはありがたいから良いのだけども。
そう少し僕がどうしたものか考えていると、家のドアが開く音がした。
「あら、ブレンダ。ずいぶん熱演しているじゃない?」
「え!?あ、いや、すみません」
唐突なニーナさんの来訪にかなりびっくりしていたようでブレンダさんの声がうわずっていた。そういえばニーナさん朝食の用意をしているとか言っていたな。
「いやいや、責めてるわけじゃないわよ。そろそろフェリクスにある程度の教養は教えようとは思ってたし」
教養って事はやっぱり貴族というかそういう比較的上の階級の家なんだろうな。地方領主とかそう言う感じなんだろうか。
するとブレンダさんがニーナさんから僕に視線を戻すと、申し訳なさそうに聞いてて来た。
「それで・・・・フェリクス様、先ほどの話はわかりましたでしょうか?」
この感じは当人的には子供相手に熱くなりすぎたとか思っているのだろう。でも僕が聞きたいと言った事だし、実際僕は子供でも何でもないんだからそんな気を使わなくても良いのに。
そう思いつつ、僕はまた子供としての嘘の演技をした。
「面白かったです!ブレンダも楽しそうで僕も楽しかったです!また歴史の話の続き教えてください!」
どこかこんな自分を俯瞰して気持ち悪く思う自分がいた。いい歳した男が子供の振りをしてその家族を騙す。人が見たら滑稽よりも恐怖が勝つだろうな。
でもそんな事はつゆ知らずブレンダさんは、安心したような困ったような笑いを浮かべた。
「お気遣いありがとうございます。ではまたの機会に話しましょうか」
そう言い深くお辞儀をして石段を立ち上がった。
「じゃあ時間もいいころですし、朝食にしましょうか」
そんなニーナさんの明るい物言いに対して僕は口を挟んだ。
「僕はもう少し庭にいてもいいですか?」
それを聞いてニーナさんは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに来るようにと言うだけで先に家に入って行った。
で、こうして残ったのにも理由がある。それは記憶がある内に出来るだけ情報を整理しておきたいからだ。いつまでもナーバスになっていても仕方ない。自分一人でこの人たちに迷惑をかけない様生きれるようにしないとだ。だからまずは状況把握に努めないと。
まず一つ目は、大帝国とはだ。
真っ先に出てくるのがローマ帝国だけど、もしそうなら今は近くても五世紀とかその辺りで、かなり昔ってことになる。あと思いつくのは、神聖ローマ帝国、オーストリア帝国、ロシア帝国とかだけどそれだと比較的近代になるしどうなんだろうか。
で、二つ目が国を特定するための地理だ。今のところある情報だとディリア山脈だが、全く知らない。
もしかすると時代とともに名称が変わってるだけの可能性もあるが分からない。
そして一番困るのがレーゲンス帝国とか言うやつだ。強国らしいけど聞いたことない。というかここまで知らないのばかり来ると、ほんとに僕の知ってる歴史かも怪しくなってきている。
一瞬考えた可能性だけど、僕の知ってる地球ではないの可能性も考えといたほうがいいのかもしれない。それこそ異世界って奴かもしれないけど、そうなると僕は絶対父さん母さんの元には帰れなさそうに思えてしまう。
僕は大きく息を吸って庭の青い芝生に後頭部を預けた。そして視界一面に浮かぶ雲を見て、その上にいるかも分からない神様に向かって言った。
「どうしろって言うんだよ」
何か意志が合って僕はここにいるのかなんの意味も無く、ただ自然の摂理としてここにいるのか。それすらも分からず僕は生きている。記憶が残っているから何か意味があるのだと思いたいし、無いならなんでこんな苦行を強いるんだと怒りが湧いてくる。
それにこんな状況に慣れつつある自分に恐怖も感じてくる。父さんと母さんの事だって思い出す事も減ってきたし、それこそ今朝夢に出たのも数年振りだ。所詮僕は数年もすればあの大好きだった二人を忘れるような屑だったのかと、自己嫌悪に陥りそうになる。
「そろそろお戻りになってください」
少しして聞こえてきた声に顔を上げると、ドアから半身を出してこっちを見ているブレンダさんの姿があった。だから僕は起き上がって後頭部に土がついていたからそれを払い、また演技をするように笑った。
「はい、今行きます」
ーーーーーーー
そうして始まった朝食を目の前に僕は、まだ足が床に付かない椅子に座っていた。もう流石に慣れてきたけど、この世界のご飯は時代相応って感じの物だった。それも多分比較的この時代では良い物であろうとは思うのだけど、やはり現代日本と比べると見劣りしてしまう。
そう僕がいつも口に運ぶのはパン、チーズ、スープ、サラダ、加工肉っぽいやつとかたまに普通に肉って感じだ。でも流石に朝食は質素にパンにスープだけらしい。
「じゃあ食べようか」
意外にも食事前の宗教的な儀礼とかは無いらしく、そうぬるっとクラウスさんの言葉で食事は始まる。
僕は早速パンを食べるがやはりボソボソしてるし硬い。スープも味気ないしで、時代が時代だから仕方ないとは言えちょっと悲しい。人様の家の飯勝手に食っておいて何文句言ってんだよって感じなのだけど。
「あの鹿肉、父さんが狩ってきたんだよ」
そう言いクラウスさんが台所の奥を指差した先を見ると、言った通り内臓が抜いてある鹿が見えた。
「すごいですね、弓で狩ったんですか?」
「まぁな、一通りの武器は使えるぞ、興味あるか??」
クラウスさんが少し嬉しそうにして身を乗り出していた。この雰囲気は剣とか教えてもらえそうと感じ、僕は少しだけねだってみることにした。
「興味あります~!特に剣とか!」
チラッとブレンダさんの方を見た。でもそのブレンダさんが助太刀する前に、僕が言った瞬間クラウスさんがすごい笑顔になって立ち上がった。
「おぉ!!そうかそうか!!!いやー男の子だもんなっ!!!剣使ってみたいよなっ!!!」
ずいぶん嬉しそうだけど、僕から言うのを待っていたとかそんな所だろうか。この世界だと父親とのキャッチボールが剣術だったりするのだろうか。
するとそんなクラウスさんと対象的にニーナさんは明らか嫌そうな顔をしていた。
「あなた食べるか喋るかどっちかにしてください」
はしゃぎ気味のクラウスさんを抑えるようにニーナさんが注意をする。そんなニーナさんを見てみると、なんか食べ方に気品がある感じで、クラウスさんとは対照的に育ちの良さを感じた。
「フェリクスもあんなのになっちゃだめですよ?」
そうニーナさんの鋭い視線が僕を向いた。僕はそれにちょっと委縮してしまっていると、それから追い討ちをかけるようにニーナさんの話が始まった。
「とりあえず、こうならないようにテーブルマナーとかは大事だから気を付けなさいよ」
「は、はーい」
そういうの正直苦手というか、前世は田舎の一般家庭に産まれたからそんな常識を知らずに生きて来れたから全く知らない。でも必要なら覚えないといけないか。
するとニーナさんは良い事を思いついたと両手を合わせてブレンダさんを見た。
「じゃあ今度から、そう言うのも含めてブレンダの教育お願いしましょうか」
それを聞いてさっきまで機嫌の良かったクラウスさんがニーナさんに突っかかりに行く。
「え、剣術は?」
「まぁ追々で良いじゃないんですか?」
「いや剣術は小さい頃からしっかりやらないと・・・」
ちょっと険悪な雰囲気になり出してしまった。自分のわがままから始まったことだから余計に気まずい。
そう思ってブレンダさんに目配せをしたら気づいてくれたようで、仲裁に入ってくれた。
「フェリクス様もやりたがってる事ですし、剣術はやらせてあげませんか?もちろんマナーや作法の方を中心にですが」
するとありがたいことにそれで二人とも納得してくれたようで、一旦この話は落ち着いた。他人である僕のせいで、夫婦仲が悪くなるような事にはならなくて良かった。
それからはポツポツ会話を挟んで、どうやら今度他の村の子供と会う機会があるらしい事を知った。正直この体と同年代の子と話せる自信ないんだけど大丈夫なんだろうか。そんな不安を抱えつつ朝食が終わっていった
そうしてまた僕は、他人としての僕の人生が進んで行ったのだった。