第三十七話 因縁
まだ空が紫色な早朝の時間。僕らはすでに動き出していた。
「よし準備出来たな」
早朝の内に最低限必要な物の準備を済ませ、食堂に集まってそれぞれの役回りの確認をしていた。
まずは僕とイリーナだけど、二台ある内の馬車の一台を二人で乗って殿を務める。そしてもう一台にブラッツの手配した運転手と、ラースとエルシアがカーラ達とルーカスの護衛をする。そしてそのブラッツはと言うと、僕らが逃げた混乱に乗じて裏口から逃げると。今回はラースも戦う事になるのが不安点だが頑張ってもらうしかない。
「じゃあ飯食うぞ」
そうして一通り確認を終えた僕らは、イリーナが準備した朝食を食べ始めた。やはり皆緊張している様で部屋の中はシンとして話し声が聞こえなかった。
そんな中僕が別で聞かされた一日の流れを反復していた。
まず決闘の時間が昼だ。だからそれまでにカーラ達の移動を済ませて、僕らは決闘をする部屋に行くと見せかけて、馬車の所まで逃げる。その際イリーナが僕らの出迎えの盗賊を殺すことになる。
そしてこの後大事なのは、決闘の部屋に人が集まるとはいえ出入口の付近には見張りは必ずいる。それを先行する僕達が倒せるかどうかだ。場合によっては僕も一緒に先行出来るか怪しいから、ラースかエルシアだけで突破できないと色々詰んでしまう。
だからラースのメンタルケアを気を付けないといけないのだが。
「ラース大丈夫そう?」
「あ、あぁ、大丈夫だ・・・・」
かなり気負っているらしく、青い顔をしてさっきから食事の手も進んでいなかった。今回の事で人一倍責任を感じているようだし、そうなるのは仕方ないが、ラースとエルシアの働き次第で結果は変わるんだから頑張ってもらわないといけない。
「・・・・・・」
そう思いエルシアを見るがやはり感情が見えないというか、何を考えているのか分からなかった。カーラが来てからまともにエルシアと話してないし、今回の逃亡計画もどう思ってるのかも知らない。少なくとも賛同はしてくれてると思いたいが・・・。
そんな事を考えていると、隣に座っていたルーカスが不安そうに僕に聞いてきた。
「ね、ねぇフェリクス。何か僕にも出来ることある?」
今回の計画ではルーカスは特に役回りは無かったはず。でもそれが本人にとっては苦痛なのだろうが、先に馬車に乗り込む以上ルーカスにやれることは少ない。
だが馬車で逃げるとなった時にルーカスの力が必要になるかもしれない。そう思い僕はルーカスの肩に手を置いて言った。
「馬車で逃げるときにさ、ルーカスが周りを見て判断して。例えば僕らが助からない時とか見捨てる事とかね」
最悪少しでも皆を生かすために、僕が囮になることも考えている。恐らくあの頭は僕に執着するだろうし、それならラース達が逃げ切れるかもしれない。
だがやはりと言うべきか、ルーカスは素直に受け入れてくれそうになかった。
「い、いやでも、それは・・・・」
当たり前のことだがまだルーカスは13歳なんだ。そんな選択を指せるほうが酷ってやつかもしれない。でもだからと言ってそんな選択をラースが取る事が出来ないのは想像に容易い。だから一番意図を理解出来るルーカスにこの役目をお願いしたい。
だがルーカスは受け入れられないようで黙ってしまった。その代わりに声を上げたのは、僕を挟んでルーカスと反対側に座るライサだった。
「そういうフェリクスの考え方私嫌いだな」
確かブレンダさんにも同じような事を言われたのを覚えてる。
でも自己犠牲なんて高尚な言い方したくないけど、それでも僕一人の命か他全員の命、どちらかしか助けれないってなったら、助かる命が多い方を選ぶのは当然だ。僕はそうやって、助けれないと判断した命を見捨ててこれまで人を殺してきたんだから、自分の番になった途端逃げるなんて出来ない。
「分かってるよ。本当にどうしようもなくなった時の話だよ」
だがライサは僕のそんな回答も許せないらしく、珍しく声を荒げた。
「いつもどうしてそんなに自分の事を大事にしてないの!?!?フェリクスが傷つくと私も悲しいの!!だからもう少しさ!周りの事も考えてよ・・・・」
そうやってだんだんとライサの声が萎んでいって、今にも泣きそうな声になってしまっていた。でもそんなライサの気持ちも分かるけど、全員助かるハッピーエンドを想定して動いたって仕方ない。5人生かすために4人殺す事を覚悟していないとダメなんだ。
でもそう言ってもライサは納得してくれないのは分かる。ライサにとっては理屈じゃなくて感情の問題だろうから。
「分かったよ。ライサ。ごめんね」
僕は嘘をついた。場を収める為にそう言ってライサの頭を撫でた。こうすればライサは大人しくしてくれると分かっているから。
そんな僕の黒い考え通りライサは、段々と落ち着きを取り戻して行ったようだった。
「・・・・約束だよ?」
「うん、約束するよ」
もちろん最後まで自分も生きようともがくつもりだ。でも殿を務めるかもしれない以上そう言う選択肢が遠くないところにあるのも頭に入れないといけない。
「それでいい?ルーカス?」
13歳の子にそんな判断を押し付けてしまうのは、心苦しいが他に判断できそうな子がいない以上ルーカスに任せるしかない。
「分かった。でも僕はギリギリまでフェリクスを諦めないからね」
そうハッキリとルーカスが僕を見て言った。最近話すことが減っていたけど、ルーカスもルーカスなりに成長していたって事が良く分かる目だった。
「うん、ありがとう。じゃあ広場行こうか」
まずは先にカーラ達とルーカスを馬車に乗せないといけない。その馬車をこの辺まで持ってくる役目は、ブラッツのはずだが僕らが広場に出た時にはまだいなかった。
そうして少しの間僕は広場の端っこに腰掛けて、少し明るくなった空を眺めて座っていると、珍しくエルシアが話しかけてきた。
「ねぇ。今良い?」
そんなエルシアに僕は少し位置をずらして、隣をどうぞとジェスチャーで示すが座る様子は無かった。そして天井から入ってくる風に少し伸びた髪を揺らしながら、ラース達の方を指差した。
「今回のこれ成功すると思ってるの?」
僕はその指に従ってラース達を見るが、各々緊張した面持ちになっていて、ラースに至っては剣をじっと見つめて固まっていた。
「それでも成功させるしかないでしょ」
僕がそう言うと呆れたような表情をして、エルシアは改めて僕を見た。その視線は身長が高いからか、僕を見下しているような感じがした。
「・・・・そう。私は無理だと思う」
「それは分からないでしょ。エルシアだって強いんだし」
実際エルシアとラースは魔法の技能が高いし、ルーカスだって魔法が使えないとはいえ剣術はそれなりになってきたから、悲観するほどじゃないと思う。
「言っても分からないよね。まぁいいや、どうせまたあるんだし」
「・・・・?それってどういう意味?」
そう聞くとエルシアは僕から背を向けて歩き出してしまった。
「私はいつまでも貴方の事許さないからねj
少し顔を僕の方に向けたかと思ったが、風でなびいた銀色の髪のせいでの顔は見えなかった。だが顔は見えなくても、その重く恨みの籠った言葉は良く僕の耳に届いた。
そうしてエルシアはそれ以上何も言わず僕から去っていった。
ここに来てからエルシアの事が余計に分からない気がする。ライサに聞いてもいつもはぐらかして教えてくれないし、彼女は何を考えて行動しているんだろうか。
そんなエルシアの背中を見ていると、やっとブラッツが来たようだった。
「イリーナ、待たせた。すぐ行こうか」
ブラッツはどうやら少し離れた通路に馬車を置いてきたらしく、そこまでカーラ達を連れて行って乗せるつもりらしい。
それを見て僕はとりあえず立ち上がってラースたちの所へ向かうと、それに気づいたラースが話しかけてきた。どうやらラースなりに疑問に思う事があるらしくて、僕に聞きに来たようだった。
「今馬車に乗れるなら、俺らも乗って逃げれるんじゃないか?」
「あ~そう言う事」
僕もそう思ったが、そうはいかないらしい。今はあちこちに盗賊がいて逃げるとなると難易度が高くて、逆に幸か不幸か決闘となると、そこに盗賊が集まるから逃げるには丁度いいらしい。それにいつ決闘場へ僕らを連れていく迎えが来るか分からない以上、下手に動くとばれてしまうとのことだ。それにルーカスとかならばれても貴族に売りに行くと言い訳できるからとも。
そう僕が聞いたそういったあたりの事情を説明すると、ラースは納得したようだった。まぁラースなりに色々考えてくれているのだろう。
そしてそれから20分ほど経った頃だろうか、ブラッツが戻ってきた。
「運転手の奴に馬車ごと預けてきた、後は頼んだ」
「おう、お前も頼んだぞ」
イリーナとブラッツが短くそう会話していた。そしてすぐにブラッツがまだやる事があると再び去ろうと背を向けて歩き出した時、何か忘れていたのか少し振り返った。
「なぁイリーナ」
「ん?なんだ?」
日がやっとここにも入ってきたらしく、天井から日が差し込んできた。そして日に照らされて見えたブラッツの顔は緊張しているのか硬い顔をしていた。
「笑ってくれるか?」
「んだよそれ。きもちわりぃな」
僕からはイリーナの顔は見えなかったが、今の会話でブラッツが求めていた物は見れたらしく硬かった表情が和らいだ。
「相変わらずぶっさいくな笑い方だなお前」
「うるせ。早く行けって」
「はいは~い」
そう顔を再び背けて歩き出したブラッツは、とても満足そうだった。二人の仲はあまりよく知らないが、今回の逃亡計画に付き合ってくれる辺り、イリーナとは仲がいいんだろうな。
そうしてブラッツが去った後、僕らは緊張しながらもその時を待っていた。
そしてその時はきたらしく、通路の奥からコツコツと足音が聞こえてきた。
「いいか、あたしが合図したタイミングで走れよ」
イリーナが小さい声で改めて確認していた。相手次第だが、とりあえずイリーナで連れ添いの盗賊を足止めして、僕らは全力で馬車の所まで走る。だからここで来る迎え次第で色々対応が変わってきてしまうのだが・・・・。
「よォ。いい朝だなァ」
奥から出てきたのは、今考えうる最悪の相手だった。こいつの場合だと僕がラース達と逃げれるか分からなくなる。だがそれにもイリーナは表情を崩さず僕の手を引いた。
「じゃあお前ら行くぞ」
ロルフが僕らの背後について、コツコツと蝋燭を頼りに暗い通路を歩きだした。その時が来たらイリーナが合図するとは言っていたが、いつか分からない以上僕らは気が抜けなかった。
そうして以前に通った三叉路を抜けて、イリーナの部屋がある当たりを過ぎた頃。どうやら左に行くらしく、ロルフが僕らを誘導していた。いつ動くのかと、不安でイリーナを見るがまだ動かないらしく口を閉ざしていた。
「いやァ生き残れるといいなァ?」
突然後ろからロルフに僕の肩を掴まれ耳元で囁かれた。
僕はそれに振り返れずただ黙っていると。
「なァに考えてるか知らんが。お前は今日で終わりだ」
逃亡計画の事がばれているのだろうか。いやでもまだ妨害は受けて無いし、ただの揺さぶりか?それに今日終わるってなんだ?
いやこいつの発言なんて真に受けたらダメだ・・・。
「そォんな怯えんなって。これからだろォ?」
僕は肩を掴む手の力が強くなるのを感じながらも、心配で前を歩くイリーナの方を確認するが、やはりまだ動かない。
「逃げれるわけねェんだよ」
どこまでかは知らないが、ロルフに計画が感づかれているのかもしれない。だがそんなロルフの言葉でも、イリーナは動かずただ前を向いて歩いていた。
「さっきから誰見てんだァ?その歳で乳離れも出来ないのかァ?」
でも分かるのは、明らかにこいつは僕で遊んでいる。油断もしているし舐めてかかってきている。
だから今ならチャンスがあると思い剣に手を掛けようとすると、初めてイリーナの視線が僕の目を向いた。それでいったん冷静になって手を下ろすと、周りドアがいくつもあるのに気づいた。どうやらまだ盗賊たちの居住区らしく、ここで暴れてたらダメだと遅れて理解できた。
それから10分だろうか。僕にはそれ以上の時間に感じるほど歩いて何個目か分からない三叉路に着いた時。やっとロルフは手を僕から離して、先頭に立って指を差した。
「じゃあここで右だ」
ここまで何回も曲がって方向感覚なんて無くなっていたが、ロルフは迷うことなく道案内をしていた。
だがここになってやっとイリーナが口を開いた。
「あたしさぁ。お前の事嫌いだったんだよな」
「あァ?急になんだァ?」
そうロルフが振り返ろうとした瞬間。イリーナはナイフを抜いてロルフの顔めがけて振りぬいた。
だが、間一髪のところで交わされてしまいロルフの姿勢はのけぞるだけで、傷つけることは出来なかった。
「ここをまっすぐ行け!!次は左行って右だ!!!」
イリーナはそう叫んで、ロルフの指差した通路とは逆方向の通路を指差した。それに従ってエルシアとラースが走りぬけていったが、最後に向かった僕はやはりその通路を通ることが出来なかった。
「お前だけは逃がさねェからな」
ここまでは一応想定の内だった。相手が強い場合は僕とイリーナで当たる算段だったし、ロルフなら僕を逃がすことはしないだろうって分かってたしな。
「じゃあイリーナさん、先頭お願いします」
僕はイリーナと入れ替わって剣を抜いた。僕はあくまで支援に徹するのが役目だからだ。それに僕じゃロルフ相手に正面で戦えるほどの力は無いしな。
「男なら前出てみろや」
ロルフがイリーナの後ろに下がった僕にそんな煽りをしてきた。だが僕はそれを無視して、お返しと言わんばかりに全力の石魔法をロルフの顔面目掛けてぶっ飛ばした。
「何回も食らわねェんだよォオオ!!」
僕の石魔法はそれなりにスピードがあったはずだが、それを屈んで避けて一気にイリーナに距離を詰めていた。
「・・・ッチ」
ロルフの得物は相変わらず剣らしく、ナイフのイリーナのリーチ外から攻撃していた。
そんな中僕は狭い通路でイリーナの邪魔にならないよう距離を取って、魔法のタイミングを伺っているが。
「被って狙えない・・・」
イリーナを挟んで僕と対角線上にロルフが戦い続けているせいで、魔法を撃てないでいた。それに天井に当てて崩落すると危ないから、狙いもしっかりしないといけないと、とかなり技量を求められる展開になっていた。
「ほらほらァ!!いつもの威勢はどこ行ったぁ!!」
ぱっと見だがイリーナが押されているようだった。本人の話だとロルフ相手なら勝てるとの話だったが、どうしたのだろうか・・・・。
そうやって一抹の不安が出てきている中、イリーナが戦いながらも僕をチラチラと見ているのに気づいた。
「・・・僕が邪魔なのか」
離れたとはいえ、僕がいるせいで後ろに下がりづらくてイリーナが戦いずらいのか。ならここで後ろに引くべきか?いやこれ以上時間をかけると他に気付かれるかもしれない。それに今のあいつなら行けるかもしれない。そんな自信が僕にはあった。
そしてならばと僕は一旦イリーナとロルフの距離が開いた瞬間に、ショートソードを握りしめイリーナの脇を通り距離を詰めた。
「やァっと来たなァ!!!」
そんなロルフの叫び声と共にイリーナの止める声が聞こえたが、僕はロルフの顔を目掛けて石魔法を飛ばした。
「そればっかでつまんねェなァ!!」
またロルフが僕の魔法を屈んで避けた。僕はそれを待っていたと言わんばかりに、低くなったロルフの頭にショートソードを振り下ろした。
「甘めェなァアアア!!!」
だが僕のショートソードがロルフの頭に振り下ろされる前に、ロルフの下から振り上げられ剣とぶつかった。その瞬間僕は力を抜いてショートソードをあっさりと手から離した。そのおかげで僕のショートソードはあっさりと弾かれ宙を舞ってしまった。
そしてそんな僕の行動に疑問を持たずにロルフは、ショートソードを弾いた勢いで振り上げられた剣を再び振り下ろそうとしていた。
「これで決まりだァァァアアアアアア!!!!」
だがその瞬間、僕の至近距離で剣を振り上げて上ずったロルフの体は、伸びて腹ががら空きになっていた。そこに僕はロルフの剣が振り下ろされるより先にブレンダさんのナイフを抜いた。そして更に懐に入ってロルフの腹に突き刺した。
「ガ、ガキのクセに・・・」
カランカランとロルフの剣が落ちる音が聞こえた。その音で勝ったと思った時、今度はロルフは僕の首を掴もうとしてきた。
首を絞められかけ少し焦ったが、次の瞬間ロルフの断末魔が僕の背中越しに聞こえてきた。
「クソがあああああああああ!!!!!」
その叫び声が擦れていくのと同時に僕の首を掴む手の力は抜けていき、僕の背中に温かい液体が垂れる感覚がした。そして僕は姿勢を起こそうとすると、力が抜けて背中に乗っかて来ていたロルフが、滑り落ちて地面に伏してしまった。
どうやら首から血が出ている様でイリーナがとどめを刺してくれたようだった。
それを見て僕はお礼を言うためにイリーナの方を見ようと顔を上げると、頬に強い痛みが走った。
「お前なんで勝手に突っ込んだ」
顔を正面に戻してイリーナの顔を見るとかなり怒っているようだった。
「・・・・すみません」
僕は素直に謝ることにした。行けるとはあの時思ったが、実際博打みたいな所もあったしイリーナが怒るのも当然だ。
そんな僕を見てやりすぎたと感じたのか、イリーナから怒気は抜けてすぐに申し訳なさそうな表情になった。
「頼むからあたしを信用してくれ」
それだけぽつりと呟いて、イリーナは僕に抱き着いてきた。
「ち、血が付きますよ」
僕は恥ずかしさ紛れにそんな事を言うが、イリーナには関係ないようだった。そしてイリーナの僕を抱く手が強くなった。
「頼むから無理しないでくれ。お前には生きてほしいんだ」
僕はそんなにしてまで心配してくれるイリーナに少しの疑問が生まれた。
「どうしてイリーナさんはそこまで僕を気に掛けてくれるんです?」
今までなんとなく気になってきて、ちゃんと返事を聞けて来なかった質問だった。でも今ならその答えが聞けると思って気付くと口が開いていた。
「お前の人生が幸せになれば、あたしの人生も幸せになれる気がするんだよ」
そうイリーナが言ったが、僕にはその言葉の意味が良く分からなかった。
だからその意味を聞こうとした時、どこかから何かが爆発するような轟音が聞こえた。
「・・・・・ブラッツの奴」
イリーナはそう呟いて僕から手を離した。分かっていたかのように驚いていないことからも、この音も作戦の一つなのかと思っていると、イリーナが僕の手を握った。
「行くぞ」
そして僕らは後ろを振り返ることなく、ラース達を追って走り出した。




