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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第二章
36/149

第三十五話 思惑


 僕が目を覚ますとまだ馬車の上だった。


「お、やっと起きたな」


 かけられた毛布から抜け出して起き上がると、イリーナとラースがそんな僕を見ていたようだった。それに御者台にはブラッツが見えたので、まだ僕は馬車を移動させられてなかったらしい。


「どれぐらい寝てました?」

「んまぁ一晩だな。とりあえずこれ飲め」


 そうイリーナが水筒を僕に手渡してきた。やはり喉が大分乾いていたようで、一瞬で水筒を空にしてしまった。そうして喉を潤して落ち着くと、ふと僕に向けられた視線に気づいた。


「どうしたのラース」

「ん、いや、何でもない」


 いつもみたいな毒を言葉に感じないけど、何かあったのだろうか。いやまぁ戦闘の後だから元気はでなくても当然か。


「フェリクス。起きてすぐ悪いんだが少し話良いか?」


 改まったようにイリーナが前屈みになって話しかけてきた。僕もそれに断る意味もないので、承諾の意味を込めて首を縦に振った。

 そうしてイリーナの口から言われた事は、まさに寝耳に水だった。


「簡潔に言うとな、頭と決闘しないといけなくなった」

「え、なんでです?」


 確か前僕は断ったし、そんな事になる理由が思い当たらないのだが。

 そんな見当も付かなかった僕にラースがよってきて、なにやら神妙そうな顔を向けてきていた。


「あ、あの、実は俺がするって言っちまって・・・・」


 ラースは顔を伏せてそう言っていた。その発言で思い出したが、もしかしたらあの出発の日に頭がいたのってそう言う事だったのだろうか。

 だがもうそんな事はどうでも良く受けた以上どうにかしなければいけない。そんな僕の疑問には御者台にいたブラッツが答えてくれた。


「俺の手引きでお前らを逃がしてやるよ」


 ずいぶん自身満々に振り返ってそう言っていた。大人が手伝うなら何とかなるかもしれないけど、ブラッツが手伝うなんて意外だった。てっきり僕の事なんて嫌っている物と思っていたのだが。


「で、あたしらの方で動くからとりあえずお前らは特に何もするな」


 突然寝起きに色々言われるもんだから、当事者のはずなのに実感は湧かないが、どうやら逃げれるかもしれないらしい。だが、一番それで喜びそうなラースが浮かない顔をしていた。


「ラースはなんでそんな落ち込んでるの?」

「い、いやだって俺のせいで皆を危険に・・・」


 あーそう言う事か。なんか漠然と殺されるって言われても実感ないが、それが本当ならラースは大分危ない取引したって事だもんな。


「まぁ起こった物は仕方ないよ。今できることやろう」


 僕はそんな当たり障りのないような励ましをラースに送った。そんな言葉でもラースにとっては必要な言葉らしく、ラースの顔が前を向いた。


「あ、あぁそうだな。俺頑張るわ」

「うん、頑張ろう」


 それ以外ではあんまり話さなかったけど、久々にラースと近い距離間で話せた気がした帰路だった。これからどうなるか分からないけど、とにかく僕は皆が死なないように立ち回るだけだと決意を新たにした。

 そんな僕らはまた1週間ほどの馬車の旅を終えて帰ってきた。


ーーーーー


 そうして帰ると既に夜で、ラースは早速エルシア達に脱出計画の事を話すらしく寝室へ向かってしまった。そして僕はというと、いつものように訓練室に向かっていた。

 

「久しぶりライサ」


 僕がそうやって扉を開けると、いつもと同じようにそこにライサが座っていた。


「おかえりフェリクス」


 僕はとりあえずライサに脱出計画を話す事になっているので、隣に座って一呼吸を置いてから話し出した。


「これ絶対に秘密なんだけどさ。実は近いうちにここから逃げるって話になってて」


 僕の言葉を聞くとライサは目をまんまるにして驚いていた。


「へぇー、え、でも逃げれるの?」

「ブラッツさんとかイリーナさんが手伝ってくれるらしい」

「なるほどぉ」


 案外あっさりとライサは受け入れていたようだった。イリーナへの信頼が厚いって事なんだろうな。

 一つ目の目的を果たした僕は、もう一つの目的をライサに話した。


「でさ、ライサには他の盗賊の監視を頼みたいの」


 ライサは心が読めるから計画が漏れてるとか、誰が裏切っているかが分かるから適任だ。もちろん危険な目に遭わないよう極力僕らもカバーするが。


「うん、それはいいけどさ。ラース君とは大丈夫なの?」


 僕らの仲の悪さを一番知っているライサが、そう心配するように言った。だが今回の事では僕とラースは協力することになってるし、今の所は大丈夫だ。


「今回はラース側からの提案なんだ。だから大丈夫だよ」


 この計画が動き出したのもラースが原因だけど、わざわざ言う必要が無いと判断して口を噤んだ。


「じゃあ私も頑張るね。フェリクスもいつもみたいに無理しないように!」


 そう言うとライサの右手が僕の頭を撫でてきた。もう見た目も13歳だし、まるで子供扱いされてるみたいで恥ずかしいかった。


「わ、分かったからそれやめて・・・・」

「やだ。やめなーい」


 僕が嫌がるのがそんなに面白いのか、ライサは楽しそうに笑って僕の頭をワシャワシャとかき回した。

 そんなライサの手を何とか振り払って、他愛のないような話を少しだけライサとして、その日の夜はラース達の部屋で僕は寝た。


ーーーーー


 俺が自室に戻ろうとしていると、突然後ろから声をかけられた。


「おいブラッツ話あんだがちょっと来い」


 ロルフが俺の方を叩いて何やらニヤニヤして話しかけてきていたが、正直今日は遠征で疲れているから断ろうとしたら、ロルフが無視できないような事を言いだした。


「バラしてもいんだぜ?」

「・・・・なんの話だ?」


 俺はそんなロルフの意味有りげな言葉に反応してしまった。そんな俺を見てロルフのやつはさらにニヤついた。


「さァ?考えれば分かんじゃねえか?」

「全く何の事か分からないんだが」


 俺がそうシラを切り通そうとすると、ロルフはそうかそうかと言いどこかへと歩き出そうとしていた。


「一回相談してやろうと思ったんだがなァ。頭に直接言っちまうかァ」


 そんなニヤけ面で俺から背を向けようとしていた。俺はこのまま行かせたら状況が悪くなると思い、ロルフの肩を掴み呼び止めた。


「おい、結局話聞いてないんだが」

「あ~何の話すっか忘れちまったなァ?」


 あくまでロルフは俺の口から言わせたいらしい。周囲に気配も無いし言っても良いのかもしれないが、性格の悪いこいつの事だ何か罠を仕掛けてるかもしれない。

 そんな頭をフル回転して考える俺をあざ笑うかのように、ロルフは急かしてきた。


「早くしてくれよォ。俺も暇じゃねェんだ」


 だが止めたはいいもののこいつが、本当に逃亡計画の事を知っているのか確信が持てない。俺が変に情報を漏らして、計画に支障をきたしてイリーナにもしもがあってはいけない。


「い、いや何でもない。時間取らせた」


 俺は不安を残しつつもロルフの肩から手を離した。直接的にロルフが何を知っているか言わない以上、俺が口を開くわけにはいかない、そう言う判断を最終的に下した。

 それでも不安そうにしている俺を見て、ロルフは更にニヤついてどこかへ歩いて行ってしまった。


「大丈夫なはず・・・・」


 俺はそう思う事にして、あいつのニヤけ面を忘れるように自室に戻り逃亡計画を練ることにした。

 

 そうして他の仕事もしながら、計画を進めて1週間ほどが経った頃だろうか。その間ロルフと頭が直接的に何かをしてくることは無く、とうとう決闘の日が決まってしまった。なので俺はイリーナと相談するため、夜に部屋に行き密談をしていた。


「あのガキの話だと決闘は2週間後の満月の夜か」

「・・・・だな」


 今朝この事を聞かされて対処に追われたが、一応計画は何とかその日程に合わせることができた。俺が計画の内で前々から、馬車を借りる方便として遠征を進言していた町が使えて良かった。

 それに後考えないといけないのは、その馬車の運転手の買収か。俺の計画だと二台分を乗っ取るから、戦闘することを考えても運転手が欲しい。だから運転手の事はイリーナに任せてあるのだがどうなっただろうか。


「前言っていた運転手の件は当てはありそうか?」

「それが思ったより信用できそうな奴がいなくてな・・・・」


 イリーナが頭を掻いてすまんと謝ってきた。だがそれは俺の方でも運転手はリストアップしていたから、俺が代わりにやると言った。だが俺に任せっきりになるのが嫌なのか、余計に申し訳なさそうにしていた。まぁイリーナはそういう細々とした所が苦手だから仕方ないとは思うんだがな。


「あ、あと決行日は決闘当日にするつもりだ。ちょっと2週間だと近すぎて遠征は組めないから、決闘の3日後に行く事にして決闘当日馬車を事前に借りるつもりだ」


 通常遠征は2~5週間かかるから、どうしても決闘をする二週間後以内だと頭の許可が下りなかった。でもそんな中、代案の一つだった決闘の日の当日に逃亡する計画が生きて良かった。遠征三日前ならギリギリ馬車の準備をしても疑われないだろうし、運よくこのタイミングで遠征の許可が取れて良かった。


「何から何まですまんな」


 俺としてはイリーナに頼られるのが嬉しいから、そんなに申し訳なさそうにしなくても良いと思うのだが。そんな事恥ずかしくて口に出せないが。

 そうやってイリーナに褒められると嬉しくなって、ついに口角が上がりそうになるのを俺は必死に抑えた。


「大丈夫だって。イリーナの方も頑張ってくれよ~」


 少し声が上ずったような気がしたが、イリーナは気にしていないようだった。


「あ、あぁ分かってる。カーラにも話したしな」


 当日はガキどもを逃がして、馬車に隠すのはイリーナが担当することになっている。で、俺は出来るだけ決闘場で来ないガキどもが怪しまれないよう、頭を相手に時間稼ぎするって訳だ。そこが難しいんだが、まぁそれは俺の腕の見せ所ってやつだ。


「じゃあまた計画煮詰まったら報告するわ」

 

 俺はあまり長居すると怪しまれると、立ち上がってイリーナの部屋を後にした。最近のイリーナは動揺しているのか何時も不安げだから、なんとか励ましてあげたいけどそれを許すだけの時間が俺には無い。そう俺はまた走り出した。

 

ーーーーー


 決闘の日がラースから伝えられ、それが二週間後だと判明した日の夜。僕はラース達と改まって話の場を設けていた。そんな人で手ざまになった、食堂にはイリーナを含めてラースやカーラなど全員が揃っていた。

 そんな中最初に声を発したのはイリーナだった。


「とりあえずどうするかについては、明日ブラッツとあたしが相談する」


 そう目下の問題は、あまりに決闘の日が近いという事なのだ。全く準備の事について知らされてないし、僕らにとっては不安でしかない。

 だが不安と言っても僕らに出来ることは無く、任せるしかないから仕方ないと割り切り押し込んだ。


「じゃあお願いします」


 それから軽い計画のすり合わせをイリーナと話していると、突然カーラが喋り出した。


「なんで皆フェリクスとかイリーナの事信用出来るんです??」


 その場にいた全員の視線が一瞬にしてカーラに集まった。が、そんな視線に怯む事無く僕を強く睨んで叫んだ。


「だってこいつが私のパパとお姉ちゃんを殺したんだよ!!!」


 今にも暴れ出しそうになっていたそんなカーラを抑えてくれたのはラースだった。

 そんなラースは立ち上がったカーラに近づいて肩を抑えて言った。


「カーラ。フェリクスの事を信用できなくても、今は俺の事信用してくれないか?」

「なんで!!!ラースさんだって今まであいつの事悪く言ってたじゃん!!!」


 そんな唐突な悪口の告発に一瞬ラースは黙ってこっちを見たが、すぐににそれは今関係ないと説得を再開した。


「いいから。これは俺が言い始めた事なんだよ。なっ?」


 ラースはそう宥めようとして、エルシアに協力を求めて視線を送っていた。だが視線を向けられたエルシアの表情は硬く、何も言わずにそっぽを向いてしまった。

 そんなエルシアを見て困り顔になっていたラースに助け船を出すべきか迷っていると、今まで黙って様子を見ていたルーカスが話し出した。


「カーラちゃん。今逃げないと皆死んじゃうのかもしれないんだよ?確かに君にとっては信用できないのかもしれないけど、死ぬよりはましじゃない?」

「・・・・でもさ、なんであいつなんかが・・・・」


 ルーカスの説得に多少声量が落ちたが、それでも納得は出来ていない様子だった。


「気持ちは分かるよ。でもカーラちゃんのお父さんも君には生きていて欲しいと思うんじゃないかな?」

「・・・・・・」


 ルーカスの言葉を聞くとカーラは黙り込んでしまった。とりあえず納得したという事でいいのかと思っていると、エルシアが時間だからと一言残してカーラの手を引っ張って連れて行ってしまった。


「んだよあいつ・・・」


 ラースがそうボソッと呟いていた。僕も最近のエルシアの行動が良く分からないのだけど、今回の逃亡計画に納得してくれているのだろうか。ラースによると承諾はしたみたいだけど、あの雰囲気だと思う所はあるって感じだしな。


「まぁお前らも時間だし寝ろ」


 だが実際夜も遅かったので、イリーナの一声でその日の夜はお開きになって解散となった。


ーーーーーー


 ある一室にて。


「なァ頭。ブラッツの奴放置していていいのかよ」


 俺は目の前で剣をいじる白髪のジジイに話しかけていた。


「ん?放置って?」


 分かっているはずなのに、目の前の男のわざわざとぼける回答にイラついたが、それを抑えて俺は付け加えた。


「だからイリーナの奴らが逃げようとしてる話だよ」

「あーあれね。面白そうだからいいじゃん」


 俺がせっかく教えてやったのに、こいつはこんな態度を取り続けてやがる。一発殴ってやりたい気持ちが湧いてくるが、俺がどうやっても勝てないからと拳を引っ込めた。クソイラつく。

 それにあのイリーナを気に入っているのか知らんが、いっつも優遇して今回も本当は逃がそうとしているのではと勘ぐってしまう。


「でも逃げられたらまずいだろ」

「いいから。邪魔しないでね?」


 目の前の男の目が俺を見た。ただただ感情の読めない不気味な目だった。


「ッチ、わーったよ!!」


 俺はそんな目が怖くなって、逃げるようにして部屋を後にした。


「いやぁ、何を見せてくれるのかなぁ」


 白髪の男の剣が、妖しく蠟燭の橙色の光を反射していた。


 


 




 

 次の投稿は少し忙しくなるため金曜日(4月4日)にします。申し訳ありません。

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