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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第二章
35/149

第三十四話 すれ違い

すみません。更新遅れました。


 俺の人生はイリーナありきで廻ってきた。イリーナに見てもらえるように、笑いかけてもらえるように俺はどんなことにでも手を染めてきた。

 

 そう俺は荷台にいるイリーナを振り返った。どうやらまだフェリクスの奴を気に掛けているらしい。

 俺はそんな事に不満を覚えつつ前に向き直って、馬車を運転しながらなんとなく昔の事を思い出していた。

 

 俺達の人生が激変したのが、あのクソジジイに襲撃された曇りの日だった。

 俺とイリーナはまだその時9歳の頃で、その時は祭りの日で家族ぐるみで一緒に飯を食っていたのを覚えている。その頃のイリーナは今と違って女の子らしく良く笑う子で、俺は多分好きだったんだと思う。


 でもそんな平和な時間は長くは続かなかった。食事も終盤に差し掛かり、イリーナの父親が他と飲みに行こうとと扉を開けた時だった。


「ん?どちら様です?」


 俺とイリーナはまだその異変に気付かず、珍しく出た甘い菓子をほおばっていた。


「お~い。黙ってないでなにか、、、」


 その時、俺かイリーナの母親の声か分からないが甲高い叫び声が聞こえた。その声で俺達も視線を上げて、ドアの方を見るとイリーナの父親を剣が貫通していた。


「おいしょっと」


 そしてイリーナの父親をごみのように蹴とばして、家の中に白髪の生えた中年らしき男が入ってきた。もうそれで僕らは大混乱に陥ってしまっていた。


「おいブラッツ!!イリーナちゃんを連れて逃げろ!!!」


 そんな中俺の父親が俺らを守るように手を広げていた。だが、その時の俺には状況が掴めずただ立ち止まることしか出来なかった。


「ん~それは困るなぁ。別に大人殺しても楽しくないし」


 なぜか部屋に入ってきた男は鼻歌を歌いながら、俺らを見てコツコツと足音を立てて近づいてきた。


「ブラッツ!!逃げるよ!!!」


 動けなかった俺の代わりにイリーナが手を引っ張って走り出してくれた。そういえばそうだけど昔からこういう肝の座った所は変わらないと思う。

 だがそうやって後ろで聞こえる叫び声を無視して逃げたはいいものの、裏口にも見知らぬ顔の人物がいた。


「ほ~ら怖くないよ~。こっちおいで~」


 新手から離れるよう、イリーナはまた俺の手を引っ張って逃げ出した。


「ど、どうするの?イリーナ?」

「とりあえずお兄ちゃんの部屋で隠れる!!!」


 今思うとそんな事した所で意味はないだろうと思うが、当時の俺らにとってはそれしか選択肢が無かった。

 でも実際イリーナの兄は冒険者ギルドに所属していたし、俺も憧れていた人だったからこの時はまだなんとかなるかもと希望を抱いていた。


「お兄ちゃん!!!いる???」


 イリーナがすごい勢いで扉を開けた。途中から食事にいなくなったと思ったら先に部屋に戻っていたらしく、部屋で黙々と剣の手入れをしているようだった。


「どうしたんだそんな急いで。それにさっきすごい音が、、、」

「いいから!!変な人が来てて父さんが!!!」


 流石に戦闘経験があるのか、この時のイリーナの兄の動きは早く、俺らをベットの下に隠して防具を装備しだしていた。


「イリーナ、今何人入ってきてる?」

「わ、私が見たのは二人、、、」


 イリーナの手が震えていた。多分俺の手も震えていたけど、この時は俺が守らなければと強くイリーナの手を握っていたと思う。


「絶対俺が良いって言うまで、出てくんなよ」


 そうイリーナの兄が扉に手を掛けた時、あの鼻歌が聞こえてきた。


「お、ここかぁ。随分いい家に住んでるみたいだねぇ」


 その声が聞こえた瞬間ドアが弾け飛んだ。まさにその表現が誇張ではない程粉々に破壊された。多分何かしらの魔法だったと思うけど、今でもその正体が俺には分からない。

 そしてそれはドアだけじゃなく、ドアノブに手を掛けていたイリーナの兄にも影響を与えていた。


「あ、ごめんねぇ。手首大丈夫?」


 恐る恐るベットの下から見ると、左手が丸々消し飛び大量の血が流れ落ちていた。


「・・・・何が目的だ?」


 だが、イリーナの兄はそんなもの気にしないと言わんばかりに、剣を構え直して立っていた。


「言ったら、君の妹の場所教えてくれる?」

「・・・・・そうか」


 それだけ言って、片手だけで握った剣を振り上げた。


「おぉ怖い」


 だが気付いた時には、ポトリと俺たちの隠れるベットの近くに何かが落ちた。

 それをよく見ると、さっきまで剣を握っていたイリーナの兄の手首だった。それと分かった瞬間イリーナが叫び出しそうになるのを俺は必死に抑えた。

 でもイリーナの兄が倒れて、静かになった部屋ではそれも意味をなさなかった。


「お、そんな所に隠れてたんだ」


 僕らを覗き込むように、中年の男が屈みこんでいた。俺は錯乱しかけているイリーナを何とか守らないと、そう勇みよく思ったが所詮はガキ、何も出来ずただ漏らしてしまっていた。


「ほ~ら出ておいで~」


 俺の手が男に引っ張られ、次いで泣きわめくイリーナも連れ出された。

 そして俺がその男に縛られている時、イリーナが兄の剣を拾って立ち上がった。


「よ、よくもお兄ちゃんを!!!」


 今まで剣を握った事も無かったイリーナが、憎悪に燃えた顔をして男に切りかかっていた。


「もー、今縛ってる所なのにい」


 男は俺を縛るのをやめたかと思うと、イリーナの振るった抜き身の剣を素手て掴んでいた。


「後で相手してあげるから、大人しくしててね」


 剣を掴まれ動けなくなったイリーナは、腹に一発を入れられうずくまっていた。

 でもそんなところを見ても、俺の足は動かなかった。助けなきゃと思うけど、体が震えて力が入らなかった。ただただ苦しみ泣いているイリーナを見ている事しか俺には出来なかった。


 そうして俺らはすべてを失って男に連れていかれた。これは後から知った事なのだが、その男こそがこの盗賊の頭らしかった。


ーーーーー


 それからは俺たちにとって苦しい日々が始まった。暴力は当たり前で飯もまともに出ない、部屋は汚い、そんな劣悪な環境で俺たちは、来る日も来る日も寝る間も惜しんで訓練させられた。

 でもそんな中特に俺を苦しめていた事が他にあった。


「お前は魔法使えねぇんだから、イリーナがいないとすぐにでも捨てられるんだぞ?だから分かってるよな??」


 そう俺はただ、イリーナが逃げないようにするための人質だったのだ。イリーナをこの地獄のような環境に縛り付ける錘だったのだ。

 これが本当に耐えれなかった。俺の存在価値は、ただイリーナを苦しめ続けることでしかない。だから俺はイリーナの邪魔をしたくないから、何度も死のうとした。所詮俺が死んだところで状況は改善されるわけでも無いのに。

 でもそんな俺をイリーナは常に励ましてくれていた。イリーナ自身が一番苦しいだろうに、私が何とかするからといつも笑っていてくれた。それでどれだけ俺が助けられたことだったか。


 そんな時間をイリーナと過ごして俺達は12歳になった。そんなある日とうとうイリーナが戦いに行くらしく、3週間ほどいなくなった時があった。

 だがそうやって帰ってきたイリーナはひどくやつれているようだった。


「だ、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だから・・・」


 イリーナは笑うことなくそのまま寝込んでしまった。寝ている時も何かに苦しんでいるように、うなされていた。

 

 それからはどんどんとイリーナの様子がおかしくなった。

 剣を握ると何かを思い出したように発狂しだすし、珍しく赤いベリー系の甘い物が出た時なんて何故かひどく怯えて食べようとしなかった。

 でもそんな生活が続くと、イリーナは戦いに行き続けていた反動なのか、そういう負の感情すら見せる事が無くなっていった。

 俺はそんなイリーナを守ろうと必死に努力した。でも所詮は魔法すら使えないガキ。戦いや遠征には連れて行って貰えず、毎回傷ついて帰ってくるイリーナを迎えるだけ。俺にはそれしか出来なかった。

 そう俺は身長ばかり高くなって、あのベットの下から何も成長してなかったのだ。


 でもそんな俺にも転機が訪れた。それは俺が16歳の時やっとイリーナと一緒に外に出れることになったのだ。俺はこれまでの努力が報われたような気になって、やる気満々で馬車に乗り込んでいた。ひどく冷めたイリーナの視線に気づかずに。


 俺達が来た戦場はまさに地獄だった。ちょうど大帝国の崩壊直後だったこともあって、どこもかしこも戦火が上がっていたが特にあの戦場は酷かった。町は燃え、死体は山積みになり、子供は剣を握るようなこの世の終わりという表現がぴったりな状況だった。

 

 それは俺達も例外ではなかった。


「ブラッツ、貴方も殺して」


 イリーナが死にかけの男を指差して、俺に剣を差し出してきた。


「い、いやもうこの人死ぬよ?わざわざやらなくても・・・」

「いつか殺さないといけないなら今殺した方が良いよ。それにもうこの人は助からないから楽にしてあげたほうが良いでしょ?」


 あの優しくて良く笑うイリーナからは、そんな想像したくもないような事を言われた。何も感情を持っていないかのように、瞳に揺らぎはなく淡々とそう言っているのだ。目の前にいるのが、本物のイリーナか俺には確証を持てなかった。


「時間が無いから早く」


 そう言いながらイリーナは他の地面に伏している大人たちを、淡々と処理するように剣を突き立てていた。


「ば、ばけもの・・・」


 俺にはそんなイリーナが人間には見えなかった。もしかしたら俺が今見ているのは幻覚で、俺の頭がおかしくなったのではと疑ってしまうほどに。


「あっそ。じゃあ良いよ。あたしはもう行くから」


 イリーナは少し目を落として、俺の元から去っていった。俺はというと、ただ剣すら握ることが出来ずにその場に座り込んでしまったいた。


 そんな風に去っていくイリーナの事を今でも夢に見る。それぐらいあの時の事を後悔している。

 だからその時から俺は、イリーナから信用を取り戻すために必死にやれることをやった。身分を偽り、人を騙して、殺して、裏方として俺のできるだけをやった。人を殺すこと以外は全部。

 

 でもそれだけやってもイリーナは、振り返ってくれず全く俺に笑いかけてくれなかった。ずっとどこか俺に対してよそよそしいかったのだ。

 そんなある日イリーナはある女の子を連れてきた。


「ライサだ。これからあたしが世話する」


 そう紹介された癖ッ毛の女の子はイリーナの陰に隠れいてた。どうやら心が読める子らしく、イリーナが見つけて連れてきたらしい。

 

 俺は当初そんなガキなんてどうでもいいと思っていた。だがイリーナにとっては違ったようで、ライサと関わる内に段々と笑うようになっていった。それにライサが他のガキを殺しかけて籠った時も、ずっと傍にいて世話をしていた。

 いい加減使い物にならないなら捨てろとロルフに言われた時なんて、あいつの顔の原形が残らないぐらいボコボコにしていたぐらい、イリーナは入れ込んでいた。


 俺はそんなライサに少しだけ嫉妬していた。俺が引き出すことのできなかった、イリーナの笑顔も怒りもライサの前では当たり前のようにあるのだ。

 でもライサは心が読めるから、それぐらい出来て当たり前なのだろうと、今までのイリーナの為にしてきた自分の努力が否定されないよう納得させていた。


 だがあいつ、フェリクスが来た。

 あいつは俺と同じで家族を守れず何も出来なかったくせに、俺と違って平気そうにしているのが気に食わなかった。それに時間が経つと、イリーナはよくフェリクスの話をするようになって、それが俺にとってどうしようもなく腹が立った。なんであの時の俺はダメで、同じ境遇のあいつは良いんだと。


 だから俺はロルフに吹き込んだ。


「なぁロルフ?」

「あ?んだよ」


 移動中の馬車の中、相変わらず機嫌の悪そうなロルフに俺はあえて挑発するように言った。


「お前あの黒髪のフェリクスとか言うガキに負けたんだってな?」

「喧嘩うってんのか?戦えもしねェ雑魚のクセに」


 俺も少しその言葉に眉が動いたが、抑えて話を続けた。


「いやいやあのクソガキにやり返すチャンスだって話だよ」

「やりかえすったって、勝手に手出したら頭に何されるか分かんねェぞ?」


 直接やればそうだけど、今の俺にはうってつけの考えがあった。


「だからあいつに他のガキの前で、適当に町民を殺させるんだよ。もし拒否したら制裁として一発殴るぐらいは許されるだろ?どうだ?」


 俺がそう言うと気に入ったようでロルフはニヤついた。


「確かにいいなァそれ。あいつどうやって泣き喚くのか今から楽しみだなァ。それにイリーナの奴もどんな顔すんだか」


 イリーナとロルフは互いに嫌いあってるが、俺は案外好きだ。こうやって扱いやすいし、汚い事は躊躇なくやるから便利だ。


「じゃ、そう言う事で」


 俺は馬車が川辺に泊まった所で降りてフェリクスの元へ向かった。

 のんきに立っている背中を見ると、自然と笑いが出そうになる。どうせお前も俺と一緒で、人一人殺せず漏らしてイリーナに失望されるんだと。


 でも俺の人生はどうも上手く行く事がないらしかった。

 せっかくロルフが殺すように、フェリクスに命令してもイリーナが止めやがった。なんで俺の時は無理やりやらせようとしたのに、なんであのガキにはあんなに優しくするんだと不満を覚えた。

 

 そう怒りが湧きあがったが、あのガキが人殺しを嫌がってるのを見てまぁ良いかと溜飲を下げたその時。

 あのガキは剣を振り下ろした。それも二人に。俺があの時やればよかったと後悔した事を、あいつは仲間に止められながらも一人でやってしまったのだ。まるであの時の俺を否定するかのように。


 それからはあのガキの顔を見る度に虫唾が走った。俺よりもイリーナと仲良く話して、イリーナを助けて役に立って、あまつさえ一晩部屋に行っていて、ただただ腹が立った。だから嫌味を言うが、俺が惨めに思えて余計に恥ずかしくなった。

 

 それに今回なんてこいつのお陰で俺らが助かったと言っても過言じゃない。まさに屈辱だ。

 そう俺は後ろの荷台で寝るフェリクスを見た。どうやらもう片方のガキは起きたらしくイリーナと話をしているようだった。


「まだフェリクス起きませんね」

「まぁ魔力使い切ったからな」


 俺は思考を打ち切って、御者台に座ってなんとなく会話を聞いていた。昔なら話に入っていったが、フェリクスの奴が来てからイリーナに話しかけるのが、戸惑うようになってしまった。俺とあいつが比較されるんじゃないかと怯えてしまっているせいかもしれない。そう思うと余計に腹が立つ。


「あ、あの。俺ちょっと話があって・・・」

「ん?どうした?」


 そんな俺をよそにラースが重々しい雰囲気で話し出した。


「実は頭と決闘受けるって言っちゃって・・・・」


 その言葉を聞いて俺とイリーナは固まった。確か俺らもそれをやって、町の友達がほとんど死んでしまったんだ。イリーナが生きていてよかったが、本当にあいつは頭がおかしいから全員殺すとかもやりかねない奴だ。


「お前一人か?」


 だが意外にもイリーナは落ち着いていたようだった。


「い、いや、フェリクスとか他も一緒にって話で・・・・」

「・・・・・そうか」


 俺にとっては都合のいい展開だと思ってしまった。フェリクスが死ねば、イリーナは俺に戻ってくるかもしれないし、あいつに俺の人生が否定され続ける事は無くなる。


「こっちで何とかするから、日付が決まったら教えてくれ」

「は、はい・・・・」


 俺はそんな会話を聞いて、どうにか邪魔しようと思索をするのだった。


ーーーーー


 その日の夜。俺たちは設営をして、順番に見張りを立てていた。

 そして夜も更け見張りを変わるために、イリーナの元に俺は向かった。するとやはりフェリクスのいる馬車の傍で煙を吸って座っていた。


「よ、交代だ」


 俺は出来るだけ平静に話しかけた。


「お前ラースの話聞いてたよな?」


 そんな俺をイリーナの碧い瞳が俺を見た。


「あ、あぁ、まあな。災難だよな」


 そんな事全く思ってないが。むしろ俺にとっては天祐だ。

 俺の考えを知ってか知らずか、イリーナは話そうと隣に座る様催促してきた。そして俺が座るとイリーナは話を続けた。


「確実にフェリクスの奴は殺される」

「大分頭も気に入っているらしいしな。どうしようもできねぇだろうな」


 俺は必死に口角が上がるのを我慢して話していた。やっと邪魔な奴が消えると思うとどうしようもなかった。


「だからあたしは、あいつらを逃がそうと思う」

「・・・・・・は?」


 意味が分からなかった。ライサの時でさえそんな事を言っていなかったのに、なんでフェリクスの時はそんな話になるんだ?

 俺の頭の中は処理が追い付かず固まってしまっていた。


「だからブラッツ。お前にも手伝って欲しい」


 そうイリーナが頭を下げてきた。そんなイリーナの態度に余計に状況が分からなくなっていった。

 だが少し落ち着いて、イリーナの願いとはいえ、そんな事は無理だと結論づけた。


「絶対殺されるぞ??あの頭から逃げれるわけねぇだろ???」


 多分10人がかかりでもあいつは倒せない。それに逃げるってなったら、他の足手まといも連れて行くから余計に難しいはず。


「だから遠征の振りをするつもりだ。積み荷に居残り組を隠してな」


 イリーナの目は本気だった。でも俺にとってはガキなんて死んでもらった方が良いし、もしイリーナが死ぬようなことになったら、俺はどうにかなってしまう自信がある。

 だから俺はどうにか思いとどまらせようと、冷や汗をかきながら早口になってまくし立てた。


「そ、そもそもさ?所詮ガキだぜ?どうせいつか死ぬか売られるんだし良いだろ??あ、それにお前が死んだらライサとかはどうするんだよ???あ、あとそもそもあいつらが決闘で死ぬと決まったわけじゃないしな!!!やっぱ少し焦りすぎじゃないか????一旦様子を見てからでもさ!!!」


 自分の口の上手さには自信があったが、そんな俺の薄っぺらい言葉はイリーナには響かなかったようだった。


「お前が手伝ってくれないなら、あたし一人でやる」


 まるであの日剣を俺に差し出してきたあの時のように、表情の無い顔で俺を見てきた。俺はそんなイリーナの瞳を見ると、あの日の事がフラッシュバックしてしまっていた。


「や、そ、そういう訳じゃなくてな??俺はただお前が心配で・・・」

「あたしはどうでもいいんだよ。あいつらに生きて欲しいんだ」


 それを俺はお前に想っているのがなんて分からないんだ。あの時もだけど、なんでいつもいつも俺の気持ちはイリーナに届かないのだろうか。もう少し俺の事も見てくれたっていいじゃないか。


「・・・・・まぁお前はフェリクスが嫌いだもんな」


 俺が乗り気じゃないのに気づいたのか、そんな事をイリーナは呟いた。


「・・・・・・・あいつから聞いたのか?」

「見てれば分かるって。どんだけ一緒にいると思うんだよ」


 イリーナが俺を見た。久々にそ笑顔を俺に向けてくれた気がする。それだけでフラッシュバックしていたあの景色は消えて、ただ嬉しいという感情で一杯になってしまった。

 つくづく俺は単純だと思うが、それだけで俺の心はさっきの判断スラ揺らいでしまった。この笑顔を向けてくれるなら、それぐらいやって見せてもいいのではと。

 そう俺の口は勝手に動き出した。


「じゃ、じゃあ仕方ねぇな!手伝ってやるよ!!」


 笑顔一つで説得されるなんて、アホだなとは自分でも思う。でもこれはあのガキどもの為じゃなく、今隣にいる女の為に俺は命を張るんだ。そう思うと事で自分を奮い立たせた。


「お!流石ブラッツだな!頼りにしてるぞ!!」


 またイリーナが笑いかけてくれた。俺が何年もかけても手に入れれなかった物が、こんなにも簡単にてにはいるとは思わなかった。

 そう俺はやる気を出して、さっきとは違う笑みを浮かべて逃亡計画を考えるのだった。


 

 そんな二人を少し離れている所で見ている人物がいた。


「なァんかおもしれェ事話してんな」


 そうして各々の思惑が交差して夜は更けていった。


 



 



 


 

 

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