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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第二章
32/149

第三十一話 相互不理解


 僕はガラガラとまた馬車に揺られていた。そしていつものように目隠しをされた状態で、到着するのを待っていると、いつもより早く馬車が止まった。


「じゃあフェリクス目隠し外せ」


 その言葉に目隠しを外すと、洞窟の中の三叉路のような場所に馬車が止まっていた。


「今僕外しちゃっていいんです?」

「まぁすぐ着くからな。あたしらはここから歩いて行く」


 隣に座っていたイリーナに促され僕も馬車を下り、蝋燭の光を頼りに歩き出した。

 後ろでは僕らが通ってない方の道に馬車が進んでいったので、案外あの子達は近くに住まわされるのかもしれない。


「ここってどんな構造してるんです?」


 洞窟を再利用しているには、整備されすぎているように感じる。それにそもそもこんな大規模な施設を盗賊が持っている事も違和感がある。


「あたしも一部しか知らないな。そもそもここは大昔の戦争の時に作られたらしいし、全部知っている奴なんていないと思うぞ」

「へぇーそうなんですか」


 山の中にこんなものを掘って作るなんて、どんな戦争してたんだか。それに口ぶりからしても、相当広い施設なんだろうな。逃げるとなると余計に難易度が高そうだな。


「あぁそうだ。明日お前は訓練なしだ」


 イリーナがそう思い出したようにそう言った。

 訓練の代わりに何か僕に新しい任務的なものをやらされるのだろうか。


「うちの頭と会ってもらう」

「頭?」


 頭って事はこの盗賊のリーダー的な奴って事だろうか。


「まぁ偉い奴ってことだ。お前に拒否権はないからな」

「は~い」


 まぁ断る理由もないしいいか。絶対怖い人だと思うんだけど、気に食わないから殺すとかされないよな?そう思うと少し不安になってしまう。

 そんな事を考えていると、イリーナが声が響かないようにするためか耳打ちするようにして話しかけてきた。


「そういえばライサは最近どうだ?」

「ん?まぁ普通ですよ。何かあったんです?」

「ん~まぁちょっとな」


 随分とイリーナの歯切れが悪かった。もしかしてまたラース達と喧嘩でもしたのだろうかと思ったが、僕が見ている範囲では、そんな雰囲気が無かったんだがどうなんだろうか。

 そう僕が意図の分からない質問に悩んでいると、イリーナは少し考えた後、まぁいいかと話してくれた。


「あいつ今回町に行く前、一緒に連れてけって聞かなかったんだよな」

「ライサって魔法使えるけど、戦えませんよね?」

「あぁそうだ。剣すら握った事無いだろうしな」


 それなのに戦いたいってどういう心境の変化だろうか。確かに心読めるってなったら、戦闘する上では有利になりそうだけど、心読めるからこそ戦う時のストレスが重いのは想像に容易い。


「だからお前からも説得してくれないか?あたしとしてもライサには危険な思いをして欲しくない」

「まぁそれぐらいならいいですけど・・・」


 ライサって一度決めたら引かない所あるからなぁ。僕が説得できると良いけど。

 まぁ最近のライサは大人になってきてるし、流石に大丈夫か。


 そんな話をしている内にどうやら帰ってこれたらしく、道の先の広場のあたりに蝋燭の光が見えた。蝋燭の灯だけで陽の光が見えないって事は今は夜なのだろう。


「あれは・・・・ラースか」


 イリーナが目を細めて見ている先に、うっすら蝋燭の光で照らされるラースの顔が見えた。

 僕のお出迎えでもする気になってくれたのだろうか。


 そんな僕の考えは次のラースの言葉で見当はずれだったと分かった。


「また殺したのか」


 ラースの全身が見えるぐらい近づいた時、そう僕を向いて行った。僕はそれに答えようと口を開こうとするが、それをイリーナに防がれてしまった。


「不満があるならあたしに言え。こいつはあたしが命令したからやっているだけだ」


 イリーナが一歩前に出てラースに近づく。すると雲で塞がれていたのか月明りが入ってきて広場全体が青白い光で照らされた。そして広場の中心にはエルシアとカーラが二人手を繋いで立っているのが見えた。


「おいラースなんとか答えたらどうなんだ」


 黙って僕を睨みつけるだけのラースに、イリーナは少し怒声交じりの口調でそう言った。


「・・・・俺はフェリクスに聞いてる」

「だからな!こいつが悪いんじゃなくて、命令してるあたしが悪いってなんで分からないんだ!?」


 そんなラースの態度に対してイリーナの怒りが前面に出てきたが、それでもラースは僕を睨み続けていた。

 そんなラースを見てイリーナは我慢できなくなったのか、掴みかかろうとした。だがその時ラースは僕から視線を外すことなく言った。


「悪いとか良いじゃない。人一人殺したことをどう思ってるか聞きたいんだ。フェリクスはカーラの家族を殺した時も、謝罪もせず平気そうな顔してたんだしな」


 ラースの言葉を聞くと、とうとうイリーナがラースに掴みかかった。


「お前フェリクスがどんな気持ちだったのか分かってんのか!!!」


 だがそう激高するイリーナとは対照的にやはりラースは冷めた目で見ていた。


「知りませんよ。それに俺はフェリクスに聞いてるんです。離してくださいよ」


 イリーナがその言葉でラースに手を挙げようとした所で、僕は静止に入った。


「イリーナさん離してあげてください。僕が答えるので」


 僕の為に怒ってくれているのはありがたいけど、ラースに暴力を振るって欲しいなんて思っていない。それに僕がこうやる覚悟を決めてるんだから、人の言葉じゃなくて僕の言葉で答えないとダメだと思うから。

 僕はイリーナを下げさせて一歩前に出た。


「ラースの質問に答えるとするなら、今でも僕は何も思ってないよ。仕方ない事だったしね」


 こうやって僕はこれまでも同じような事を聞かれて、同じように答えてきた。でもラースとしては今回の事で僕が改心して、この回答が変わることを期待したのだろうが、そうする訳にはいかない。

 だからあえて冷たいように無関心なように僕は答えた。そんな僕にカーラとエルシアは恨みのこもったような視線を向けてくるが、それでも僕は貫いた。


「じゃあカーラにも、今回お前が殺した奴にも謝らないってことだな」

「そういう事になるね」


 謝った所でカーラの家族は帰ってこないし、恨みは晴れない。そんな風にカーラに何もなくなってしまうぐらいなら、僕が仇になってこの子が生きる目的になればいい。その目的が僕に対する復讐だったとしてもだ。それでカーラが幸せになる未来が少しでも生まれるなら、僕はカーラの父親との約束を果たせるのだから。


「・・・・・はぁ。お前が良い奴って思ってた俺がバカだったんだろうな」

「そうだよ。僕はラースにとっては悪い奴だろうね」


 僕は僕にとっても悪い奴でもあるが。

 そしてラースは一言だけ残して、エルシア達を連れて去ってしまった。


「・・・・・そうか。じゃあな人殺し」


 それを聞いて間違ってないなとは思った。実際自分の中で、人を殺すことに対するハードルが下がったように実感したばっかりだしな。


「おい、ちょっと来い」

「え?ちょ、ちょっと!」


 そんな僕をイリーナが手を引いて、来た道を戻るように進んでいった。

 そうして何も説明の無いままさっきの三叉路を超えると、いくつもある脇道の一つに入りある扉の前に案内された。


「早く入れ」


 イリーナに急かされ僕は、流されるままに部屋の中に入った。勢いで入ったそこは8畳ほどの部屋に小さな窓とベットと机があるだけの簡素な部屋だった。机の上にイリーナのパイプがあったから自室なのは分かった。


 そして僕の後ろでガタンと扉が閉まる音がした。そんな音に僕は振り返ってイリーナの顔を見た。


「なんで僕は連れてこられたんです?」

「お前あのままラースと一緒に寝れんのかよ」

「まぁ・・・それはきついかもですけど」

 

 だからといって、自分の部屋に連れてくる事はないんじゃないか。普通に今までも気まずい時は訓練室で雑魚寝していたんだし、そんな気を使わなくても僕は大丈夫なんだが。


「まぁとりあえず座れ」


 そう僕はイリーナに肩を押されベットに座らされた。そんな状況に困惑気味の僕を置いて、イリーナはパイプを手に取って火をつけだした。


「吸うんですか?」

「イライラした時はたまにな」


 イリーナの喫煙はあんまり見たことないけど、確か一年前も同じように吸っていたような気がする。

 そんなイリーナは椅子を窓際に持っていき、窓の縁に腕を掛けて煙を吸っていた。


「で、いいのかよ。ラースに言われっぱなしで」

「言い返した所も意味ないですよ」

「・・・まぁそうかもしれんがなぁ」


 言葉を選んでいるのか、頭を掻きながらイリーナが悩んでいた。僕の事を大分気を使ってくれているらしいのは分かる。


「いっその事謝るのはないか?一年たったしカーラも許してくれるんじゃないか?」


 煙を吐いて落ち着かせたのか、イリーナなりの解決案を出してきてくれた。だが僕にはそれで上手くいくとは思えなかった。


「・・・・イリーナさんはラースから許されたと思ってます?」

「いやぁ、まぁそれはあたしが謝ってないしさ」

「どちらにせよ変わんないんですよ。一度埋め込まれた恨みってのは中々消えないんですから」


 僕だってまだ慣れたとはいえ、ブラッツやロルフと話すのは嫌だしな。それにこんな事イリーナに言えないが、僕は前世の記憶があるからまだこうやって妥協して考えれるだけだしな。精神年齢が体と一緒なラースやカーラ達はそうじゃないから猶更無理だろうし。

 それにそういうの抜きにしたとしてもただただ自分の家族を奪った敵でしか無くて、許せる相手な訳ないからな。


「でも事情説明すれば、どうにかなるんじゃないか?」


 そうイリーナは今の状態をどうしても解決したいと思ってるのか、また解決案を出してくれていた。

 でもそれもこれも僕からしたらダメだった。


「カーラにお前の家族が死んだのは仕方ないんだって言うんです?」

「いや、そこまでは・・・・・」

「言い方の差はあれど、同じことですよ」


 それこそ殺人を正当化しているだけだ。仮にそれが正しくても、カーラにとって家族の死は理不尽な出来事に変わらないんだしな。


「別に僕は大丈夫ですよ。あとこれからは訓練室で寝るので」


 僕は話はこれで終わりと、立ち上がり部屋を去ろうとした。だがそんな僕を行かせる気はないのかイリーナに肩を掴まれた。


「ダメだ。それに今出るとお前とあたし両方殺されちまう」

「・・・え?」


 そんなイリーナの話を聞くと、夜に子供をこの区画まで連れてきてはダメらしい。それでバレたら逃亡したとみなされて殺されると。


「・・・・じゃあなんで連れてきたんです?」

「お前を一人にしちゃいけないと思ったからだな」


 やっぱこの人は口では色々ひどい事言う時あるけど、優しい所が隠せてないな。まぁだからこそこの人に対して、そこまで恨み切れないんだけど。

 

「でもいいですよ。バレたら僕が一人で逃げたって言いますし」


 結局朝この部屋を出るときとかもバレるリスクはあるし、イリーナに迷惑を掛けたくない。

 そう僕がドアノブに手を掛けたら、急にイリーナが後ろから抱きついてきた。


「ん?っえ?どうしたんです?」


 そんな唐突なイリーナの行動に、こんな状況なのに僕は少しドキドキして振り返ろうとした。だがその時僕の足は地面から離れて全身を浮遊感が襲った。


「うらぁぁあああ!!!」


 そんな叫び声と共に天井が見えたと思ったら、そのまま僕の後頭部に強い衝撃が走り意識がそこで切れた。


ーーーーーー


 「・・・・・う、うん?」


 窓から入ってくる朝日で僕は目を覚ました。だがすぐに後頭部が痛みそこを撫でるとたんこぶが出来ていた。


「バックドロップなんて初めて食らったな・・・・」


 今冷静になって思い出すと多分そうだったと思う。子供相手にそんな事すんなよと思いながら、イリーナの行方を捜すと窓際で寝落ちしてしまっているようだった。


「起きてください。朝ですよ」


 僕がイリーナの肩を揺らすが中々起きなかった。今、日の出って事は朝食の時間だから寝坊だと思うのだが・・・・。


「・・・・・・ん?あぁ、うん。分かってるから」


 イリーナがそう返事をするが一向に目を開こうとしない。案外この人の寝起きは良くないらしい。

 だから僕は昨日の仕返しと、魔法で小さな水の球を作り顔にぶつけた。


 そんな魔法がパシャンと音共にぶつかったと思うと、一瞬でイリーナが目が開かれた。だが何が起こったか分からないようで、僕を見たまま数秒フリーズしていた。


「・・・・・お前何やってんだ?」

「いやぁ、ちょっと目覚ましになるかなと・・・」


 イリーナがそのままの姿勢で真顔で僕をじっと見ていた。やりすぎたかもしれないと僕の背中に冷たい感覚が走った。


「あ、あぁ朝か。そうかそうだよな」


 そう言ってイリーナは何もなかったように立ち上がった。


「てか頭大丈夫か?」


 それはどっちの意味だろうか。流石に昨日のバックドロップの事だよなと思い僕はたんこぶを見せた。


「良かったよかった。血が出てたから焦ったんだよ」


 この人血が出たって大分えげつない事してないか。それに治癒魔法を使ったらしく、僕の魔力が少なくなっているのが肌間で分かった。


「まぁ今のでチャラってことで!」


 昨日のシリアスな感じはどこへやら、イリーナはすっかり元のおちゃらけた感じに戻ってしまった。

 そしてイリーナは顔を拭くと外を確認するため、先に部屋を出て行ってしまった。

 

 すると扉の向こうで何やら会話する声が聞こえてきた。

 内容までは聞き取れないが、相手は男の声だろうか。今僕がここにいる事がばれないといいのだが。

 そうして耳を澄ませて数分が経った頃、どうやら会話は終わったらしくまた扉が開いた。


「ブラッツにあいつらの朝食任せたから、あたしらはそのまま頭の所行くぞ」

「え、あ、はい」


 僕はまたイリーナに手を引かれて、通路を進んだ。まだ朝早いからか他の盗賊を見かける事もなく、お目当てであろう扉の前までついた。

 にしても迷路みたいに入り組んでいて、よく場所を覚えられるもんだなとイリーナに感心した。


 そんな事を僕が思っている内にイリーナが扉をノックすると、中年ぐらいの間の抜けた男の声が返ってきた。


「入っていいよ~」


 僕はイリーナに連れられ部屋に入った。部屋の中は盗賊の頭だから宝物でもあるのかと思ったが、そこまできらびやかな感じはなかった。もちろん部屋の内装は上品な感じはしたが。それにどちらかと言うと、その場にロルフが居た事の方が僕にはインパクトが大きかった。


「あ?朝早いなって、あのガキじゃあねェか」


 ロルフがそう遊び道具を見つけたかのように、嫌な笑顔をして僕を見てきた。でもそんなロルフは今僕に絡むつもりは無いのか、部屋を出ようと僕の脇を通りそのまま扉を開いた。


「じゃ、また遊ぼうなクソガキ」


 それだけ言って部屋の扉を閉じてしまった。一瞬会っただけでも不愉快な人間だった。

 だが、今はそんな事より目の前で座っている人間だ。

 さっき聞こえた声の感じからも優しそうな感じがしたけど、見た目も人の良さそうな白髪のお爺さんだった。


「で、君がフェリクス君だね」

「え、あ、はい」

「イリーナから聞いてるよ~、魔法凄いんだって?」


 ロルフとかを従えているから、どんな凶悪な人物かと思ってたけど、喋った感じでも物腰が柔らかくて丁寧な印象だった。


「それに今回の遠征でも活躍したってねぇ。いやぁ高い金払った甲斐があったよ」

「あ、ありがとうございます」


 わざわざ呼び出してこんな事を言うつもりだったのか。

 そう思っていると目の前の男が、これが本題と言わんばかりに机に肘をついて前のめりになった。


「でさ、私遊ぶのが好きなんだよね。君みたいな変な子とかとね」

「は、はぁ・・・そうなんですか」


 この人の言う意図が見えない。

 すると目の前の男は、机の上にガシャりとした音と共に袋を置いた。


「ここに20金貨あるんだけどさ。私と決闘して殺せたら全部上げるし仲間ごと逃がしてあげるよ」

「・・・・え?」

「その代わり負けたら一生私の物だけどね」


 意図を聞けたけど、その意味が分からなかった。僕にとってその提案は、わざわざそんな事をする意味も分からさすぎてただ怖かった。


「い、今の時点で僕は貴方の所有物なのに、なんでそんな事をするんです?」


 デメリットが僕にとっては現状維持だけだと、上手い話過ぎて逆に怖くなってしまう。


「ん~っとねぇ。私は人間が必死になって僅かな希望を掛けて戦う所が見たいんだよ」

「・・・・・?」


 根本的にこの人とは思考が合わないのかもしれない。全く言っている意味が分からない。そんな僕に自分の趣味がいかに面白いか説明するように、満面の笑みで語り出した。


「だって面白いじゃない。負けそうになって力を振り絞って立ち上がったり、仲間の応援で奮起した時に、無慈悲に叩きのめすの」

「・・・・それをしてなんになるんです?」

 

 そう僕が言うとイリーナが小さい声でバカ呟きと僕の頭を叩いた。そして僕の頭と自分の頭を下げて謝罪をしていた。


「すみません。まだ子供なので許してください」

「いいよいいよ。まだ子供にはこの感覚は分かんないだろうからね」


 そうして僕の頭が上げられると、目の前の男がコツコツと歩み寄ってきた。

 そしてそのまま数センチ先まで迫って、僕の顔を掴んで僕の眼球を覗き込んできて言った。


「いやぁ君良い目してるねぇ。強い意志を感じるよ。この目がどうなるか見てみたいねぇ」


 だんだんとその男の指が僕の眼球を触ろうと近づいてきた時、やっとイリーナが止めに入った。


「もういいでしょう。前にも言った通りフェリクスは決闘するつもりは無いんです」

「なんだよぉ。つまんないねぇ」


 どうやら以前から誘われていたが、イリーナが守ってくれていたらしい。

 そしてその男は僕から手を離して、やっと僕の体は解放された。でも未だに恐怖のせいか体が上手く動かなかった。


「ま、したくなったら言ってねぇ」


 それで盗賊の頭との面談は終わった。あの空間は異様すぎてあと10分もいたら発狂していたかもしれない。それぐらいあの男が出す異様な雰囲気は気持ち悪かった。


「これから頭の誘いは絶対に断れよ」


 帰り道。歩きながらイリーナが声を抑えてそう言った。


「言われなくても断りますよ」


 あの男と決闘したら何されるか分からなさそうだしな。

 でもそれでも念を押したいらしく、イリーナはしつこく忠告してきた。


「あの感じだと、頭はお前が断りずらい状況を必ず作ってくると思う。でも絶対だぞ?」

「そこまでするなら強制すればいいんじゃないんですか?」

「・・・・・それが頭の美学なんだとさ」


 やっぱりあの男の思考回路は訳わからないな。絶対に関わらない方が良いタイプだ。今でさえいっぱいなのに、また別の問題が出てきて胃が痛くなりそうだった。

 

 僕は後頭部の痛みとは別の頭痛の種を新たに抱えて、ラース達のいる部屋へ弱々しく歩いて行った



 





 


 

 




 


 



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