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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第二章
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第三十話 慣れる怖さ


 僕らの馬車は町へ向かって進んでいた。

 そして入り口に着いた頃、遠目だがブラッツが門番と何やら話しているようだった。


「ブラッツさんって何なんです?」

「んー商人だったり学者だったり冒険者だったり色々だな」

「へぇ・・・」


 やっぱりスパイとかそう言う感じの役回りらしい。だからエルム村にも商人として、偵察に来てたんだろうな。

 でもそう言うの関係なく、あの軽薄でデリカシーの無い人柄が苦手な所はある。


「昔からあんな感じの人なんです?」

「・・・・まぁ小さい頃は普通の奴だったんだがな」

「そんな小さい頃から一緒なんです?」


 ブラッツもイリーナと一緒に攫われてきたとかそういうのだろうか。案外皆同じような境遇なのかもしれないな。

 そう思っていると、イリーナは少し考えた後話し出した。


「あいつとは同じ村出身なんだよ。で、一緒に攫われてきたって訳。その後はあんな感じになっちまった」

「なるほど・・・・」


 あの軽薄な感じは、ブラッツなりの生きてきた中で得た防衛手段だったのだろうか。でもあそこまで色々な事をこなせるなら逃げれそうなものだが、しない理由でもあるのか。


「お、入れたっぽいな」


 先頭を見ると、ブラッツの馬車が門を通されていた。そして僕らの馬車も一緒に動き出して村の中に入っていった。

 

 中に入ると、やはり外からの印象通り村より町って感じだった。それに祭りでもあるのか、屋台とか出ていてにぎやかな雰囲気だった。人口は100人いないぐらいだろうが、それでも町の中心は人でいっぱいだった。


「じゃあ、あたしらは西の入り口を抑えるぞ」

「はい」


 今回は僕らは逃げる町の人を門で待ち伏せするのが役目らしい。まぁ前みたいに直接殺すとか無いなら、その方が楽だから良かった。


 そうして僕らの馬車は隊列を離れて、西の入り口を目指した。

 そして目的地についたが、門らしきものはなく小さな水堀の上に橋が架かっているだけだった。最初通った門が正門だったって事なのだろう。

 僕らがその橋に近づくと、流石に見張りはいるようで帯剣した一人の男が馬車に寄ってきた。


「荷台見せてもらっていいですかね?一応決まりなんで」


 そうペコペコしながら、男が柔和な笑顔で話しかけてきた。まったく僕らを疑ってないと言った感じだった

 それに対して、イリーナは馬車を降りて対応していた。


「荷台って言ってもこれから積むんだよな」

「じゃあなぜここに?村の中心は反対側ですよ?」


 そんな会話の途中、後ろから悲鳴が聞こえてきた。どうやら始まったらしい。

 僕もそれに合わせて剣を抜く準備をして、馬車から降りる。門番の男はそんな僕の事より、中心で何があったのか気になるらしく、村の中心を見るようによそ見をしていた。


「ん?なんかあったんですかね?って・・・え?」


 そんな平和ボケしている男にイリーナがナイフを首に突きつけた。


「意味分かるな?大人しくしてろ」


 そうイリーナが言うと、目の前の男は両手を挙げコクコクと頷いていた。そんな男をイリーナは拘束した後、馬車の運転手に馬車で橋を塞ぐよう指示していた。


「これから僕はどうするんです?」


 叫び声だけが聞こえるだけでやることも無く手持無沙汰だった僕は、隣に立っているイリーナにそう聞いてみる。


「大人は無視でいいが、子供は見つけ次第捕まえる」


 よかった。やっぱり殺すとかそういうのはしなくていいみたいだ。や


「今回は5人だから、もしかしたら取り漏らすかもしれないし一応構えとけよ」

「は、はい・・・・」


 自分勝手な願いだけど、頼むからここには来ないで欲しい。

 そんな願いが通じたのか、しばらくは付近にはあまり人は来ず遠くから聞こえる悲鳴と金属音だけが響いていた。さっきまであんなに楽しそうで平和そうな町だったのに異様な変わり様だった。


「・・・・戦ってますね」

「そうだな」


 僕はまた剣を振るえるのだろうか。今でも剣を抜くと、殺した時の事がフラッシュバックするのがよくある。でも今日は逃げるわけにはいかない。殺せと言われたら殺さないと僕が今いる意味がない。


「不安か?」


 イリーナが腰に手をやって、僕を見ながらそう言った。


「不安じゃないと言ったら嘘になりますね。まだ手が震えてますし」


 そう僕は右手を見た。心では納得出来ていても、やっぱり体は拒絶しているらしかった。

 そんな右手の震えを抑えようとしていると、こちらに走ってくる人影が見えた。


「・・・・ブラッツしくじったな」


 その視線の先には、子供の集団を追うブラッツの姿があった。子供だけならすぐ追いつけるのだろうが、引率らしき大人達が魔法で妨害しているようだった。


「大人3人、ガキ6人か」

「そうみたいですね・・・・」


 僕は震える手を抑えて腰に掛けた剣を抜いた。多分あの人たちはこの町から逃げるためにここに来るはずだ。


「お前は援護をしろ。あたしとブラッツが直接相手する」

「・・・・はい」


 そうやって走ってきていた大人たちは、僕らが見えたのか絶望したような表情をしていた。そりゃ逃げた先にも敵がいて、出入り口が塞がれていたらそうもなるか。


「うし、じゃあ行くぞ!」


 僕はそんなイリーナの号令に合わせて走り出した。 

 すると相手も僕らを突破する腹積もりらしく、大人二人が前に出て手を突き出していた。


「僕が防ぎます!」

「任せた!」


 大人二人が飛ばして来た石魔法を、正面に魔法で水の球体を作り出して防ぐ。僕も石魔法で当て返して防ぐ手もあったけど、ぶつかった時の破片が子供に当てるのが怖かったからこうした。

 そしてそう僕が防いだ隙に、正面の大人二人にイリーナが吶喊して行った。


「子供たちを下げろ!俺が盾に、、、」


 そう叫んでいた男が言い切る前に、イリーナのナイフで首の大動脈を切られていた。そして血が吹き出したと思ったら、気づくとイリーナはそのまま反転してもう一人の男に襲い掛かっていた。


「ッチ、なんだよこいつらァ!!!」


 突っ込んでくるイリーナに、そう男は剣を振り下ろそうとするが、その前にイリーナの投げたナイフが首を貫通していた。

 そうやって戦うイリーナの横顔は、今まで見たことないような怖い顔をしていたのが印象に残っている。


「・・・・あとはお前だけだな」


 そして最後の女の大人の人を、イリーナとブラッツで挟み込むようにしていた。その周りに子供たちはいるが、怯えて動けないでいるようだった。


「・・・・何が目的なんですか」


 その女の人がイリーナに話しかけていた。あれは恐らく魔法を使うために時間稼ぎのつもりだろう。

 なので僕も石魔法の準備を始める。離れているし水魔法は使えないから、ピンポイントで防がないといけない。難易度は高いがやるしかない。


「ん~まぁ誘拐ってとこだな」

「攫ってどうするんです」

「それは教えらんねぇな」


 僕がそう警戒している内にもイリーナと女の人の会話が続いていた。

 そして次の瞬間。


「死ねぇええええ!!!!」


 女の人が右腕を前に出し、魔法でいくつもの小さな槍のような形を石で作り出した。そんな事が出来るのかと思っていると、すぐにそれらをイリーナに向かって飛ばしていた。


「どこにそんな魔力・・・」


 イリーナがそれを避けようとするが逃げた先にもその石の槍が来ていた。だが、僕がそれに合わせて用意していた石魔法を、ぶつけるために飛ばす。

 そうして僕の飛ばした石は当てやすい事を意識して、直径50㎝ぐらいの大きさだった。そのお陰もあってか飛ばされた槍状の石の先端部分に当たり、砕け散っていた。


「・・・・ふう」


 良かった。なんとか成功してよかった。

 そんな感情は僕に向けられた視線によってすぐかき消された。


「・・・・なんであんな子が」


 魔法を防がれた女の人が、怒りと困惑が混じったような表情をして僕を見ていた。

 

「じゃ、大人しくしててくださいね」


 そんな女の人を、今まで静かにしていたブラッツが地面に抑え込んだ。女の人もそれに抵抗して暴れようとするが、ほどなくして殺されてしまっていた。


「おい、ブラッツ。お前がしくじるなんて珍しいな」

「いやぁ。こいつが予想以上に手ごわくて・・・」


 そうブラッツは動かなくなった女の人を指差していた。

 だがそう僕の視線が地面に向いた時、あることに気づいた。


「イリーナさん!あの子怪我してます!」


 さっきの女の人の魔法が当たったのか、片足が抉られ泣き叫んでいる子がそこにはいた。ずっと他の子供たちの泣き声が聞こえてたから、混ざっていて気づかなかった。


「とりあえず治癒魔法かけます!」


 僕はそんな子に近寄り治癒魔法を掛けようとするが、なぜか出来なかった。

 それでも僕は何度も治癒魔法を掛けようとしている時、イリーナに肩を叩かれた。


「そいつは魔力ないから治癒魔法は出来ないぞ」

「・・・・え?」


 ふと冷静になると、ブレンダさんがそんな事を言っていた記憶が蘇ってきた。だが、治癒魔法が効かないなら止血ぐらいはしないといけない、そう思い僕は服を破って紐代わりにして動脈を縛り付けようとした。


「やめとけ。そいつはどうせ殺される」


 イリーナの手が僕の行動を止めようとしてくる。でもそれでも僕はなんとかしようと試みるが。


「お前はそいつを助けて一生面倒見れるのか?」

「・・・・え?」


 その言葉に僕はイリーナを見上げた。


「こいつは片足がない。これじゃこの先普通には生きれないし、あたしらの組織で面倒見る訳もない。お前はこいつを生かすために一緒に逃げて、ガキ二人で生きていけると思うか?」


 僕はその言葉で手が止まった。でも目の前の子はまだ泣き叫んでいた。


「それはお前の自己満足じゃないのか?このガキにとってそれは苦痛にならないか?」

「い、いやでも、生きていれば何とか・・・」


 僕がなんとか自分の行為を正当化しようと言葉をひねり出すが。


「そんなガキだけで生きていけるほど甘くねぇよ。足が無いってなったら猶更だ。確実にそんな事して生きてもその辺で野垂死ぬだけだぞ」


 イリーナは僕の手を取り言葉を続ける。


「お前のそういう所は良いと思う。だが人一人生かすって事は、そいつの人生背負いきる責任が必要なんだよ」


 背負いきる責任か・・・・。


「でもお前は背負いきれる分だけ背負うって決めたんだろ?だからあの時カーラの家族を殺したんじゃないのか?」


「・・・・・分かった」


 糸が切れたように僕の口からそう言葉が出た。僕にはこの子の人生を背負うだけの覚悟が出来なかったようだった。

 本当に僕は見捨ててばっかりだなと思う。こういう時漫画の主人公なら僕と違って、それでも助けるって言えるんだろうな。

 あぁそういえばラースならそう言うかもしれないな。

 

 そんな事を考えていると、イリーナが僕を立ち上がらせて言った。


「じゃあお前が介錯してやれ」


 そう言うイリーナの視線が、僕の握っている剣に向いた。


「助けないなら早く楽にしてあげろ」


 ずっと聞こえている男の子の苦しそうな悲鳴。それも今は弱々しくなっていた。

 

 そんな彼に僕は剣を振り下ろした。


 意外と僕の中ではトラウマになっていなかったらしく、迷うことなく剣を振れてしまった。

 でも切り終わった後、自分の中で理由があれば、こうやってあっさり殺せてしまう自分が怖かった。

 いつからこんな風になってしまったのだろうか。これじゃラースの言う通り殺人者みたいじゃないか。


「うし、じゃあ行くぞフェリクス」


 イリーナは僕を連れて馬車に戻っていった。そして後からブラッツは子供を縛って、僕らの馬車に子供達を乗せていた。


「じゃあ、後は頼んだぜイリーナ」

「あいよ」


 そんな会話の時僕は馬車から降り、水魔法で体に付いた水を流していた。血がべっとりつく感覚に慣れないよう、記憶に残らないように念入りに。


 そうしていると離れたはずのブラッツが話しかけてきた。


「よっ!災難だったな」

「・・・・誰のせいだと思ってるんですか」


 僕は睨みつけるように、ブラッツに向かって言った。そんな僕にブラッツはすまんすまんと、軽い感じで謝罪してきた。こいつは本当に人の神経を逆なでするのが好きらしい。


「それでさ~、一応言っとくけどさ」

「・・・・・なんです?」


 ブラッツが高い身長を屈めて、僕の顔を覗くようにして言った。


「あんま調子のんなよ。お前らイリーナに迷惑かけすぎなんだよ」


 急に声が低くなったと思ったら、随分僕らに怒っているらしかった。

 それにお前らって事は、さっきの事だけじゃなくてラースとかの事も言っているんだろう。自分達が攫っといてよく言うなとは思うけど。

 

 そしてブラッツは。その事だけを伝えたかったのか会話を切り上げて立ち去ってしまった。


「ガキのクセして出しゃばりやがって・・・」


 ブラッツが最後にそうポツりと呟いていた。

 その言葉の真意は分からないが、とにかく僕らが気に食わないんだろうなってのは分かった。


「おいフェリクス!馬車出すから乗れ!」


 僕はその言葉を聞くと急いで髪をタオルで拭いて、馬車に飛び乗った。

 その馬車の中はやはりと言うべきか、子供たちがかなり怯えているようだった。

 

「みんな今回の目的の子なんです?」


 周りに聞こえないよう、そうイリーナに耳打ちして聞いてみる。


「いや違うのもいるぞ」


 ということはこの子達の一部は売られるか、ルーカスみたいに人質のように扱われるのだろうか。


「まぁとりあえず帰るぞ」


 イリーナは御者台にいる運転手に声を掛け、馬車が動き出した。

 

 僕はそんな動き出した馬車の中で、子供達を見ながら考えていた。 

 これから僕は、人を殺すことにすら抵抗を覚えなくなるのか。

 こんなのでは僕の人生において、常に選択肢の中に殺人が出てきてしまう気がする。そうなったら、人間としてダメだと思うが、実際今日の僕は殺すとなったらあっさりと殺してしまったいた。

 もしかしたら僕は、ラース達すら必要になったら殺せるようになってしまうのか。

 そんな自分がただ怖かった。


「おい、怖がってるぞ」

「えっ?」


 イリーナにそう唐突に言われ、現実に意識が戻ってくると目の前の男の子と目が合っていた。その子はかなり怯えているようだったし、知らず知らずに睨んでしまっていたらしい。


「あんま考えすぎんなよ」

「・・・・・はい」


 それが出来たら苦労しないんだけどな。


 そんな僕らを乗せて馬車は進んでいった。

 



 


 


 

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