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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第二章
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第二十八話 敵と味方

六月二十八話 誤字修正


 僕は広場の中心で、ラース達と向かい合うように立っていた。

 そしてその中心にいたラースが前に出て、僕を睨みつけるように言った。


「お前自分のやった事分かってんのか」


 そう言うラースの後ろに縋るようにして、ブロンド髪の女の子が立っていた。僕が殺した人の家族の子だ。やはりと言うべきが、怖がりながらも僕の事を恨めしそうに見ていた。

 そうやってラースから視線を逸らしているのが気に入らなかったのか、ラースは僕に詰めよって掴みかかってきた。


「なぁ!!お前が守るって言ったよな!!!」

「・・・・・・・」


 守るか・・・・。確かに村に行く直前にそんな話をしていた。でもあの状況で誰も死なせない選択肢を取るなんて理想論だ。僕だって殺したくて殺したわけじゃないのに、そんな言い方されると流石にイラっと来る所がある。


「じゃあ、あの時ラースは何してたの?」


 最初は素直に謝って仲良くしようと思ってたのに、なんで僕が責められないといけないんだとフラストレーションが溜まっていく。


「・・・そりゃ!俺だって助けようとしたさ!」


 結局お前は何も出来てないのに、人には偉そうに言うのか。もう少し僕の事情も分かってくれていると思ってたんだが。だんだんとストレスが怒りに変わっていく。


「その結果ラースは寝転がってただけじゃん」

「で、でも!お前なら何とか出来たんじゃないんか!?」


 なんだよそれ、勝手に僕に期待して出来なかったら責めるだけかよ。

 あぁなんか本当にイライラしてきた。まじでなんでラースがこんな態度で僕を責めれるのか分からない。そもそもあの時ラースが変なことするせいで、状況がこじれたんじゃないか。

 そうラースに対して怒りが湧いてくると、口から勝手に言葉が出てきた。


「あの時何にも出来なかった奴に文句言わないで欲しいけど」

「なっ・・・・」

「そもそもさ、逆に聞くけどラースが僕の立場なら何か出来たの?」


 僕がラースの喧嘩を買ってヒートアップしかけた所で、突然僕らの喧嘩に割り込む人物が現れた。


「じゃあさ、この子のお姉ちゃんを殺したこと何も思ってないわけ?」


 そう言ってエルシアも怒ったような感じで僕の前に出てきた。兄弟そろって僕を責める敵になったらしい。それになんでそんな僕が自ら殺したみたいな言い方するんだよ。


「そりゃ悪く思ってるけど、これに関しては仕方ないでしょ!」


 僕も声を荒げてそう言い返したら、エルシアからは言葉ではなく拳が返ってきた。

 その衝撃で、僕はラースの掴む手を離れて後ろに尻餅をついていた。


「・・・・え?」

 

 唐突すぎて、一瞬自分が何をされたかすらも分からなかった。でも鼻から血が垂れてきてやっと僕も状況を掴めてきた。その時エルシアが乗りかかるようにして掴みかかってきた。


「あんたが!殺したせいで!!私がどれだけの思いで!!!」


 エルシアが今まで見たことない様な感情の高ぶり方で怒ってきている。僕は突然殴られたせいか、目の前のエルシアがイメージと違いすぎるからか、怒りが抜けただ茫然としてしまっていた。

 そんな僕にお構いなしにエルシアは、服が破れるんじゃないのかと思うぐらいの力で握りしめて叫んでいた。


「ねぇ!!聞いてるの!?なんで殺したのって!!!」


 僕の頬に冷たい感覚が走った。僕の涙かと思ったが、正面を見るとエルシアが泣いているらしかった。

 普段感情をあまり見せないエルシアが、知らない子の為に泣くほど激昂しるなんて意外だった。それだけこの子にとって、今回の子達が大事な何かだったのだろうか。


 そんな中、やっとイリーナが僕とエルシアの間に入ってくれた。


「そこまでだ。もう今日は互いに寝ろ。あとフェリクスお前はついて来い」


 エルシアを僕から離しながら、イリーナは視線をやってそう言った。

 僕は服の乱れを治して弱々しく立ち上がった。


「・・・はい、分かりました」


ーーーーーー


 その後ラース達と離れて、僕とイリーナは蝋燭の光を頼りにコツコツと通路を歩いていた。

 すると通路の途中イリーナが話し出した。


「大分あいつら怒ってただろ」

「えぇ・・・思った以上に」


 イリーナの方を見ると蝋燭の光でオレンジ色に横顔が照らされていた。


「あたし的にはラースはともかく、エルシアの奴なら分かってくれると思ったんだけどなぁ」


 それは僕も同感だった。いつも僕以上に冷静だったあの子だから僕の立場も分かってくれると期待していたんだが・・・・。


「まぁライサとルーカスなら分かってくれると思いたいですね」


 完全に希望的観測だけど、そうじゃないと多分これからの生活がかなりきつくなる。でもやっぱりエルシアがあの感じなら、ルーカスも許してくれないかもしないな・・・・。

 そんな心配を察してかイリーナは。


「まぁルーカスの奴は知らないけど、ライサは大丈夫だろ」

「・・・・なんでです?」


 心が読めるならあの村の子たちの心読んで、僕のした事が分かるだろうし無理な気がするが。それに最近ライサとエルシア仲良かったから、ライサも味方になってくれないと思ってたのだが。


「明日直接話せば分かると思うぞ。と、ほらは入れ」


 そうイリーナが扉を開けたのは、訓練室の扉だった。相変わらず風が吹き込んで、目にゴミが入りそうになる。

 それから僕らは、いつも僕がライサと座っている部屋の端に座った。


「・・・ちょっと待ってろ」


 そう言うとイリーナはなにやら、パイプ状の物を出して葉っぱのような物を詰めだした。


「なんですそれ?」

「ん?煙だよ」


 煙?タバコみたいなものだろうか。今までイリーナが吸っている所見たことないから意外だった。

 イリーナがそのパイプに火をつけを吸うと、フゥーっと煙を吐き出して夜空に上がっていった。


「昔はよく吸っててな。最近はライサがいるから吸ってなかったんだけどな」

「・・・・僕だと吸っていいんですか?」


 僕がそう言うと、イリーナは一旦パイプを下ろして言った。


「なんだお前も嫌なのか?」

「いや、そう言う訳じゃないですけど」

「じゃあ許してくれ」


 そう言ってしばらく、煙を吸い続けていた。僕もなんとなく外をボーっと眺めて、煙が終わるのを待っていた。

 

 そんな沈黙が続くと色々考えてしまった。

 あれだけ頑張るぞと決意したのに、結局ラースに分かって貰えず意地になって喧嘩をしてしまった事。

 エルシアが予想以上に僕に激怒した事。

 僕はこれからラース達とどう接するべきか、そんな悩みが出てくる。


 するとイリーナが吸い終わったのかパイプを床に置いた。


「まぁあたしはお前が正しいと思うぞ」

「・・・・でも人を殺したことには変わりはないですから」


 僕がそう言うと突然イリーナが笑い出した。


「いやいやそれだったらあたしはどうなるんだよ。何十人も殺してんだぞ」

「・・・・イリーナさん僕の家族殺してるんですよ?」


 するとイリーナはしまったといった表情をして謝罪してきた。まぁもう正直この4年でこの人が悪い人じゃないってのは分かってるから、今更これ以上恨み事を言う気にはならないが。

 

 そしてイリーナは一旦落ち着いてから、改めて話し出した。


「ま、まぁあれだ。これからのお前の身の振り方だけ考えとけよ」

「身の振り方?」


 まぁそりゃラース達との接し方は気を付けないといけないけど・・・。


「どっちかと言うとあのガキ達の方とのだな。恨まれ続けるのか、理解してもらって仲良くするかだ」

「・・・・仲良く出来ますかね?」


 自分の家族を殺した奴と仲良く出来るのだろうか?


「お前は今誰と話してるんだよ」

「あっ確かに。・・・・でもラースはまだ嫌ってますよ?」


 そう言うとイリーナはバツの悪そうな顔をしていた。サバサバしてそうだけど、人に好かれてるかどうか気にする所あるのか。

 だがイリーナは逸れかけた話を戻しに行った。


「まぁそれは置いといてだな!お前はどうするんだよ!」

「どうするですか・・・・」


 あの子達を説得して仲良くなるのは・・・・無理だな。自分の殺人を正当化しているようで嫌だ。それにあの子たちにとっても、家族の仇と仲良くなるのは嫌だろうし。

 そう考えると僕は悪人としてふ振舞った方が、この狭いコミュニティだと上手く回りそうだと思ってしまう。

 

「まぁ敵は敵ですから。敵らしくして、誰かさんみたいに中途半端に善人な部分出さないようにしますよ」


 まぁそうは言っても敵討ちされるのはごめんだが。

 そう思っているとイリーナがわしゃわしゃと頭を掴んできた。


「あ?それって誰の事だぁ?」


 そう強気な感じ出しているけど、恥ずかしそうにしているのは表情から分かった。この人褒められたりすると微妙に恥ずかしがる事が多い気がする。

 だがそんな思考すらバレたのか、更に頭を掴む手が強くなる。


「やっぱりお前最近あたしの事なめてるよな?ちょーっと優しくしてやったらこれかよ」

「あ、やっぱり優しくしてたんですね」

「ッチ、だからなぁ!」


 なんだかんだこの人と話していると元気が出てきた。まぁイリーナみたいに理解してくれる人はいるなら、なんとか頑張れそうに思ってくる。

 そう思っていると、イリーナが僕の頭を無理やり動かして目を合わせてきた。


「一応言っとくが、周りから嫌われるのって人によっちゃ本当にきついぞ。大丈夫なのか?」

「まぁ頑張ります。それにあの子のお父さんにも娘を頼むって言われてますし」


 そんな僕の言葉にイリーナは少し疑問の表情を浮かべたが、特に突っ込まれることはなかった。

 まぁこれは僕とあの男の人の約束だしそれでいい。いくら嫌われてても、あの子が成人するまでは守ってあげないと、あの時の自分を正当化できない気がする。

 

 そんな話をしている間にも時間が大分経っていたらしく、イリーナが立ち上がって背伸びをして言った。


「んじゃあもう今日は終わりだ。寝るぞ」

「あ、はい。分かりました」


 僕は扉へ向かって歩き出すイリーナについて行った。するとイリーナが振り返って。


「あっそうだ。お前あの部屋だと気まずいか?あたしと寝るか?」

「・・・・寝ませんよ。バカなんですか」


 一瞬ドキッとしたが、流石にそんなことはしない。それに寝るだけならほとんど顔合わせ無くていいから何とかなるし。

 

「冗談だよ。なにガチになってんだ」


 じゃあ言うなよとは思った。イリーナなりに場を和らげようとしたのかもしれないけどさ。

 そうしてそのイリーナが扉を開けると、僕と同じぐらいの身長の女の子が立っていた。


「お、ライサどうしたんだ?」

「いつもフェリクスとここで話してるから・・・」


 そうライサが、僕とイリーナが一緒だったことに疑問そうに見ていた。そう言えば、この時間はいつもライサと二人でいたからか来ていたのか。ならライサにとっては、この時間にイリーナがいるのは違和感あるか。

 するとイリーナはライサを部屋に押し込んで、自分は外の通路に出てしまった。


「じゃあ、あたしは先に寝るから。ごゆっくり~」


 何かを察したと言わんばかりに、イリーナはそさくさと去って行ってしまった。

 それで少しの沈黙が流れ気まずくなったので、さっき座っていた場所を指差して言った。


「んーっと、とりあえず座ろうか?」

「う、うん」

 

 僕はまたさっきと同じように改めて座りなおした。もちろん隣にライサが座ったが、浮かない顔をしていた。

 それに対してどうしたのかと聞いてみると。


「新しい子来たでしょ」

「あ~そういう事」


 もう既にあの子達に何か言われたのだろうな。せっかくラース達と仲良くなれたのに、また新しい子達と関係作らないといけないのは、ライサは大変だな。


「まぁいつかあの子達と仲良くなれるよ」


 僕がそう言うとライサは首を横に振った。


「そうじゃない」

「そうじゃない?」


 ってことは何だろうか。僕とラースが喧嘩したのが嫌とかそういう所だろうか。

 すると次の言葉でライサの顔が暗い原因が分かった。


「あの子達ずっとフェリクスの悪口言ってたから・・・」

「僕の事?」


 ライサはコクコクと首を縦に振っていた。

 少し話を聞くと、どうやら僕らの会話を通路の陰から見ていたらしく、子供皆がずっと恨み言を思っていたと。特にブロンド髪の女の子は大分だったらしい。

 まぁその事実は傷つくは傷つけど、皆嫌ってるって分かったならそれはそれでやりやすいか。変に友好的だと、嫌われ役とかやりずらそうだし。

 するとライサは意を決したように僕を見て言った。


「だ、大丈夫だからね!私はずっとフェリクスの味方だから!!」


 そうライサが頭を撫でようとしてきた。僕を励ましたいが故の行動だろう。

 でも流石に恥ずかしいのでその手を下ろさせた。


「ありがとねライサ。でもあの子達はラースと一緒だから分かってあげてね。喧嘩しないように」


 この感じだと、ラースの時みたく喧嘩してライサが孤立してしまうかもしれないしな。釘を差しておかないと暴走しかねない。それに僕は嫌われても良いけど、ライサが嫌われるのはとばっちりすぎるから、巻き込みたくないのもある。


「・・・・で、でも、私もう16なんだよ?少しは頼ってくれてもいいんだよ?」


 ・・・・そうか。もうライサが16歳か。なんとなく幼いイメージがあったけど、4つも上なのが意外に感じてしまう。


「まぁきつい時は頼らせてもらうよ。でもまずは喧嘩しないでね?」


 ライサの申し出はありがたいけど、僕の一番の懸念はそこだった。僕のせいでせっかく友達も出来て、明るくなったライサを逆戻りさせたくない。

 そんな僕の心配を分かってくれたのか、ライサは少し考え込んだ後。


「分かった。でも、ちゃんと辛かったら言ってよ?私お姉さんだから!」

「うん、ありがとね」


 僕はそう言って頭を撫でようとしたが、ふと思いとどまり手を引いた。流石に16歳の子にやるのは嫌がりそうだしな。デリカシーちゃんとしなきゃだ。


「・・・・・」


 するとそんな僕の挙動が疑問だったのか、ライサが僕の事をじっと見てきた。


「どうした?」

「なんでもない。私もう寝る」


 さっきまでの優しさはどこへやら、もう寝てしまうらしく立ち上がってしまった。

 そのまま扉へ向かおうとするライサに、僕は慰めてくれたお礼を改めて言った。


「おやすみね。今日はありがとう」

「・・・おやすみ」


 なにか不満そうに膨れていたが、何かしただろうか。まぁ素直に頼るって言わなかったのが、嫌だったのかな?

 僕はそう思う事にして考えるのを止めた。そしてラース達が寝る時間までここにいようと、ただ目の前の山をボーっと眺めていた。

 

 するとそこから記憶が無いのだが、僕はいつの間にか寝ていたらかった。

 そして次に意識が覚めた時には、誰かに蹴られる感覚での起床になった。




 


 




 






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