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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第二章
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第二十四話 仲直り

 明日(3月20日)は次の話の更新お休みします。


 誰かに体を揺らされる感覚でだんだんと意識が覚めてきた。そうして目を開くとラースが僕の体を片足で蹴っていた。


「おいフェリクス。いつまで寝てんだよ」


 そんなラースに、もう少し優しい起こし方が出来ないものかと思いつつ、僕はラースの足を払って起き上がった。


「すぐ行くから先行ってて」


 僕がそう言う前に、ラースはエルシア達を連れて部屋を出て行ってしまっていた。僕も遅れないようにと、支度を済ませてラース達を追って部屋の扉を開いた。

 

 そうして僕は急いで部屋を出て、広場に行くとちょうどライサとばったり会った。


「おはようライサ。昨日は寝れた?」

「うん、よく寝れたよ」


 ライサは寝ぐせが気になるのか、髪の毛をずっといじっていてなかなか視線が合わなかった。


「多分ラースから話あると思うけど大丈夫?」


 昨日はある程度納得してくれたけど、一晩でライサの気が変わってないといいのだが。


「大丈夫だよ。それに何かあったらフェリクスが味方してくれるしね」


 その言葉と共にやっとライサと目線が合った。まぁこの感じなら、ラースと仲直り出来そうだと僕は安心した。

 そうして僕らは再び歩き出して、食堂の扉を開いた。すると入ってすぐに、イリーナと目が合ったのでとりあえず挨拶をする。


「おはようございます」

「おう、おはよう」


 それからいつも通り僕はルーカスの隣に座ったが、ライサの元にラースが歩み寄っていった。そしてラースから口を開いた。


「おはよう」

「おはようラース君」


 二人ともとりあえず笑顔であいさつは出来ていた。会っていきなり喧嘩とかいう最悪の展開は避けれたようで良かった。

 するとラースは気合を入れたのか、頬をパンっと叩いてから改まって話し出した。


「んでさ。その先に言うが、これまでみたいに俺はお前に対してひどい事を心の中で思ってしまうかもしれん。だって俺自身まだ納得しきれてないからな」


 そのラースの発言に僕はライサがまた不安定にならないか心配になり様子を伺ってみる。

 でもライサは落ち着いていて、ラースの次の言葉を待っていた。


「うん。それで?」

「でも、お前の事情も分かったつもりだ。だから普通の人間として接するつもりだ!その上でお前が嫌な奴だったら嫌うけどな!」


 実にラースっぽい解決案の出し方だった。僕的には対等にライサの事を見ようとしているのが、感じれて良い案だと思った。でもそれでライサは納得するか不安だけど、どうだろうか・・・。

 

 そうして部屋の全員の視線がライサに向かった。

 数秒の間があった後ライサが返事をした。


「いいよ。それで。でもこれまで通り暴言聞こえたら怒るからね」

「おう。それでいいぜ」


 どうやら和解できたようで二人は握手していた。その光景を見て、案外この二人は気が合うのかもなと思っていると。


「でも、これまでの事は謝ってね?」

「それは良いだろ!俺だって勝手に心読まれて嫌だったんだぞ!」


 結局喧嘩か、そう一瞬焦った。だがどっちかって言うと、じゃれているような感じだったから大丈夫そうだ。まぁ何はともあれあの二人が仲良く出来そうならよかった。

 

 その二人の和解を見届けたイリーナが、壁から離れ朝食のパンを配り出した。


「おい、じゃあ飯食うから座れー」


 そうパンを配るイリーナの顔を見ると微笑んでいて、やっぱりライサがこうやって友達が出来た事が嬉しいらしい。

 そう微笑ましく眺めていると、イリーナと目が合った。


「・・・なんだよ」

「いや、嬉しそうだなぁって」

「・・・・・ッチ」


 さきっまでの笑顔はどこへやら、とても怖い目で睨まれてしまった。少しは素直になったらいいのに。

 

 そうしてこの後の朝食は、いつもよりも明るくてにぎやかな時間になった。

 だけどどこかこんな空間が異常に感じてしまう僕の心もあって、どこかチクチクと痛み続けていたのだった。


ーーーーー


 夜。僕は恒例の訓練室でのライサとの会話を終えて、部屋へ戻る途中だった。

 すると広場に入ったあたりで、月明りがちょうど差し込む辺りにエルシアが座っているのが見えた。


「また、ラース達が喧嘩でもした?」


 今度はラースとルーカスかと思いながら、僕はエルシアを驚かさないよう目が合ってから話しかけた。

 するとエルシアは、銀色の髪を横に揺らして否定した。


「ううん。ただフェリクスさんと話したかったから」

「僕と?」

「うん」


 珍しい事もあるものだと思った。普段ほとんど自分から話しかけてこないのに、何かラースとかルーカスに言えない悩みでもあるのだろうか。

 

 そう思っていたのだが、それ以上エルシアは何も話さず、ただ天井高く遠く離れた月を見ていた。僕もなんとなく隣に座って、見上げるとちょうど満月だったようで、とても綺麗で明るかった。


 それだけで数分が経った頃だろうか、ふとエルシアが言った。


「私月見るの好きなの」


 そう話すエルシアの銀色の瞳にきらきらと月明りが反射していた。


「ルーカスが聞いたら喜びそうだね」

「んーちょっとルーカスのとは違うんだけどね。ただ見るのが好きってだけ」


 学術的な興味ではなくて、ただ景色として好きなだけらしい。まぁ星とか夜空を眺めるだけでも癒されることあるしな。

 するとエルシアがこんな不思議なことを言った。


「月はいつも変わらないしね」

「・・・・どういう事?」

「そのまんま」


 あんまりエルシアの意図が分からなかった。考えても、月は満ち欠けするしいつも同じな訳じゃ無しな・・・。だったら、いつでも夜空で見守ってくれる的な意味だろうか。

 そう僕がエルシアとの要領を得ない会話に苦戦していると、更にエルシアがポツポツと喋り出した。


「私ね、兄さんとライサちゃんが仲よくするなんて無理だと思ってた」


 エルシアは月を見上げたままそう言った。

 それに対して僕も全く同意見だった。


「まぁ状況も状況だしね。何とかなってよかったよ」

「私は何回やっても無理だと思ったんだけどね」


 まぁそれはそうかもしれない。正直あの二人が仲良くなれなかったのって、どっちにも原因がある上にどっちの言い分も正しさがあるから仕方ないんだよな。今回はラースが割と妥協してくれたお陰で丸く収まったし、ラースには感謝しなきゃだな。

 

 そう考えると、やっぱりラースはこの一週間でかなり変わった気がする。


「ラースも大人になったよね。前までなら絶対引かなかったでしょ」

「だね。私たちの中だと兄さんが一番変わったのかもね」


 やっぱり妹から見てもそうだったらしい。きっかけは最悪だったけど、それがラースにとって成長を促せれたなら、不幸中の幸いってやつなのかもな。

 てか今の会話的にエルシアが話したいって事は、ラースの事かなと思って聞いてみるが。


「話したかったのってラースの事だったの?」


 エルシアは月から僕に視線をやって首を横に振り銀髪を揺らした。どうやら違ったらしい。


「違うよ。私も何話すか決めてなかったから」


 相変わらず不思議な子だと思った。話していてもこの子の本質を掴めそうで掴めない感覚になる。

 そう僕が少し困惑していると、エルシアがからかうようにニヤついて言ってきた。


「ライサちゃんに話してるみたいに私にも何か話してよ」


 珍しく会話していてこういうエルシアを初めて見た気がする。この子も兄と一緒で成長してるのかもしれないな。

 

 てかふと疑問に思ったのだが。


「なんでそれ知ってるの?」

「ここまで声響いてきてるんだよ。前の王子様がお姫様にキスする話面白かったよ」


 あぁ白雪姫の事か。てか会話全部聞かれてたと思うと恥ずかしいな。ライサに変なこと言ってないか不安になってくる。

 するとエルシアが催促するように。


「で、何か私にもお話ないの?」


 そう言われても困るな。ここ一週間で抑えてる童話のストック尽きちゃってるし。

 何か女の子が喜びそうな話はあったっけなぁ。

 そう僕が悩んでいると、コツコツと足音が聞こえてきた。

 

「誰だろうね」


 そう僕とエルシアが音のする方を向くと、ライサが蝋燭をもってこっちに来ていた。

 僕はどうしたのかライサに尋ねると。


「寝ようと思ったらフェリクスの声が聞こえたから」


 どうやら僕らの声で起こしてしまったらしい。


「起こしちゃってごめんね。もう僕らも寝るから」


 僕は悪いことしたな思い、そう言って立ち上がろうとするとライサが駆け寄ってきた。


「いい。私もお話し混ぜて」


 近くで見るライサはもう随分目が眠そうだった。そこまで無理しなくていいのにそう思ったが、せっかくだしライサがエルシアとも仲良くなれたら良いしいいかと判断した。


「うん、じゃあちょっとだけね」


 僕がそう言うとライサは嬉しそうに隣に座ってきた。やっぱりこの子は人と話すのが好きなんだろうな。

 そんなライサは座るなりすぐに、僕たちの会話が気になったようで喋り出した。


「で!何話してたの!」

「月見てただけだよ。ね、エルシア」


 僕はライサとエルシアが話せるよう話を振ってみた。

 そうすると以外にもエルシアは乗り気なようで、身を乗り出してライサに返事をしていた。


「そうだよ!ライサちゃんは月好き?」

「う、うん。そうだね。毎日眺めてるし!」


 随分エルシアは楽しそうに話しているようだった。

 そういえばエルム村には、同世代の女の子いなかったしライサと話すのが楽しいのだろう。


「ライサちゃんは好きな物ある?」

「ん?うーん私はそうだなぁ・・・。やっぱ魔法かな?綺麗だし」

「いいね!ライサちゃん魔法使うの上手いもんね!~」


 なんか二人が楽しそうに話してて、僕が会話に入れない。僕を挟んで盛り上がるもんだから、気まずすぎる。

 そんな事を考えながら、二人の会話に適当に相槌を打ちながら時間が経つのを待っていると、目の前の通路から蝋燭の灯が見えてきた。あの通路は僕たちが初めてここに来た時通ってきた通路だな。


「あ、イリーナ姐だ!」


 ライサがぱあっと笑顔になって、その蝋燭の灯の方に走っていった。まだ顔は見えないけど、心読めると遠くにいても誰か分かるらしい。


「ん?お前らなんで起きてるんだ?」


 ライサが右腕に絡みついているが、気にしないと言った感じでイリーナがこちらに歩いてきた。だが、だんだんイリーナは近づくにつれ、鉄の臭いというか血の臭いが濃くなっていった。


「ちょうどフェリクスもいるなら丁度いいか」


 そうイリーナが言うと、後ろを振り返りもう一人一緒に歩いていたらしい男に話しかけた。


「おい、よこせ」

「相変わらずイリーナは人使いが荒いなぁ」


 暗闇からそう声の人物が出てくると、蝋燭に照らされて整った金髪の見覚えのある顔が見えた。


「ブラッツ・・・」

「そうだよ~。久しぶりだねフェリクス君」


 村で会った時の商人っぽい腰の低い感じじゃなくて、目の前の男は軽薄と言うか飄々とした雰囲気をまとっていた。


「あ、これね。フェリクス君のでしょ」


 ブラッツはそのまま、僕に近づいてきて剣を渡してきた。

 それは僕が父さんから貰ったショートソードだった。


「なんで今なんです?」


 僕は目の前のブラッツじゃなくて、イリーナにそう聞いた。

 それに対してイリーナは顎に手をやり考えたかと思うと。


「ん~まぁお前剣も上手いし、本物で練習した方が良いだろって思ってな」


 確かに木刀とは大分重さも握り心地も違うな。まぁ理由はともあれ、形見だし返してもらえるなら僕にとっては良いのだが・・。


「ナイフの方は・・・?」

「それはまたの機会にな」


 ナイフはダメらしい。ブレンダさんから託されたものだから早く返して欲しいのだが。まぁ返す気があるならいいか。変なこと言って売られたらたまったもんじゃないし。


「じゃ、俺は先戻るな」


 ブラッツはやることやったと言わんばかりに、そう言ってスタスタと去って行ってしまった。やっぱりあの通路が外とつながっているらしい。覚えておこう。

 そう考え事をしていると、ライサが僕のショートソードを覗き込んできた。


「それフェリクスの剣?」

「そうだよ。大事な大事な剣だよ」

「ふーん、そうなんだ」


 そう言えば、エルム村から離れてまだ二週間しか経っていないのか。色々ありすぎて村の事がかなり遠く昔の事のように感じてしまう。いつかあの村に戻れたらいいな。


「おい、じゃあお前らも寝ろよ。あたしも疲れたから寝る」


 イリーナはそれだけ言ってそのままどこかへ行ってしまった。そういえばイリーナはどこで寝ているんだろうか。

 そんな事を疑問に思いつつも、僕らも寝ることにした。


「じゃ、ライサおやすみ」

「うん!おやすみ!フェリクス!エルシア!」


 そう手を振り部屋に戻るライサに僕とエルシアは手を振り返して、そのまま部屋に戻った。

 部屋に入ると、僕らは寝ているラースとルーカスを起こさないよう、毛布に包まって眠りに落ちた。


 そしてそんな生活が四年続いたある日。僕らは十二歳になってやっと久々に外に出ることができた。

 








 

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