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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第二章
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第二十話 友達


 まだ朝日も差し込んでいないような時間、僕は乱暴に扉が開かれる音で目が覚めた。


「おい!!朝だぞ!!!」


 その声に眠い目を擦りながら体を起こす。毛布一枚で石の上で寝たせいか背中が酷く痛かった。


「飯食ったらすぐ訓練するから早く部屋出ろよ!」


 それだけ言って、イリーナはバタンと部屋の扉を閉じてしまった。

 そんなイリーナの嵐のような登場に、嫌でも目が覚めて背筋を伸ばしていると、ふと隣のラースと目が合った。


「お、おはよう」

「・・・おう」


 それ以上気まずい僕の間で会話をする事は無かった。そして僕らはそのまま無言で部屋を出て円形の広場に出た。

 

 改めてこの空間を見ると、洞窟を生活用の拠点に改造したって感じの空間だった。天井にあたる部分は採光の為か開いていて、まだ紺色の空が見えるが雨の日とかどうするのだろうか。

 そんな事を考えていると、また僕らは別の広場の三つの内一つの部屋に案内された。


「ここは飯と勉強する部屋だ。ほらさっさと食え」


 そうイリーナは蝋燭で照らされた石のテーブルの上に五つのパンを置いた。それに、なにやらスープのような物も付いていた。


「なんでこんな待遇がいいんです?」

「不満なら変えるが?」

「・・・いえ、ありがたく食べさせていただきます」


 イリーナは僕の疑問にはまったく取り合ってくれなかった。正直誘拐されたのにこんな待遇だと逆に不安になる。もっと悲惨な飯が出される物かと思ったのだが。

 そうして僕らが黙々と朝食を食べていると、入り口の扉が開かれライサが入ってきた。


「おはよ~イリーナ」

「おう、おはよう」


 パンが五つあるからイリーナの分かと思ってたが、この子の朝食だったらしい。

 そうしてライサは手に持っていた蝋燭を置き、僕の正面に座ってパンをかじり出した。

 そんなライサの事を見ていてふと思ったが、この子が心読めるって事は今僕の考えも聞こえているってことだよな。

 

 そんな事を考えていると、ライサの食べる手が止まり僕をじっと見てきた。やはり心が読めたのだろうかと思ったけど、何も喋らないとそれはそれで怖い。


「・・えっと、僕に何か?」

「い、いや何でもない」


 てかそうか。この子は僕の心が読めるってことは、僕が転生者である事も知ってしまっているのか。それだと盗賊側にバレたらまずいから、何かしら口止めをしないと・・・。

 いやもうすでにバラされてるのか?心が読める相手ってやりずらい。僕が皆を逃がして生かさないといけないのに、このままじゃだめだ。


 そんな事を色々頭の中で考えていると、いつの間にかみんな朝食を食べ終わっていたらしかった。


「じゃ、早速訓練するから来い」


 その言葉に僕は急いでパンを口の中に押し込んで、部屋を出ていく皆について行った。

 

 そしてイリーナに追いつくと、昨日ライサの部屋に向かう時に進んだ通路を進んでいる様だった。僕らも後ろをついて行くが、やはり光が蝋燭だけだと、足元が見えずらくて歩きづらかった。


 それから先を進むイリーナの足は、昨日ライサの居た部屋の隣にあるドアの前で止まった。どうやらイリーナが言うには訓練室らしい。

 そうしてイリーナが扉を開けると風が吹き込んできた。

 

「・・・・おぉ」


 空が見えた。朝日が山から昇っているのが見えた。

 部屋の一部が欠けてそのまま外が見えるようになっているという表現が正しいのだろか。この部屋はどうやら、山肌にそのまま一部が出てしまっているらしい。


「・・・ここから逃げれないか?」


 ラースがそんな事を耳打ちしてきた。僕もそうは思ったが、明らか剣俊な山脈のど真ん中っぽいし、部屋と外の境目もほとんど崖になってるから無理そうだった。


「今の僕らじゃ無理かもね・・・」

「・・・そうか、そうだよな」


 やっぱりラースは昨日といい変わったような気がする。大人っぽくなったし、ある程度自分の中で理屈を立てて話している感じがする。

 そうコソコソと僕らが話していると、イリーナが風に負けないよう大声で話し出した。


「とりあえずは、ここで魔法の練習をしてもらう!それと剣術もな!」


 そう言ってイリーナが部屋の端に指を差す方を見ると、かなり使い込まれてそうな木刀が無造作に置かれていた。それに近づいて僕はその木刀を握るが、やはり暴動対策の為かかなり質の悪そうなものだった。


 それから僕らはまず、魔法の習熟度テストのようなものをさせられた。ここで嘘をついて弱く見せても、どうせライサにバレるからと僕は、全力で石魔法を外に向かって放った。

 

 それに対してイリーナはやっぱりなとしか反応しなかったから、やはり僕らの魔力量は既にバレているらしい。


「やっぱお前は頭一つ抜けてるな。しばらくは剣術やっとけ」


 そう言われ僕は他のみんなが魔法で四苦八苦している中、端っこで素振りをやっていた。だがそうしているとすぐに、ルーカスもやってきた。


「・・・やっぱ僕には魔力ないみたいだね」


 口では分かってた事だと言ってるが、やはり悔しそうな顔をしていた。そんなルーカスに僕は肩を叩いて、落ちていた木刀を手渡し一緒に素振りを始めた。


 そんな中僕は、魔法を上手く扱えず苦戦しているラース達の様子を見ていた。


「ッチ、魔法ってどうやって出すんだよ・・・」

「体の芯から熱を出すような感覚だよ、ほら」


 ライサがラースの腕を掴んで魔法を実践してあげていた。僕もブレンダさんにやってもらった魔法の教え方だ。

 そんな光景に少し僕の剣を握る力が強くなっていると、エルシアがあっさりと魔法を使えてしまっていたようだった。


「おぉ!すごいですねエルシアちゃん!」

「・・・いえ、まだ小石程度ですし」

「それでもすごいですよ!”初めて”でここまで出来るなんて!」


 テンションの高いライサと対照的に、エルシアはあまり嬉しそうに見えなかった。やはり親が死んでしまったショックがまだ残っているのだろう。

 だがやはりここまでの会話の中で、ライサが心を読んでいるような雰囲気を感じることが出来なかった。やっぱりハッタリかと思っていると、ライサが振り返ってラースに話しかけていた。


「ラース君はそーんな警戒しないの。エルシアちゃんの事傷つけたりしないって」

「・・・・ッチ」


 やはりどうやってもラースは、ライサの事を受け入れることは出来ないらしい。正直僕もあの子に対しては、どういう態度を取っていいのか分からないでいるしな。

 そう僕がボーっと考え事をしていたら怒号が聞こえてきた。


「おい!お前!手ェ止まってるぞ!!」

「・・・はーい」


 でもやっぱイリーナは無理だな。こいつがエルム村を襲った首班だから許せるわけがない。今は立場的に従順を演じなければいけないけど、いつか絶対何かしらの形で罪を償わせたいと思ってる。


「フェリクス、また手止まってるよ」

「ん?あっ、ありがとう」


 チラッとイリーナの方を見ると、やはり僕を睨んでいたようで目が合ってしまった。魔法が使える事もあってか、僕の動向に警戒しているのだろうか。

 そう僕が合った目を逸らそうとすると、イリーナが僕の視線に入るように近づいてきた。


「お前ってあたしの事どう思ってる?」

「・・・・・?」


 そんな唐突な質問に一瞬意味が理解できなかった。だがまぁ自分の事を恨んでいるのかっていう質問だろうなと判断して、どう答えたものかと考える。

 そんなイリーナの質問意図をラースも分かったようで、僕がどう答えるか気になるのかこちらの事を見ていた。


「あたしは、お前の父親も母親も使用人も殺した。望むなら死に際だって教えても良いぞ」


 その言葉を聞いて心底趣味の悪い女だと思った。子供相手に両親が死んだときの事を教えようとか何言っているんだ。


 ・・・・いや、僕が転生者と知っているなら、あえて聞いている可能性もあるのか?

 でも何のために?嫌味?人格を把握するため?

 でもやっぱりこいつの性格ならただの嫌味の可能性なのか・・・?


 意図が分からず僕が混乱している中、イリーナは更に口を開いた。


「そうだな。例えば使用人とか最後にな、、、、」


 その言葉を聞く前に僕は我慢できず言葉を被せてしまった。


「その話は貴方の口から聞きたく無いです」


 こんな事を言うのは合理的じゃないのは分かってる。でも死んだブレンダさんや父さん達の墓を荒らすような事をして欲しくなかった。

 これで何かが吹っ切れたのか、僕は正直に質問に答えてやることにした。


「あと、さっきの質問の答えですが、もちろんあなたを恨んでます。でもそれとは別に貴方に従わないとどうなるかも分かってるつもりです」


 正直いらない事を言いすぎているのは自分でも分かっている。

 でもそんな僕の返答に、目の前の女が怒る事は無かった。それどころか少し安堵したように肩の力を抜いて、僕を見た。その目が優しい色を見せた気がして、それが余計に僕の心をかき乱した。


「やっぱお前がガキっぽくないよな。まぁそれは置いといて。お前が親の死に対して何も思わないようなガキじゃ無くて良かったよ」

 

 それだけ言って、ラース達の方に向かってしまった。それを確認すると僕は、溜まっていたイライラを小さい声でルーカスに愚痴った。


「人の親殺しといてなんだよあの態度」

「お、落ち着いてフェリクス・・・」


 過去一腹が立っている自信はある。なんであの女があーいう事を言える神経しているのかが分からない。もう多分一生分かり合えない人種なのかもしれないな。

 

 そんなイライラをぶつけるように、木刀を振り続けているといつの間にか太陽も昇りきって、昼になったようだった。


「じゃあ飯取ってくるからここで待ってろー」


 イリーナはそれだけ言って部屋から出て行ってしまい、僕を含めた五人の子供が部屋に取り残された。

 僕はまだラースと話すのは気まずくて自分から話しかけれず、とりあえずルーカスと雑談をして時間を潰していた。するとそんな時ライサがこちらに近寄ってきた。


「隣大丈夫?」

「・・・え、えぇ大丈夫ですよ」


 僕の許可を聞くと、そのままライサはぱぁっと笑みを浮かべ僕の隣に座った。その隣のライサを見ると、寝ぐせなのか元々の癖ッ毛なのか、後ろ髪が跳ねていた。

 そんな僕の視線に気づいたのか、ライサが不思議そうな顔でこちらを見てきた。


「どうしたの?」

「いや、髪の毛跳ねてるなって」


 僕がそう言うとライサが、恥ずかしそうに跳ねている所を手で隠して、必死に抑えようとしていた。


「ここって櫛もないし、水浴びも毎日出来ないしで仕方ないのっ!」


 そう聞いてもない言い訳を、恥ずかしいのか顔を赤くして言っていた。ここだけ見るとただの子供なんだけど、心が読めるんだよな。


 ・・・・・・ん?

 心が読めるなら今わざわざ僕に聞かなくても、髪の毛が跳ねてるの分かったんじゃないか?

 その考えが浮かぶと、もしかしたら何かしら心を読むのにも条件があるのではと、僕は詮索をしてみることにした。


「今のは僕の心を読んで気付かなかったの?」


 直球でそう聞いた僕の質問に対して、ライサは意外と取り乱したようで、しどろもどろに答えた。やはり何か裏があるらしい。


「ん?えーと、そうだね。うん。まぁあれだよ。あっ!常に気張ってると疲れるでしょ!?そういう事!!」

「・・・はぁ、なるほど」


 明らか今作った嘘くさい言い方だった。僕の中で本当はライサは心が読めないのでは、と疑念が更に膨れ上がっていった。


「そ、それにさ!口に出して言って欲しい事とかもあるじゃん!?」

「・・そうなんですかね?」

「そうなの!」


 これはもしかすると何とかなるかもしれないな。このライサって子が、最低でも今僕の心が読めなかった事からも万能じゃないのは確実だ。それなら条件次第で、少ないけど将来逃亡出来る可能性が出てくる。


 するとライサが僕を指差して叫び出した。


「あっ!今心読んだ!私の話信じてないでしょ!!」

「それは誰でも分かるのでは?」

「・・・それは・・・ねっ!?」


 この子意外とポンコツというか、アホっぽい子だな。そう思うと少し心がモヤとする感覚になってしまった。悪人であって欲しい立場の人が、こういう人の良さそうな性格だと、僕はどう反応すればいいのだろうかと。僕は子の事仲よくする事は許される事なのだろうか。

 

 そう悩んでいると、今度はルーカスを指差してライサが叫んでいた。


「ルーカス君だっけ!?君今キンキンうるさいなって思ったでしょ!!」

「えっ、いや、え、あ、はいすみません・・・」


 ルーカスの反応を見ると、本当に言い当てられたっぽかった。

 勘なのか、今だけ心は読めているだけなのか。読める読めないの条件がますます分からないな。


「なに騒いでんだライサ」


 唐突に聞こえたその声の方向を向くとイリーナが戻ってきたらしく、扉を開けてそこに立っていた。


「いやぁ・・・雑談をちょろっと」

「・・まぁ良いか。ほらお前ら飯だぞ」


 そうして僕らは昼飯を食べ午後も同じように訓練をして、寝床に戻る頃には皆ヘトヘトになってしまっていた。

 

 そして既にみんな寝る準備を終えた頃。月明りも差し込まず真っ暗になった部屋で、もう毛布を被って僕と反対側を向いていたラースがボソッと僕に話しかけてきた。


「前は言いすぎたごめん」

「・・・うん。僕もごめん」


 それだけだった。でも僕にとってもそう言ってくれるだけで、心がスッと楽になった気がした。多分僕がイリーナにはっきり言ったのが、そのまま伝わってくれたのだろう。

 せっかく仲直りできたならもう少し話したいなと思もいラースに話しかけようとするが、すぐにラースは寝息を立てて寝てしまっているようだった。

 僕もわざわざラースを起こすのは悪いので寝床について毛布を被るが、疲れているはずなのに全く寝れなかった。


「・・・外の空気吸うか」

 

 暫く毛布にくるまっていた僕はなんとなく気晴らしにと、昼間訓練に使った部屋に向かた。

 

 コツコツと自分の足音だけが、この石壁に囲まれた空間に響いていた。外に出ても大丈夫なのかとも思ったが、何も注意されてないし大丈夫だろうと納得して歩を進めた。


 そして扉の前に立ち、ドアノブに手をかけるとどうやら先客がいたらしかった。


「ん?あっ!フェリクス!!」


 名前を教えた覚えは無いが僕の名前を嬉々として呼ぶライサの姿があった。そしてそんなライサは、部屋から少し外にせり出している床?の上で、足を崖側に出してぷらぷらさせながら座っていた。

 月明りに照らされてとても絵になっていたが、無言でいる訳にはいかないので一応声を掛けることにした。


「こんな時間にどうしたんです?」

「それは君もじゃない?」


 ライサがいたずらっぽく笑った。昼間の時と変わらない子供らしい笑い方だった気がする。でも僕は心を開かず警戒を緩める事は無かった。


「まぁ僕はお邪魔でしょうし、部屋に戻りますね」


 僕は気を使ってドアノブに手をかけて部屋に戻ろうとすると、ライサの呼び止める声がした。


「えぇーせっかくだし話し相手になってよー」


 その声に振り返りライサを見て、僕は少し探りの意味も入れて、嫌味ったらしいが聞き返してみることにした。


「心が読めるんなら話す必要あります?」


 この子は悪い子ではないかもしれないが、やっぱり仲良くお話ししようとか、そういう気分にもなれないのは事実だ。そう思い僕はライサから再び背を向けて部屋に戻ろうとしたその時。


「私ねー。君の心が読めないの。あっ今私が君に言ったことイリーナには内緒ね?」


 再びドアノブに手を掛けようとした手が止まった。

 一瞬信じかけたが、こんな重要な情報を僕にわざわざ言うのだろうか。本当だったとしても何か意図があるはずでは。そう僕がライサに背を向けたまま思考と共に固まっていると、コツコツと足音が後ろから近づいてきた。


「正確に言うとねー、声は聞こえるけど何言ってるか分からないかな?だから今君が色々考えている声は聞こえてるよ」


 僕はゆっくりと後ろの女の子を見ようと振り返る。

 そこにはライサは昼間と同じような笑顔で、僕から数十センチの距離に立っていた。でもその笑顔がまるで作り物のように僕は感じてしまい、一種の不気味さを感じていた。


「せっかく心の声関係なく普通に話せるんだもん。色々話したくなるのは当然じゃない?それに昼君と話した時とかね!イリーナ姐以外で話してて初めて楽しいって思えたの!!」


 ライサの言葉は表面上だけなら至って友好的だった。でも僕にはこの状況の意味の分からなさからか、余計にその言葉すら不気味に思えてしまった。


「ほらほら~そんな考え事してないでさ~口に出してお話ししようよ~」


 ライサが更に一歩近づいてくる。


「いいじゃん”普通”の友達になろうよ~」


 ライサの茶色の瞳が、瞬きすれば当たるんじゃないかと思えるぐらいの距離にまで近づいてきた。

 それにさっきから笑った表情が固定されたかのように、同じで更に不気味さが増していた。


「ま、まぁ一回離れよっか?話すからさ・・・」


 僕はなんとかライサを押し返して距離を取った。正直これ以上至近距離で顔を見るのが怖かった。この子が今僕に向けている感情は、興味とか好意とかそんな物じゃなく、もっと違うこの子にとっての重い物を向けられているような気がして耐えれなかった。初対面の人のそんな感情受け止められない。


「だ~か~ら~意味は分からないけど頭の中の声は聞こえてるんだよ?目の前に人がいるのに失礼とは思わないの?」

「あ、いやごめんごめん。それで何話すの?」


 僕はこれ以上刺激するのはまずいと思い、思考を打ち切りとりあえず会話をすることにした。でもそれであっさりご機嫌が戻ったのか、先ほどまでの不気味な笑顔が無くなった。


「いいね!じゃあこっち来てよ!」


 ライサはさっきまで座っていた所に座りなおして、隣を手でポンポンとしていた。僕にも座れと言う事なのだろう。

 僕はほとんど崖な下を見ないように、恐る恐るその手がさす所に座った。背中には山肌を吹き抜ける風が当たって、僕の背中を流れる汗を冷やしていた。


「じゃあフェリクスから何か話してよ!」

「え?僕が?」

「うん!だって私ほとんどこの部屋にしかいなかったから何も知らないもん!」


 急に名前呼びになったのも驚いたが、この子がずっとここに一人でいた事に更に驚かされた。やはりこの子もあの盗賊どもの被害者なのかもしれない。

 

 そうまた思考をしそうになったので打ち切り、目の前の子が喜びそうな話題を考えた。


「じゃ、じゃあ例えばこんな話とかどう?」


 僕は必死に記憶を漁って、小学生ぐらいの女の子の好きそうな話って事で童話のシンデレラを話した。って言っても小さい頃アニメーション映画で見た内容を、かいつまんで説明しただけだけど。

 

 そして十分ぐらい話続けてやっと話し終えることができた。途中途中で相槌を打ってくれてたから、話の内容は理解してくれたんだと思うけど・・・。


「へぇ~~良いお話だね!あのガラスの靴が二人を引き合わせたってステキ!」


 どうやらお気に召してくれたようだった。僕としては内心汗だらだらになりながら、話していたから一安心だ。まぁ産まれた環境は違うとはいえ、こういう童話はどこの子供でも好きなんだな。


「ってねぇ!だから心の中で話さないでよ!私が分かんないじゃん!」

「・・・ごめんね。でも流石に一切心の中で話さないのは無理だよ」


 ・・・・ちょっとめんどくさいな。


「・・・・じゃあまた明日もこの時間に来て。それなら許す!」


 そう言ってまたライサの栗色の瞳が至近距離に来た。僕の話を聞いているときは感情が良く表情に出ていたのに、こうやって話すとなると急に顔を寄せたり、張り付いたような笑顔になるのが怖い。


「だから!また!」

「分かった、分かったから。明日も来るから!」


 つい考え込んでしまう癖のある僕とライサは相性が悪いかもしれない。そう思い今日はここで話を打ち切ることにした。


「じゃあ明日も待ってるからね~」

「・・・うん」


 僕はライサに手を振り返して、極力何も考えないように扉を閉めた。

 そして早足で部屋に戻って、毛布にくるまれるとさっきとは違いどこか湧き出る恐怖から逃げる様に一瞬で眠りに落ちる事が出来た。



 


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