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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第一章
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第十四話 遭遇者


 ガサッガサッと人の足音が背中からしていた。

 前を歩くエルシアとルーカスはその音に気づいてないのか先に進んでいる。隣のラースが立ち止まった僕を不思議そうに覗き込んできている。


「・・・・スゥ」


 肺に空気を送り込む。

 絶対に振り返らない方が良い、このまま逃げた方が良いと警告が頭の中で響くが、それでもその音の正体を確かめたくなってしまった。


 そうして油の刺さっていない機械のように、ぎこちなくゆっくりと首を回そうとした時。そうしている内にその足音がすぐ後ろで止まり、僕に影を作ったそれは声を発していた。


「アン?おめぇらだれだ?」

「ロルフどうした?・・・・ってなんだこのガキども」

「俺が知るかよ」


 まずい、そう思った。こんな田舎の森の中にいる時点で、まずまともな人間じゃない可能性が高い。

 だが、ただの思い違いで狩人とかであって欲しいと希望的観測で僕は勇気をもって振り返った。


「━━ッ」


 二回りほど背丈の違う大人二人と目が合った。茶髪と赤髪の若い男で身なりは汚いが、弓ではなく剣を片手に持っていて狩人って訳では無さそうだった。


「あ、あのあなた達は誰なんですか?」


 この二人が善人である僅かな可能性に懸けて、震える手を握りなんとか声を出せた。だがそんな希望的な気持ちすら打ち砕くように、赤髪の男が唾をまき散らしながら見下ろして来た。


「まず人に名前を聞くときはオメェらから名乗れよ。パパかママに教えてもらわなかったか?」

「んな威圧するなってガキ相手だろ」

「知らねェよ。ガキに気ィ使ってどうすんだよ」


 まずい

 この感じからして明らかこいつらまともな人間じゃない。この辺は盗賊とかいないって話じゃなかったのかよ。

 いやそんなことよりこれからどうするかだ。逃がしてくれるようにお願いするか?いや僕がこいつらの顔を見てしまった以上、それも望み薄だろうか。

 でもだからと言ってどうすればいいんだ、頼みのブレンダさんは来てくれないし・・・・。


 だがそうやって僕が固まっている内にも、ラースが状況を掴めてきたのか謎に強気で赤髪の男に向かって叫んだ。

 

「お、おい!お前ら盗賊だろ!なんでこんなとこいるんだ!」

「ちょ、ちょっと何言って━━」


 僕は咄嗟にラースを止めようとするが、時すでに遅く赤髪の男が髪の毛を逆立て声を荒げた。


「だァからァ!!先に名乗れってつってんだろ!」


 余程ラースの態度が気に入らなかったようで、目の前の赤髪男は今にも剣を振りかざしそうになっていた。それにラースも怯む事無く反発したように睨み返すわでまさに一触即発だった。


 だがもう一人の茶髪の男は存外冷静な奴らしく、今にも切ってかかりそうな赤髪の男の肩を掴み止めていた。


「待て待て、とりあえずイリーナに聞いてくるからそれまで待ってろ」

「ッチ、んだよめんどくせェ」

 

 詰んだかと思ったが、赤髪男が爆発する前に茶髪男が諫めてくれた。だがそれだけで、他にも仲間がいるのが確定してしまい、全く状況は好転していなかったのが問題だが。

 

 いやそれどころかむしろラースが赤髪男に反発することで、さらに状況は悪化していった。


「と、父さんが来たらお前らなんて!!」

「さっきからキンキンうるせェなァ!黙ってろ!!!」


 その瞬間赤髪男の拳がラースの顔面に殴りかかった。まだ剣じゃなくて良かったが、僕はその光景をただ眺める事しか出来ず何も動けなかった。

 

 でもまだラースは尻餅をつき鼻血を拭い赤髪の男を睨みつけていた。


「な、なにするんだよ!」

「次騒いだら殺すぞ」

「・・・・・・」


 どすの利いた赤髪の男の声に、流石にラースも殴られたのが堪えたのか大人しくなった。だが次この赤髪男を刺激されたら本当に殺されかねない。

 僕はゆっくり敵意の無い事を示すように掌を見せながら、僕はラースの元に歩み寄った。


「大丈夫?」

「・・・・おう、大丈夫だ」

 

 鼻血が出ているけど、本人が大丈夫と言ってるしそこまで強くは殴られて無いのかもしれない。

 でも出血を抑えるために僕は、赤髪男にばれないよう止血のために鼻に布を当てる振りをして、ラースに治癒魔法をかけた。

 

「ッチ、おせーな」

 

 苛立ちを隠せないでいる赤髪の男に怯えながらも、ラースに治癒魔法をかけること体感で数分は経った。その間に異変に気付いてしまったルーカス達も戻ってきてしまい更に状況は悪化していた。

 

 そんな中この状況をどうにか出来ないか頭を回したが、どうやっても上手くいきそうになかった。

 例えばこのままここで大人しくしても、殺されるか売られるかの二択だろう。でもだからと言っても逃げたら、確実に力で押さえつけられて怪我はするし、最悪そのまま殺される可能性だってある。

 

 そう半ば絶望しながらも赤髪男の方を見ながら思索していると、ふとあちらもこっちを見てきて目が合ってしまった。

 

「ン?なんだオメェ。喧嘩売ってんのかァ?」

「い、いやそういう訳じゃ・・・・」


 しまったと思いつつ何とか赤髪男を刺激しないようにするが、今度は戻って来てしまっていたエルシアが要らない事を言いだしてしまっていた。


「・・・うるさい!。お父さんが来ればお前みたいな盗賊なんて・・・・」

「ま、まぁまぁ落ち着いて・・・」

「だって兄さんが・・・」


 どうにかエルシアを落ち着かせようとするが、兄が殴られたことに立腹しているようで中々なだめれなかった。こんな感情を見せるエルシアなんて初めて見たけど、今はやめて欲しかった。


 そして恐る恐る赤髪男の反応を確かめようと顔を見ようとした時、その赤髪男が舌打ちをするとともに口を開いた。


「もういいか。ガキ一、ニ人ぐらい殺しても文句言われんだろ」


 その言葉を聞いて僕は咄嗟に石魔法の準備をした。父さんみたいに早くは飛ばせないけど、それでも当たれば怪我はする威力はある。

 そうして、籠を地面に置き戦闘態勢を整えていると、赤髪男がニタニタしながら剣を鞘から抜いた。


「・・・やるぞ」


 その瞬間僕は意を決して、魔法で作った石を顔面目掛けて飛ばしその結果を確かめる事無く全力で声を張り上げた。


「皆逃げるよ!」


 その声に反応して三人とも走り出して、ラースはエルシアの手を引き、それをカバーするようにルーカスがその二人の後ろを走ってくれていた

 

 でも僕は走らずにその場で立ち止まりショートソードを抜き赤髪男と向き合っていた。


「ッチ、クッソ危ねぇなアァァァア!!!」


 まだ精度が悪いのと速度が遅いのが相まって、ギリギリのところで交わされてしまったらしく、赤髪男の頬に傷を付けることしか出来なかった。これで決まってくれれば楽だったのだが・・・。

 

 そうしてこれからどうするかと赤髪男と対峙しているとエルシアの甲高い悲鳴が聞こえた。

 

「ひゃあっ!?」

 

 赤髪男から目を離して声の聞こえた方を振り返ると、エルシアが木の根に引っ掛かったのかコケてしまっていた。

 

「おい大丈夫か!?」

「・・・ん、大丈夫足ひねっただけ。兄さんは先行ってて」

「置いていけるわけねぇだろ!!一緒に行くぞ!」


 ラースが転んだエルシアを火防としているが、エルシアが足に力が入らないのか立てないでいた。そんな光景を見てどうしよう半ばパニックになって頭が真っ白になって固まっていると、必死の形相でルーカスが叫ぶ声ではっとした。


「フェリクス!後ろ!!!!」


 その声で振り返ると赤髪男が剣を今まさに振り下ろそうとしていた。僕は咄嗟にショートソードを体の前に掲げるが所詮子供の力で、あっさりとそのショートソードは赤髪男に弾かれてしまった。


「戦いで目ェそらすなって教えられなかったかァ?」


 尻餅をつき手ぶらになった僕の目の前に赤髪男の剣の切先があった。自分のショートソードの行方を探るが、遠く手の離れた所に転がってしまっていた。


「ま、オメェの運のなさを呪うんだな」


 そう剣が振り下ろされそうになった時、僕と赤髪男の間に小さな人影が入り込んできた。


「お、おい!これ以上近づくな!俺が!お前を倒す!」


 一瞬ブレンダさんかと期待したが、そこにはラースが僕の剣を握って震える足を何とか奮わせ立っていた。


「オメェさっきからキンキンうるせェなァ」

「か、かかって来いよ!俺がこ、殺してやる!」


 ラースが震えるような声で叫んでいる。

 少し落ち着きを取り戻し、後ろを見るとルーカスとエルシアが足を止めてしまっていた。

 それを見てこのままでは全員殺されてしまうそうカンファ得、僕は何とか震える体を抑えて立ち上がり、ラースの手にあった剣を奪った。僕のショートソードを拾ったらしいが恐怖で震えていたお陰か、あっさりとそれを奪う事が出来た。


「ラース、引いて。僕が戦う」

「なっ!なんでお前が、、、」


 ラースは今にも腰が抜けてしまうんじゃないかと思えるぐらい震えてる。こんな小さい子に四人の命を押し付けちゃいけない。僕はこれでも二十数年生きているんだ、ここで情けなくへたり込んでいる訳にはいかないんだ。


 だから僕はラースの右手を強く掴み叫んだ。

 

「いいから!エルシア助けるんだろ!?一緒に逃げろって!」

「いや、でも、、、」

「いいから!!」


 赤髪男から目を離さないよう、無理やりにでもラースを押してルーカス達の方に走らせる。まだラースは何か叫んでいたが、三人分の足音が遠くなっていたのでひとまず安心できた。


「ッチ、いちいちうるせェガキどもだなァ」


 そう言うと赤髪男は剣を振りかざそうと剣を強く握った。

 僕も剣を構える振りをして石魔法の準備をする。次こそは顔面に当てようと、赤髪男が振りかぶった瞬間に、出せる最高速度で魔法で石を飛ばした。


「クソッ!またかよ!!しつけェなァ!!!」


 外れてしまったが、赤髪男の体勢を仰け反らせることには成功した。僕はそれを確認するとラース達とは逆方向に走り出した。


「まだ・・・魔力はあるッ」


 木々をスルスルと転ばないように、ラース達からもっと離れるように駆け降りる。石魔法もまだまだいけるしもっと時間を稼がないと。


 そう後ろを振り返ると、僕の狙い通り赤髪男は顔を真っ赤にして追いかけてきてくれていた。


「クソガァァキィィィ!!!!」


 僕に同じ手を二回食らったのがそこまで気に食わないのか、かなり激怒していた。これならラース達の事を忘れて僕しか見えてないだろうと確信を深めてさらに森の深い方へ進む。


「早く殺してみろよ!?ガキ一人も殺せないんかあ!!!?」


 ここまで来たならと、振り切って思いっきり煽って煽り倒して僕に引き付ける。正直恐怖で声が震えて無いか心配で変な笑いが出そうだったが、上手く引っ掛かってくれたらしく赤髪男は、その髪よりも顔を赤くすると。


「うっせェガキだなァ!!舌引っこ抜いてやる!!!!」


 だが所詮は子供と大人、だんだんと距離が詰まってきてしまい、また赤髪男の剣が今にも当たりそうな距離になってしまった。


「もらッたァァァァ!!!」


 そう赤髪男が木々の間をかいくぐって僕に向かって剣を振り下ろしてきた。僕の魔法も三回目となると対策されているはずと、今度は小石を大量に魔法で作り赤髪男の前にばらまいた。


「だァかァらァ!!さっきから石ころばっかりうっとしいなアァァァ!!!」


 赤髪男の目に小石が入ったらしくまた足音が遠くなった。足止め程度にはなったらしいが、後攻撃になりそうな魔法の手札が無くなってしまった。ここで石以外に色々な魔法を使えたら楽だったけど、半年じゃこれが限界だった。


 そんな近づかれては石魔法を飛ばして離れのイタチごっこだったが、結局それもすぐ追いつかれてしまい、僕は木を背に追い詰められていた。

 そして赤髪男は肩で息をしながらも満足げに笑って僕を見下ろした。


「やァっと追い詰めたぜ。徹底的に苦しめてから殺してやるから楽しみにしろよォ」


 多分魔法を使おうと動いた瞬間、今首に当てられた剣が僕の首を切るだろう。そんな状況の中赤髪の男の後ろで藪がカサカサと動いた。


「何やってんだお前」

「あん?あぁイレーナか。ガキが逃げたから手伝え」


 女の声だった。見た目はかなり若々しいし青髪にスタイルが良く、野盗にしては綺麗という言葉が似合いすぎている人だった。


「良いから剣下ろせっての。ガキ相手に何ムキになってんだよ」


 後ろで束ねた青髪が揺れた。そして赤髪男も青髪女に逆らえないのか、不満を顔に前面に押し出しながらも僕の首から剣を離してくれた。


 少し体勢が楽になった僕は木を背にしたまま周りを見渡す。赤髪男は僕から見て左の少し離れた位置、青髪女は正面、あとは・・・茶髪の男が見えないな。でもまだ他にも仲間いる可能性があるし逃走は絶望的か。

 

 すると青髪女が腰に手を当てつつ、面倒くさそうに僕に話しかけてきた。


「心配しなくても三人だけだぞ」

「・・・そうですか、それは朗報ですね」


 僕の考えている事なんてお見通しって事らしい。だが朗報にしては全くもって僕の状況は好転していなかったが。

 

「あたしとしては殺すつもりはないんだが、あいつが茹で上がっちまってるからなぁ」


 そう青髪女は赤髪男を親指で差していた。

 まぁ殺されようが殺されまいが、僕にはラース達の為に時間を稼ぐ事しか選択肢はない。


「なんとかあの人説得してくれませんかね?僕みたいな一般農民襲ってもなんも得ないですよ?」


 意外にこんな状況でもスラスラと言葉が出る自分に驚いた。人間跡が無くなると案外生存本能で覚醒するのかもな。

 

 だがそんな僕の薄っぺらい言葉に呆れたように半笑いで青髪女は言った。


「魔法ポンポン使えるガキが一般農民なワケ無いだろが」


 話している感じ、この青髪女はそこまで話が通じないわけでは無そうだった。これなら何とかなるかもしれないと薄い希望を抱き始めていると、また赤髪男が喚きだした。


「なァイリーナ?こいつ殺しちまってもいいだろ?他にも魔力持ちいるんだしよォ」

「あ?お前は黙ってろ。良いから他のガキ探してこい」


 そう青髪女は顎で赤髪男に指示を出した。だがそれは僕にとっては都合の悪い指示だった。まだ時間を稼げたと言っても、長くて十分とかそこらだ。それでもはすぐにラース達が追い付かれてしまう。

 

 だから何とか必死に頭を回して、赤髪男をこの場に留まらせれるよう言葉を考え、煽る様に怒りを誘うように意地悪に出来るだけ声を作って叫んだ。


「おいおい!逃げんのかぁ!?威勢がいいのは口だけかぁ!?」


 すると赤髪男は分かりやすくこめかみに血管を浮かべ僕を睨んできた。


「あ゛ァ!?ケンカ売ってんのならそう言えやァ!!!このクソガキィィィガァァァ!!!」


 僕を今にも殺してきそうな勢いでキレているが、目的通り上手く釣れた。そう思ったのだが青髪女が今にも暴れそうな赤髪男の首を掴み意識を落としてしまった。


「・・・はぁお前はほんとにめんどくさいな」


 目的とは違ったが、結果的には赤髪男がダウンして僕としてはいい展開だ。自分で一人分の戦力を削ってくれてありがたい。これで僕がどれだけ粘れるかにラース達の命がかかってくる。

 

「はぁ・・・・で、お前ほんとにガキか?」


 赤髪男を地面に寝かせ立ち上がり僕の方を見てきた青髪女が、そんな意味の分からない事を聞いてきた。


「どっからどう見てもガキでしょ」

 

 だがまだこいつに会話をする気がある内に、出来るだけ時間を稼ごうと会話を続ける。


「それに、ちょうど茹で上がった人もいなくなったことですし、平和的に行きません?」

「・・・気色悪いガキだな」


 気味悪がられても関係ない。どうにか会話で時間を・・・どうにかもっと時間を稼がないとラース達が危ない。


「まぁアレシュの奴も遅いし良いか」


 そう言って青髪女の来た道を見た。

 その時に僕の視界では、青髪女が腰のナイフに手を当てた気がした。それが早とちりだと気づいたのは後になってからだったが、その時の僕はそう感じた瞬間考える暇も無く咄嗟に逃げた。


「じゃあついてきてもらうぞ━━って!おい!逃げんのかよ!!」


 すぐに青髪女が追いかけてきたが、残った魔力で全力で足止めをした。当たらなくてもあちこちに魔法で作った石を飛ばした。少しでも時間を稼げればいいと思ってやったが、どの石魔法も一切当たらず木の幹を削るだけだった。


「ッチ、どんだけ魔力あんだよ!」


 そうは言っていたが、青髪女がナイフを投げそれが僕の背中に刺さってしまった。よくもこんな状況で当てたのだと感心したいが、今の僕の背中に広がる鋭い熱さに思考が奪われ始めていた。


「ほんとに手間かけさせやがって・・・」


 青髪女が背中の痛みに耐えきれずに倒れた僕に近寄ってきている。手にはもう一本のナイフを持っていた。


「・・・ここまでか」


 まぁ僕にしては良くやった方だろう。そこまで時間を稼げたとは思えないが、ブレンダさんもどこかにいるはずだし、ラース達が逃げれる可能性もまだあると思いたい。


 そう深呼吸を繰り返し痛みを忘れようとしている時、ふとその青髪女の足音が止まった。


「・・・・・・・誰だ」


 青髪女がまたそんな意味の分からない事を言っていた。でも僕にも目の前の藪から出てきた人の姿を見てその言葉の意味が分かった。


「・・・・遅いですよ」


 白い給仕服が返り血なのか真っ赤に染まり大剣を抱えたブレンダさんがそこには立っていた。それがとてつもなく安心感を僕に与え、少しだけ涙ぐんでしまった。


「すみません。少々てこずりまして」


 ブレンダさんはそう微笑むと僕と青髪女の間に割って入った。ずいぶん大きくて優しい背中だった。


「アレシュの奴死んだか」

「・・・次は貴方の番ですよ」


 ブレンダさんが大剣を構える。だが青髪女はナイフを構えようともしないどころか、手をヒラヒラさせながら鞘にしまってしまった。


「じゃ、無理そうだからあたしは帰らせてもらうわ」

「ッな!待て!!」


 青髪女が逃げようとしてそれを当然ブレンダさんが逃がすわけがないはずだったが、青髪女が去り際に僕を指差して言った。


「そこのガキ、放置すると死ぬぞ」


 それだけ言い残して、青髪女は足早に去ってしまった。ブレンダさんはそれを聞いて、追いかけることが出来ずに僕の元に駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか!??今治癒魔法するので待っててください!!!」


 僕はと言うと、助かったという安心感なのか、血が足りないからなのか、僕の意識はだんだんと薄くなっていた。


 そして仰向けになった視線の先ではかなり焦ったようなブレンダさんの必死な顔が見えていた。

 

 それから意識の途切れる最後までブレンダさんの声が聞こえ続けていて、治癒魔法の温かさと共に、死にかけのはずなのに安心して目を閉じることが出来た。




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