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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第八章
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第百三十六話 想い人


 私はフェリクス達と別れて宿舎に戻るとボーっと二段ベットの天井を見ていた。久々の非番とは言え、やる事もないから暇で暇で困っていた。


「お腹空いて無いしなぁ・・・」


 私はあまり朝は食欲がないタイプだ。それに朝も別に強いわけじゃないから今もちょっとだけ眠い。今寝たら勿体ないから起きてはいるけど、起きていたとしてもやる事が特にない。


「・・・・・・はぁ」


 もうこの宿舎も随分人が少なくなった。でもそれは人によっては寂しく感じるだろうけど、人の心が無条件で聞こえる私にとっては随分過ごしやすくなった事も意味していた。

 

 そう周囲に視線を向けていると、ふと私の頭に影が覆った。


「何してんの?」

「あ、遅かったね」


 顔の向きに合わせるように体を捻って二段ベットの下から見上げると、アイリスちゃんの見下ろす視線とぶつかった。一時間ぐらい経ったけど何をそんなにフェリクスと話してたんだろうか。 

 そんな私の疑問に答える様にアイリスちゃんは顔を上げると。


「朝ごはん食べてきたから」


 あぁそこでフェリクスと話していたのか。それに姉の中佐さんとも話してたんだ、こんな天邪鬼な子に色々フェリクスも気を使ってあげていたんだね。

 そう思っているとアイリスちゃんが不機嫌そうに私を睨んだ。


「勝手に心読んだでしょ」

「聞こえるから仕方ないし~」


 私はそう言って体を起こすとアイリスちゃんをどけて二段ベットから出た。そして両手を組んで天井に向けて背筋を伸ばした。


「ん~~~っと。まぁ家族は大事にね。私にはいないけど」


 私にとって家族程大事だと思える人は死んじゃったから。本当の家族ってのは私には分からないけど、アイリスちゃんも本当に嫌いって訳じゃないなら仲直りすればいいのに。


「後回しにするといつか後悔するよ」

「何知った顔で言ってんの」

「心読めるからねっ」


 私はぽんっとアイリスちゃんの肩を叩いたが明らかに嫌そうに払われてしまった。まぁ心の内で嫌ってくるよりこうやってあからさまな方が接しやすい。それにこの子他の人にも同じ感じだし気にしてもしょうがない。


 するとアイリスちゃんはやっと本題に入るらしく腰に手をやって言った。


「で、結局異動は難しそうだってさ」

「・・・・やっぱり?」


 薄々それは感じていたけどフェリクスに面と向かって確認できなかった。異動は嫌だけどやっぱりフェリクスは私に気を使ってあんな嘘を付いたんだと思うと、少しだけ悲しかった。


「まぁやるだけの事やるらしいけど」

「そっか・・・」


 昨日中佐さんと話してカッとなって心の声を聞きそびれたけど、やっぱそう言う事だったのかぁ。じゃあ後で謝った方が良いのかな。

 するとアイリスちゃんが珍しく姉を庇うような事を言い出した。


「庇う訳じゃないけど姉さんじゃどうしようも出来ない事だし」

「優しいじゃん」

「・・・・・・別に」


 アイリスちゃんが少しだけ照れたように顔を逸らしてしまった。彼女は彼女なりに色々解決したんだろうなってのが、心を読まなくても分かる。

 

 でも私は違う。私にとって楽しい時間はすぐに終わってしまう。気付いたらフェリクスが居なくなって、ずっと頑張ってやっと再会できたと思ったら今度はイリーナ姐が居なくなって。そしたら畳みかける様にフェリクスと離れ離れになってしまう。


 だけどそんな暗い気持ちを振り払うように私は自身の頬をパチンと叩いた。


「でも信じよっ」


 フェリクスがああ言ってくれたんだから。今更ウジウジ悩んでても仕方ない。それこそイリーナ姐に鼻で笑われちゃうしね。


「じゃあ私も朝ごはん行ってくるね」


 少しだけ困惑気味のアイリスちゃんを置いて私は背を向けて歩いた。これから私達がどうなるのか分からないけど、今一緒に居れる幸せを噛みしめよう。


 そう私は朝の想いを忘れない様頬の痛みを覚えたのだった。


ーーーーーー


「じゃあもうそろそろ行こうか」


 私は野営地から馬に鞭打って馬車の車輪を回し始めた。もう随分暖かくなってきたから日差しが眩しくて、手で影を作るけどそれもあまり意味を成さなかった。


「これも歳かなぁ」


 そう呟いて指の間から漏れ出る日光に目を細めていると、後ろから声がした。


「こんな大所帯でどこ行くの?」


 後ろの荷台に乗る銀色の髪の新女王様が、私にそんな疑問を投げかけてきた。馬車の客車と御者台が仕切られているのに、わざわざ小窓を開けてまで聞きたい事らしい。


「言わなくても分かってるんじゃないの?」


 別に答えてあげても良いけど少しの興味で後ろに視線だけやってそう言った。どうせ一か月ぐらいは移動で暇だしこれぐらいしか暇つぶしが無いしね。

 すると銀色の彼女つまりエルシアが少し不満そうに顔を顰めつつ言った。


「・・・またあいつの国が攻められたとか?」

「ん~~まぁ七十点ってとこかな」


 いつのまにかこの子フェリクス君の事あいつって言うようになったらしい。まぁ前もこっそり会いに行ってたし仲悪いわけじゃないだろうけど、何か理由があるのかな。


 でも私の評定を受けたエルシアは不機嫌そうに声を尖らせた。


「じゃあ答えは何」

「私らが攻めるんだよ。分かってるくせにわざわざ聞く理由ある?」


 あえて挑発するように言うけどあまり反応を見せてくれなかった。相変わらず挑発してもいじっても反応がつまらない子だ。


「あっそ。ありがと」


 そうバタンと小窓を閉じてしまった。


「一応小さい頃からの知り合いなんだけどなぁ」


 まぁあっちは二歳とか一歳の頃だから覚えている訳無いんだけど。ロタール君それにエトヴィン君と一緒にエルシアを祭り上げて戦ったのがもう十五年前か。


「歳取ると時間の流れが速いねぇ」


 まだまだやってみたい事があるのに人間の寿命はあまりに短すぎる。所詮一人の人間ではやれる事も小さいし量も多くない。やりたい事に限って時間がかかるから猶更に。


「人生二回目があったらなぁ」


 何度も人生をやり直せたらどれだけ良い事か。そんな羨ましい人種がこの世界にいるから全く世の中は理不尽ってものだ。


 そう私は閉じられた小窓をチラッと視線をやった。


「ま、実質的に私もやり直してるって事だしいいか」


 記憶は無くとも何度も同じ私がやり直してるんだから、ある意味毎回楽しめていると思うと溜飲も下がるってものだ。だから次の私に楽しみを残すために、彼女にはハッピーエンドなんてさせたらダメなんだけどね。


「まぁそれはそれとしてフェリクス君との決着はつけないと」


 どちらにせよこの世界の私の最大目標は彼だ。彼がいるからこれまで楽しく色々やれたし、今も最期の大仕事を出来ている。こんなやりがいがあるお陰か最近は体調も良い気がするしね。

 

「~♪」


 いつの間にか鼻歌をしてしまっていた。機嫌が良いとこれする癖誰に指摘されたんだっけか。エトヴィン君だっけ?いやギュンター君だっけか?

 まぁそんな事はどうでもいいか。どうせもう私にとってはどうでもいい老人たちの話だからね。


 そんな時、私に近づいてくる馬に乗った男がいた。


「これだけの兵力で大丈夫なんですか?」

「ん~?大丈夫だよ~」


 エトヴィン君の孫の子か。祖父が死んだっていうのに仕事に忠実ですごい子だねぇ。


「ですが五千ともなると、流石にレーゲンス帝国もそれ以上の兵を用意してくると思いますが・・・」

「だって君らの国がそれ以上出してくれないんだから仕方ないじゃない」


 何を今更と私は笑ってあげたが孫の方は未だに不安そうに顔を落としていた。


「なら攻めない方が・・・・」

「でも策が無いわけじゃないから安心しな」


 そう一枚の手紙を取り出した。一週間前にレーゲンス帝国の少将からの返事だ。


「・・・本当に信じて良いので?」

「彼も引けないんだよ。逆にあっちが私達の裏切り心配するべきなんだよ」


 あの子はギュンター君の教え子なだけあって視野が狭い。能力こそ有能でもその理想が枷となってしまっている。でもギュンター君よりかは現実的で世渡りが上手なようだけど、結局産まれた国が悪かったね。


「それに君の想像以上にあの国も一枚岩じゃない」

「女王ディリアの事ですか?」

「まぁね」


 ディリアもエルシアをぶら下げれば条件次第で従ってくれる。宰相も私の教え子で頭が上がらないし、これまで散々協力してきたのだから今更裏切れるわけがない。国内で人気のある軍人な少将は私と密約済み。最早出来レースみたいな物だけど、それじゃあつまらないよね。


「だから君は安心して私に付いてきて。なんてたって君の祖父の戦友だからね」

「ありがとうございます・・・・」


 思い出したように孫は目元を抑えて私に深々と頭を下げてきていた。目の前に祖父の仇がいるとも知らずに滑稽なものだ。


「じゃあそろそろ本隊に戻りな。指揮官が離れ続けるのは良くないよ」

「・・・そうですね。分かりました!」


 改めて自身に気合を入れ直したのか声を張り上げ馬を走らせて行った。あの子は祖父と似て懐疑心が足りないようだ。


「いやぁどうしようねぇ」


 理想は負けるか勝てるかの状況。今みたいな絶対勝てる状況なんてつまらないし肩透かしが過ぎる。だからもう一回この状況をひっくり返さないといけないけど、方法はどうしたものか。


「楽しいねぇ」


 となるとあの少将をどう使うかになるか。そのまま裏切らせたらもう完全に消化試合になっちゃうし、どう切り捨てるかだなぁ。あの子頭は切れるから上手い具合に扱わないと、逆に状況が混乱して面倒くさくなる。


「いやぁでもなぁ」


 都合が良い事にこっちの軍も小さい。いくら鉄砲があるとはいえ額面上の戦力に開きは無い。互いに削らせて小国並みの規模の軍隊にしてしまうのも良い。そうすれば兵士も減って戦場でフェリクス君を探す手間も省けるってものだ。


「それかいっその事・・・」

 

 今ふと思いついたけどこれ良いアイデアかもしれないな。そうすれば戦力の差も広がらないしそもそもの戦いの規模が大きくなる。さっきの案みたいに軍の規模が小さい方が都合は良いっちゃ良いけど、やっぱ戦いは大規模じゃないとね。なんてたって男の子なんだからね。


 そんな溢れる可能性に私は笑みを隠せないでいた。こうやって色々考えている時間が一番楽しい。それもこれもこんな娯楽を提供してくれた彼に感謝だね。


「よしやろうっ!」


 ちょっと交渉が面倒くさくなりそうだけど、そっちの方が面白そうだからやってみよう。そう考えがまとまり出すと私は歳甲斐も無く気分が昂っていた。


「すぐ行くから待っててね」


 道の先の先。まるで想い人がいるかのような視線で私は彼へと独り言を呟いた。


 前章の後書きでも少し触れましたが、結局もう少し話数が嵩みそうなのでここで一旦章を区切ります。

 そしていつもの事ながらも読んでいただいている皆様本当にありがとうございます。お陰様で最終話まで道筋が見えるぐらいまで書き進める事ができました。あと十話前後での完結を目処に書くので応援よろしくお願いします。


 そして次話投稿は八月一日(金)にします。その間最終話までの構想を詰めつつ、空いた時間に一章の修正をすると思いますのでよろしくお願いします。


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