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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第一章
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第十二話 持ち帰った物


 街に来て二日目の朝。まだ瞼の裏も暗く眠気もあったが、誰かがゴソゴソと動く音で目が覚めた。その音で渋々と目を開けると、やはり窓の外はまだ紫色で部屋の中もあまり見えなかった。


「ん?起こしちゃったか」


 僕が起きたのに気づいたのか声の方を向くと、父さんがベットのそばに立ってこっちを見ていた。と言っても暗くて顔は見えずからかったが。


「こんな早くにどうしたの?」

「今日は市庁舎に行かないといけないからな。それ関係だ」


 市庁舎?あぁ広場のでっかい時計のついた建物か。確かに広場で一番目立ってたし、市庁舎だと言われれば納得だ。


 そんな会話を挟みつつ、ボーっとする頭で慌ただしそうに準備しているのを眺めていた。こんな朝から大変だなと思っていると、そさくさと父さんはすぐに部屋を出て行ってしまった。

 

 僕もそんな父さんを見送ってから、こんな時間に起きててもしょうがないのでそのまま二度寝をする事五時間ほど。すでに太陽は窓の上を通り過ぎてしまっていた。

 

「なあ!なあ!街探検しようぜ!」


 部屋の中でラースの騒ぐ声が聞こえる。その声でぼんやりと睡眠から覚めると、窓の外はしっかり明るくなっていた。二度寝にしてはかなり寝てしまったとこの時実感した。


「ぼ、僕らだけで行ったら危ないでしょ・・・」

「じゃあルーカスだけここにいればいいだろ!お前だけ置いてくからな!」

「い、いやそういう問題じゃないでしょ!」


 あーあー聞こえない。そう耳を覆うようにして毛布を被る。今エルシアは隣の部屋だし、だれもこの喧嘩を止めようがない。僕が止める事を出来たとしても、朝?から子供の喧嘩の仲裁なんてしたくない。


 だが、誰一人仲裁する人のいない二人の喧嘩はヒートアップしていき流石にうるさくなってきた。だから僕はまだ寝たい瞼を無理やり開き毛布から出た。

 

 すると隣のベットの上で今にも取っ組み合いになりそうになりながら喧嘩をする二人の姿が見えた。


「朝からうるさいよもう」


 多分今の僕は機嫌が悪い。元々朝弱いしこんな起こされ方をしたら当然だ。 

 でも二人は変わらず言い合いを辞める気は無いらしく、言い訳するように二人して僕を見た。


「い、いやラースが変なこと言うから!」

「ルーカスがつまんねぇだけだろ!」


 子供の甲高い喧嘩声を聞き、またベットに戻りたくなる感情を覚えた。が、なんとか耐えて落ち着かせる方法を寝起きの回らない頭で考える。


「どーっしよっか・・・・」

 

 でも結局思いつかないのであっさり諦めた。正直今この二人の仲裁する元気も気力もない。だから僕は喧嘩する二人を置いて部屋を出て、エルシアの力を借りに隣の部屋をノックした。

 

「開いてるので入っていいですよー」


 ブレンダさんの声を聴き扉を開ける。

 するとそこでは、ブレンダさんがエルシアの肩までかかった銀髪の髪を梳いていた。その銀髪はやはり陽の光で映えるようでとても絵になっていた。


「入らないのですか?」


 見惚れてドアの前で立ち尽くしていた僕に入るようブレンダさんがせかす。

 そしてそのドアを閉める瞬間、隣の部屋から僕を現実に引き戻すように、また二人の喧嘩する声が聞こえ用件を思い出した。


「あ、あのルーカスとラースがまた喧嘩してて、ちょっとどうにかしてほしくて・・・・」


 その言葉にこちらを見たエルシアの冷たい目線が突き刺さる。めんどくさい、自分でやれよと感情がありありと分かる表情だった。


「はぁ・・・・ちょっと待ってて」


 でもなんだかんだ引き受けてくれるらしい。ほんとに昼間からすみませんとしか言えない。

 でもまだ髪の手入れの途中らしいので僕は待つ為椅子に座り、髪を梳かれている光景を眺めていた。ブレンダさんも人の髪を梳くのが慣れている用な手つきだった。


「・・・・妹さんにも同じ事やってたのかな」


 会った事も無いし話で聞いただけの人の姿をエルシアに重ねる。今のブレンダさんの穏やかな表情からしても、もしかしたら妹との事を思い出しているのかもしれないな。

 

 そうどこか温かい気持ちになりながらその光景を眺めていると、やっと終わったらしくブレンダさんの手が止まった。


「よし、終わりましたよ。髪は留めなくていいですか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


 エルシアはわざわざ振り返ってブレンダさんにお辞儀してお礼を言っていた。兄と同じ環境で育ったはずなのにどうしてこうも違ってしまったのか。


 すると頭を下げたエルシアはそのままドアの方へ向かったので僕もついていく。そしてドアノブに手をかけたときに振り返ってきた。


「ちなみに喧嘩の原因何?」

「冒険するかどうか」

「・・・・・・あぁ、はい」


 あぁそれね、といつもの事のような反応をしていた。この反応だけで、今までどれだけのラースを相手にしているかわかる。

 そうして肩を落とすエルシアについて行き、部屋に戻ると二人は未だに喧嘩をしていた。よくもまぁ飽きないものだと思った。


「兄さんなにしてるの」


 エルシアは腰に手を当て呆れたように兄であるラースに話しかけた。


「い、いや街を冒険しようって言ったらこいつが・・・」

「え、僕間違ってないよね?危ないからやめとこって言ってるのにさ!」


 ずっと同じ事ををぐるぐる言い合ってたらしい。そう思いエルシアの方を見ると同じように呆れてたらしく、冷めた目で二人を見ていた。


「一応ブレンダさんに一緒に外行こうって話したけどどうする?」

「っえ?いつそんな話してた?」


 僕がブレンダさんたちの部屋に入ってから、そんな会話してなかったと思うが・・・。


「来る前から聞こえてたの。フェリクスさんが来なくてもどうせ止めに行くつもりだったし」

「あ、ありがとうございます・・・」


 よくそこまで気が回るなぁと感心した。僕は喧嘩を止める方向で考えてばっかで、全然思いつかなかった。

 そしてそのエルシアは催促するように喧嘩を続けていた二人に問いかけた。

 

「で、どうする?行くの行かないの?」

「い、行くって!行くよ!」「ま、まぁ僕もブレンダさんがいるなら安心だし行くよ」


 うまく今日の方針が固まったようだった。

 そうして僕はエルシアに感謝しつつ、ラースとルーカスの準備を待ってブレンダさんの部屋に向かった。そこで事情を改めて説明し、飯のついでに外に出ることになった。


「じゃ、はやくいこーせ!」


 そうラースがドアの手前でせかしている。珍しく我儘が通ったお陰かいつもより元気そうだった。そう逸るラースを抑えつつ、とりあえず外に出たもののどこに行くか決まっていなかった。


「とりあえず、城いこーぜ!」


 そう言って先頭を歩くラースは広場への道の先に見える城というより要塞に近そうな建物を指さした。確かに男の子ならあれに行きたいと思うのは普通な感情ではあるが、流石に観光地じゃあるまいし無理だろう。

 

 そして結局それは流石に無理なようでブレンダさんに止められてしまった。


「さすがに城は入れませんよ。とりあえずは広場に行きましょうか」


 そうしてみんなで敷石の上を歩いていると、一日目はちゃんと見れてなかった建物が彩があって綺麗なのに気づいた。

 白い壁にオレンジ色の建物が所狭しと並んでいて、広場に近づくにつれ屋台や露店が増えていき、にぎやかな雰囲気になっていた。昨日みたいにきつい匂いも無くて、完全にヨーロッパ旅行気分を楽しめている。

 

 そのまま歩き続けていると、櫓なのか監視塔なのか何やら高い建物が立っていた。その建物を見てふと気になったことがあった。

 

「この城って何と戦ってたんです?」


 城壁と言い防衛設備がかなり厳重そうに見えるけど、市内はいたって平和そうで戦争の匂いなんてかけらもしない。でもそんな光景とは真反対にブレンダさんから聞き馴染みの無い単語が飛び出した。


「まぁ異民族ですね」

「異民族?」

 

 てっきり国名が出てくると思っていたが、異民族とは普段聞き馴染みのない単語が聞こえた。元の世界の異民族ってモンゴル人とかフン族のイメージだけど、ファンタジー的あれなら魔王軍とかその辺だろうか。いやでも今の所人間しか見てないしな・・・。


「帝国の支配の及ばない地域からくる民族集団ですね。最近は鳴りを潜めてますけど昔はよく攻城戦とかしてましたよ」

  

 ちゃんと元の世界と同じような異民族だったらしい。安心したようなロマンが無い様な。

 でもそれにここ最近ってことは、父さん達も平和になってからエルム村に移住してきたってことか。ここ最近情勢がきな臭いっぽいしエルム村も平和であってほしいな。

 

「じゃ、じゃあ今急に攻めてくるかもしれなんですか?」


 話を聞いていたらしいルーカスが当然の心配をしていた。まぁここ最近鳴りを潜めてるって言い方だと、完全に安全って感じの言い方じゃないしな。


「ここ十年はほとんど攻めてきてないので、大丈夫ですよ」


 ということらしい。まぁ僕らが心配してもどうにもならない事だしな。

 

 すると今度はラースが攻城戦という単語に興味を持ったらしく、先頭を切って歩いていたのにわざわざ戻って来た。


「今の攻城戦ってどんなのだ!?」

「攻城戦はあまり華々しいものじゃないですよ。ひたすら耐えるだけですし」


 そう語るブレンダさんは苦い表情をしていた。やはりこの城に嫌な思い出があるんだろう。それにしてもブレンダさんは子供に好かれるな。

 

 そしてブレンダさんにお構いなしにラースは質問をつづけていた。


「ってことはブレンダさんって戦ったことあるんですか!?」

「昔は傭兵やってましたから」

「じゃ、じゃあ今度剣教えてくださいよ!」

「今度機会がありましたらね」


 ブレンダさんに色々聞いてる時の僕って周りから見たらこんな感じなんだろうか。案外子供ぽかったりしたのだろうか。

 

 でもそんな光景をなんだか微笑ましいなと思っていると、どこかから肉の焼けた良い匂いがしてきた。そしてそれと同時にラースも気づいたらしく、匂いの発生源を指指差して大声を出した。


「俺あれ食べたい!」


 ある建物の前に屋台っぽいものがそこには立っていた。

 遠目で見たらタコスみたいに生地に肉やらなんやらを挟んでるというのは分かった。あまり見たことの無いタイプのご飯だな。


「じゃああれにしますか。皆さんは大丈夫ですか?」


 断る理由もないので、ブレンダさんのそれにみんな賛同してその屋台に向かった。


「すみません、これ五ついただけますか?」

「はいよ、銅貨十枚ね」


 改めて近くで見るとかなり美味しそうといか、現に匂いが食欲をそそる濃そうな物だった。肉とキャベツっぽい葉っぱを生地で挟んでいて、今にも肉汁が溢れそうで手がベトベトしそうなのは難点だが。


「はい、熱いので気を付けてください」


 ブレンダさんから一つもらいほおばる。やっぱり生地から汁がこぼれて手について少し気になったけど、それでも味が濃くておいしかった。こっちの世界に来てからは、味付けが塩ぐらいしかなかったけど、昨日の魚と言いこの街の食べ物は味が濃くておいしい。それにこれは何の味付けだろうか。出来るならお土産で欲しいぐらいなのだが。

 

「これ、なに入ってるんです?」

「おそらくですが魚醤ですね。魚の内臓を発酵させて作るものです」


 ほう、魚醤か。初めて聞いた調味料だけど再現できないかな。魚の内臓なら何とか集めれそうだけど・・・。

 そう近くの川で釣りをして・・とか考えているとブレンダさんが苦い顔をして僕を見た。

 

「・・・作ろうとしないでくださいね。臭いので」


 先に釘を刺されてしまった。まぁまたこの街に来た時に買い溜めればいいか。


「うめぇな!これ!夕飯もこれにしよーぜ!」


 どうやら僕以外にも好評らしく、僕以外の三人とも美味しそうにほおばっていた。

 

 そんな三人が食べているのを見ているとやっぱりラースは食べ方汚いな・・・。手と口が汁だらけになってベタベタしてる。それに対してルーカスとエルシアは食べ方綺麗だな。なんで兄妹でここまで礼儀作法やらマナーに差がつくものなのか。

 

 そうして僕とブレンダさん、ラースが早々に食べ終わり、エルシアとルーカスが食べ終わるのを待った。その後は目的は果たしたので宿に帰ることにしたが、やはりラースはまだ散策したいらしくむくれていたけど妹のお陰で何とか抑えれたのだった。


 そうして宿に帰った後男部屋に戻った僕らは、まだ昼過ぎということもあって、何もやることが無く暇を持て余していた。

 

「ねーひーま~、今度は三人だけで街いこーぜ~」


 宿に戻ってからラースはずっとこんな調子だった。幸いなことにルーカスが寝ているお陰で喧嘩にはなっていないが。


「流石に危ないって、ディルクさんに心配かけたくないでしょ~?」

「別にそんな遠く行かなきゃいいじゃん。つまんねー」


 どっちにしろ僕も人混みで疲れたし普通に外出たくないのもある。それにしたってラースに元気がありすぎなのだが。


「また今度来た時ね~」

「あーはいはい分かりましたよー」


 なんだかんだラース君も聞き分けが良くなってきた気がする。まぁまだ不貞腐れたような顔してるから、不満たらたらなんだろうけど。


「ふぁ~あ」

 

 僕もそんな会話に疲れ、窓からのそよ風と陽の光浴びてたら眠くなってきた。春先な事もあってちょっと寒いが気温的には過ごしやすい。


「寝るから、夕飯の時間なったら起こしてー」

「あいよ~」


 僕はそうして昼寝を決め込むことにした。また夜寝れなくなるかもしれないけど、その時はその時だ。


 ーーーーーー

 

「・・・・て・・・きて・・起きてください」


 誰かに体を揺すられて、だんだんと意識が眠りから覚めてくる。それに顔に何か当たってくすぐったい。


「んー?・・・・もう時間?」


 まだもう少し寝たい、そう睡魔に負けかけて毛布を包もうとすると、意外な声が僕を起こしていたのに気づいた。


「はい。今から夕飯に行くそうです。兄さんたちは先外出てますよ」

「ん・・?うん、分かった・・・ありがと」


 眠い目を開けると窓と僕の間にエルシアが僕を覗くように屈みこんできていた。どうやら肩下まで伸びた銀髪が風に揺られていて、僕の顔に当たっていたらしい。

 

 てかそれにしても顔近いな。まつ毛なっが。それに目もぱっちりだし女の子って男とこうも構造が違うのか。

 

 そう思いながらエルシアの顔を避けながら起き上がると、部屋にはラースとルーカスらが居ないのに気づいた。結局ラースは僕の事を起こしてくれなかったらしい。

 まぁどっちにしろ皆を待たせるわけにはいかないな。そう思いベットから降りて服を整える。


「もう父さんたちも出てる?」

「はい。フェリクスがさん最後です」

「了解。わざわざありがとね」


 そうしてエルシアと宿の外で待つ父さんたちの元へ向かった。そこで遅れたことを改めて謝罪して飯屋に向かった。


「てかやっぱ他所他所しいな」


 いつの間にかエルシアの僕の呼び方さん付けだしやっぱ何かしてしまったのだろうか。まぁそれも時間が解決するのを期待しよう。

 

 そうその日の夕食を期待して日の暮れる街を歩いたのだが、どうやら予算が少し不足気味らしく夕飯は軽食になってしまった。せっかくならもっと味の濃い食べ物食いたかったけど仕方ないか。

 

 そうやって二日目も普通に終えて、この街滞在最後の日になった。


 今日は帰り際にラースの希望通り、城のそばまで寄ってあげるらしい。 僕も洋風の城とか写真以外で見たことないからちょっと楽しみだった。

 

「忘れ物ないなー?」

「大丈夫でーす」


 ちゃんとショートソードは馬車の中に入れたし、他は忘れるような物を持ってきてないので大丈夫だ。


「じゃあ行くぞー」


 その合図とともに馬車に乗り込むと馬車は大通りに進み出した。馬車の外を見ると晴天で、季節の割に暖かい理由がよく分かった。

 そうしてガラガラと馬車に揺られていると、だんだんと城が近くに見えてきた。まぁ城というより要塞っぽい感じはするが、それでもかっこいいし男心をくすぐられる。

 

 だが肝心のラースは城よりも違うものに興味があるらしかった。そう僕は自分の肩を叩く少年に視線を向けた。


「なぁなぁ?剣ってどこにしまったんだ?」

「ん?カバンにしまったよ。どうしたの?」

「ちょっと触らせてくれないか?昨日触りたかったけど忘れててさ」


 父さんが御者台から横目でこちらを見ている。

 言われなくても分かってる、子供に刃物は渡しちゃいけないよな。それに外で剣を抜くのも問題ありそうだしな。


「ごめんね、ちょっと難しいかも」

「えーなんでさ、けちくせー」

「まぁラースが剣を買ってもらえたらお互いに見せ合おうよ」


 ラースを何とかなだめようとするけど、中々剣から興味をそらしてくれない。


「今みたいのにー」


 エルシアの方を見ても、我関せずといった感じでいつも通りどこか遠くを見てしまっている。僕が何とかしないといけないけど、何かないか・・・・・。そう見渡していると良いものを見つけた。


「あ!ほら城の門のところ衛兵さんがいるよ!」

「え!?どれ!?あっ!あれ!?すご!鎧つけてる!!!」


 城門に衛兵が四人いた。あれが騎士って言うのだろうか、鉄製の重装備でいかにもって感じだった。

 それ見たラースは少し興奮気味に御者台に身を乗り出していると、突然馬車の進む方向が変わってしまった。


「まぁここまでだな」

「え?」

「あんま近づくと疑われるしな」


 しばらく戦争は無いって話だったけど、前線の城だからか警戒は未だ強いってことだろうか。

 そうやってだんだんと離れている城を見ていると、僕は割と満足だったけど、ラースがまだ足りなそうだった。


「え、もうだめなんですか?兵隊さんと話したいんですけど・・・」

「それはラース君が強くなって、あそこの門をくぐれるようになるしかないな」


 父さんが御者台から振り返って優しそうに諭した。

 それで不服不服そうではあったけど、とりあえず納得したのかラースは街を出るまでは大人しくしていた。


 それからの帰りは幸いにも天候は荒れず、予定通り二日でエルム村に帰れた。

 喧嘩も起きずただただ平穏な帰り道でよかった。うまいもの食えたし、剣は買ってもらったし、なんだかんだ皆と仲良く出来たしと、持ち帰るものの多い良い旅だった。

 

 そうして僕らは一週間ぶりにエルム村の各自の家の扉を開いたのだった。


ーーーーーー


 ある街のある教会にて。

 物の良さそうな靴をコツコツと鳴らしながら帽子の長身男が教会に入っていった。


「よっ!今回の子らはどうだった?俺的には良さそうと思ってたんだけど」

「えぇ上玉揃いでしたよ。それに例の子もいましたし」


 相変わらず聖職者の癖して裏の顔と表の顔が違うらしい。そしてその裏の顔を見せた神父は手で硬貨を示すように円を作ると。


「値段の方は一人頭五金貨でどうでしょう?」


 その金額を聞いて帽子男は悩んだ。かなり吹っ掛けられたとも思ったが今回は意地でも取らなければいけない案件だからどうしたものかと。

 だが上から持たされているのは十二金貨しかない。それだと四人分の二十金貨には足りず困り頭を掻く。


「頭金で十金貨出すからさ!十五金貨にまけてくんない!?」


 俺に出来るのはこれぐらいと、高い頭をペコペコと目の前の老人に下げた。それを見た古ぼけた老人は仕方ないと言った感じで肩を落とした。


「・・・・・まぁいいでしょう。反故にしたら次は取引しませんよ」


 そんなこと俺に出来るはずないだろうと、帽子男は心の中で思った。

 そして袋から金貨を出して渡すと、老人は袖の下を漁り、俺にとって見慣れた地図と例の子供についてのメモを渡してきた。


「ここの四人のうち三人の子供が当たりです。半年間は黙認しますが、人も人なのでその先はこちらで預かりますからね」


 そのメモを預かりポケットにしまう。


「おう、じゃあ確かに。またくるぜー」


 そう手をヒラヒラと振りカビ臭い教会の扉を出た。今日の俺の仕事はこれで終わりだ。


「昼飯どーっすかなぁ」


 俺は余った金貨二枚の使い道を考えながら、とても快晴の空の下をコツコツと音を立て歩いて行ったのだった。

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