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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第七章
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第百二十五話 帝都防衛戦(4)

遅れました。すみません。


 時は少し遡ってフェリクス達が戦闘を開始する一時間ほど前の事。

 帝都壁外で戦闘の推移を丘の向こうから眺めている集団があった。


「もう第一城壁は突破されましたね」


 そう言った中佐と共に城門を遠目に見ているが、既に殆ど制圧が進んでおり敵は第二城壁へと取りついていてもおかしくなかった。


「もう行きますか?」

「いやもう少し待つ。全員が壁内に入るまで我慢だ」


 私達は敵が帝都のすぐそこまで迫っていると知り、不眠不休でここまでやってきた。だから少しでも将兵を休ませたいのもあるし、敵が壁外に敵兵がいるとやりずらいからと機を待っていた。


「中佐も休んでおけ。顔色悪いぞ」

「いえ自分は大丈夫です。職責を果たしているだけなので」

「なら命令だ。休め」


 私がそう強めに言うと中佐は渋々と言った感じで諦めて後ろへと下がってくれた。私はそれを横目に再び敵情を探ろうと見回すが、やはり敵兵の練度と言い量が段違いだった。


「数は・・・五千はいるか。いや内部に侵入したの含めると一万は居てもおかしく無いか」


 帝都の防衛隊一万五千に俺ら連隊総員二千弱を合わせてやっと二倍って言った所か。敵兵の殆どが魔導士という事を除けば優勢だな。


「・・・・ハインリヒの奴は大丈夫だろうか」


 弟であるあいつも士官学校で学生をやっている。俺は反対したが本人が軍に行くって言ったから今は帝都で戦っているはず。無理に俺の後を追おうとしなくて良いのにバカな奴だ。


 あいつは昔からそんな奴だった。

 何をするにしても年の離れた俺の真似をしようとして、家に帰れば兄さん兄さんと付きまとってきた。

 私もなんだかんだそれが嫌では無かったが、あの歳になっても俺を追って危険な戦場へと出なくても良い物を。俺が親父を説得して、家督をあいつから奪って自由な生き方をさせてやろうとしたらこれだ。本当にバカでバカで、俺にとっては大事な弟なのにあいつは意図を汲んでくれない。


「・・・頼むから死なないでくれよ」


 だがその個人的感情で逸って兵を無駄死にさせるわけにはいかない。俺は数千それどころかこの街全員の命を背負っているんだ。個としての感情は捨てなければいけない。だからハインリヒの事は頭の隅に追いやらないといけない。そうして無理やり思考を切り替えジッとその時を待ち続けた。


 そうして一時間ほどが経っただろうか。敵が全員壁内に入りそのタイミングがやって来ていた。どうやら敵は街での戦闘でかなり兵士を分散させている様で、これなら一点突破で敵本隊を狙えそうだった。


「後ろに魔導士を乗せる事は可能か?」


 俺は丘を降り馬の世話をしていた騎馬中隊の中隊長にそう提案をしていた。敵を殲滅するのは現実的じゃないから、敵総大将のアウグストの首だけを狙うため必要なものだったからだ。


「出来ないか出来るかで言えば出来ますね。俺としちゃあんまりこいつに負担は掛けたくないが」


 粗暴な見た目の中隊長に似合わず微笑んで馬を撫でていた。長年連れ添った相棒なのだろうというのは、聞かなくても分かった。


「すまないが全騎馬兵はそうしてもらう」

「了解ですっと。じゃあお前ら聞いてたな!!」


 中隊長が私に背を向けて早速仕事に取り掛かってくれた。こういう所がこいつの信用出来る所で頼れるから助かる。

 すると休憩を終えたのか中佐が眠そうに眼を擦ってやってきた。


「どのようにして敵に攻撃するので?」

「敵中突破だよ。目立ちたがり屋のアウグストの事だからどうせ前線に出てる。だからあの薄く伸びた敵軍を騎馬の速度で食い破って、帝都の味方と挟み撃ちにする」


 まだ第一城壁が突破されてからはあいつの旗印は見つかってないが、逆に見つからないって事は壁内奥深くにいるって事だ。ならばチャンスはそこにあるはず。


「君も一緒に先頭を走ってもらうから。頑張ってね」


 そうして私にとって一世一代と言っても過言じゃない敵中突破が始まったのだった。


「雑魚には構うなッ!!!!!馬を走らせ続けろ!!!!」


 丘を駆け降り場壁内へと入るとやはり、敵は撤退する帝都の味方を追おうとして街中に散らばっていた。そのお陰で拾い主要の道を騎馬で走っていても抵抗少なく走り続けられていた。


「あそこか」


 さっき大きな建物の崩壊する音がしたが、その要因であろう無残な姿になった第二城壁の向こうにあいつの旗が見えた。やはり私の読み通り前線まで来ていたらしい。


 だが味方の損害も段々と増え始めている。敵魔導士に馬をやられればその上に乗っていた奴らは見捨てざる負えない。だから段々と損耗していくし、足の遅い歩兵は連れて来れて無いから絶対数が足りない。


「だが進み続けるのみッ!!!」


 そうして第二城壁だった所に転がる障害物を避けながらも、進んで行くと道の先で味方が攻撃したのか大きく土煙が上がっていた。味方も壊滅しておらず戦闘中となれば、挟みうちも出来るしでかなり理想的な展開になってきた。そう希望が見え始め、味方も半数ほどは失ってしまったがあいつの首さえ取れれば、そう思って更に馬を走らせた。


「行け行け!!!土煙に構うなッ!!」


 そう味方を発起させながら私自身も鞭を叩いて土煙の中へと突撃していく。途中何度か敵魔導士に邪魔されそうになったが、視界も悪い事もあってなんとか無傷であのアウグストの背中を僅かながらに確認できたのだが・・・・。


「ハインリヒ?」


 そのアウグストの正面には何故か俺の弟であるハインリヒが立っていた。そのレンズ越しの目が一瞬俺を見た気がしたと思うと微笑んで何か言った気がした。

 

 でも次の瞬間その顔は体から離れて地面へとぽとりと落ちてしまった。


「・・・・は」


 頭が真っ白になった。人の死に目には散々立ち会ってきたし、仲の良かった同期だって大勢看取ってきたし俺の手で止めを刺した事もある。だが俺の頭はその光景で機能を失ってしまい、本来の目的を忘れてその地面に転がったハインリヒを追いかけてしまった。

 

 そして馬から降りてそのハインリヒを掴もうとした時、どこかから悲痛な叫びが聞こえてきた。


「触るなッ!!!」


 その声を追うように顔を上げるとハインリヒと同い年ぐらいであろう子供がぐしゃぐしゃになった顔で私を見ていた。恐らくハインリヒの同期の子なのだろう。

 だがそれでも私の悲しみに口出しをして良いわけじゃない。


「・・・・私はこの子の兄貴だ」


 私はこれで分かるよなと強く睨んだ。お前のハインリヒじゃない俺のハインリヒなんだと。

 すると子供は何も言わず戸惑った表情になっていったので、俺は大事にハインリヒを抱えすぐにその恨みへと視線を移した。


「久しぶりだな。アウグスト」


 戦闘準備を整える為恨みを晴らす為、私はハインリヒの頭を体の近くに優しく置いた。そして剣を抜き魔法を用意し、あの飄々としたニヤ面を睨みつけた。


「久しぶりだねーあの戦場以来だから二年振りかな?」


 そんな間の抜けた声を心底嫌がりながらも、段々と突破してくる味方を確認していた。だがそれも全員後ろすら向いていないアウグストの魔法で地面に伏せられてしまっていた。


「もう二度と会う事は無いがな」


 これ以上時間をかけると敵兵も集まる、だから私はアウグストへと剣を構え突撃していった。運のよい事に丁度奥から中佐もやってきていて挟み撃ちになり、絶好の攻撃となった。


 だが私が剣を振り上げアウグスト目掛けて剣を振り下ろそうとすると、私の腹にはアウグストの右足の裏が入り、向かいの中佐の首には刃が突き刺さっていた。


「━━ッ」


 蹴り飛ばされ押し戻されるたが、なんとか腹を抑えながらもその場に立った。だが目の前では余裕綽々と言った感じでアウグストは笑っていた。いや楽しんでいると言った方が良いのだろうか。


「君も歳だねぇ。戦う度に弱くなってるよ。いい加減前線から退いたら?」

「うるさいッ!!」


 私は石魔法であいつの足元を狙って放った。そして間髪入れずに走り出し刃先をアウグストの首元を狙おうとするが。


「だから君は指揮官でしょ。戦闘能力高く無いんだからさ」


 アウグストは一歩もそこから動く事をせず、自身で作り出したのであろう無数の石魔法を、私を取り囲むようにあちこちから向けて飛ばして来た。そして私の飛ばした魔法すらもそれで撃墜しつつだ。

 

 だから私は一度諦め避ける為引いた時。アウグストの後ろから騎馬中隊の中隊長が剣を振り下ろそうとしているのが見えた。私は咄嗟に魔法を飛ばしてそれを援護しようとするが。


「馬って世話に金かかるから嫌いなんだよね」

 

 そんな戦闘に関係の無い事を言いながら当たり前のように、中隊長の刃先を避け石魔法によってその首を貫いていた。


「もうそろそろ君の仲間も全滅かな?建物に籠ってる方も順調に押し込んでるみたいだし」


 私はその言葉に一瞬だけ視線を建物に移すと、あのフェレンツ中佐とか言った味方が窓の向こうで戦闘している姿が見えた。早く援軍に来いよとは思っていたが、先に手を回されていたか。


「よそ見はダメだよ」


 その声にハッとするとすぐそこにアウグストの顔が迫っていた。私は咄嗟に剣を前に構えて自身を守ろうとするが、その前に私の腹を再びアウグストは蹴り飛ばしてきた。

 それでも私は何とか足に力を入れ立つが、どうにもやはり目の前の男は邪悪な者だと確信していた。


「・・・遊んでいるのか?」

「ん~?まぁすぐ殺したらつまんないしね。もう勝確になっちゃったし」


 この時にはもう私の味方はここまで突破できていなくなっていた。壊滅したのか敵援軍で阻まれているのか分からないが、もうそこの望みの目は無いらしい。帝都の味方も押され気味でこの場にいるのは学生だけ。これじゃどうしようも無く見えるが諦める訳にはいかない。


「ま、早く城攻めしないとだし終わりにしよっか」


 そうアウグストが私に手のひらを向けてきた時。私は咄嗟に身を守ろうと剣を構えたのだが、背後から魔法とは違う重みのある爆発音とでも言えば良いのだろうか。それが聞こえてきたと共に私の耳を何かが掠め、その何かを目で追う事すら出来ない内にアウグストの右手を吹き飛ばした。


「ありゃ。やっぱ狙いはそこまでかぁ」


 その声に私はゆっくりと振り返ると何か白い煙を吐く長い筒を持った老人の姿がそこにはあった。そしてその傍にはぞろぞろとその仲間であろう兵士たちが、老人と同じ筒を持って角から出てき始め私を守る様周囲を取り囲んだ。


「お、お前らは━━」


 そう私が混乱しているとこの軍隊の士官らしき男が私の肩を叩いた。


「安心してください援軍ですから。一度お下がりに」


 そう何が何だか分からないまま私は無理やりその兵士たちの後ろまで下げられてしまった。そして私は事情説明を求めるように、先ほどの老人へと詰め寄った。


「あ、貴方達は誰なんですか!?」

「あの子が言ってたでしょ援軍って。リュテス国から使者が来てたはずだけど知らない?」

「は?いやそんなの知らないですよ。それにだって━━」


 私が更に詰め寄ろうとした時。さきほど私の肩を叩いた士官の声が聞こえてきた。


「放てッ!!」


 その声と共に先ほど目の前の老人が鳴らした爆発音に似た音が、一斉に兵士たちの筒から揃って聞こえ白い煙を上げていた。魔法なのかと思ったがそこにいる兵士から魔力は感じられず、何をしたのか分からなかったが目の前には一つだけ変わらぬ事実があった。


「アウグストの奴・・・」


 あれだけ私達が長年傷すら付ける事の出来なかった、アウグストが一方的に攻撃を受け体から血を流していた。それに後ろで構えていた精鋭なはずの魔導士達も魔力の無いリュテス国の兵士によって倒れていた。


「銃って言うんだよこれ。すごいでしょ。魔力の無い子でも同等以上の威力の攻撃が出来る代物でね」


 老人はおもちゃを与えられた子供の様に私にその筒を見せびらかして来た。だがその時アウグストの叫び声でそれは打ち切られた。


「どこのどいつか知らんがあまり舐めるなよッ!!!」


 初めて激昂するアウグストの奴を見た気がする。そしてアウグストは大量に石魔法で攻撃手段を蓄え始めるがその前にリュテス国の士官の声が響いた。


「第二陣放てッ!!!」


 前衛と入れ替わる様に後ろで待機していた兵士が前に出て、先ほどと同じように爆発音と白い煙を出していた。そしてその目で追う事の出来ない攻撃は、アウグストの額に直撃したのかその顔は白目をむいて後頭部を地面にぶつけ倒れてしまった。


「幾ら魔導士として優れていても目で追えなければ防げないからね。これは戦場を変える武器になるよ」


 私はその言葉に賛同せざる負えなかった。何せ目の前で私の知る限り最高峰の魔導士が手も足も出ずあっさりと死んでしまっているのだから。だがそれをするのは私の役目であって欲しかった。ハインリヒの恨みを晴らさせて欲しかった。そんな我儘な感情が私の中には渦巻いていた。


 でもそんな私の気持ちを知る訳もない老人は私の肩を叩いた。


「ま、そんな事は良いとして。フェリクス君の場所知ってる?」

「・・・?誰だそいつは」

「知らないかぁ。ま、アイリス君によると生きてるらしいし探せばいいか」


 そう老人は意味の分からない事を呟くと私からスタスタと離れて行ってしまった。そしてそんな会話をしている内にも、あの爆発音が定期的に鳴り響き続け、それを恐れた敵兵は何も反撃が出来ず一方的にやられ続けていた。そしてアウグストも死んだ事もあってかすぐに指揮統制を失い、敵兵は撤退を始めて行ってしまった。 


 そうリュテス国の千人にも満たない兵士によって、魔導士七千近くの軍隊が撤退を余儀なくされていたのだ。そして私は状況を見つつ敵兵を追撃するリュテス国兵に混じって、ハインリヒの体の元へと駆け寄った。


「・・・・すまん」


 私はゆっくりと体と別になってしまった弟の物だった頭を抱えた。戦場に出なくてもいいはずの学生だったハインリヒは、この国の失策によって殺されたようなものだ。それどころか戦争に勝てなかった俺達軍人の責任でもあるんだ。


 そしてハインリヒと一緒に、戦場を走る兵士とは逆方向に向かって歩き出しある決意をした。


「やはりあいつらは死ぬべきだ」


 そう川の上に浮かぶレーゲンス帝国の王城を見てそう強く強く口にしたのだった。

 






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