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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第七章
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第百二十四話 帝都防衛戦(3)


 太陽も段々と城壁の向こうへと沈んでいき辺りが暗くなっていく中、僕らは本隊と集合する為帝都を走り回っていた。先頭ではまだ魔力の残っているラースが獅子奮迅の活躍で、遭遇する敵をなぎ倒し続けていて頼もしい事この上なかった。

 そして僕はというと衰弱したアイリスを背負って走り続けており、隣ではハインリヒが気を使って並走してくれていた。


「大丈夫か?」

「うん、一応ね。そっちは?」

「もう魔力は少ねぇな。怪我はしてないが」


 やはり皆一時間以上連続して戦闘を続ければ、魔力の残量だって少なくなってしまう。今戦えているラースがおかしいぐらいだ。

 それに体力も鎧を着てずっと戦闘をしている事もあってどんどんと削られて、今も少し会話をするだけで呼吸が荒れて肺が痛くなる。


「戦況は分かる?」

「敵の先鋒は城に取りついたぽいな。一部は俺らを殲滅するために振り分けられてるが」


 流石に油断して僕らを放置するような事はしてくれないか。このままだと数と質で僕らが押しつぶされてしまうから、どうにか戦況を変える手立てがあれば良いのだけど・・・・。


「俺の兄貴もまだ来ないし難しいかもな」


 僕の心を読んだかのように、ハインリヒに一つの戦況を変える可能性を潰されてしまった。だが恨み言は言ってられない。勝ちの目が薄いなら、どうにかライサとラースを逃がす手立てを常に窺っておかないと。


「西門東門はまだ抑えられてないよね」

「まぁ敵もそこ占領する意味無いしそうなんじゃないか。急にそれがどうした?」

「いや、一応確認の為」


 なら何とか敵中突破さえできれば逃げる事自体は出来るかもしれないか。建物が密集しているから姿も隠しやすいし、まだ可能性を捨てきれる段階ではない。


 そう僕らが会話していると、なんと僕らが最初陣を張っていた交差点付近に出た。どうやら戦う内に街の外側外側へと向かって行ったようだった。


「このまま道を渡り切る!!遅れるなよ!!」


 先頭からイリーナの有無を言わさぬ呼びかけが聞こえる。ほとんど敵の占領下ではあるのだろうけど、それでも本隊と合流するつもりなのだろう。

 だから僕は走り出す時隣に話しかけた。


「ハインリヒ」

「うん?どうした?」

「死ぬなよ」

「それはそっちもだろ」


 僕らはそうやって声を掛け合って道路へと体を晒した。するとやはりと言うべきか、道路のどっちを向いても黒い外套を纏った敵兵の姿が見え、僕のアイリスを抱える手の力が強くなった。


「構うなッ!!!真っすぐ前だけ見ろ!!!!」


 イリーナがそう呼びかけるが、僕らの姿に気付いた敵兵たちが走って向かって来ているのが見える。恐らく見える範囲でも僕らの倍はいる、それに既に魔法を準備しているらしき敵兵の姿すら見えていた。


「・・・持ってくれよ」


 僕はもう少ない自身の魔力を使って石槍を準備し始めた。攻撃の為では無く後ろに背負うアイリスを守る為にだ。


 でも戦場は気分屋なようで、僕らの都合の良いように出来ていると思えるときもあれば、敵にとっても都合が良い時だってある。

 その時僕らの目指す向かいの路地から十人ほどの敵兵が出てきて、先頭を走るイリーナやラースが足を止めてしまった。僕はその一瞬の隙が危ないと察知して、なんとか届いてくれと叫ぶが。


「走れって!!!止まったら死ぬぞ!!!!」


 叫んだ頃には全員一度足を止めてしまっており、気付くと周辺の敵兵からの石魔法が飛んできていた。

 僕はそれを何とか体を捻って躱し耳元を掠る敵の攻撃に脂汗をかきながらも周辺を見た。すると反応に遅れた数名が頭や胸をぽっかりと抜かれてしまい音を立てて倒れてしまっていた。


「クッソ!ハインリヒ!!二人でも行くよ!!!」

「おうよ!!!」

 

 敵中で一度足を止めてしまって攻撃を受けたならもう組織的な行動はもう無理だ。ライサだけでも回収して何とか逃げねば。

 そう僕ら二人で混乱する仲間を置いて、イリーナやラースの元へと向かおうとした時。戦場にしてはやけに間の抜けた声が街中に響いた。


「投降しなぁ~。もう無理だからさ~」


 僕は走りながらもその声のする方を見た。すると指揮官でもあるのか、お付きの人を大量に連れた若い男の姿が見えた。あの感じからして敵の上位の将校なのだろうか。

 そう思いつつも足を止める事無くライサの元へと進んでいると、男は更に言葉を続けた。


「全員動き止めてくんない~?じゃないとハチの巣にするよ~」


 当てつけなのか男は、わざわざ魔法で作った石を複雑な剣状にしてそれを数十本単位で空中に出現させていた。その技量と同時に出せる魔力量で明らかに僕らより格上であることはそれが確かだった。だから僕は一度その足を止めた。


「フェリクス!?」

「止まろう。仕方ない」


 ハインリヒの困惑する声が聞こえたが、あれに追いかけられたらどのみち生き残れない。なら少しでも機を伺って油断するタイミングを狙おう。


「いいねぇ~。素直なのは良い事だ」

「これも閣下の威光ですよ」


 あの敵将の隣には、そうおだてている明らか戦場には見合わないような老人が立っていた。敵将はあまりに若すぎると思うが、もしかしてあいつが敵の総大将って事もあるのか。ならあいつさえ殺せればだけど、あの魔法技能だと相当難易度が高そうか。

 僕はチラッとイリーナの方を確認するが、ライサの手をギュッと握ってあの男を注視していた。恐らく僕と同じことを考えているのだろう。


「じゃあとりあえず魔力の無い奴は殺しちゃうから。それは了承しといてね」


 その言葉にラインフェルト軍曹達が咄嗟に剣を抜いた。僕はまだ性急に過ぎるとそれを制止するべく声を出そうとするが、軍曹達に先回りされてしまった。


「後は頑張れよ・・・・・じゃあな分隊長」


 そう初めて僕に軍曹が笑いかけたかと思うと、他の兵士と共に走り出してしまった。僕はそれを止める事が出来ず、ただそれが敵の攻撃によって体が弾け四肢がバラバラになるのを眺めることになってしまった。


 そして人殺しをなんとも思っていないのか、敵将の男はそれ以上軍曹達に興味すらないように僕らへと視線を戻した。


「じゃあ掃除は終わった事だし連れてこうか」


 僕らは交差点の上でたった七人を残すだけになってしまっていた。それを取り囲むように数十もしくは百を超えるだろうか敵にじりじりと迫られていた。


「抵抗は無駄か」

 

 ハインリヒのそんな諦めが大いに含まれた言葉に僕は頷きそうになっていた。でも何か無いのかと眼球を回して辺りを把握しようとするが、どこにも敵敵敵で殆ど埋められてしまっていた。


 だけどそれはある地点を除いてだった。


「攻撃開始ッ!!!!」


 その空を切り裂くような声はヘレナさんの物だった。それは道路の両隣に大量にある建物の上から聞こえており、それと同時に大量の石魔法に矢や建物から降り注ぎ敵将のいる隊へと向かっていた。


 一瞬でそれによって轟音が鳴り響き叫び声と共に、辺りは土煙で充満され視界が全く取れなくなってしまった。そんな砕けた石がパラパラと降り注ぐ中、イリーナの怒号が響いた。


「突破するぞッ!!」


 イリーナが剣を抜き残る僕らに向かってそう叫び、敵兵のいる路地裏へと吶喊して行った。僕らもそれに従って走り出すがその時何かが、視界端をを横切った気がした。

 僕はそれを目で追おうとするものの、それは異様な速さで土煙を切り裂いて行き真っすぐと何かを狙ったかのように空中を進んでいた。


 そしてこの戦場で何度も聞いて何度も気持ち悪くなった肉が弾ける音が僕の正面からした。


「・・・・え」


 それはどうやらあの敵将の石魔法だったらしく、真っ赤な血を吸って地面に転がる剣状の石を見れば分かった。でも今はそれよりも、そんな事よりもその吸われた血の持ち主の事で僕の頭はいっぱいになった。


「イリーナッッ!!!!」


 腹にぽっかりと穴を空け、地面へと力なく倒れようとするイリーナへ僕は急いで駆け寄った。そしてアイリスを置いてイリーナの肩を揺らして容態を確認しようとするけど。


「これじゃどうしようも・・・・・」


 イリーナの上半身と下半身は殆ど二つに分かれてしまっていた。僕は手にとめどなくやってくるイリーナの生暖かい血の感覚を覚えながらも、イリーナの頭を優しく持ち上げた。


「い、今治癒魔法かけるので頑張ってくださ━━━」


 僕は自分の残りの魔力なんて気にせずイリーナを治そうと半ば錯乱気味に魔力を貯めだすが、それを止めたのはイリーナ本人の左手だった。


「こりゃ無理だよ。ライサ連れて早く逃げろ」


 僕の頬に手を当てながら弱々しくもイリーナはゆっくりと首を振ってライサを見た。それにつられて僕の視線も動くが、ライサはイリーナの右手を強く握ったまま、過呼吸になりながら目を大きく広げて尻餅をついてしまっていた。

 でも僕はすぐにライサから視線を戻してイリーナを説得するために呼び掛ける。


「それはイリーナも一緒に逃げるって話だろッ!!だから大人しく治癒魔法・・・・魔法・・・・」


 僕の想いとは反対に治癒魔法は発動しなかった。魔力が足りないせいか僕の精神状態のせいか、この時はただ分からず魔力を無為に発散させ続けるだけだった。

 

 その時誰かが諦めを付けさせるように僕の肩を叩いた。


「・・・もう無理だ」


 その声はハインリヒの物だった。でも僕はそんな声に振り返る事すらせず無視して、ひたすら魔力を空中に霧散させ続けた。何度も何度も奇蹟が起こってくれと、空中に舞う土煙でただでさえ悪い視界が歪んでもなお続けた。

 

 そんな僕の頬を弱々しくも、僕にとっては強く叩いたのはイリーナだった。


「私はもう迎えが来ちまったんだよ。お前があの世まで連れ添う必要は無ぇよ」

「で、でもまだ何とかなるかもしれないし、それに一緒に逃げるって話した━━」


 自分でも無理なのは分かっているはずだった。でもそれを認めると自分の心が持たなくなる気がして、ひたすら見ないように目を背け続けた。

 でもそんな僕の目を逃がさないとジッとイリーナの蒼い瞳が貫き微笑みかけてきた。


「お前のお陰で楽しかった。私のクソみたいな人生に付き合ってくれてありがとな」

「だからッ!!死なないってッ!!!!」


 素直にその言葉を受け入れる訳にはいかない。受け入れたら今すぐにでもイリーナの瞼は閉じてしまうように感じたから。もう大事な人は失いたくない。そう願って必死に生き残って頑張ってきたのにこんな結果受け入れられるわけない。


 だけどそんな僕とは対照的にイリーナは柄にもなく安らかな顔をして微笑んでいた。


「まさか死に際に泣いてくれる奴が出来るなんてな」


 段々と消え入りそうに弱々しくなっていくイリーナの声に僕の心は耐えれそうになかった。僕の瞳から垂れた涙はそのまま地面へと落ち、イリーナの流れ出た真っ赤な血と交わり意味も無くそれを希釈していた。


「じゃあな」


 短くそう言ったイリーナの言葉。それが僕の抱える大事な人の頭から発せられた最後の言葉だった。

 でも僕はその続きを求めようと空になってしまった頭を大事に抱えた。血でベトベトになったイリーナの解けた髪を掴んだ。

 

 でもそれも何も起きず結局ただ僕の嗚咽だけがこの戦場に響くだけだった。ただただ僕があの月夜の日の約束すら果たせず、大事な人を死なせてしまったのだ。


 でもそんな僕の感傷すら戦場は許さないのか、ラースが僕の頭髪を掴むと無理やり僕と視線を合わせてきた。


「前向けッ!!!!」


 そう言うラースの顔がこの時にとっては悪魔のように見えた。なんでそんなにすぐに切り替えれるんだ。なんでこんなにも悲しんでいる僕にそんな事を言えるのか。


 でも結局はそのラースの行動が正しかった。土煙の中からコツコツと足音が聞こえてきたかと思うと、それと一緒に何故か拍手するクラップ音が聞こえてきた。


「いやぁ上官想いの良い部下ですね。そういう展開は私の英雄譚を熱く厚くしてくれるのでありがたいです」


 そんな舐めた事を言う奴に僕の頭は掴まれながらも一瞬で沸騰し、地面に転がっていたイリーナの預かっていたブレンダさんのナイフを手に取った。


「殺す」


 土煙で顔は見えいが、あの敵将の声であるのは確かだ。あんな奴に僕とイリーナのの悲しみも想いも理解されたくないし、汚されて利用なんてされる訳に行かない。


 だけどそんな僕をまだ邪魔するのか、ラースは僕の頭から手を離してナイフを持つ右腕を掴んだ。


「だから逃げるぞ!!アイリスとライサ守るんだろッ!!!」


 そのあまりに声量の大きな言葉に一瞬ハッとなって後ろを振り返った。そこには僕がさっき地面に雑に置いてしまったアイリスの姿があり、弱々しく瞼を開けて僕を見ていた。


「・・・え・・・あ・・・・・いや・・・・・・・で、でも」


 その時頭が真っ白になり、自分が何をすればいいか分からなくなっていた。色んな事が起こって色んな感情が混ざり合って一向に頭の中がまとまらないし、理解もしたくも無かった。

 

 でも状況だけは刻一刻と進み、他の皆は何故か冷静にハインリヒが剣を抜いたままアイリスの体を持った。


「俺がフェレンツさんは連れてく。ラース君はフェリクスを頼む」

「おう、分かった」


 僕を挟んで会話する二人について行けず、気付くと僕はラースに右腕を無理やり引っ張られて立たされた。

 そしてそんな僕らを面白がるように黙って見ていた敵将が口を開いた。


「君らは魔力ある感じだね。今こっちに寝返れば良い待遇で迎え入れてあげるよ?」


 そんなの受け入れれるはずがない。僕らの仲間を大勢殺してイリーナを目の前で殺したこんな奴の軍門に下ってたまるか。

 僕はそう叫ぼうとするがそれを手で制してハインリヒが一歩前へと出た。


「建物内にいる全員の保護が条件です。それなら投降します」

「お前ッ!!何言って━━」


 怒りに任せて喉を焼け切らせんばかりの勢いだった僕の口は、ラースの手によって塞がれてしまった。

 それに僕よりいつの間にか力の強くなっていたラースに体を抑えられ、僕は体を暴れさせても身動きが取れずその会話を目の前で茫然としているしか無かった。


「うん良いよ。君らみたいな強い子は歓迎だしね」


 敵将は胡散臭く笑った。いや僕がそう思いたかったのかもしれない。でもどう考えても相手が今まで捕虜を取った話なんて無いし、信用に足る相手では無いのは確かだった。油断した所を殺されるに決まっている。


 でも僕の言葉はどこにも届かなかった。


「じゃあ握手しようよ。せっかくの友好の証にさ」


 そう敵将の男はわざとらしく笑顔を作って右手を差し出してきた。

 するとハインリヒは振り返ってアイリスをラースに手渡した。そしてその際に僕の耳に口を近づけて小声で言った。


「じゃあな」


 まただ。またその言葉だった。その言葉と一緒にハインリヒは微笑むと、顔を僕から背かせて一歩また一歩を歩き出した。

 そしてハインリヒは敵将の前に立った。後ろに隠した右手にナイフを持って。


「やっぱり貴族の子は礼儀正しいねぇ」

「せっかくのご厚意ですから礼節は尽くしますとも」


 そしてハインリヒが敵将の右手を掴もうとした時。すぐにその出しかけた左手を引っ込めて右手に持ったナイフを、敵将の首目掛けて突き刺そうとした。


 でもそのナイフが敵将の首へと至る事無く、逆に敵将の石魔法がハインリヒの首を貫いた。そしてあっさりと一瞬に悲しみを覚える前に、コトりとハインリヒの首だけが地面に転がった。


「だけど上っ面だけ。所詮貴族なんざ信用するだけ無駄。やっぱ僕の考えは正しかったみたいだね」


 敵将は汚い物を見るかのように地面に転がったハインリヒの頭を見下ろして、手に付いた血を拭いていた。そしてそのハインリヒの顔は計ったかのように僕へと向いていて、そのレンズ越しの銀色の目と僕の目が合っていた。


「なんでこんな事ばっかり・・・・」


 呼吸が浅い。めまいも吐き気も酷い。心臓だって破裂しそうなぐらいに激しく脈打っている。眼球も火で熱せられているかのように熱い。今ラースに掴まれて無かったら、どうにかなって敵に飛び掛かっていたと思う。

 

 でもそんな僕の意志とは逆にラースは強く強く僕を離さまいと握った。


「ライサだけでも逃がすぞ」


 なぜそんなに冷静なんだと理不尽な怒りが湧きそうになるが、ふとラースの顔を見上げるとひどくその顔が歪んでいるのが見えた。

 

 その時やっと気づいた。いかに自分の事しか見えてなかったのか周りが見えてなかったのか。

 あぁこいつも僕と一緒だったんだ。でも僕よりも強く耐えて冷静に一人でも生かそうと心を殺していたんだと。


 でもそれも遅すぎたのか敵将が一歩また一歩血にまみれた地面を踏みしめた。


「じゃあそっちが裏切ったから殺しても問題ないね」


 元々殺すつもりじゃないとあの魔法は用意できない。それかハインリヒがそうするのを見越しての行動だったのかもしれない。敵のあのニヤけ面を見るとそうとしか僕には思えなかった。


「フェリクス二人を頼む。俺が戦う」


 そうラースの僕を掴む手が離れアイリスの体を押し付けてきた。そしてラースは剣を正面に構えて敵と向かい合うと、それ以上僕を見ようともしなかった。


「今度は君か。元気が良さそうな子だね」


 敵将が再び大量の魔法を用意しだした。そしてそれと共に土煙が晴れてきてやっと空が覗かせた時。敵将の更に奥から何か騒ぎが起きているのが見えた。


「ん?なんだろね?」


 敵将も気付いたのか振り返って確認していた。だがそこに隙は無く自身を守る様に宙に浮いた石魔法が浮いて盾となっていた。

 そして奥から伝令らしき外套で覆われた兵士が耳打ちをして、敵将は嬉しそうに笑っていやがった。


「へぇブリューゲルの奴やっと来たんだ」


 更に敵将が口角を以上に上げて笑うと僕らを見た。


「君らは運が良いのかもね」


 そう言ったタイミングで、真っ黒な外套で身を包んだ集団の中を騎馬兵が切り裂いて行き、敵将へ向かって雄たけびを上げながら突撃していた。


「全く後方はなにやってんだか」


 そうあっさりと先鋒の騎乗兵はやられてしまったが次々と味方の兵士たちが、敵兵を掻き分け地面に伏せさせて敵将へと攻撃していた。ヘレナさんの攻撃でもある程度削れていたお陰か、そんな混戦の中間を縫ってその一部は僕らの元へとやってくると。


「君ら大丈夫?司令官はどこ!?」


 そんな味方の兵士の言葉に足の力が抜けそうになっていると、ふと視界端で騎馬から降りてハインリヒの頭を手に取る兵士の姿が見えた。


「触るなッ!!!」


 僕は叫んだ。味方だろうと最後まで戦った友達の頭をそう易々と触らせるわけにはいかない。だから威嚇するように叫んだのだが、その男はひどく暗く恨みの籠った顔で僕を見ると言った。


「・・・・私ははこの子の兄貴だ」


 その言葉に続く僕の言葉は喉をつっかえて何も言えなくなってしまった。その人の悲しみで満ちた目と血が溢れそうな程噛んだ唇、それに大事に弟の頭を抱える両手。それだけでその言葉の重さと意味を理解してしまった。


 土煙や舞った石も地面に落ち。やっと見えたかと思った空は既に暗くなってしまっていた時。僕は絶望や悲しみに後悔に懺悔、ありとあらゆる負の感情で混ざり合った心で、ただその場に立ち尽くしていたのだった。



 






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