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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第七章
124/149

第百二十三話 帝都防衛戦(2)

遅れました!すみません!


 戦闘が開始してもう一時間は経っただろうか。

 その間僕らは数度戦闘を行っていく内に、徐々に数を減らしていき自分を入れて十二人いた分隊は六人にまで減ってしまっていた。


 そして今僕らは数が減りすぎた事もあって、一度本隊に合流すべく路地裏を駆けまわっていた。一応計画通りにゲリラ戦に近しい事は出来ていたが、流石に相手も待ち伏せなどこちらの戦術を警戒するようになってきて、敵に損害を与えれず逆にこちらが数を減らされる展開になってしまっていた。でもライサの心を読めるという利点で何とか戦えて来たのだが・・・・。


「・・・こっちも駄目か」


 いくつか事前に決めた襲撃地点や集結地点を回っているが半数以上は敵に占領され始めていた。どうやら敵は入念に僕らを潰すつもりらしく包囲するようにあちこちから、敵の足音や魔法の破裂音が迫ってきており、そして足元を見れば味方だった物がいくつも転がっていた。


「ライサ、イリーナ達の心の声聞こえる?」


 これ以上時間を消耗できないと頼りたくなかったが仕方ないとライサを頼った。頼りたくないのもそれはそうで、今のライサは頭を押さえてかなりきつそうに顔をしかめていた。人がこの周辺に集まりすぎているせいで、大勢の心の声が入ってきて頭がオーバーフローしてしまっているのだろう。


「ちょ、ちょっと待ってね・・・・落ち着くから」

「うん、ゆっくりで良いから確実にね」


 今まで見たことないぐらいにきつそうにして頭を抱えるライサに、申し訳ないと思いつつ頑張れと小さく縮こまった肩を叩いた。それからライサの索敵を待つその間僕は隊員に周辺警戒を指示した。


 そして僕は路地の曲がり角の裏で顔にべっとりと付き乾き始めた誰かの血を拭き、一つ先の通路を監視していた。するとここまで生き残って付いてきてくれたラインフェルト軍曹が、突然背後から話しかけてきた。


「なぁ本当に本隊生きてんのか?もうニ十分は仲間見てねぇぞ」

「信じるしか無いです。それに僕らが生き残れてるのですから、他も大丈夫に決まってますよ」


 僕だってその不安はあるけど上官である以上下手に弱気な事は言えない。そう振り返ると今僕の隣で何気なく話していたはずのラインフェルト軍曹の左腕が、血をだらだら流して力が抜けたようにぶら下がっていた。


「その怪我何時のです?」

「さっきだよ。あんたの撤退指示が遅かったせいでな」

「・・・・そうですか」


 確かにさっきは偶発的に敵とぶつかってしまい二人を死なせてしまった。その時に軍曹も怪我を負ってしまったのだろう。僕自身焦りすぎて周りが見えなくなっているな。

 それから僕は自分の魔力がまだ半分は残っているのを確認すると、軍曹の左腕を掴んで引き寄せた。


「痛ってぇなァ!お前なにす━━」

「良いから落ち着いてください。確か魔力は少量ですがありましたよね?」

「あ゛?何を急に・・・」

「良いから命令です答えてください」


 有無を言わさないそう少しだけ掴む力を強めた。すると渋々と言った感じで軍曹は口を開いてくれた。


「いやまぁあるにはあるが魔法使える量じゃねぇぞ」

「なら大丈夫です。治癒魔法をかけるので座ってください」


 そう僕は座らせると、軍曹の左肩にある二、三センチほどの深い切り傷に手を当てて治癒魔法をかけ始めた。出血だって少量でもそれが長期間になれば、それが命に直結してしまう。だから出来る内は治療行為を怠ってはいけない。すると軍曹は不機嫌そうに舌打ちをしながらグチグチと何か言いだした。


「・・・・俺みたいな札持ちに治癒魔法しても勿体ないだろ」

「・・・?札持ちって何ですか?」


 軍曹の言い方的に自虐が含んでいそうな感じはしたが、聞き馴染みの無い言葉だった。


「知らねぇのかよ。敵の奴ら魔力無しの事札持ちつって奴隷にしてんだよ」


 一種の差別政策って事だろうか。にしては魔法持っていない人ってなると、あまりに人口が多すぎるように感じてしまうが、そういう類の主義主張はどの世界でも出てくるものなのか。

 

 だけどもそんな事今の僕らには関係ないはずだ。

 

「・・・・ですがここはまだレーゲンス帝国で貴方は札持ちでは無いです。自分の部下ですから」


 そうだよな、とラインフェルト軍曹の方を見た。相も変わらず無造作に伸びた髭にボサボサな髪で清潔感が無い人。嫌な事も散々されたが戦場では常に冷静に対応してくれたし、僕らを裏切るような事を一切しなかった。だからそんな相手に不義理な事をしたくはない。


 でもそれは僕が勝手に深刻に捉え過ぎていたのか、軍曹は僕の気遣いが不愉快らしくそっぽを向いてしまった。


「んだよ、そんな事言われなくても分かってるっつの」

「じゃあ黙って治癒魔法受けてください」

「あいあい」

 

 少しづつ話してきてこの人がどんな人生を送ってきたのか見えてきた気がする。でもだからと言って僕からの同情なんて求めて無いのも分かってるつもりだから、あくまで仕事上の関わりしか持たないつもりだけど。


「・・・よし、治癒完了です。もう魔力的に軍曹の治癒は出来ないので気を付けてください」

「・・・・あいよ」


 僕らがそんな会話をしている内にも、ライサは自身の体の不調と戦いながら周囲を索敵してくれていた。そして索敵の方はどうだと立ち上がろうとした時、背後からライサの声が聞こえてきた。


「いたよ」


 思ったより近くで聞こえた声に少しびっくりしながら振り返ると、未だ顔色の悪いライサが壁に手をやりながら僕らの後ろに立っていた。


「誰の隊か分かる?」

「多分アイリスちゃん。で仲間の人の声が聞こえないからもしかしたら・・・」


 ・・・・壊滅しかけているか捕虜になっているか。その当たりの可能性があると言う事か。

 でも今は考えている暇は無い、もし戦闘中なら僕らが行かないとアイリスが危ないのは変わりが無い。


「場所は?すぐ行こう」

「ん、じゃあこっち来て」


 僕はそのライサの案内の元軍曹達やラースを連れて路地裏を走り出した。すると段々と大通りの方へと近づいて行くにつれ戦闘音が聞こえてきて、まだ僕ら以外にも味方がいるのは確認できた。


「こっち!」


 そうしてライサの案内の元狭い路地裏を走り続けていると、ふとカールの薬草屋が見えた。

 カールは大丈夫だろうかちゃんと逃げれただろうか。そんな心配が一瞬頭の中に過ったが、すぐにそれは建物の陰に隠れてしまい見えなくなってしまった。


 そして少しした後ライサが曲がり角の前で止まると小さく声を抑えて言った。


「ここ左曲がった所。多分敵は三人・・・だと思う」

「・・・じゃあ僕がまず攻撃するからライサとラースは援護。軍曹達は他の隊員の保護で」


 魔導士が三対三ならば全然勝算はある。僕とラースは魔力的にも技量的にも上位な方だから、余程の相手じゃ無ければ勝てるはず。


「じゃあ行きますよッ!!」


 そう路地の角から僕は体を出して敵に体を晒した。するとそこにはライサの言った通り黒い外套を纏った敵三人と、ボロボロになって息も絶え絶えで剣を構え対峙するアイリスの姿があった。

 僕はそれを見てすぐに走り出し、魔法で準備したいくつかの石槍を敵三人の顔めがけて投げ飛ばした。

 するとそれは奇襲な事もあってかはたまた油断していたのか、意外にも避けられる事無くあっさりと三人分の頭を弾けさせていた。


 でもそれを喜ぶ余裕なんて無く、僕は今にも倒れそうなアイリスに駆け寄って肩を抱いた。


「アイリス!!大丈夫!?」

「・・・・・・あ・・・あれ?・・・・・・げんかく?」


 既にかなり限界だったのか僕が肩を抱いた時には、アイリスは呂律が回らずそう言うだけでぐったりと体重をかけてきていた。そしてアイリスの全身を確かめてみるが。


「これは・・・」


 あの敵魔導士アイリスをいたぶっていたのではと思える程体のあちこちに傷があった。普通に戦闘してれば魔導士の魔法相手に傷を負うイコールで致命傷か重症になるはず。でもアイリスの体にはそれが虫食いみたいにあちこちに小中程度の傷があるのは、普通に戦闘していたのならばおかしい。

 

 僕はそれを見てもう頭の無い死体になった敵を恨みながらも、すぐに行動を開始した。


「軍曹達は他の隊員の呼吸確認!!ラースとライサは周辺警戒!!!!」


 そう指示を出して僕はアイリスを地面にゆっくりと寝かせた。やっぱり容態は酷い物で、いくつも鎧が欠損して抉られている所から血が流れ出ていた。

 僕は一度アイリスの鎧を全て取り払って全身の傷口から、必要な魔力量を概算してみるが・・・。


「僕の魔力殆ど使うな」


 アイリスの残り魔力量が分からない以上、僕がかなりの割合負担しないといけない。でもそれをすると一割も僕の魔力は残らないし、そうなると僕が致命傷を負った時確実に助からなくなってしまう。


「・・・・・でも助けない選択肢は無い」


 僕は早速横たわるアイリスに膝を折り両手を掲げて治癒魔法をかけ始めた。幸いな事にまだ呼吸もあるし意識もさっきまであった。だから治癒が遅いなんてことは無いはずだ。


 そうして五分程だろうか。やっと大動脈付近の傷口は塞ぎ終えたタイミングでラースの張り詰めた声が路地裏に響いた。


「敵だッ!!!五人組!!!!」


 その声に僕はハッとして顔を上げるとT字路の角の向こうから顔を覗かせたラースが、逼迫した形相でそう叫んでいた。


「ライサと連携して時間稼ぎして!!!僕もすぐ行くから!!!」


 僕がそう治癒魔法を一旦止めて立ち上がろうとすると、ラースは剣を腰から抜いて僕を目線で座らせた。


「俺が全員倒す!!!お前はそこでアイリスの世話やってろッ!!!」


 頼もしくも勇ましくもそう叫んだラースは抜いた剣を構えるとそのまま角の奥へと僕の視界から消えてしまった。僕は咄嗟に逆方向へと振り返ると指示を出した。


「ライサ!ラインフェルト軍曹!!援護頼みます!!!」

「分かった!」「あいよ」


 心配だがラースもかなり強くなっている。士官学校に来る前から自主的に訓練していたのか、剣術も魔法もレベルが高かったから信用したい。でもそれは別としても、見えない所で一人で戦われるとどうしても心配になってしまう。


 そんな気持ちを抱えながらも僕はすべき事をするんだと、アイリスに向き合って治癒魔法を再開した。

 そして僕の脇を走り抜けていく軍曹とライサを見送った。少し離れた所で聞こえる戦闘音を気にしながらアイリスの塞がる傷口を眺めるが、僕の視線はラースの消えた角を何度も見て落ち着かなかった。


「後ちょっと・・・・」


 そうぽつりと零すと、ふと意識が戻ったのかアイリスの瞼が弱々しく開いて僕の左手を握った。


「私は良いから・・・行って」


 そのアイリスの手はあまりに弱々しすぎた。僕がその手を握り返せばあっさり潰せてしまうのではと勘違いしてしまうほどに。

 でも僕はその手を優しくとると、真っ白に血の気が引いて真っ白なアイリスの顔に笑いかけた。


「大丈夫だから。まず自分の心配して」


 僕自身にも言い聞かせるような言葉だった。ラースなら大丈夫。僕が外にいる間ずっと一人で戦ってきたあいつなら、今回も上手く切り抜けれるはずだ。今はそう思ってないと治癒魔法すら出来ないかもしれないぐらいに、心配と不安で頭が一杯だったから。


「じゃあ治癒魔法再開するから」


 アイリスの真っ白な手を離して優しく置いた。そして治癒魔法を再開しておおよそ一分ほどで傷口は塞ぎ終えれたが、やはり出血量が多いのかアイリスの顔色は悪く立ち上がるだけで精一杯だった。


「大丈夫だから。ゆっくり」


 肩を貸しつつアイリスを立たせるが、生まれたての小鹿の様に全身が震えて生物として弱っているのを肌で感じた。でも僕はすぐにラース達を助けに行かねばと、アイリスの左手を壁に付けてさせて一人で立たせると自身の剣を抜いた。


「そこでじっとしてて。すぐに帰ってくるから」


 僕はそうアイリスの背中をさすると、すぐになけなしの魔力で魔法を用意しようとした。だがその角から現れたのはこの混沌とした戦場には不釣合いな程、顔が血まみれながらも満面の笑顔なラースの姿だった。


「言っただろ!全員倒すって!」

「それフラグでしかなかったからやめてよ・・・・」

「あん?フラグって?」


 僕は気が抜けるような感覚を覚え、今度は自分が地面にへたり込みそうになってしまった。でもすぐに腹に力を入れて血まみれになって抜き身の剣を構えるラースを見た。


「ライサと軍曹達は?」

「だから俺が敵全員倒したんだよ。俺ら全員無事だ」


 そうラースが言うと共に角から剣を肩に乗せたラインフェルト軍曹達三人の歩兵と、相変わらず顔色の悪いライサの姿が見えた。

 僕はそれに心底安心しつつ、アイリスや僕やラースの魔力量を考えて作戦の方針を改めて決めた。


「やっぱり一旦本隊に集合しましょう。このままでは壊滅します」

「おう、分かった。俺まだ魔力あるから先頭行くわ」


 僕より魔力が多いのかはたまた剣術を使って節約しているのか、まだまだ元気そうなラースが小さい頃の彼の様に明るく笑っていた。


「うんありがとう。じゃあライサまた頼める?」

「が、頑張る」

「ごめんね負荷かけちゃって」

「良いよフェリクスの頼みだから」


 今日はライサにずっと負担と仕事を任せっきりになってしまっている。ライサのお陰で敵の大部隊との遭遇を避けれているし、本当に何度命拾いした事か。

 そして僕はその場でしゃがんで後ろを振り返ると、弱々しく壁にもたれ掛かり髪もボサボサになっているアイリスに言った。


「アイリスは背負ってくから乗って」

「・・・あ、うん・・・ありがと」


 そして先頭からラース、軍曹達三人、僕+アイリス、ライサこの順番で死体が当たり前のように転がる路地裏を走った。途中二回程回避できず敵と遭遇したけど、どれもラースが対処してくれたおかげで僕らは事なきを得ていた。


「成長したな・・・」


 偉そうにも先頭を走るラースを見てそう思ってしまった。昔はあんな子供子供って感じの子だったのに、今では仲間を守るために戦ってその努力で無双している。剣術だって既に僕より強いのは見てれば分かるし、魔術の組み合わせ方も一流だった。

 そんな時僕の思考を切り裂くようにして、後ろからライサの弾けるような嬉しそうな声が聞こえてきた。


「フェリクス!こっちにイリーナ姐!!」


 僕はそんなライサの声を把握しつつ戦闘を走るラースに呼び掛けた。


「ラース!そこ右行って!!!」

「おう!!!」


 そして角を曲がって少し走ると、丁度角の辺りでイリーナとその部下たちとかち合った。そこにはハインリヒの姿もまだあって、僕の守りたい人はまだ生きていると一旦は安心できた。

 そして僕の脇をライサが走り抜けたかと思うと、そのままイリーナへと飛び掛かる様に抱き着いていた。


「良かった生きてたか・・・」


 イリーナも心底安心したようにライサを抱擁し返していたが、すぐにイリーナはライサの体を離すと周囲を見渡した。


「他の味方は?」

「ここにいるのが総員です。第二小隊は指揮官以外全滅、自分の第二小隊は歩兵六人死亡です」


 僕はそう言ってイリーナの隊を見るが、あちらも人は減っているらしく魔導士一人が死に歩兵に至っては二人しか残っていなかった。


「じゃあここの全員で分隊二個弱しか戦力ねぇか」

「本隊とは連絡は?」

「道路の向かいの区画で戦闘中だ。五分前は戦闘音が聞こえたからまだ大丈夫なはず」


 ならばまだ僕らは絶望する領域に入っていないって事か。予想以上に敵が包囲しているのかあちこちから現れて、逃げ出すタイミングを掴めていないのは難点だが。


「で、そいつは大丈夫なのか?」


 イリーナの視線が僕の後ろで寝息を立てるアイリスへと向いた。


「かなり重症で治癒魔法をかけた所です。命に別状はありませんが戦闘継続は無理かと」

「・・・・そうか」


 僕がそう言うとイリーナは少し悩んだ後、顔を顰めながらゆっくりと言葉を選ぶように喋った。僕はそれに嫌な予感を感じつつも、言葉を待つとやっぱりと、そう思った。


「置いていけって言ったら従うか?」


 理屈で言えば至極真っ当な提案だった。既に戦闘の出来ない人員を抱えて戦闘し続けるよりかは、捨てて身軽になった方が良い。何も間違って無いし僕がここで意地を張ってアイリスを持ち歩く事で、助けられた命をみすみす失ってしまう可能性だってある。ただでさえ人手が足りてないのにだ。


 でも我儘と言われようと傲慢だと罵られようと、僕は僕が尊敬した人たちの様に生きたい。

 父さんも母さんもブレンダさんも同じ状況なら絶対にアイリスを捨てないし、その心根のお陰で僕が今生きていられているんだ。それに僕自身だって今アイリスを捨てたら自分を自分で許せなくなる。

 

 だから僕は受けた恩と想いを別の誰かにだけど返す為、合理的じゃない独り善がりな幼稚かもしれない正義感で我儘を言った。


「従いません」


 僕はしっ責もしくは追放すらも受け入れる覚悟だった。それでもアイリスを抱えて街の外まで逃げるつもりだった。


 だけどそんな僕を見てイリーナは少しの間表情を固めたまま黙ってしまった。僕は固唾を飲んでジッと見返していたが、ふとイリーナが腰に手を当てたかと思うとニッと口角を上げた。


「お前が変わって無くて良かったよ。ちゃんと責任とって守り抜けよ」


 そうイリーナは言い残すと行動開始だと全体に声を張り上げて、ポニーテールの尻尾を揺らしライサを連れて走り出した。僕はそんなイリーナの対応に少し戸惑いつつもそれを追いかけて路地裏を駆けた。

 

 すると少し走った所でラースが僕の隣に並んできた。何事かとラースの顔を見ていると、急に笑顔になったかと思うと右手の親指を立てて向けてきた。


「ナイスガッツ」

「・・・どこで覚えたのそれ」

「分からん」


 そんな戦場にしてはあまりに軽くて浮いてしょうもない会話が、この時いっぱいいっぱいになった僕にとってどれだけ心を軽くしてくれたか。

 

 もう四時を回って太陽が城壁の裏へと沈みかけていた頃。赤みの増した空の下で、赤い血が流れる石畳を踏み僕らは終わりの見えない戦場を走り抜けていった。

 






 


 

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