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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第七章
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第百二十一話 前夜

投稿遅れました。昨日投稿が遅れる旨を告知し忘れていて申し訳ないです。


 新米どころか殆ど学生レベルの士官である僕らが、歳も一回り上の部下を正式に持ってから三日が経過していた。その間チグハグながらも急造りの分隊として最低限の連携は取れるようになっていたが、依然として個人間での信頼は全くもって得られていなかった。それもこれも明らか僕が敵視されてしまっているせいなのだが・・・・・。


「じゃあ今日はここまでにしましょうか。明日は撤退戦の連携確認しましょうか」


「はーい」「あいよー」


 と、いつもの事ながらライサとラースだけが返事をしてくれるが、さっさと他の分隊員は宿舎へと戻ろうとしてしまっていた。やっぱり未だに馴染むことは出来ないらしい。


「まぁ指示には従ってくれるからいいんだけど・・・」


 そう言い訳を零しながら頭を掻きながら僕も宿舎へと戻るかと、訓練場から去ろうとした時何やら遠くから駆け足で寄ってくる人影があった。

 遠目でも何かしらの伝令ではあるのが分かったので、僕は汗を拭きながら重い鎧をその場で外していた。これが中々重くて動きずらいから実戦で少し不安が残る。今晩でも軽装な鎧にでも変えてもらうか。


 と、そんな事を考えている内にその伝令の女の子が息を切らしながら目の前にやってきた。


「どうしました?」

「こ、これを!!!」


 その焦りように少し嫌な予感を覚えつつも丁寧に認められた手紙を手に取った。そして内容を読み始めるが、やはりと言うべきかその悪い予感は当たっていたようだった。


「・・・・・明日か」


 当初の予想より敵の進軍速度が速かったらしく、今朝の段階でかなり帝都に接近していて今晩にでも来襲してくるらしいと。それで今から陣地に待機するようにって事だけど、なんでそんなにギリギリになってまで気づかなかったんだよ。

 

 そう不満を口に漏らしそうになるが、目の前の伝令の子に文句を言っても仕方がない。そう一度喉元を通ろうとした言葉を引っ込めて、伝令の子を見て頭を軽く下げた。


「了解しました。伝令ありがとうございます」

「はいっ!じゃあ私はこれで!」


 慌ただしく走り去っていくその伝令の子を見送って、まだ脱ぎ掛けだった鎧を手に取って再び装備し始めた。今日はゆっくり休めそうに無さそうかと思っていると、今の会話を黙って聞いていたのかラースが僕の背後から話しかけてきた。


「手紙の内容何だった?」

「今晩にでも敵が来るって。だから二人とも一回装備着直して」


 僕は名称は分からないが手首を守る籠手を身に付けつつ、二人を見るように振り返った。するとあの伝令の子の様子で何か察していたのか、既に二人とも装備を付け直していたようだった。そしてラースがガチャガチャと銀色に光る鎧を鳴らして、僕の元まで歩み寄ると宿舎の方を見た。


「じゃああいつら呼び戻さないとな」

「だね。また何か言われるかもだけど」


 まぁいつもの通り嫌味の一つでも飛んできそうだな。

 そんな会話をしていると、一連の流れに置いてきぼりだったのかライサが困惑したように心配そうにしてしまっていた。


「え?え?もう戦うの?まだあの人達フェリクスの事嫌ってるのに大丈夫?」

「え、あ、まぁそうだよね・・・・」


 戦争に対して不安に思っているのかと思ったけど、ただ単にそういう僕に対する心配だったか。いやまぁ心読めるから軍曹達の本心が分かってしまうのだから仕方ないのだけど、言葉をもうちょっと飾ってくれても良いのではないか。やっぱり直接嫌いって事実を知ってしまうと分かってても胃が痛くなる感覚がやってくる。教えてくれるのはありがたいんだけどな。

 

 そんな僕の感情が顔にも出てしまっていたのか、ライサが焦ったように身振り手振りが大きくして早口で弁明しだした。


「い、いやっ!あのね!そう言うのじゃなくてフェリクスが若いから大丈夫かなって言う心配が強いのかなっていうねっ!!!だから嫌いってのじゃなくて言葉を間違えただけというか・・・えーっと・・・だからそういう意味じゃなくてさっ!だから、、、」


 そんなに焦らなくても良いのにと早口になって説明してくれるライサを、窘めるようにその言葉を遮って止めた。


「わ、分かったから。一旦落ち着いてって。別にそんなに気にしていないから大丈夫だよ」

「え、あ、そう?私また要らない事言ってない?」

「言ってない言ってない。教えてくれてありがとね」


 あぁライサはあまり他人とのコミュニケーションに慣れてないんだっけか。最近はアイリスと言い合いしているイメージがあったけど、それ以外には人見知りしてたしつい言葉を選ばずに言ってしまうのだろうな。やっぱライサはこれまで苦労してきたから、そういう他人とのかかわり方含め色んな人と話して学んで楽しんでほしい。だからどうにかライサとラースには生き残って真っ当な人生を送って欲しい。


 そう僕が決意を新たにしていると、僕らの会話を聞いていたラースは僕の肩を叩いてきた。


「まぁとりあえず急ごーぜ」

「ん?あぁそうだね。そうだった」


 ライサで忘れてたけど急ぎの命令だった。なんかどうもこの考え込む癖があると、自分の世界に入ってしまうから良くないな。治らないしもうそういう性って奴なのかもな。

 

 そうして僕らは急いで宿舎に戻って部隊と集合しようとすると、既に分隊員は指令を聞いていたのか玄関前に揃って並んでいた。


「遅いですよ少尉。他の隊はもう出ましたよ何してたんですか」

「申し訳ないです。じゃあ急ぎましょうか」


 煽り反応してもしょうがないし僕が悪いのだから口答えはしなかった。相変わらずライサが不満そうにしていたけど、それを諫めつつ僕らは行動を開始した。


「どこまで情報は聞いてますか?ラインフェルト軍曹」


 そして急ぎで進む途中に情報は統一しておこうと、軍曹の方見て確認を取るがやっぱり僕の事が嫌いなのか嫌味たらっしく返答してきた。


「少尉が居ない間に他の隊から聞きましたよ。だから別に貴官からは大丈夫です」

「・・・・そうですか。良かったです」


 仕事なんだから最低限のマナーあるコミュニケーションぐらい取って欲しい。そうハッキリ言えたらいいのだけど、相手が年上で経歴的にも先輩となるとちゃんと面と向かって言えない自分が悔しい。てかこの感じいざという時従ってくれ無さそうだから何とかしないとな・・・・・。


 そんな僕が勝手に気まずく感じながらも重い鎧と一緒に走り続けて三十分程が経った。慣れない装備な事もあってかなり疲れはしたが、本番はこの比じゃないと弱気な気持ちを無理やり頭の片隅に置いた。


「じゃあ僕は中隊長にに指示を貰いに行きます。貴方達は予定通りの配置についておいてください」


 そう後の事をラインフェルト軍曹に任せて、思ったよりちゃんと陣地らしくバリケードが設置されている交差点を通り抜けた。当初の予定では僕らは右翼側の建物内で待機らしいけど、急な来襲だから計画に変更があるかもしれない。

 そうやって交差点の向かいの建物内で陣を張るヘレナさんの元へと急いだ。


「デューリング少尉現着しました!」


 声を張り上げてドアを開け中に入るとどうやら既に士官級の人間が集まっているらしく、やっぱり僕が最後だったらしかった。だから僕は頭を低くしながら、誰かの家を徴用したのだろう生活感の残る建物内を進み、皆の視線が集まるテーブルの上に広げられ地図を見た。


「じゃあ揃ったので始めますね」


 その入りでヘレナさんは相変わらず疲れの色の濃い顔を更に渋くさせて、地図を指差しながら説明を始めた。


「伝令によると数回戦闘は起こっていたらしいですが七千からは減っていないようです。ですがかなりの長期での強硬行軍ので疲労はかなりあるはずです」


 ヘレンさんが前のめりになった事で垂れた髪を耳に掛け、ペンを持った。


「で、恐らく行軍の様子から南門へと来るようです。未だ隊は分けてないので包囲というより一点突破で南門を破るのでしょう。ですので本営も南門に兵を回すようなので私達は更に後方へと下がることになります」


 ヘレナさんは僕らの設営した陣地より一キロほど後ろの交差点をペンで丸を付けた。するとアーレンス少佐が髭に手を当てながら困ったように呟いた。


「せっかく築いた陣地は他人の物ですか・・・」

「えぇまあ仕方ありません。それにどうせ捨てる予定の陣地でしたし有効活用と思えば」


 物は言いようだが上からはヘレナさんの隊は、陣地なしでそこで防衛しろって命令されているって事だからな。どうせ壁内も戦闘になる以上素直に後方に行けたと喜べるわけがない。


「ですので今晩の内に後任に移譲をした後、この地点で簡易的に陣地作成に取り掛かります。ですが当初の予定通り放棄するので形だけで、本営にバレなければ良いのでほどほどに手を抜いてください」


 ニヤッとヘレナさんがそう言って笑った。やっぱり素直に上に従って死ぬつもりは無いらしく、僕らは陣地戦ではなく遊撃戦をする事になるようだ。そしてつられるようにして他の士官たちも笑っていたから、皆としても上官だけ城に引きこもって自分たちを捨て駒にする本営の方針は気に入らないらしい。


「戦闘の方針は事前の計画とは変わりません。ですが東門西門の敵が手薄になるので最悪敗走する事も視野に入れてください。どうやら西のリュテス国の使者が来ているらしく、もしかしたら亡命が出来るかもしれませんしね」


 命を無下に捨てるような事をするなと全員に言い聞かせるようにしていた。でも逃げ場があると分かれば僕としてもありがたい事ではある。そうイリーナの方を見るとあっちも同じ事を思ったのか、その時目が合って互いに頷き合った。


 最悪はイリーナにラースとライサを逃がしてもらう。僕も出来るだけ戦うが命を捨てるような事はしない。それがイリーナの約束だからちゃんと守るつもりだ。


「じゃあ行動を開始しましょうか。私が後任と引継ぎするので後はアーレンス少佐に陣地設営頼みます」


 少尉である僕が口を挟めるわけも無く目の前で進んで行く会議を眺めているだけだった。そしてどうやら決めるべき事は決め切ったらしく、ヘレナさんが話を切り上げると士官達がすぐに動き出した。そして僕も置いてかれないように建物を出ようと歩き出すと、急にハインリヒに肩を叩かれた。


「どうした?」

「今晩ちょっと良いか?」

「・・・?まぁ別にいいけど」

「助かる」


 こんな急ぎの局面なのに何かあるのかハインリヒはやけに真剣そうに僕にそう言って、自分の隊へと向かってしまった。そんなハインリヒに僕は頭に?を浮かべながらも自分の隊つまり第三分隊へと向かった。


「今から移動します!全装備を付けて五分後に行動開始するので急いでください!」


 僕が出来るだけ声を張り上げたが、分隊員からはやる気のない様なまちまちとした返事しか返ってこなかった。僕がそんな光景に心がチクッとしていると、ラースが周りに聞こえない様に声を抑えて話しかけてきた。


「本当に大丈夫か?あいつら?」

「・・・信じるしか無いよ。でもあんまり前には立ちたくないかも」


 僕らを置いて逃げるとか余裕でしそうな感じがする。でもそんな事を言ったらそれこそ仲違いが決定的になってしまうし、僕がグッと抑えないといけない。それにそれこそ僕はラースとライサをいざとなったら逃がすつもりだし偉そうな事言えないし。


 でもラースは僕に気を使うようにポンっと肩を叩いた。


「・・・あんま無理すんなよ」

「うん、ありがと」


 その時ライサが遠目で僕を心配そうに見てくるだけで特に寄り付こうとしない辺り、さっきの事を気にして話しかけずらいのかもしれない。 


 そう思いながらも全員の準備を待つ間、僕はさっき見た僕らの配備される地図を思い出していた。

 おそらくあの交差点は南門東門西門それに王城への道を結ぶこの街で一番大事な交差点だ。敵もそれは分かっているだろうから、ここを狙ってくる以上平和にこの戦いを切り抜けれるとは思わない方が良い。

 それに長年平和な時代が続いていたせいか街の造りも、戦争より商業行政的な面が優先されて道が真っすぐなのも多くて、視界が良すぎるのも戦闘面でも逃げるという観点からも不利な事が多い。


「・・・でもやるしかないか」


 どちらにせよヘレナさんがあの陣地には拘らないって話だから、うまい具合に紛れて逃がすしかないか。そう頭の中で地図を描きながら考えていると、どうやら全員用意が終わったらしく僕に視線が集まっていた。


「・・・じゃあ全員良さそうだね。一旦アーレンス中尉の小隊に集合して行動します」


 イリーナの呼び方なのがアーレンス中尉っていうのが未だに慣れない。

 そう心の中で零しながらも僕は建物を出ると、イリーナ達が待つ交差点の中央地点へと向かった。既にハインリヒとアイリスの姿もそこに見えていて、またしても僕らが一番遅くなってしまったらしい。


「お、来たな。じゃあ行くか」

 

 僕らの姿を確認したイリーナの指示で行動を開始するけど、その時にチラッとアイリスの隊を眺めると未だに仲が悪いのか、僕らと同じで空気感が重そうに見えた。そんな時僕の視線を戻させるようにライサの声が右耳から聞こえてきた。


「ねぇフェリクス」

「うん?どうした?」


 ライサの方を呼ばれて見るが、やっぱり体格が小さい事もあってか鎧がアンバランスに見えて大丈夫かと心配になってしまう。前に指摘した時は、本人的にはこの鎧の方が安心するからと気に入っているようだけど。


「話だと一万五千人?も味方が集まるって話だけど、心の声的にそんなに居ない気がするんだけど何か聞いている?」

「あーまぁ城壁の方に集まってるし城の方にもいるからね」


 心配そうにライサがしているがまぁ心の声が聞こえる範囲も決まってるだろうから、拾い切れていないだけなのだろう。それに人口が減っているとは言え街中で人の声が多くて判別するのも難しいだろうし。


 そう僕は勝手に理由を付けてこの時のライサの言葉を解釈して流してしまった。


「っと、それよりももう着きそうだね。今日は寝れるうちに寝ときなよ」

「はーいっ!じゃあフェリクスも頑張ってね~」


 そこまでの心配事項では無かったらしくライサはあっさりと引き下がってくれた。

 

 そうしてそれからは簡易的なバリケード設置をしたりしている内に日も沈んでしまって、小隊ずつで交代で就寝をすることになった。そんな中僕はというと近隣の屋内で分隊員と待機しており、なけなしのお茶を飲みながらなんとなく窓の外を眺めていた。

 隣の部屋では分隊員の人たちが仲良くカードゲームをする騒ぐ声が聞こえてくる。ラースとライサは寝かせてあるけど、あーやって騒ぐのが彼らの開戦前夜の過ごし方なのだろう。


「・・・・ん?」


 すると窓の外からランプが近付いてくるのが見えてそれが何なのか気になった。そしてそれが段々と灯が間近に迫りそのオレンジ色の光が人の顔を反射させた。


「あ。ハインリヒか」


 その時に約束をしていた事を思い出して僕は急いで立ち上がった。


「ごめんごめん。忘れちゃってた」


 僕がそうやって扉を開けると軍服として支給された外套を身にまとった、ハインリヒの姿が暗闇の中に照らされてあった。


「いいよ。タイミング無かったしな」

 

 そして僕が招くようにドアを開けてハインリヒを中に入れた。どうやらハインリヒもハインリヒで今日の一連の流れは体に堪えたらしく、椅子に深く座ったその姿は疲労がありありと浮かび上がっていた。


「・・・やっと落ち着けたよ」

「今日大変だったしねぇ」

「だなぁ」


 そうやって二人で深く椅子に座って数分互いにボーっとしていると、ふとハインリヒがスイッチが入ったのか姿勢を起こして眼鏡を掛け直した。


「で、話ってのなんだが・・・」

「ん?あぁ言ってたね。何どうしたの?」


 僕も話を聞く姿勢を作ろうと椅子の背もたらから背中を離してハインリヒの目を見た。するとハインリヒは隣で騒ぐ集団を気にしつつ、少しだけ声を抑えた。


「まぁ話ってのも大げさな物じゃないんだけどな。もう兄貴と会えないのかなって思うとちょっと歳甲斐も無く寂しくなってな。話し相手になってくれよ」

「・・・・いやまぁそれは良いけど。会えないってもうハインリヒが死ぬ前提なの?」


 僕が何やらズレた発言をしてしまったらしく、ハインリヒは目を丸くした後口元を抑えてひとしきり笑い、一旦は落ち着いたその後も笑いが漏れ出ながら言った。


「いやまぁ死にたくはないんだがな。どう考えても勝てないだろうからって思ったんだけど、やっぱフェリクスは特別だな」

「~~~~?褒めてる?それ?」

「半々ぐらい?」

「じゃあ褒めてないよそれ」

「いやいやある意味では褒めてるから」

「物は言い様すぎでしょ」


 今日は一日暗い顔をする事が多かったけど、ハインリヒとこうやって話して初めて笑えた気がする。何も考えず反射で友達と会話するのって気が楽でなんだかんだ好きだ。それはハインリヒもそう思ってくれていたのか、優しく微笑んで起こしていた姿勢を再び背もたれに預けると。


「なんかなんとかなる気がしてきたわ。兄貴の事は心配だけど」

「お兄さんも戦場なんだっけ?」


 僕は机の上に置いてあった白い湯気を立てるお茶を口に付けた。


「そうだな。今も敵の後方で色々やってるんだと思う」

「ここに援軍は来れそうなの?」

「んーーーー分からんなその辺は。詳しく知ってるわけじゃないが、俺としては来ないで欲しいな」

「その心は?」


 するとハインリヒはその兄を想うようにレンズ越しの目を細めて窓の外を見た。


「まぁ兄貴が次期当主ってのもあるけど、やっぱ俺が生き残って欲しいと思える人だから。それだけ志の高くて心根の優しい人だしな」


 そこまでハインリヒが褒めるのならそれほどすごい人なのだろうな。そう今兄の事を語るハインリヒの嬉しそうな顔を見るだけでも分かる。


「当主ってハインリヒがなるって話だったよね?何かあったの?」

「ただ単に兄貴が昇進してそれで親父が家督の先を変えたってだけだ。いつまでも自分の家柄を気にする人だからさ」

「へぇ・・・」


 何か聞いてはいけないデリケートな事に踏み込んでしまった気がしたが、ハインリヒは何も気にしていないようで相変わらず微笑んで外を眺めているだけだった。でもその姿はどこか自分を卑下するような寂しさもある様に感じた。


「でもそれだけ兄貴はすごいから俺としても納得なんだがな。俺なんてちっさくてしょうもない人間だし」

「・・・・・」


 ハインリヒ程の人間でも自分をそう言う風に見てしまうのか。でも僕はついそれを否定したくなってしまった。


「僕はハインリヒはすごい人だと思うけどね。殆ど平民の僕とこうやって話してくれてるし、いつも勉強も鍛錬も欠かさず頑張っててその上優しいし。あとイケメンだし━━━」


 そう思いつく限り誉め言葉を吐き出していたが、どこかハインリヒは気まずそうに恥ずかしそうにして僕を見ていたので、僕はやらかしたとすぐに口を噤んだ。そしてそんな僕を見てハインリヒはまた笑うと。


「やっぱフェリクスって変だな」

「・・・かもしれないっすね」


 そうやって互いに合うと自然にそのまま自二人とも窓の外へと視線が向いていた。


「明日の夜もまたこうやって話せるといいな」

「だね」


 そうして僕らの最後かもしれない一晩は更けていったのだった。





 


 

明日も少し遅れるかもしれません。申し訳ありません。

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