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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第一章
11/149

第十話 知らない街へ


 誕生日から数か月が経ち年も明けて冬が音を立てて過ぎようとしていた。

 空は落ち着きを取り戻したが、いまだ銀世界である一面を見る為馬車の荷台から顔を出して周りの様子を伺っていると。


「よし、出発するけど忘れ物ないなー?」


 そう父さんは言いながら僕らの頭を中に押し戻し、荷台を通り過ぎるとそのまま御者台へと向かって行った。そして御者台の手前で一度振り返って荷台に同乗していたブレンダさんに言った。


「じゃあブレンダ後ろ頼んだ」

「はい、承知いたしました」


 話によると交互で馬車の運転をすることになっているらしい。あんな木の板の上に座りっぱなしだと腰と尻をやりそうだけど大丈夫だろうか。


 そんな事を思いつつ僕は荷台で荷物の上に座りつつ足をブラブラさせていると、その辺りで馬車はガタガタと動き出した。

 馬車の荷台の中ではブレンダさんが僕の右隣に、ルーカスとラースはエルシアと少し間を開けて隣に座り何か話しているようだった。そしてそのエルシアは二人から視線を外すように、荷台の最後方部で静かに頬杖を突き外をじっと眺めていた。


「きれいだなぁ・・・・」


 銀色の髪にまつ毛に瞳。雪で外が銀世界な事もあるが、それにしても風景とのマッチの仕方が雑誌の一面だと言われても違和感が無かった。

 でもいくら大人っぽく見えても相手は七歳の女の子だ。そう僕は視線を逸らそうとすると、それと時を同じくして僕の元までやってきたらしいラースが僕の肩を叩いた。

 

「なあなあ面白い話ないか?」

「え?あ、うーん、そうだなぁ・・・・」


 唐突にラースに言われたお題になんとか頭を捻らそうとするが、七歳男児の子が喜びそうな話って何だろうか。そう考えても全く思い浮かばず、思った以上に僕の引き出しの少なさを感じてしまうな。

 

 するとそうやって黙り込んでしまった僕を見てか、ルーカスが恐る恐ると言った感じで話に入ってきた。


「じゃ、じゃあ今度こそ星の話を━━」

「そんなん眠くなるってーの。もっと楽しい話をなぁ」

「じゃあ寝てればいいじゃん。暇つぶせるよ」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて・・・」


 いちいちお互いに喧嘩腰で空気が悪くなりそうだったので止めに入る。

 せっかくの旅なんだし平和的に行ってほしいんだけどなぁ。まぁもう犬猿の仲ってやつで、仲よくするのは無理なのかな。

 そう改めて二人の顔を見ても、ルーカスはともかく、まだラースは不満がありげな顔をしていた。


「いやでもやっぱ今のはルーカスが・・・」

「兄さんうるさい」

「・・・はいよ」


 いつの間にか僕らに視線をやっていたらしいエルシアに、そう強く睨まれるとラースはすぐにシュンとして大人しくなってしまった。ここ最近はいつの間にかラースは妹に頭が上がらなくなっていてしまっていた。


 そんな二人を見ているとルーカスが低姿勢で移動して僕の元にすり寄って、開いていた左隣に座ってきた。


「ま、街ってどんな感じかな?本とかあるかな?」


 その言葉に視線をルーカスに向けると緑色のルーカスの瞳が目に入った。皆まだ七歳だから目が大きくて人形みたいだ。


「あーどうだろうね。本って高いって言うし買えるかなぁ

「一度でもいいから星学大全って本読んでみたいんだよね」


 どうやらお目当ての物があるらしい。だがまぁ時代が時代だし子供の小遣いでは買えないだろうな。でも今それを言っても仕方ないので、僕はルーカスの話に合わせて続けた。


「へぇそんな本があるんだ。星の教科書みたいな感じ?」

「そう、一応庶民向けの教科書らしいんだ。だいぶ高いって言うけど・・・」


 まぁ金属活版印刷とかその辺りの技術が無いと、庶民に本は手が届くような代物じゃないだろうな。せっかく興味があるなら、勉強させてあげたいとは思うけど残念だ。

 庶民向けって言っても豪農豪商とかその辺りだろうけど、一応それ向けの本はあるって事はいつかは買えるかもしれない。


「頑張ってお金貯めなきゃね」

「うんっ!」


 いつか金を出してあげても良いかな。そう思えるぐらい純粋な笑顔をルーカスは浮かべていた。

 

 そう一度会話にキリがつき馬車内に視線を戻すと、さっき座っていた所に戻ったらしいラースが、明らか嫌そうな顔をするエルシアにもたれ掛かっていびきをかいていた。


「ちょ、兄さんよだれついてる」

「~ん?あ~う~ん、そうだぁな」


 さっき怒られて殊勝に黙っているのかと思っていたけど、ただ単に寝ていただけだったか。そしてしばらくするとエルシアが少しイラついたように、強めにラースの頭を押して自身と反対側にラースを寝かせた。あれだけやられて起きないラースも大分すごいな。

 

 そんな風にラースを見ていると、その時珍しくエルシアから僕に話しかけてきた。


「フェリクスさんは冒険者とか興味ないんですか?」


 少し乱れた髪を整えながらエルシアが僕に話しかけてきていた。視線は全く僕を見ていないのが気にはなったが、それにしても僕が冒険者に興味なんてどんな経緯での質問だろうかと、そっちに思考が持っていかれた。ブレンダさんの話だとあまり社会的イメージは良いように感じないのだが・・・・。


「特にないかなぁ。どうして?」

「・・・そうですか。兄さんが冒険者になりたがってるので、フェリクスさんも同じなのかと」


 あまり興味が無かったのかぶっきらぼうにエルシアは答えた。もうさっきと同じように頬杖を突いて外へと視線をやってしまっていて、話は終わりって雰囲気を本人からありありと感じていた。

 でもこのまま沈黙も暇なので僕はなんとなく話題が作れないか考え、エルシアと視線が合わないままだけど質問を飛ばした。


「エルシアは何かやりたい事あるの?」

「・・・・私は特にないですね。もうやりたいことは無くなっちゃったので」

「へぇ~、もうってことは叶ったってこと?」


 そう僕が聞いてもエルシアはため息なのか白い息を吐くだけで、何も答えようとはしてくれなかった。

 何か気に障った事を聞いてしまったのだろうか。そう思いつつ会話を途切れさせない様に、隣に座るルーカスにエルシアと同様の質問をした。


「ぼ、僕は学者。できれば占星術がいいけど何でもいいから学問をやってみたい」


 予想通りの返答が来て安心した。でもそういう夢を持っているのは良い事だ、この時代観だと難しいだろうけど応援してあげたいな。


「がんばってね。応援してる」

「うん!頑張る!」


 好きな物の話だとぱぁっと明るく笑顔になる。

 ルーカスのこういう所は純粋で可愛いんだけどなぁ。でもラースが絡むと途端にめんどくさいというか嫌味になっちゃうのどうにかならないのかな。

 

 するとそんな時馬車の車輪が石を踏んだのかガタンと大きく揺れた。それと同時に視界の端に映ったエルシアの髪の毛が結ばれてないのに気づいた。さっき見てたけどなんで気付かなかったんだろう。


 案外人の目ってまともに情報を集めていないのかもな、そんな事を思いつつ再びエルシアに言葉を投げかけた。


「そういやエルシアは髪留めほどいてるけど、結ばなくていいの?」

「・・・・・・まぁもういらないかなって思って」


 なんかさっきから意味ありげな事言うけど全く理解が出来ない。この年頃の子ってこんな感じなのが普通なのだろうか。

 そう思いつつも自分から話しかけて置いて黙ったままは良く無いかと思い、なんとか続く言葉をひねり出したのだが。


「そっちの髪形もいいね」

「・・・・はぁ。どうも」


 顔は相変わらずこちらを向いて無いから分からないが、見えなくても今エルシアが不機嫌そうなのは言葉のトゲトゲしさから伝わった。

 もしかしてお前のためにおしゃれしてないんだから、褒められても嬉しくねぇよみたいなあれなのかもしれない。

 

 なんか下手に喋りかけない方が良さそうだな。あんまり好かれて無さそうだしこれ以上は僕のメンタルも持たない気がする。あーあこれはしばらく、寝れない時に思いだして悶えるやつだなぁ。


 そう要らない事を言ったと後悔していると、ずっと黙ってぼくらの会話を聞いていたブレンダさんが憐れむように僕の肩をポンと叩いた。そんなブレンダさんの顔を見上げてもむっちゃ憐れむような優しい目だし。


 ブレンダさん無言で肩叩かないで、自分でも分かってるから・・・・。

 

 そうして僕は現実から逃げるように目をつぶった。


ーーーーーー

 

 その日の夜。僕らは川沿いで野宿をすることになった。初めての外泊と言う事もあってラースやルーカスは楽しそうにしていたが、夕飯を食べ終わった頃には焚火を囲むように並んで、皆寝る準備を始めていた。

 

「じゃあ見張り頼むなブレンダ、交代の時間なったら起こしてくれ」

「はい、承知いたしました」


 明日の昼過ぎには街に着くらしいので、備えて僕も寝る準備を進めていた。案外近いなとも思ったけど馬車って思ったより早いからこんな物なのかもしれない。


 そんな思考を回しながら毛布をかぶり焚火を眺めて眠気を待っていた。


 ・・・・・・


 ・・・・・・

 

 だが待てど暮らせど寝れる気配が全くなかった。

 昼に寝た時にかなりの時間を寝てしまったせいだろう。

 と、連想ゲームで昼のことを思い出していると、エルシアの一件を思い出してしまった。

 考えるな考えるな、今更どうにもできない、心を傷つけるだけだ・・・・。

 

 そう寝ることに苦戦していると、隣からガサゴソ人が動く音が聞こえてきた。


「ラース様、お手洗いですか?」

「え、いや、ちょっと寝れなくて・・・」

「明日も早いですから無理にでも寝たほうがいいですよ」


 僕と同じく昼寝をしていたラースも寝れないらしい。

 せっかく起きている人がいるならと僕も起き上がる。


「僕もやっぱ寝れないっす」

「フェリクス様もですか」


 パチパチと音の立てる焚火の明かりでラースとブレンダさんの顔がオレンジ色に反射して見えた。


「ちょっと昼寝過ぎちゃいまして・・・・」

「私はてっきり昼の一件を思いだして寝れないのかと」


 少しからかうように笑ってブレンダさんが茶化してきた。そういう冗談を言うタイプなのかと思いつつも、ブレンダさんにいじられたのを少し嬉しく感じつつも言い訳をした。

 

「違いますって!あれはまぁその事故みたいなものですし・・・・」

「ま、これから学んでいけばいいですよ」


 ブレンダさんが周りを起こさないよう口を押えて笑っていた

 最近はこれぐらいの距離感でブレンダさんと話すことが増えた気がする。僕としても割と素で話せるから楽ではあるが、恥ずかしいのでそれ以上追及するのはやめてほしい。


 でもこんな会話ラースが興味を持たないはずも無く。


「昼の一件って何?」


 木の枝で焚火を突っつきながら僕に顔を向けてきていた。

 だから僕は濁しつつもそんなラースの疑問に答えた。


「・・・昼間にエルシアに失礼なこと言っちゃって」

「まぁあいつも失礼なこと言うしいいだろ」


 どうやらラースですら失礼と思うほどの事を言うらしい。僕はそこまでのを聞いたことないから、ただ単にラースが厳しくされてるだけではと思ってしまうが。


「そうならいいけど、いつももあんな感じなの?」

「んーまぁそうだな、たまに本当に怖い時はあるけど」

 

 ラースはエルシアの寝ている方を向いてそんなことを言った。どうやら家でもラースを叱るのは、エルシアが担当しているらしい。

 

 だから怖がっているんだなと納得してしまい、それからしばらく会話が止まってしまった。そして気付いた時にはラース君がいつのまにか寝てしまっていた。

 

 子供は寝るの早いなと思い毛布をちゃんと掛けてあげてから、ずっと気になっていたことをブレンダさんに聞いてみる。

 

「それなんですか」


 僕の視線の先にはブレンダさんのそばに、僕の身長はありそうな大剣が置いてあった。大剣にしてもあまりに大きいように感じるが。


「あぁこれですか、私の長年の相棒ですよ」


 ブレンダさんはやさしく割れ物を扱うように剣を撫でた。その手つきや目つきからそれがどれだけ大事なものなのかは良く伝わってきた。

 でもそれにしてもこの剣を振り回して戦う事なんてできるのだろうか。


「それ持てるんです?」

「もう最近は鎧を着た状態だと厳しいですね」

 

 つまり鎧さえ着てなければ、まだ扱えるってことなのか・・・。

 確かにがたいは良いから出来なくは無いだろうけどその歳でよくそんな事出来るな。そう感心している内にも、ブレンダさんはもうお話の時間は終わりと寝るように促して来た。


 まだ眠く無いし話を色々聞きたかったが仕方ないと、僕は毛布をしっかりと被って横になった。


「おやすみなさい」

「はい、おやすみなさいませ」


 焚火のパチパチする音と皆の寝息を聞きながら、しばらくしてから僕は眠りの中に落ちていった。


ーーーーーー


 僕は荷台の前の方へ行って父さんの背中越しに、地平線の先から上がってくるエースイの街の城壁を眺めていた。遠目でも分かる程しっかりとした要塞って感じの見た目で、どこか物々しさを感じた。

 

「とりあえずもうすぐ着くから、その時はおとなしくしてろよー」


 そして僕らの馬車はエースイの街の城門付近へとやってきた。と言っても僕ら子供にはやる事もないので、ただ父さんに任せてボーっと首が痛くなるほどの高さを誇る城壁を眺めていた。

 

 そうして十分ほどすると再び馬車は動き始め僕の見上げた視線の先では、城門を通過し両隣に二階建てのザ欧州って感じの建物に挟まれた青空が見えた。


「すっご」


 そんな事を呟きつつ視線を正面へと戻すと、冬にもかかわらず道には所狭しと屋台や店が立ち並んで活気づいていた。それにやっぱり城塞都市としての機能を持っているのか、遠くにも櫓とか塀の防衛設備が見えて多い気がする。

 

 賑やかな道をガラガラと僕らを乗せた馬車は進み、恐らく広場だろうか。そう思える広い所に出ると父さんはそのまま馬車を預けるらしく、僕らに馬車から降りるよう指示を出した。それに僕らも素直に従って下車すると、御者台に座る父さんはブレンダに向かって言った。


「じゃあ俺は行ってくるから、ブレンダよろしくな」

「はい。承知しました」


 そうして暫く父さんの馬車を見送った後、ブレンダさんは優しく笑って僕の背中をポンっと押した。


「じゃあ行きましょうか」


 この時の僕はかなりワクワクしていたと思う。何せこんなファンタジー的な体験を出来るとなると、誰でも興奮はするだろう。

 でもブレンダさんは僕にハンカチを渡し、そんな僕の夢を壊すような事を言ってきた。


「ここから少し匂うので気を付けてください」

「・・・え?」


 そしてその言葉の意味は広場から進んで少し道が狭くなり出した頃にやっと理解出来た。

 ハンカチ越しにも貫通してくる下水のような匂いに飛びまわる蠅。誰が捨てたのかも分からない生ごみに吐しゃ物と酷い有様だった。


「ほんとだー!むっちゃくさーい!」


 ラースはどこか楽しそうだけど、ルーカスエルシアはちゃんと嫌そうな顔をしている。ゴミ回収とかしないと感染症とかやばいだろ。

 そうひん曲がりそうな鼻をハンカチで抑えつつ僕はブレンダさんに聞いた。


「なんでこんな臭いんですか?」

「普通に住民が道にごみや排泄物を捨てるからですね。この辺は特にですが」


 ブレンダさんは割と慣れているのか当たり前の様にそう答えた。割とこの世界だとこういうのも常識だったりするのだろうか。

 そんな事を思っていると後ろからルーカスの呻くような声が聞こえてきた。


「・・・・・っう」


 振り返るとルーカスちょっと吐きそうになっているけど大丈夫だろうか。だがそんな心配をしてる内に、もう目の前に教会がある所までついていたらしくブレンダさんの足が止まった。


「ここですね」

「・・・おぉ、すご」


 教会って街の中心にあるものかと思ってたけど、案外外れにあるし思ったよりぼろかった。流石に欧州の大聖堂とか、あの辺勝手にイメージして期待膨らませ過ぎた僕が悪いんだけども。でも臭いは多少薄くなっているのは助かった。


「じゃあ私は神父と話してまいりますので、少々お待ちを」


 そう教会の入り口の所で僕らは待たされ、ブレンダさんが中に入っていくのを見送った。人通りはそれなりにあるけど、商業地区というより居住地区って感じだった。


「なっ!こんな高い建物入れるのか!?」

「だね!ちょっと楽しみ!」


 辺りを僕が見渡している内に、珍しくラースとルーカスが意気投合出来ていたらしかった。やはり高い建物って、どこの世界の子供でもみんな好きなんろうな。相変わらずエルシアは興味無さそうだけども。


 するとそうこうしている内にブレンダさんが神父らしき老人と戻ってきた。


「フェリクス様方準備は出来ているらしいので、入ってきてください」


 そう言われ案内されるがままに中に入ると、外見とは全く違い僕の期待を超え中の装飾はすごかった。

 ステンドグラス的な物とかもあって教会感すごいし、なんか言葉に出来ない厳かな雰囲気があった。そしてその中心には先ほどの神父が笑みを浮かべ僕へと話しかけてきた。


「ようこそいらっしゃいました。すぐ始めますのでどうぞこちらにお座りください」


 神父さんが手に持った壇上の椅子に座るよう手招きしていた。椅子は内装とは別でぼろい木の椅子なのは気になったが、場の雰囲気だけで少し気圧されてしまった。

 

「あ、今日はよろしくお願いします。ここに座ればいいんですね?」

「そうです。ちょっとガタついてるので気を付けてください」


 確かにそう言われ座った椅子は少しガタガタしていた。そして神父さんは僕の肩に手を置いて優しい声色を作った。


「では、始めますね。少し頭下げてください」

「は、はい」

 

 こういう宗教儀式って馴染みないし、ちょっと緊張するな・・・。

 そう思っていると、次は僕の頭に手をかざしてどうやら魔力測定が始まったらしい。

 

「主よ、主がこの者に与え賜えし恩寵を、、、、、」


 神父さんがそれっぽい言葉をしばらく唱えていた。初めて聞く単語もかなりあったけど、大体こいつの魔力量を教えてくださいを、遠回しに婉曲的に大層な言い方して聞いているだけだったと思う。


「、、、、、給え」


 五分ほどたった時どうやら測定は終わったらしかった。

 そして僕に目を開ける様に言った神父さんは僕の頭を撫で、測定結果を教えてくれた。


「すごいですね。貴方は主に愛されているのですね」

「え?魔力が多いってことですか?」


 言った瞬間にブレンダさんに言われたことを思い出した。確か魔力って呼び方があんまりよく無いのだと。そしてそれは本当だったらしく神父さんは少し顔を引きつらせながらも、窘める様に教えてくれた。


「・・・いいですか。主が与え賜った力を魔力などと下賤な呼び方をしてはいけませんよ。あなたのその力は神に愛されている証左なのですから、大事にするのですよ」


 ブレンダさんにせっかくわざわざ注意されていたのについ言葉が出てしまっていた。この人がすぐ起こる人じゃなくて良かったけど、気を付けないとな。

 

 でもだとしてもちゃんと謝らないといけないな。


「すみません。これからは気を付けます・・・」

「そんなに怯えないでください。知らないものは仕方ないです」


 この人が見た目通り優しくて改めて良かったと思えた。

 そして僕が椅子を立とうとすると、神父さんが僕の肩を抑え言葉を付け足してきた。


「それに、一つ提案があるのですがいいですか?」

「・・・なんですか?」

「ディリア教に興味はありませんか?」

 

 ・・・・・どうやら僕は宗教勧誘をされているらしい。あんまりこういう時代観で宗教に関わらずに済むなら関わりたくはないんだよな。その辺への理解とか全然ないしいつ宗教上の地雷を踏むか分からない。まぁでも父さんにも特に言われてないから断っていいんだよな?

 

 そう思いブレンダさんの方を確認の意味を込めて、チラッと見るとそれに気づいたブレンダさんは頷いていた。あれは断っても大丈夫な意味の頷きだと思いたいが。


 そうして覚悟を決めて、低姿勢を貫きながら丁重にお断りした。


「すみません、今はあまりそういうのは・・・・」


 恐る恐る神父さんの顔を伺うと、残念そうにしたものの決して起こる訳でも無くポンポンと僕の肩を叩いて言った。


「・・・そうですか。残念です。いずれその気になったらまた来てくださいね」

「は、はい」

「最後に、神の恩寵は私利私欲のため、つまり自分のために使ってはいけませんよ」


 そう締めくくられ僕の測定は終わり、後ろで控えていたブレンダさん達の方へ向かう。

 気づいたら手汗がびっしょりで、とんでもなく僕が緊張していたのが分かる。


「じゃあ、次はそこの女の子来てください」

「はい」


 長椅子に座り込みやっと落ち着いた。隣のラースとルーカスはまだ建物がどうのこうので話してどれだけ好きなんだ。


「どうだったんです?」

「なんかまりょ、、、恩寵は多いらしいですね」

「お、それはおめでとうございます。恩寵が多いならこの先職には困りませんね」


 危ない、また魔力って言いかけた。言いずらいんだよなぁこれ。

 まぁそでもれはともあれ、僕の魔力量が多くて良かった。本当にブレンダさんが言うように職業選択の幅が広がる。時代的に自由に職を選べるのかは知らないけど。


「僕って傭兵とか商人になれるんです?」

「まぁなりたいなら、なれますよ。旦那様方も反対しないでしょうし」

「・・・・へぇ」


 どうやら職業選択の自由はあるらしい。なんか時代観とは合わないような自由な所あるなこの世界。

 と、そんな話をしつつ時間を潰して少しした頃エルシアもどうやら終わったらしく、椅子から立ち上がるのが見えた。

 

「あ、終わったみたいですね」


 コツコツと僕らの座る長椅子にエルシアが戻ってきた。


「どうだった?」

「・・・・普通かな」


 普通か。普通なら魔力があるってことなのか。あんな狭い村に何人もいるなんてすごいな。

 そうしてどんどん魔力測定は進んでいく。


「じゃあそこの金色の髪の男の子」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 呼ばれたラースが緊張から噛んでしまっていた。案外可愛い所あるなと思っていると、それを見たルーカスが嬉しそうにニヤニヤしていた。


「・・・ふっ聞きました?ラースのやつ緊張して嚙んでましたよ」


 さっきまで仲良さそうに話してたでしょ。どんだけ互いに嫌いなんだよ。

 そうちょっと冷めた目でルーカスを見ていると、そのルーカスは魔法に興味があるのかエルシアに話しかけていた。


「そーいえばエルシアは、フェリクスみたいに誘われなかったの?」


 ブレンダさんとの会話の中、僕と神父さんの話をちゃんと聞いていたらしい。


「・・・誘われたけど、断った」

「へえーじゃあ魔力たくさんあるってことだよね!すごいね!」

「そんなんじゃないよ」


 なんかやっぱ最近のエルシア全方位に不機嫌だな。まぁ僕だけがやらかしたとかそう言うのじゃないなら、ある意味安心だけどどうしたんだろうか。

 でもそんな僕の心配をよそにルーカスは浮かれたように指を折っていた。


「僕も魔力あったらいいな~。それでお金稼いで本買って・・・」


 ルーカスはエルシアの不機嫌に気づかないまま夢を語り出した。好きなことに一直線なのは良いけど、それでいいのか。

 

「お~い終わったぞ~」


 どうやらラース君も終わったらしく、次はルーカスで最後だ。


「じゃあ最後の子来てください」

「は、はい!」


 そう呼ばれて神父さんの元へ行くルーカスも緊張なのか歩き方がおかしく、右手と右足が同時に出ていた。ルーカスもラースの事言えた義理じゃないな。

 

 でもその当人であるラースは、そんな姿なんてお構いなしに戻ってきて僕にとびかかってきた。


「な、な!聞いて!俺、ディリア教入らないかって誘われたぞ!それに魔力も多いってさ!」


 肩を掴まれぐわんぐわんと揺らされる。あまりに元気過ぎてついて行けないが、ふとなんかラースって子犬みたいと思ってしまった。

 

「お、おぉ、すごいね。てことは恩寵たくさんもらったってこと?」


 僕のそんな質問に自信満々に腰に手を当てて、満面の笑みで自慢気に話し出した。


「そう!俺なんか愛されてるっぽいらしくてさ~、いやまぁ薄々思ってはいたんだけどな!」


 ラースも余程魔力量多かったのか。

 てか今の所百%魔力持っているけど、父さんの三十人に一人って嘘の情報だったりするのかな。

 そう思っていると、ブレンダさんが僕の疑問に答えるように言ってくれた。


「珍しいですね、ここまで恩寵の多い子供が固まっているのは」

「ですよね。僕も恩寵がある人はだいぶ少ないと聞いていたのでびっくりしました」


 エルム村にたまたま魔力のある子どもが集まっただけか。確率で表したらすごい事になりそうだけど。

 そんな話をしていると他よりもなぜかルーカスは早く終わったらしく、気づいたらこちらに戻ってきていた。


「僕は無いってさ・・・」


 流石に四人とも魔力持ちなんてことは無かったか。さっきまで楽しみそうにしていただけに、いたたまれないな。まぁ魔法だけが全ての世界だしまだ他にもお金を稼ぐ方法はある。

 そう慰めようとすると、すぐに神父さんも僕らの元にやってきてしまった。


「エルム村の皆さんはより主に愛されているようで」

「いえいえ、これも主の御導きのおかげです。こちら今回の謝礼です」


 ずいぶんブレンダさんの手つきが慣れていた。昔孤児院にいた経験からなのだろうか。


「はい、確かに、あなた方にこの先も主の加護がありますように」


 そう言葉を贈られた僕らは長居をしても迷惑なので扉を開いて外に出た。

 その後は事前に決めていた宿に向かいながらルーカスを慰めていた。相変わらずラースが要らない事言って、喧嘩にならないようにするのは骨が折れたけど。


 そしてやっと宿についた僕らは、昼なのに部屋につくなりそのまま寝てしまったのだった。



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