第百八話 師走
年末から続いた雨は三日続き、年越し前夜となった今日も未だに振り続けていた。
そんな真っ暗な夜空を窓越しに眺めながら僕は、だいぶ熱も引いて楽そうになってきていたアイリスの世話をしていた。
「ご馳走様。これありがとう」
食欲も大分戻ってきたらしくアイリスは、食器を空にしてプレートを僕に渡して来た。今はもうベットから自力で起き上がれてるし、顔色も大分良くなってるから明日にでも完治できそうだった。
「はーい。じゃ返してくるね」
僕はアイリスからプレートを受け取り食堂へ行こうとすると、その僕の裾をアイリスが掴んだ。
「私風呂行きたいから一緒行く」
「あぁはいはい。体調は大丈夫なんだね?」
そういや何度か体拭くからと部屋を追い出されたけど、流石に一週間弱風呂に入らないのは気持ち悪いか。そう理解しつつ振り返ってアイリスの様子を窺うが、風呂に入って無くて匂いが気になるのか付けている強めの香水が気になった。でもそんな事を本人の前で言えるわけも無くアイリスの返事を待った。
「大丈夫だから。ちょっと待ってて」
そうアイリスの意志が確認できると、僕はプレート片手に待って扉に背中を預けていた。すると久々に立ったアイリスは足元に力が入らないのか、フラフラとしていて危なっかしかった。
「大丈夫~?」
僕がなんとなくそんなアイリスに呼び掛けていると、突然背にしていた扉がガタンと音を立てた。誰か来たのかと思い、背中を離してドアノブを捻るとどうやらその音の正体はライサらしかった。
「お、どうしたの?」
扉から二歩ほど離れ半開きの扉を開くと、どうやらラースも連れ添いで来ているらしくライサの癖ッ毛の後ろに立っていた。
そう僕がどうしたのだろうと思っていると、ライサが空いた二歩分の距離を詰めてきた。
「ね!!どうせだし皆で年越ししない!?」
やけに機嫌なようでライサはピョンピョン跳ねながら僕を上目遣いでねだってきていた。この人一応年上のはずだけど、再会してからその感じがあまりしない。いや元々年上感は無かったか。
「僕は良いけど・・・・アイリスはどう?」
僕としては暫く看病で付きっ切りでアイリス以外と話してなかったから、偶には他の人と話してみたいが。 でもそれをアイリスが好ましいと感じるかは別だと思って、振り返ったら着替えを手に持つアイリスは案の定明らか嫌そうな顔を浮かべていた。
「えぇ・・・・私一応病み上がりだしライサさんと一緒は・・・」
相変わらず歯に衣着せぬ言い方だなと思いつつ、これは無理そうだと思い三人で年越しするかとライサを見た。するとそのライサは僕の左腕を掴んで体越しにアイリスに食って掛かっていた。
「じゃあ風呂も入らない方が良いんじゃない?匂いもそのつっっよい香水で気にならないよ?」
そんな突然煽るような事を言い出したライサを僕は止めようとするが、その前にアイリスが着替えを強く掴んで詰め寄るとライサと向かい合っていた。
「匂いってこれはエチケットとしてで!!やりたくてやってるわけじゃないから!そっちこそそれ部屋着のつもり!?」
「こ、これは!別に可愛いから良いでしょ!!」
そんな僕の目の前で喧嘩をされても止める手段が無かった。最初の頃も二人の相性悪そうだなとは思っていたけど、いつの間にか仲が悪くなってしまっていてこの様だ。
でも流石に止めない訳にもいかず僕はいがみ合う二人を無理やり離した。
「あ、あのーじゃあ三人でライサの部屋で年越しするからそれでいい?アイリスも風呂は入れれば良いでしょ?」
アイリスに僕は一旦落ち着かせる為そう確認を取るが、何故か今の喧嘩で気分が変わったのか食って掛かる様に言い放ってきた。
「いつ私が行かないって言ったのっ!?私も年越し一緒にするから!!」
そんなアイリスの言葉に反応したのかせっかく距離を離したというのに、ライサが僕の腕越しにアイリスに更に煽っていた。
「病み上がりは無理しない方は良いんじゃない?今も体調悪いのか顔赤いよ~?」
あまりにも面倒くさい。煽りに煽り返すアイリスに何故かアイリスに当たりの強いライサの二人。別に個人が何するかなんて勝手にすればいいのに、何をそこまで争うんだよ。
そう僕もイライラし始めていると、ずっと黙って部屋の開かれた扉にもたれ掛かっていたラースが口を開いた。
「あーもうそろそろ女子の風呂の使用時間来ちまうぞ?それにアイリスさんが上がるまで、俺ら図書館で勉強して待ってればいいんじゃないか?」
僕はその提案を聞いてすぐに動いた。
「あー!それ良いね!そうしよう!じゃあ二人とも準備して!」
僕はもうとりあえず流れを作ろうと無理やり困惑の声を上げる二人の背中を押して廊下へ放り出した。
いつまでも喧嘩されても困るし、一度二人には頭を冷やしてもらおう。そんな二人を一時的にラースに任せ勉強道具を取ってから僕も廊下へと出た。
「じゃあ二人は勉強道具取って来てから図書館で集合ね。僕は一回アイリスを風呂に送るから!」
僕はラースと目配せをして騒ぐライサを無理やり自室へと連れ返してもらった。そして段々と静かになっていく廊下で、まだイライラしているのかザ不機嫌という顔をしているアイリスを見た。
「・・・二人なんかあったのか聞いても?」
藪蛇かなと思いつつもそう聞くと、アイリスは階段を下りながらポツりと呟いた。
「・・・理由は無いかな。話してて合わないだけ」
まぁ人間関係なんて理由なく悪くなったり良くなったりするし、そんな物なのだろうか。合わないにしても煽り合いまではしないで欲しいのが本心なんだけどな・・・。
そう二人の関係性を考えていると、どこかイリーナとアルマさんの関係と似ているように感じた。
「そういやイリーナ元気かな・・・」
自然に思った事が口に出たが、雨音にかき消される事が無かったらしくアイリスの肩にかかった黒髪が揺れた。
「誰の話?」
「ん?あぁまぁ有体に言えば恩人かな?あとは冒険者時代に一緒に活動してた人だね」
今はヘレナさんの部下として働いているらしいけど、何故か僕と会おうとしてくれない。忙しいのかもしれないけど、殆ど顔合わせれて無いから会いたいのだけどなぁ。あいつの事だから変に意地を張ってそうな気もするけど。
するとアイリスが訝しむ様に踊り場から僕を見上げてきた。
「ふぅん・・・女の人?」
「まぁそうだけど。どうしたの?」
「なんかきもい」
突然罵倒をされたがそれ以上質問は無いのか、アイリスはスタスタと薄暗い階段を下って行ってしまった。そんな僕らの間に会話は無く雨音だけが響いていた。
そしてそのまま僕らは一階へと降り脱衣場の前にまで到着した。するとアイリスは脱衣場に入る前に着替えをギュッと握ったまま僕へと振り返った。
「・・・・風邪の間ありがと」
そう言うとアイリスは僕の返事を待たずに脱衣場へと駆け込んで行ってしまった。
「なんか照れるな」
面と向かって礼を言われるとどう表情を作っていいか分からなくなる。
と、そんな事を思いつつも僕はコツコツとした足音と共に、図書館へと向かっていった。その時チラッと食堂を見たけど、大晦日でもちゃんと営業してくれているらしく廊下に光が漏れ出していた。
そしてそのまま図書館へと入って僕は椅子に腰を下ろした。その椅子に僕は深く深く沈むように座って天井を見上げた。
「・・・・ねむい」
エルシアと会ってからは深夜もトレーニングしてるから、流石に体がきつくなってきた。勉強は大分追いついたから、その勉強時間を削って睡眠時間を確保してるけどやっぱり睡魔が迫ってくる。
そうしてラース達を待つ間天井を見上げたまま目を閉じていると、瞼の向こうから声が聞こえてきた。
「ん?フェリクスか」
その声に目を開けると銀色の髪が視界に入り、一瞬エルシアと勘違いしてしまい椅子から落ちそうになってしまった。
「お、おぉ大丈夫か?」
そう眼鏡を掛けたハインリヒに心配をかけてしまいつつ僕は、落ちかけた椅子に座り直してハインリヒの手にある物を見た。
「っと。ハインリヒも勉強?」
「あぁうんそうだよ。実家に居てもあれだし」
普通に答えてくれて吐いたけど、実家の話はこれ以上聞いちゃダメなんだろうなと、今話すハインリヒの虚無な表情を見てそう思った。
だから僕は話を切り替えるように隣の椅子を引いた。
「座る?」
「おう。ありがとな」
そうハインリヒが席に座り机の上に数冊の分厚い本を置いていた。題名を見る感じ帝王学とかそっち方面ので、士官学校での勉強では無さそうだった。
そんな僕の視線に気付いたのかハインリヒは、その分厚い本の一冊を持ち上げた。
「俺三男だけど家督継ぐことになりそうなんだよ。兄貴の方がよっぽど優秀だけどこれのせいでな」
ハインリヒは自分の銀色の髪を苦笑いしながら指差していた。
確か銀色の髪は高貴で、家督とか王位の継承順すらもその髪色で変わってしまうのだっけか。でも昔のこの国の独立やエルシアの件もあるから、そういう価値観も無くなってきたって話だったけど中々風化するものでは無いって事らしい。それに銀色が高貴ってのも宗教的な理由だしそう簡単に消える訳ないか。
そう政治は分からないけど色々あるんだろうなと思っていると、ふと気になった事があった。
「ってか家督継ぐって士官学校は?」
「それは卒業するよ。でも軍人にはならないかな」
外に出たら僕にしてみればハインリヒも雲の上の人だから、もう一生話す事も無くなってしまうのかと思と少し寂しくも悲しく感じてしまう。
「まぁ兄貴が軍でかなり功を立ててるから家督がそっち行くかもだけどな。俺はただ今の所ってだけ」
「へぇ~お兄さんすごいね」
「俺の憧れの人だよ」
僕はずっと一人っ子だったからあまり兄弟ってのが分からないけど、ハインリヒの慕い方を見るに仲が良いんだろうなと思う。
僕らがそんな会話をしているとやっと来たらしく、ラースとライサが何も会話をしないまま図書館に入ってきていた。あの二人が話している所あんまり見た事ないけど、上手くやれてるんだろうかと少し心配になる。
するとこっちに気付いたのかラースが駆け寄ってきた。
「あ、ハインリヒか」
「ん?あ、ラースか。昨日はありがとな」
いつの間にか知り合いになっていたのかラースが仲良さげにハインリヒと会話を交わしていた。
「知り合い?」
「ん?最近一緒に訓練してたんだよ」
「へぇ~」
どうやらラースはなんだかんだ友達作りが出来ているようで良かった。その相手がハインリヒだって事なのは以外だったけど。
するとライサがいつの間にか隣に座って勉強道具を広げだしていた。それを見てラースもハインリヒの隣に座って、ぬるっと僕らの勉強が始まった。横一列に四人並んで勉強するのも異様だと思うんだけど、誰も気になっては無いらしい。
「ね、ね」
そして勉強が始まってすぐライサが僕の右肩を指で突っついて来た。
「ん?どうした?」
「これ昨日やってて分かんなくて」
そうライサにやけに線の引いてある教科書を見せられて、ある単語に指を差していた。その時なぜ距離感が近くて気まずかったが、ライサの教科書を手に取ってページをめくった。
「あーこれね。それ二ページ先の、、、、、」
それからの僕はライサに勉強を教えつつ、自分も予習をして時間が過ぎていった。隣ではハインリヒがラースに付きっ切りで勉強を教えてくれていて、僕としてはかなり助かっていた。
そして三十分程が経った頃だろうか。今度は風呂から上がった少し髪が湿っているアイリスが僕の肩を叩いた。
「ごめん待たせた」
「大丈夫大丈夫。じゃあご飯行こうか」
時計を見るともう七時は回ってて丁度お腹も減り始めていた頃合いだった。そして僕はラースとライサにも行く事を伝えると勉強道具を片付け始めた。
「あ、ハインリヒも一緒に夕飯どう?」
僕がどうせなら一緒にどうかと、隣で本を読みこんでいたハインリヒに尋ねた。するとハインリヒは落ちかけていた眼鏡を掛け直すと、申し訳なさそうに僕を見上げた。
「俺は実家で食べてきたから。また誘って」
「うん分かった。じゃあ勉強頑張って」
「おう。そっちもな」
僕らはそうやってそのまま勉強をするハインリヒを置いて、図書館を後にして食堂へと歩いて行った。
そしていつものように食堂へと向かったのだが。
「え、閉まってるじゃん!」
ライサが不満気に言っていたが、さっき見た時は開いてたけど年越し期間は夜中まで流石に営業をしていないらしい。せっかく夕飯を食べるお腹になっていたから、腹の音が鳴り止まなかった。
「外は雨だしな・・・」
依然として轟轟とした雨音が響いていて、外に出る可能性を打ち切ってしまっていた。もうそれなら僕ら夕飯にありつくには選択肢が一つしか残されて無かった。
「まぁ調理場でなんか作る?」
皆あまり使わないけど食材も一通りそろってて便利ではある。一応戦場だと自炊だから練習しとけと言われてはいるんだけど、時間が確保出来無くて中々足が向かない。
でも流石にこの状況だと誰も反対しないらしく。
「じゃあそうするか」「じゃあいこーっ!」「私はなんでも」
そうして消去法的に調理場へと向かったのだけど、やはり年末な事もあってか隣接する食糧庫はガラッとしていてあまり物が無かった。
「ん~何か良さそうなものは・・・」
少し奥まった所にあった干し肉と木箱の隅に合った芋を手に取るが、やはりかなり昔の物なのか色味が悪かった。僕がそう箱を漁っている後ろでも、何かライサとアイリスが話していた。
「これおいしそうじゃない!?」
「いやそれ芽が出てるじゃん・・・」
喧嘩する癖に案外あの二人は良く話している気がする。まぁ仲が良い方が僕としてはありがたいのだけども。
そう僕は奥へ奥へと食材を探しているとラースも付いてきていた。
「俺料理なんて初めてだな」
「あーまぁ確かにそんな機会なかったもんねぇ」
「フェリクスはあるのか?」
「僕は冒険者やってた時にね」
「へぇ~冒険者か。良いな」
「軍辞めたら一緒にやる?」
「お、いいな!」
そうやってベラベラと二人で話していると、僕が開けた木箱からは白いカビのような物が付いたキノコが出てきていた。
「これは無理だろ」
「だね」
そして更に辺りを探し回っている内にライサ達が食材を集めきったのか、入り口から僕らを呼んでいた。
「早くーっ!!」「先作ってるよー」
僕とラースはそんな二人を見て顔を見合って曲げていた腰を伸ばした。でもラースは僕の顔を見たまま何故か笑っていた。
「お前なんだよそれ。髭かよ」
「ん?え?何のこと?」
僕は何事かと思いラースの指さす僕の口元を手でこすると黒い汚れが付いていた。汚い所で作業してたせいか汚れが付いていたらしい。
でも僕は笑われながらもラースの肩にある物体に目が行っていた。
「でもお前も肩に蜘蛛乗ってるけど新しいペット?」
「ん!?え!?どれっ!?」
以外に虫が苦手なのか僕の言葉に反応してラースは体をひねり出していた。もうそれで蜘蛛はどこかへ行っていたけど、面白かったので僕は腹を抱えたままそんなラースを放置していた。
「え?もうどっか行ったよな!?おい!!笑ってないで!!さ!!!!」
「も、もういないよ、ラースその感じで虫苦手なんだね」
僕はまだ笑いが零れながらもラースを落ち着かせてあげた。ラースの感じからして虫が苦手なんて意外過ぎるけど、新しい面が見れてちょっと得した気分だな。
でもそうやってふざけ合う僕らを呆れるように見ていたアイリスが不機嫌な声で呼びかけていた。
「早くしてー。カギ閉めれないからー」
「あ、はいはいー今行くー」
少し不満そうに言いたげなラースと一緒に僕らはアイリスの待つ食糧庫の入り口を出た。そうして外に出ると分かるけど、やっぱり食糧庫はなんか空気が悪いしカビが出来る理由が分かる。
「じゃあ閉めるよ」
「ん、ありがと」
そして僕らは三人で調理場へと進むと既にライサが調理器具を広げていた。何を作るつもりなのかお菓子作りでしか見ない器具もあったけど。
「で、何作るの?」
僕は多分ライサは料理できないんだろうなと思い、ライサのとりあえず出したのであろう器具を片付けるアイリスに聞いた。
するとアイリスは考えながらも、既に決まっていたのかあっさりと答えた。
「ん~ポトフ作ろうかなって」
「お~いいね」
こういう寒い日にはぴったりなメニューだなと思った。
そしてアイリスが器具を片付け終えるとやる気満々なのか、アイリスは備え付けのエプロンを着用していた。
「じゃあ二人は野菜切って。ライサさんは・・・その芋洗って」
「別に私も料理出来るけどっ!?」
そうライサがアイリスに抗議に行く野球監督みたいに騒いでいたけど、結局実際出来ないのか大人しく芋を片手に水に突っ込んでいた。その背中が寂しいように感じながらも、僕とラースは並んで野菜を切ってそれをアイリスに渡すのを繰り返していた。
「アイリスは料理得意なの?」
何も見ずに手際よく作業を進めていたからメニューが頭に入っていそうだった。だからそう聞いたけど、アイリスは木製のお玉でスープの味見をしながら、さも当たり前のように答えていた。
「これぐらい普通じゃない?あ、これ味見して」
そうアイリスからお玉を受け取って味見をするけど、そこまで強い味では無いけど優しい味だった。多分肉とか入れる事も考慮してこの薄さなのだろうな。
「良いと思うよ」
僕はそうアイリスにお玉を返して再び野菜を切り出した。その時アイリスの顔が少し下を向いていた気がするけど、もう少し褒めた方が良かっただろうか。
そして僕らも干し肉を切り分けて鍋に入れると、アイリスはそのまま蓋をしてしまった。どうやらライサの芋は別で使うらしい。
「ってライサさん大丈夫?」
蓋をしている間洗い物をしてるとそんなアイリスの声が聞こえてきた。その声に反応してやけに大人しかったライサの方を見ると、どうやら一人で黙々と芋の皮をむいているらしかった。
でも剥き終わった皮にかなり実がついてて、ライサが包丁を使い慣れて無いのが良く分かった。
「で、できるからっ!一人で!」
と、そんな事はあったがその後は殆どアイリスのお陰で、料理は淡々と進み僕らの夕飯が夜九時を回った辺りにやっと完成した。
「じゃあそこで食おうか」
調理場のすぐそばに席数は少ないけど、食事スペースがあったので満場一致でそこで食べることにした。もうみんなお腹が空いてさっさと食べたかったのだろう。かく言う僕もそうなのだが。
そして僕らは料理を取り分けてやっと落ち着いて席に着く事が出来た。
で座った所で僕は今回一番活躍してくれたアイリスにお願いをした。
「じゃあアイリスが音頭取って」
「え?私・・・・?」
嫌そうな顔をしていたけど、意外にノリ良くやってくれるらしく恥ずかしそうに水の入ったコップを突き上げた。
「じゃ、じゃあかんぱーい?」
「「「かんぱ~い!」」」
なんか飲み会っぽい雰囲気になったなと思いつつ、それはそれでまぁ楽しいから良いかと僕らは少し遅めの夕飯を始めていったのだった。
その頃やっと鳴り続けていた雨音が聞こえなくなっていた。
ーーーーーー
「とうとう動きましたか・・・・」
ゴロゴロと雷鳴の響く一室で私は伝令からの報告を聞いていた。
「数はおおよそ一万です。割合としてかなりの魔導士がいるとの報告です」
前々からその兆候があったが、やはりロタール卿の一件がきっかけになってしまったらしい。正直今のこのレーゲンス帝国の戦力では厳しいように思うが、それでも私の大義を果たすためには何とかせねば。
そう私は以前新しく賜った少将の階級章を撫でた。この国だと私の上には二人しかいないと示す勲章で、私の目標へと一歩近づいたことを意味する物だ。
「とりあえず各地の部隊は集結地点まで引かせろ。もちろん井戸に毒と食糧庫を焼くのを徹底させるように」
「了解しました!」
そう急ぎ足て去っていく伝令を見送りながら私は少しだけ自分の運の良さを実感していた。
「こんな時期に攻めてくるとはな」
余程うちの国を舐めているのか、これから本格的な冬を迎えると言うのに攻めてくるとはあまりに都合が良い。決戦を避けつつ補給部隊を攻撃し焦土作戦をすれば、一か月も経たずに息も上がるだろうからな。
「所詮魔導士も人間だからな」
だが油断は出来ないと気合を入れ直し私は、深く座った椅子から立ち上がった。そして外套に袖を通し指令所へ向かうため扉を開けさせた。
「さぁ戦争の始まりだ」




