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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第六章
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第百六話 自己満足

六月二十四日 誤字修正


 ザーザーとノイズの様に聞こえる雨音が建物を揺らすように響いていた。

 そしてその雨音すらをかき消してしまう程僕の脈拍は早くなり、呼吸も浅くなってきたその時。


「ま、とりあえず座ってくれる?」


 店の窓際で立ち竦んでいた僕を手招くように、銀色の髪を揺らしエルシアがテーブル傍の椅子を引いていた。

 そして雨雲のせいで暗い部屋の中エルシアがテーブルの上に、蝋燭の灯が付けられその端正で小さな顔が橙色に映し出されていた。


「あーあのクソジジイはいないから安心して。ほんとに話したいだけだから」


「・・・・・・あ、うん」


 僕は唇が渇く感覚を覚えながらも固まっていた足を動かした。

 目の前のエルシアは椅子に座り湯気の昇るティーカップを口に付けていた。でも僕からしたらそんなエルシアはお尋ね者のはずで、こんな帝都のど真ん中にいる訳が無く有り得ない存在だった。

 それに以前会った時もどこか異様な雰囲気を感じていたけど、今日は異様を超えて異質だった。まるで僕が今まで見てきたエルシアとはまるで別人のようにすら感じてしまっていた。


「・・・・・ど、どうしてここに?」


 恐る恐る引かれた椅子に腰を下ろして、向かいに座るエルシアの顔を見た。見た目は昔からは変わりが無いが天候のせいで暗いからか、どうも僕の中の違和感を拭えないでいた。

 でもそんな僕を置いてエルシアはティーカップを受け皿に戻すと、肩にかかった髪を後ろにやって僕をその薄く淀んだ瞳で見返して来た。


「ちょっと最期に話してみたくてね」

「・・・・話?」


 それでこの薬草屋で待っていたのかと納得できる訳がなかった。そもそも僕がいつ来るかなんて分からなかっただろうし、話すためにこんな見つかるリスクを負う理由が分からない。

 そう目の前の女の子の意図を探ろうと思考を巡らせていると、少し呆れたようにため息をつかれてしまった。


「やっぱお前は偽物だね」

「・・・・偽物って?」


 オウム返しの様に僕が聞き返すとエルシアは、右手で頬杖を突いて嫌に微笑んでいた。そしてその顔からあまりにも抽象的な台詞が飛び出してきた。


「お前は誰?」


 エルシアの表情からふざけているようには感じられなかった。ただただ異様としか表現できないと言うか、僕には目の前の人間が理解出来る気がしていなかった。


「どこから来たの?」


 でもそんな僕とは対照的にエルシアは、淡々と僕へ質問を投げかけ続けてきていた。


「どうしてそこにいるの?」


 ただただ機械的だと言えば良いのかその表情は一切動かず、口以外は全て空間に固定されているようだった。

 そして僕が何も答えれないでいると蝋燭の光が揺れた。


「ちょっと答えてくれないと。会話って知ってる?」

「え、あ、え・・・・・・ごめん」


 でも答えろと言われた所でそもそもその質問への答えを僕は用意できないでいた。自分が誰なんて自分としか答えられないし、どこから来たかもどうしてここにいるかも、成り行きでしか言えないし、、、。


 でも例えばだけど僕の場合はそうなのだろうか。

 僕はそもそも転生してきた人間で、僕の心にはフェリクスとは別にもう一つの紡という名前がある。

 もしだ。もし仮に今目の前のエルシアがフェリクスでは無く、紡に話しかけているのではないか。そうならばわざわざ僕の正体を探る理由も分かる。


 ・・・・・いやでもそんな事分かるわけないか。それこそ僕の心の中を覗くか、僕がこの体に入らなかったフェリクスという存在を知っていないと、本来のフェリクスとの違いすら分からないはずだ。


 でもそうやって様々な可能性から嫌に冷や汗をかく僕を、面白がるようにエルシアが笑っていた。


「私はお前がフェリクスじゃないって知ってるよ」


 呼吸が一瞬詰まった。

 なにせ今の僕の思考と同調するような事を言ってくるから、余計に早かった脈拍が大きく跳ねていた。


「ここまで言っても分からないかな?」


 そうエルシアが服の裏を漁るとナイフを取り出し、立ち上がると僕の眼前にその切先を突きつけてきた。


「お前はフェリクスを乗っ取った偽物だって言ってるの」 

 何故かは分からないけど確実に僕の正体を知っているのは、今のエルシアの言葉と態度で流石に察しがついた。

 何が何だか分からなくてうるさい心拍音の中僕は、目の前のエルシアに飲み込まれるようにゆっくりと口を開けた。


「な、なんで知ってるの?」


 僕がそう言うとエルシアはナイフを下ろして、音を立てて椅子に座り直した。


「まぁ私から名乗った方が良いか」


 何かエルシアが呟いた後そのナイフを仕舞い、一度ティーカップに口を付けていた。そしてそのティーカップをカタンと音を立てて戻すと、エルシアはその少し湿った唇を動かした。


「私って何回も人生やり直してるんだよね。それでお前がフェリクスじゃないって分かったの」


 これで理解できただろと言わんばかりに、エルシアはそう言うだけでそれ以上の説明をしてくれなかった。そんなにあっさり言われても理解が追い付かないのだが、明らかにエルシアは自分が話したから僕の素性も話せと言わんばかりにジッと見てきていた。


「・・・・まずやり直してるってどれぐらい?」

「ん?覚えてない。多分百は行ってるんじゃないかな。大体十代の内に死んでるけど」


 そのあっさりとした口ぶりとは裏腹にかなり重い内容だった。百回分の人生って単純計算十歳でやり直しても千年ってことになるって事だ。そんなの想像もできないし常人なら頭がおかしくなるのではないか。


「で、お前は何?いい加減答えてくれない?」


 もうこれ以上回答を待つ気が無いのか再びナイフを取り出そうとしていた。だから僕は観念しつつ言葉を選び始めた。


「え、えーっと。その、多分意味わかんないと思うんだけどさ・・・・」

「そう言うの良いから。簡潔に言って」


 少しだけイライラしているのかエルシアの貧乏ゆすりの音が、雨音に混じって聞こえてきていた。

 そして僕は肺に沢山の空気を送り込むと、それを吐き出すようにして。


「前世があるっていうのかな。僕は一回死んでこの体になっていたみたいな感じだと・・・思う」

「・・・・・・ふぅん」


 僕の言葉を聞いてかエルシアは顎に手やって考え込んでしまった。やっぱり突飛な話で信じられないかもしれないけど、エルシア自身の経験もあるから簡単に無視できない話なのだろう。


 そして僕はどこかこの場に居づらい感覚を覚えながら、未だやまない雨音とこの店特有のハーブの匂いを感じていた。

 すると数十秒だろうか数分だろうか。エルシアが顔を上げて未だ濁ったその瞳で再び僕をジッと見てきた。


「じゃあ死んで目が覚めたらフェリクスだったって事?自分の意志じゃなく」

「ま、まぁそうだね。気付いたら赤ん坊だったみたいな」


 今の話でちゃんとその辺が理解出来ているらしかった。そして更に僕を深堀するように質問が飛んできていた。


「この人生が二回目って事?私みたいにやり直してないって事?」

「そ、そう。フェリクスとしては一回目になる」


 僕が質問に答える度にエルシアの表情は困惑の色を浮かべて行っていた。理解できるのと納得できるのは別物って事なのだろうか。でもこの流れのお陰で僕もある程度状況を呑み込んで、冷静を保てるようになってきた。


「・・・・・・・乗っ取った訳じゃない?」

「信じて貰えないかもしれないけどそうだね」


 そう答えるとエルシアはそれ以降ティーカップの持ち手を握ったまま黙ってしまった。ナイフを持ち出していたけど、本当に僕を詮索したくて話しかけただけなのだろうか。少し僕が警戒しすぎていたのか、そう目の前のエルシアを見ると思う。


「じゃ、じゃあさ。僕じゃないフェリクスってどうだったの?」

「・・・・・なんでそんな事聞くの?」

「い、いや昔に僕も同じようにフェリクスを奪ってしまったのではと思った事があって」


 これは事実だ。ブレンダさんや父さん母さんに僕が転生者だと話すまでは、人の体を間借りしている感覚が強くて自分の存在が希薄だった。

 でも今となってはその感覚が事実だったって事になるのだが・・・・・。

 

 するとエルシアは思い出すように天井を仰いでいた。


「・・・・・フェリクスは優しい奴で明るい奴で、でも偶に後先考えないけどそれも人の為に動く奴で、、、」


 エルシアから滝のようにフェリクスの良い所が流れ出していた。聞いた感じはまったく僕とは違う性格で、そりゃ中身が違うって気づくわけだと思う。

 思い出すように楽しそうにフェリクスの話をしていたエルシアは、ある話を始めた時暗く冷たい眼で僕に視線を戻した。


「それにお前みたいにエマちゃんを殺す事なんてしなかった」


 落ち着き出していた心拍が再び跳ねた。でもその言葉の意味を理解したくない僕は、薄々察しつつも記憶を掘り出すのを拒否して知らないふりをした。


「え、エマちゃんって?」

「お前があの街で殺した女の子だよ。あと父親も殺してたね」


 でもエルシアの言葉が無理やり僕の記憶からそれを引っ張り出して来た。だけどそれだって僕にも言い分があるのを理解してくれないのか、そう少しだけ悲しくもなった。


「で、でもあの時はあぁするしか僕ら生き残れなかったでしょ」


 そこで失敗してるからエルシアは百回もやり直しているのでは無いか。そう思って自分への言い訳を補強するように、都合の悪い事実なんて無いと思わないように言葉を発した。

 だがエルシアはその僕にとって一番都合の悪い事実を口にした。


「フェリクスはお前と違ってあそこを誰も殺さず切り抜けたよ」

「え、いやいやいやいや無理でしょ。あの状況だよ?」


 もしそうならあの時の僕の選択は間違っていて、ただ楽な方へと逃げたばっかりに関係ない二人の人間を殺した事になってしまう。それを認めれるほど今の僕の心は強く無かったのだ。


「赤い髪の盗賊いるでしょ。あいつと決闘して勝ったの」

「勝ったって・・・・」


 勝った所で他に盗賊がうじゃうじゃ居たのにどうしたって言うんだよ。それにルーカスを人質に取られた状況だったじゃないか。

 そんな言い訳を僕が吐き出す前に、それを抑え込むようにエルシアが言葉を続けた。


「で、あの場にクソジジイいたんだよ。それが面白がって皆助かった」


「んな滅茶苦茶な・・・・」


 そんな他人の気まぐれを想定して動けるわけがない。後先考えるなら僕の行動が正しかったはずなのに、そんなあまりに低すぎる可能性に掛けれるわけない。それをなんで責められないといけないんだよ。


「でもフェリクスはやり切ったよ。結果を見ればお前が間違ってるの」

「そ、それこそ結果論でしょ!てかそんな選択肢があるなら言ってくれても良かったじゃん!」


 僕はテーブルにを叩くように手を突き椅子から腰を浮かした。殺した恨み言を言われるのはまだ我慢できるが、あの時何も伝えなかった癖に後孔明で色々言われるのは納得できない。

 

 でもそんな感情を昂らせた僕を受け流すように、エルシアは呆れたように見上げてきた。


「なんで私がお前を手伝わないといけないの?そもそも私としてはお前に早く死んでほしかったんだけど」


「死んでほしいって・・・・」


 罪悪感すら顔から覗かせずただ事実をありのまま言っているように、エルシアは僕を見上げていた。その真っすぐな殺意すら感じれない殺意に困惑していると、エルシアはそのまま思い出すように指を折って僕を殺そうとした時の事を語り出した。


「例えばあの森の時に街の時でしょ。それに盗賊の遠征は全部私が介入しないと死ぬから放置したし、助けたのって子供の頃にお前の怪我を治癒魔法かけた時ぐらいかな?」


 そう言えばエルム村で森に入った時、盗賊に遭遇したのってエルシアの誘導があったけどそれも殺そうとしていたのか・・・。

 でもそれよりもその殺害計画を本人を前にして、なんの感情も見せず淡々と語るエルシアが僕には怖かった。

 でもまだエルシアの話は終わらないのか良い事思い出したと言わんばかりに。


「あ、そういえばね。ブレンダさんとかクラウスさんとかいたじゃん?」


 何故か楽し気にエルシアが話を切り替えるように声色を変えていた。 

 そんな言葉に僕が戸惑いながらも頷くと、エルシアは嫌に笑うと。


「あれお前が逃げなければ死ななかったよ?あの村の広場で止まってればいいのに逃げたから、皆死んじゃったの。だからお前が殺したも同然なんだよね」


 何がおかしいのか。なんでそんな事を楽しそうに語るのか。というかそれを知っていながら止めなかった、お前も僕と同罪だろ。なんでさっきから結果論だけで僕を否定するんだ。


 そう段々と自分の感情に抑えをかけれなくなってきた僕は、テーブルの上に置いた手を振り上げそれをそのままエルシアの頬へと向けた。

 そしてその掌は止まる事無くエルシアの白い頬に当たりパチンと高い音が、雨音よりも大きく部屋の中に響いた。


「痛った・・・なにすんの、、、」

「今更言われても知らねぇよ!!!お前と違って僕は未来を知らない中最善だと思ってやってきたんだよ!!!!それを後からべちゃくちゃとッ!!!」


 僕はそのままテーブルに乗り出してエルシアの胸倉をつかんだ。

 でもそんな僕の怒りすらどうでもいいのか、エルシアは胸倉をつかまれたまま薄気味悪く笑うと。


「だから教えてあげたんじゃん。何自分のせいなのにキレてんの」


 僕はもう一発行ってやろうと右手の拳を握りしめ振り上げたが、それを見てエルシアは胸倉をつかむ僕の左手を握った。


「殴るの?事実突きつけられて私に当たるの?本当にお前ってフェリクスとは違うね」

 

 その言葉で僕の右手は振り上げられたまま固まってしまった。クソ程イラついてこの顔を殴り飛ばしたいが、エルシアの言っている事を理解してしまったばかりに勢いそのまま振り下ろせなかった。


「あといい加減離して。キモいんだけど」


 そう女の子の小さな手とは思えない程強い力で、僕の左手を自分の胸倉から無理やり引き離されてしまった。いや僕が動揺して左手に力が入ってなかったせいかもしれなかった。


「・・・はぁ服に皺出来ちゃうじゃん」


 僕はそのまま力が抜けるように椅子に座り込んでしまった。一度怒りが抜けてしまったのか、今度は後悔が押し寄せてくる感覚があった。

 僕がどう言い訳しようが結局自分の選択が間違っていたって事、それどころか大事な人を殺してしまっていた事。振り上げた拳と一緒にエルシアに向いていた怒りが、そのまま自分へと帰ってきてしまっていた。

 

 そう力が抜けたように手をぶらん下げて、椅子の背もたれに体重をかけ天を仰いだ。


「じゃあエルシアは僕をどうしたいの?」

「ん?私?」


 わざわざこんな話をするために僕をこの店で待っていたのだろうか。それともただ単に僕がフェリクスでないと言う確証が得たかったのだろうか。いや僕にこうやって罪の意識を植え付ける為か。

 

 するとエルシアは服の皺を整えながらも、さも当然のように。


「やり直す条件にフェリクスと私が死ぬことがあるんだよね。だから待ってたの」


 そうエルシアが再びナイフを取り出して机の上にコトンと置いた。このナイフで僕を殺すって事なのだろうと、僕は天井へと向いていた視線をエルシアへと戻した。僕の事情なんてのは二の次って事だったのか。


「じゃあ僕は今からエルシアに殺されるの?」

「まぁそう言う事になるかな?あのクソジジイが見て無ければだけど」


 死にたくないけど色々知ってしまうと、迷ってしまう事もある。


「エルシアは僕が死なないとこの世界に囚われたままなんだよね」

「うん?まぁそうだけど。急に何?」


 エルシアの事情なんて知った事じゃないと言いたいけど、僕の存在がエルシアにとってのフェリクスを奪っているのは事実だ。そう考えると僕の怒りと後悔だけ優先しても良い物なのかと思ってしまう。


「エルシアは何のためにやり直しているの?」

「別に私もやり直したくてやり直してるわけじゃないけどね。あえて言えばフェリクスとエマちゃんが死なないためだけども」


 つまり僕はエルシアにとってのある意味での生きる意味二つを奪ったって事なのか。どこまでも僕の存在がエルシアや周りにとって迷惑な存在だったらしい。


「色々大変だったんだ。そんな長い間一人で今まで頑張ってきたんだ」

「・・・・・・」


 僕がそんな事言えた義理じゃないのは分かってるけど、人の人生を奪ったとは言え、僕もこの世界に来た時は孤独だったし、一から人生をやり直す苦労だって分かるつもりだ。しかもそれが数百数千年だとなるとその苦労は計り知れない。


「こんな事言ったら怒るかもだけどさ。ここまで生き残ったんだから一度自分の人生を送ってみたら?」

「・・・自分の人生?」


 聞いた感じだと毎回盗賊の所で死んでいるっぽいし、ここまでエルシアが生き残ったのは珍しいんじゃないかと思う。なんで僕が悪いのにエルシアに感情移入してるんだって話だけど、一度ぐらいこの子に別の生き方を知って欲しいと思ってしまう。

 これもただの僕の自己満足的な罪滅ぼしなのかもしれないが。


「今までずっと頑張ってきたんでしょ?その結果皆助かった時にその後何するか決めてないでしょ?」

「え、いや、まぁそうだけどなんでお前がそんな事言ってんの?」

「・・・・・なんでだろうね」


 ブレンダさんと話す前の僕とどこか似ている気がするからかもしれない。ただ単に可哀想だという上からの同情なのかもしれない。はたまた自分がエルシアに殺されたくないからなのかもしれない。

 

 いや違うな。僕のせいで奪ってしまったものを僕が手伝ってこの子に取り戻してもらいたいんだ。それをすれば僕の存在も必要だったと思えるかもしれないから。この子にはそれを成すだけの能力があるのだから。


「でもエルシアは将来笑っていられると思う?」

「・・・・・・」


 僕にはエルシアから人間らしい感情を負の物以外で感じなかった。百回も死ねばそうなるのかもしれないけど、その先に幸せな未来があるとは思えない。


「どうせエルシアにとって僕は次の人生では居ないんでしょ?なら僕の人生に付き合ってくれても良くない?」

「・・・・何それ告白?」

「いや、そうじゃなくてさ。別の生き方も模索しても良いんじゃない?いつかフェリクスとここ行きたいなとか、そのエマさんって人とこのご飯食べたいなとかさ。やり切った後の生き方があった方が頑張れると思わない?」


 自分でも何を言っているか分からなくなってきていた。でもただの自己満足だったとしても、僕が僕であって良かったと思って死にたい。だからエルシア含め皆には幸せな最期が待ってて欲しいと思ってしまう。


「僕はいつでも殺されても構わないからさ。何とか探してみる気にはならない?」

「・・・・でも今の私の状況分かってるの?」


 エルシアが反乱勢力に担ぎ上げられているって事か。


「でもあのクソジジイは僕が目的なんでしょ?僕が倒せば良い話でしょ?」

「・・・・お前ってやっぱバカだね」

「でしょ?」


 普通にやってたらあのクソジジイに勝てる未来は見えない。でも所詮は一個人だから、組織に入ればいくらでもやり方はあるはずだ。

 でも分かってくれたのかエルシアは机の上に置いたナイフを仕舞ってくれた。


「ま、じゃあ少しだけ待ってあげるよ。あのクソジジイ殺せるならやり方真似させてもらいたいしね」

「参考にしてもらえるよう頑張らないとだね」


 そんな一時は殺し合いになりそうだった僕らの会話は、雨音の中に響いた入店ベルの音で終わりを告げた。


「カールく~ん?前注文した奴だけど~」


「じゃあ私は店の中に戻るから。せいぜい頑張ってね」


 そうエルシアは小さな手を振ると、長い銀色の髪を揺らして戻って行ってしまった。そしてそれと入れ替わる様にカールが代わりに出てきていた。


「話は聞いて無いから安心して」


 そんな気遣いに感謝しつつ僕も入店したお客さんとすれ違い、傘を差して雨のやまない街へと帰って行ったのだった。



 






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