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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第六章
105/149

第百四話 昔からある場所

更新遅れました!すみません!


 私は何度も人生をやり直している。

 

 最初の頃は自分の人生が何回かも数えていたけれど、今になってはそれすらしなくなっていた。

 

 ただただ私の大事な人が死なずその傍に私がいれる幸せな世界を求めて、何度苦しんで何度死んだとしてもここまで頑張ってきた。


 そんな私の最初の人生は七歳で終わりを告げた。

 この時は自分のこれからなんて知らずに私は、ただ父さんと母さんそれに兄のラースの四人家族の末の娘として普通に育った。

 そしてそんな私が最初に仲良くなったのがフェリクスだった。


 と言ってもフェリクスは中々家から出してもらえなかったから、私達が初めて会ったのは互いに七歳の時だった。元の私は内気であんまり話す事が得意じゃなくて嫌々ラースに外に連れ出される日々だった。

 でもそんな生活の中ある昼下がりに彼と出会ったのだ。


「君がラースの妹?」

「おうそうだ!俺の妹のエルシアだ!!」


 私は見慣れない顔に怯えて代わりに答えるラースの背中に隠れていた。どうやらラースは以前から知り合いだったみたいだけど、村では見慣れない黒髪に村の偉い人の子供っていう情報だけで当時の私には恐怖しか無かった。


「よろしくね!」


 でもフェリクスは返事もせず態度悪く隠れてた私に、嫌な顔一つせず優しく接してくれた。この時私は目の前の男の子の笑顔に顔を逸らしながら、ゆっくりとその差し出された手を握り返した。


「今日釣り行くんだがお前も行くか?」

「お!良いね!いこー!」


 でもラースとフェリクスが馬が合うのか、いつも私は二人が遊びに行くのについて行くだけだった。その内同い年のルーカスとかも一緒に遊ぶようになったけど。基本ラースフェリクスが中心に盛り上がって、それを私とルーカスが止めて結局大人に怒られるってのがいつもの日常だった。

 

 でも私にとってはそれが楽しかった。内気であまり輪に入れない私を気遣ってフェリクスが話しかけてくれたお陰かもしれない。

 そのお陰か当時の私はフェリクスに懐くようになって、そして私の初恋もこの時だった。


 黄金色の麦畑の中。座り込む私に手を差し出すフェリクスの姿があった。


「大丈夫?立てる?」


 これはある時四人でかくれんぼをした時の事だった。私は加減が分からず村の外へ出てしまい畑の方へ隠れ場を探しに行ってしまっていた。するとやはりと言うべきか、足元の石に気付かず転んでしまっていた。

 今思えば大した怪我じゃなかったかもしれないけど、ケガをしたと同時に小さな私には村が遠く見えた事も相まって一気に私に恐怖が押し寄せた。このまま誰にも見つからず死んじゃったらどうしよう。この怪我で足が動かなくなったらどうしよう。そんな事で私は簡単に泣いてしまっていた。


 そんな中。泥だらけになったフェリクスが麦畑を掻き分けて助けに来てくれたのだ。


「あちゃー血が出てるじゃん。歩けそう?」


 私はそんなフェリクスに精一杯首を横に振った。腰が抜けたとでも言えば良いのか足が小鹿の様に震えて立つ事が出来なかった。でもフェリクスは突然屈んだと思うと、私に背を向けてきた。


「じゃあ乗って!村まで連れってって上げる!」


 その時振り返ったフェリクスの掛け値なしの笑顔に私は惹かれた。ただの子供のおままごとみたいな恋心だったかもしれないけど、その時の私にとってはそれが全てだった。それにこの幼い恋心が最初で最後の人への好意だったから、未だに引きずってしまっているのかもしれない。


「な、なんで私の居場所が分かったの?」


 フェリクスの小さな背中に背負われながら、言葉を詰まらせながらその男の子に聞いた。するとその子は大きく笑って答えてくれた。


「もうあちこち走り回ったよ!ほら見てこれさっき用水路に落ちちゃってさ!」


 そうフェリクスが右足を見せるよう少し上げるとズボンの裾がびしゃびしゃに濡れてしまっていた。それを見て私はひどく罪悪感を覚えたのだけど。


「でも無事でよかった!また明日もエルシアと遊びたいしね!」


 私はこの時からずっとフェリクスの事が好きだった。それは記憶が薄れてきた今でもそうだと思っている。

 

 そしてそれからの私は何とかフェリクスと会話を内気の性格を直そうと、私なりに話す練習を一人水面に映る自分に向かったりと色々頑張った。

 するとその努力を示すいい機会として、私達は魔力測定の為エースイの街へと行く時期が訪れた。私はこの話を聞いた時、一緒にフェリクスに初めて行く街で買い物に誘おうそう決意していた。だからなけなしのお小遣いも全て持ってきて準備万端にしてその日を待ちわびた。


 そして私達が予定通りエースイの街宿に泊まった時。ラースもルーカスもいない時を見計らって私は、部屋に一人だったフェリクスに声が上ずりながら話しかけた。


「ちっ!ちょ、っちょっと!いい!?」


 すぐにでも回れ右をして部屋から出たくなる程盛大にやらかしてしまった。練習では上手く行ったはずだったのにと顔が冬なのに一気に熱くなる感覚を今でも覚えている。

 でもそんな私を見てフェリクスは、腰を下ろしていたベットから立ち上がると優しく私を見た。


「どうしたの?」


 私はそんなフェリクスに破裂しそうな心臓の音を聞きながら、何度も何度も深呼吸をして自分を落ち着かせた。そして胃が締めあがるような感覚の中私は乾いた口を開いた。


「ひ、広場に行かない!?二人で!!」


 この時の私はフェリクスの顔を緊張からか直視できず下を向いてしまって見えていなかった。でもそのフェリクスは元気な足音を立てると私の肩を叩いた。


「良いね!!いこっか!!」


 そう言ってフェリクスが縮こまった私の手を引いて外へと連れ出して行ってくれた。子供二人で知らない街を探検する。最初は不安もあったけどフェリクスと目新しい物や建物を眺める内に、それもどこかへと行っていた。

 

 そして夕暮れ時まで二人で街を遊び歩いた時。私は当初の目的であった何か買い物をすると言う事を思い出して、一緒に広場の市へと向かっていた。


「エルシアはなに買いたいの?」

「え?う、うーん。私は・・・」


 ただ単にフェリクスを誘う理由として言っただけで、特に私が買いたい物の目星をつけていたわけではなかった。あわよくばフェリクスに何か選んでもらいたいとは思っていたぐらいだったし。


「あ、あの店よさそーじゃない?」


 そうフェリクスが指を差したのは少し暗い路地裏に構える露天商らしかった。少しだけその雰囲気に怖く感じたけど、明るい笑顔で私の手を引くフェリクスに安心してそのまま私達は路地裏へと入っていった。


 でもこれが私の最初の死因だった。

 正直恐怖のせいかあまり鮮明には覚えていないけど、商品を露天商に値段を吹っかけられてフェリクスが店主と言い合いしていた時に大人三人がどこからか出てきた所までは覚えている。


「このガキ服装的に良さそうじゃないっすか?」

「身代金で一攫千金じゃねえかこれ」

「俺ちょっと縄持ってきますわ」


 そんな明らか良からぬことを言う大人達を前にしてフェリクスは私を背中で隠すと。


「にげて父さん達呼んできて」


 でもそんな勇気のあるフェリクスと違って、私の足は全くと言っていいほど動かなかった。このぐらいから記憶が曖昧で、多分フェリクスが死んでから私もついでに殺されたんだと思う。

 だって私を庇うように覆いかぶさるフェリクスだった物と、べっとりついた血の生臭さと気持ち悪さは今でも鮮明に思い出せるから。多分その後私も証拠隠滅の為に一緒に殺されたんだとは思うけど、真相は今でも分からない。


 そして普通ならここで私の人生は終わるはずだった。

 だけど次の瞬間私の瞼が開かれるとそこは家の天井だった。それに自分の姿も三歳ごろの姿になっていて、少しだけ若く見える父さんと母さん。それに暴れん坊な兄貴のいる家に私はいた。


 でもそれも一年経てば自分に何が起きたかぐらいは当時の私でも理解出来た。だけどそれを受け入れられる訳も無く悪い夢だったと思い込むようにしていた。だが説明できないあの血の生々しさと、自分が誘ったせいでフェリクスを殺してしまったという罪悪感は夢だとしてもどうしても拭い切れなかった。

 

 そして二回目の人生では私は早くに自分から外に出るようになった。すると七歳の初めごろにはラースと一緒に父さんの畑仕事を手伝うようになっていた。そしてその畑仕事の帰りの時に私はフェリクスと再会を果たした。


「俺フェリクスって言います!よろしく!!」


 私の記憶通り相変わらず元気な子だった。私の知っている黒髪に笑顔に声。どれも記憶のままでこの時私は泣いてしまって、皆に困惑されて迷惑をかけたのを覚えている。でもそんな私をフェリクスはいつものように優しく笑って慰めていてくれた。


「え?え?俺なんかした!?え?大丈夫!?ねぇ!?」


 そんな焦るフェリクスの声を聞きながら私は一つこの時決めた事がある。


 それは私はこの時あれが悪い夢だったとしても同じ轍は踏まずに、フェリクスには笑って生きても輪う事だ。

 

 でも現実はそう上手く行かなかった。

 何故か私達は死ぬ運命ばかりなのか、前と同じ行動をしたはずなのにフェリクスが頻繁に不慮の事故で死ぬし病死をするしで、どうしても八歳の誕生日を事が出来なかった。そのやり直しの中、私も溺死病死落下死出血死と実にバラエティの富んだ死に方を経験した。


 そうして十回ほどは人生をやり直しただろうか。分かった事としてどうやらタイミングも確率もバラバラだけど、フェリクスが怪我をするとそのまま病気になって死んでしまう事が三回あった。

 だからそれを防ぐために簡易的な治癒魔法を覚えたり、徹底的に危ない所を避けエースイの街でも余分な事をしない様ラースとフェリクスを宥める言葉を用意した。


 そしてやっと私は試行錯誤の末フェリクスが八歳の誕生日を迎えれると思ったのだが、皆で集まっていたある日ラースがこんな事を言っていた。


「森行ってみないか!?」


 それに対してフェリクスも目を輝かせて賛同してしまっていた。


「お!良いね!俺も行きたい!!!」


 こうなった二人を抑えるのは骨が折れる。それにもう何か死ぬような事も無いだろうと慢心していたせいか、私はそれをまともに止めずにいてしまった。


 そして結果を端的に言えばあの森の中で全員盗賊の連中に殺される結末だった。この時もフェリクスが最後まで私を守ろうとしてくれていたけど、この時の私は既に壊れていたのかもしれない。


「エルシア!!父さん呼んできて!!!」

「・・・・・・・・はぁ」

「エルシアって!!!」


 私の目の前で新品の剣を構えるフェリクスの背後で、私はただ何もせずそれを眺めていた。だってもう私にはこの先が分かってしまっていたから。


「次はここ回避しないとか」


 そうして私はあっさりと十一回目の死を体験したのだった。


 でもこ時点で、私の未来に平凡にエルム村で生活するって言う選択肢が無くなっていたらしかった。それから四回程の失敗を挟みつつ、結論あの森に行くのを取りやめた。だけどそうしてもフェリクスの誕生日を迎える前に、今度はあの盗賊が襲撃してきて私達が攫われるのだ。私が何をしても変えれるのは、どの村の人を生かすのかぐらいで、結局いくらやっても私達は攫われる運命にあるようだった。


 これは後から気づいてやった事だが、魔力測定の結果が良かったから私達が狙われたのではと考えた事もある。だから皆の魔力を空っぽにすれば良いのではとやったがそれでもあの盗賊は私達を攫ってきた。

 まぁそれも今では私が王族だからっていうどうしようもない理由だったのだが。そのせいで私が何十年分無駄にした事になってしまったのは残念だけど。


 そして次は盗賊での生活が始まった。毎回ここに来るまで八年間気を張ってフェリクスが死なないようにするのはメンタル的にきつかったけど、それでも頑張った。でも私に平穏なんて訪れるはずも無く、そこにまた新しい面倒くさい女が現れた。


「エルシアちゃんって何なの?」


 それはライサだ。私の心を読めるって言っていて最初は嘘だと思っていたけど、二人になった時私のこれまでに言及してきたのだ。


「へぇ!じゃあ未来の事も分かったりするの!?」


 私はこのライサ相手にどうすれば良いか分からず、この時うまく誤魔化す事が出来なかった。でもその会話をライサがイリーナに伝えてしまったのか私の事がバレてしまった。

 

 だから私はイリーナにやり直している事を尋ねられた瞬間、とっさの判断でひどい事をされる前に訓練室から飛び降りて自殺をした。

 この時には死ぬことへの恐怖と抵抗は無くなっていたと思う。むしろちゃんと高い所から落ちれば痛みも無く死ねる落下死を多用していたと思う。


 そしてライサ相手にどう対策を立てればいいか。それを考えていた時に、最初に思いついたのは初対面の時に心の声を聞かせて説得する事だった。だけどこれも何度もライサを納得させるのに失敗して、その度に死んでいたからここでも数十年分の私の人生が費やされたと思う。

 その結果私が得た答えはというと。


(私何度も人生やり直してるの。でもそれをライサちゃんにバラされるとイリーナさんが死んじゃうから大人しくしてて?)


 嘘では無かった。実際イリーナが死ぬ世界もあったし別にそれで心の声を読まれた所でバレる訳ない。

 それにライサは異様にイリーナに懐いているから、それで私の事を黙ってくれるようになって一つの関門をクリアした。

 だけど一つ不快な点があるとすれば。


「ねぇ!フェリクス!!私の魔法どう!?」

「おぉ~。流石ライサだね」

「でしょ!褒めて!」


 どの世界でもいつの間にかライサがフェリクスと仲が良くなっている事だ。というか明らかにライサが色目使ってるのが丸わかりで、見てて本当に不愉快だった。それにフェリクス側も頭撫でたりしてて満更でも無さそうだったのも、余計に私をイライラさせた。その心の声もライサに聞こえてるもんだから、何度ライサと喧嘩した事か・・・・。

 

 そしてそんな事もありつつその盗賊に命令され私達の戦闘が始まった。でもラースもフェリクスも皆人殺しに反対して、結局使い物にならないと処理される事が殆どだった。だから私は暫く十二歳までしか進めず袋小路に陥ってしまっていた、私としてお人殺しをするフェリクスなんて見たくないし、どうにか回避したかったけど解決の糸口すら見えなかった。

 

 でもそれが奇跡的にそして偶発的に起きた時があった。

 

「絶対に殺さない!殺すって言うなら俺はお前とここで戦う!!!」


 そう威勢よく叫ぶのはフェリクスだった。ある血と火の海になった街中で、エマちゃんとカーラそしてそのお父さんを背中にして立っていた。正直これを見ながら私はまた失敗したなと思いつつ、何か楽な死に方が無いか辺りを見渡していた。


「どうせいつもみたいに十秒後に女の子の叫び後が・・・・・・」


 いつもはそうだった。何ども見て聞いて来たから間違えるはずも無い。だけどこの時はその叫び声は聞こえず、気になってふりかえると何故かフェリクスは血を流しながらも赤髪の盗賊に勝っていたのだ。


「・・・・・え。まじか」


 なぜこのタイミングでフェリクスが勝ったのか暫く分からなかった。でも少しづつ変化を作って何度かやり直すと、どうやら私達がフェリクスと遊ぶ時間を減らすと勝率が上がっているのに気づいた。どうやらブレンダさんに訓練を付けて貰えればそれだけフェリクスの実力が上がると言う、案外単純な事だったらしい。


 でもこの辺りで私の生活にも変化が訪れた。それはフェリクスが赤髪の盗賊に勝つ事で十二歳より先に進めるようになり、その際助けることになるエマちゃんの存在だ。


「よろしくねエルシア」


 その人は私の体の年齢よりもいくつか上の人だった。だからと言っても十幾つかの年齢で、私にとっては殆ど子供と変わりは無いのだが、エマちゃんは他とは違った。


「じゃあここで訓練すれば良いんだね」


 エマちゃんは異様に状況の呑み込みが早くて、家族と離れ離れになって不安なはずなのに、いつも前向きで良く笑っている子だった。それがずっと終わりの見えない暗い人生を繰り返している私にとって、どこか眩しくも羨ましくも見えた。

 そしてそのエマちゃんは不愛想で感情も作り物になっていた私に対しても、優しくまるでお姉ちゃんの様に接してくれた。


「エルシアの髪綺麗だねぇ」

「・・・そう?」

「月明りに反射すると本当に綺麗で良い髪だよ。大事にしないとね」


 だからかもしれない。私は人生をやり直してからフェリクス以来打算無しに人と関われた気がした。エマちゃん相手だと本音で話せるし、エマちゃんもそれを真面目に聞いてくれる。私が抱いたのは好意とは違う信頼に近い感情だった。だから私は一度だけこの境遇の事を誰かに話すことが出来た。


「ちょっと良い?」


 私は人気も無くなって静かになった広場でエマちゃんに話しかけた。この日は満月で天井からよく青白い光が差し込んでいて、とても幻想的で落ち着く空間だったのを覚えている。


「ん?どうしたの?」


 そう首を傾げてブロンド髪を揺らすエマちゃんは、隣に座ってと自分の傍をポンポンと手で叩いていた。私はそれに甘えてその隣に座ると、早速切り出そうとしたのだけど中々言葉が喉を通り過ぎなかった。


「ゆっくりで良いからね。いつまでも待ってるから」


 そう私の頭を優しく撫でて待っていてくれた。これまで色々やってきたけど、こうやって人に頭を撫でられるなんて久々でどう反応すれば良いか分からなかった。


「じ、実はね・・・・・」


 そして私は喉がつっかえながらもこれまでの私の人生をありのまま吐き出した。思い出しながら話していたから支離滅裂だっただろうし、何度も人生をやり直しているなんて普通なら頭はおかしくなったと思われる話だ。

 

 でもこの時の私はそんな事にも気付かずに、これまでの苦しみも悩みも何もかもと一緒に吐き出してしまっていた。そうして話していく内に私の視界は歪んでいって、話す声も震えていくのが自分でも分かった。

 

 そして私が話終わって静かになった広場の中、エマちゃんの手が私の背中を触れた。

 

「話してくれてありがとうね」


 そんなエマちゃんに我慢していた涙が溢れ私が戸惑いを隠せないでいると、そんな私を抱き寄せるように包み込んでくれた。


「色々大変だったんだね。一人で今まで頑張ってきたんだね」


 そう私の頭を撫でて慰めるようあやすようにしてくれていた。今でもなんでエマちゃんが私を受け入れてくれたのか分かってないけど、この時の事があったから未だに頑張れていると言っても過言じゃない。

 それにこの時のエマちゃんは私にこう言ってくれたのだ。


「私がいつか逃がしてあげるから。それで新しい人生を皆で歩もう」

 

 でもそんな事を言ってくれたエマちゃんに私はこれ以降のやり直した人生で、私が同じように事を打ち明ける事をしなくなった。

 

 それもそうでライサの心を読める能力が厄介過ぎた。基本ライサはイリーナ側だからエマちゃん経由でそれがバレてしまう。だからその世界だと事前に逃亡計画がバレて私とエマちゃんは別部屋に移されてしまい、この世界では私が死ぬまでその顔を見ることが出来なかった。

 

 そしてまた私一人の戦いが始まっていったのだ。

 だけど何回やっても何回やってもあの盗賊から逃げ出す事が出来なかった。だから切り口を変えようと、攫われる前に私達四人で他の街に逃げた事もあった。でもそれも別の人攫いに捕まるか、その辺で野垂死にするかで私にはどうしようも出来なかった。


 それでも私は何度も何度も死んでやり直してまた死んでを繰り返し続けた。最早死ぬ瞬間これで私の人生が終わってくれないかと願った事も数えきれないほどあった。でもそんな事を神は許してくれないのか次に瞼を開けるといつもの天井が私を迎えてしまう。

 そんな人生を送って何度発狂しそうになったか分からない。でもそれでも記憶の中にかすかに残ったフェリクスへの恋心と、エマちゃんへの感謝の気持ちだけで何とか私はやってきた。


 でもそれすらも私はあいつに奪われてしまった。

 既に百回目は越えたのではと思えるほどの同じ朝を迎えたある日。私はいつものようにフェリクスとの初対面を果たす為、手伝いの後畑道を父さん達と歩いていた。


「お、ディルク、調子どーだー?」


 そしていつもと一言一句変わらず手を振ってくるフェリクスのお父さんの姿。今回は前回ライサを上手く取り込めそうだったから、説得の仕方を変えてもう一度脱出を試みてみるつもりだ。

 私がそうあまりに聞き慣れ過ぎた会話を流して思考を始めていると、突然私の耳に聞き慣れない会話が混じり込んできた。


「いや、え、二人ともきれいな髪色してるなって」


 始めて聞いたフェリクスの台詞だった。序盤ほどそこまで変化のしようが無いから、突然人の言動が変わる事なんて滅多に無かった。だからただの短い台詞だけどそれが私にとっての最初の異変だった。

 そしてその後は動揺を悟られない様幼いエルシアを演じつつフェリクスの様子を窺っていると、やはり目の前の人物への違和感が拭い切れない言動をしていた。

 

「いえ、気にしてないので。あ、あと名乗るのが遅くなりました、僕の名前はフェリクス・デューリングと言います。以後よろしくお願いします」


「僕、、、?」

 

 この時驚きすぎてそう言葉が出てしまっていた。だってこれまで一度もフェリクスの一人称が変わった事も無かったし、小さい頃のフェリクスはもっと年相応にやんちゃでこんなに物腰が柔らかく無かった。

 そんな突然の事に私はひどく動揺して、どうしたらいいのか思考がまとまらず固まってしまっていた。


「何かおかしかったでしょうか?」


 そう目の前のフェリクスの見た目をした何かに問われ、私は焦りながらなんとか言い訳したと思う。でも最後まで歩き方から何まで違和感しか無くて胸の動悸が収まらなかった。


 

 そして次にフェリクスと会ったのは村の中心での事だった。何度か同じことをしたつもりでも些細な事が中心だけどランダムに変わる事もあったから、今回はそれが性格って言う大きな変化を下だけかもしれない。

 私はそう自分を落ち着かせてフェリクスと再会すると、そのまま遊びに行くらしくその背を追って外を出た。その時フェリクスが私の事じっと見ていたけどどうしたのかとか気になったけど、私は頭を切り替えていつもの自己紹介をした。


「・・・エルシアです。このバカの妹です。よろしく」

「あ゛?お前少し頭いいからってなぁ!!」


 そしてここ最近のテンプレートの会話をしつつフェリクスの様子を窺うが特に反応は無かった。その後遊びを決めるいつもの流れになったけど、フェリクスの動向を確かめたい私は下手に介入するのを止めそれを静観する事にした。


「・・・私は良いから二人でやってて」


 そうして三人の会話を眺めていたけどやっぱりいつもと違い過ぎた。まずフェリクスがラースよりもルーカスと仲良さげにしているし、いつもはどちらかの肩を持つのに二人の喧嘩を仲裁しようとさえしていた。

 でもその仲裁も意味も無くルーカスとラースが喧嘩を始めてしまっていて、私は思考を切り上げて仕方ないかと静観を辞めた


「・・・・兄さん。落ち着いて」

「いやだってこいつが・・・・」

「いいから。またパパに怒られるよ」

「いやでも・・・・」

「言いつけるよ」

「・・・・・はいよ」


 この会話はいつぶりだろうか。何回か前に同じような感じでラースを窘めた事があった。だから作業的に対応できたけど、私の心中はあのフェリクスの事で尚も穏やかでは無かった。

 

 そしてその後は一旦鬼ごっこをするらしく私は離れた所から、フェリクスを観察していた。


「・・・・・やっぱり違う」

 

 違和感がある。どこか子供っぽくないと言うか言語化しずらいが有体に言えば異質だった。でもそんな観察をしていると、ラースと追いかけっこをしていたフェリクスが足を引っかけて転んでしまっていた。

 私はそれを見ると考えるより先に体が動いた。

 

「・・・・大丈夫?立てる?」

「うん?あ、ありがとう」


 それは私が三回目をやり直した時の事だ。その時は今と同じでフェリクスが転んで軽いかすり傷を負ってしまっただけのはずだった。でも私はそれぐらいならと放置していたらそのままフェリクスは病気になってあっさり死んでしまった。

 それが思い出され私は怪しみつつもフェリクスへと手を差し出した。


「とりあえず傷口きれいにするから足だして」

「あ、はい。ありがとうございます・・・」


 触ってみてもやはり体の感じはいつものフェリクスと一緒だった。違うのは言動だけなのだが目の前の男の子は本当に誰なのだろうか。

 

 私はそんな疑問を抱えたまま日々を過ごして、時は流れ初めて死んだエースイの街へと訪れた。その道中やはりフェリクスの様子がおかしくて少しだけ距離を置いていたけど、何故かいつもよりブレンダさんと仲が良いように見えた。

 そうして私達が宿に泊まりいつものように魔力測定を終えた次の日。いつもだとこの辺りで私が止めないとラース達が探検に言って半々ぐらいの確立で誰かが死んでしまう。だから一応止めるつもりだったのだが・・・・。


「あ、あのルーカスとラースがまた喧嘩してて、ちょっとどうにかしてほしくて・・・・」


 情けなく困ったような表情をしたフェリクスが私達の部屋に入ってきていた。私が行く前に始まっていたのかと毎回毎回子供の世話をするのは疲れる、そう思いながらフェリクスを見た。


「はぁ・・・・ちょっと待ってて」


 そして私はフェリクスについて行って、いつものように暴れるラースと嫌味を言うルーカスの仲裁へと向かったのだった。


「兄さんなにしてるの」


 そして結局フェリクスも子供だけで街に出る事に反対したから、何事も無くエースイの街から私達は帰ることが出来た。

 そしてそれと同時に私は決めた事があった。


「あいつを殺すか」


 もうここまで接していれば分かる。あいつは確実に偽物だしもしかしたら誰かがフェリクスを乗っ取っているのかもしれない。私が何度も人生をやり直せている時点でそういう突飛な可能性だって十分あり得るはずだ。

 でもそれよりも今まで支えだったフェリクスという存在を奪われたような気がして、どうしてもあのフェリクスの見た目をした何かにイラついていたのもあるかもしれない。


 だから私は行動を起こした。


「兄さん。森に探検行ってみない?」

「お!良いな!俺皆誘ってくるわ!!」


 これまで散々色々人の行動を誘導してきたんだ。それも一番単純なラース相手となれば簡単に私達が死ぬルートへと誘導が出来た。


 そうして私は順調に事を進めたのだけど、一つ誤算だったのはフェリクスがブレンダさんを連れてきていた事だった。離れて尾行しているっぽいけどあの人がいると多分フェリクス達を殺せない。事前に色々フェリクスとルーカスに仕込みの会話をしていたけがどうしたものか、そう私は頭を悩ませた結果。


「兄さん。ちょっといい?」

「うん?どうした?疲れたか?」

「あっちに動物が見えた」

「あっち?」

「・・・うん」


 私は一番無茶に奥へと進みそうなラースにそう発破をかけて、盗賊の野営地がある方へと誘導をした。

 そしてそこへフェリクスとラースが向かったのを確認すると私は、歩く速度をルーカスへと合わせた。

 そうすればブレンダさんは私達に見つからない様距離を置くだろうし、その隙に盗賊にフェリクス達を殺してもらえれば良い。


 そう色々小細工をしたのだけど、フェリクスは私達を守ろうとして生き残るし私達もあっさり森から逃げれたのだ。

 そう何故か私達は全員生き残ってしまった。私が何度やっても出来なくてこの森で生き残るのを諦めたというのに、あいつはあっさり全員生かしてしまったのだ。

 あいつがこの時何をしていたのかは詳しく知らないけど、やはりあいつはフェリクスではない何かだと言うのは私の中で確信に変わったのだった。


 そしてその後にいつものように盗賊達の襲撃が始まった。ここはあまりにいつもと同じ過ぎて、逆に安心したが結果は変わらずで私達はエルム村を離れた。


「・・・・どうしよっか」


 目隠しをされ盗賊の元へ馬車に運ばれる数日間私は色々可能性を考えていた。

 まず一つとしては本当にランダムでフェリクスの性格が変わっただけという説。これは有り得なくも無いし、フェリクス自体性格が悪いわけではない。だけどもこんな事例今まで一つも無かったからちょっと微妙。

 次にあるのは悪魔付きみたいなそういう系の物だ。私自身そういう物を見た事無いけど呪術はあるらしいから、可能性としては否定しきれない。というかあの変化の具合だとこれぐらいしか理由が無い気がする。

 そして三つ目は私が知らず知らずのうちに何かをしてしまってそれがフェリクスに影響を及ぼしただ。でもこれでもそんなヘマした記憶ないしどうもしっくりこない。


「・・・わっかんね」


 でもこれも外れ値だろうから一度やり直せばまたいつものフェリクスに戻るのだろうし。そこまで焦る事では無いか。それにどっちにしろ私があいつを気に食わないのは変わらないのだし。

 

 私はそう思い盗賊の元での生活を始めていった。どうやら今回はライサがフェリクスにいつも以上に懐いたらしくいつもべったりで気持ち悪かった。今回のフェリクスは中身が違うから別に何をしても良いけど、好きな人と見た目が同じ以上不愉快な事には変わりは無かった。


 でもそれも数年一緒に生活していく内に慣れていった。そして何をおかしくなったか、今のフェリクスもまぁ悪い奴では無いし少しぐらい話をしてみようと思った時期がある。


 それは私がエマちゃんと話した青白い月明りが差し込む広場でその人を待っていた時の事。


「また、ラース達が喧嘩でもした?」


 私が部屋に入っていない事を勘違いしたのかそうフェリクスが話しかけてきた。だけど私はそうでは無いと首を振った。


「ううん。ただフェリクスさんと話したかったから」

「僕と?」

「うん」


 私のそんな態度が怖いのかひどくフェリクスは困惑しているようだった。でもその後に私が思うまま言葉を投げかける内に普通に返答してくれるようになって、ライサが来るまで私たちは会話を続けた。その時は少しだけ目の前のフェリクスの見た目をした誰かを許せていたかもしれない。

 それもこれもエマちゃんとの思い出の場所での出来事だったから、感傷に浸ってそうしてしまったのだけかもしれないが。


 だけどそんな期間はすぐに終わってしまった。いや私が正常に物を見れるようになったと言えば良いか。

 それから少しするとフェリクス達と一緒にエマちゃんのいる街へと遠征に向かった。いつもエマちゃんだけはこのイベントでは生かしているから、今回も私はエマちゃんを助けるつもりでいた。

 

 でもあいつは私からフェリクスの次はエマちゃんを奪っていったのだ。

 

 私の視界の中ではエマちゃんは地面に座らされフェリクスはそれに剣を向けていた。中身がどうあれ私の大事なフェリクスが恩人のエマちゃんを殺す所なんて見たくない。それにお前が頑張れば皆救えるんだから頑張れよ。なんでいつものフェリクスより強いのに諦めるんだと怒りが最高潮へと達していた。

 

「殺したら絶対許さないから!!!!!一生恨むから!!!!!!!」


 だから一心不乱にそう叫んだ。でも目の前のフェリクスの姿をした何かは私を見ることなく剣を振り下ろしてしまった。

 そう私が一番見たくない景色をあの男は目の前でそれも何回も見せつけてきたのだ。だから私は一度消えた決意を再びこの時にしたのだった


「絶対に殺す」


 すぐにとは言わないが絶対に私の手であいつを殺す。それだけがこの世界でフェリクスもエマちゃんも奪われた私の最期の目的でありやるべきことになったのだった。


ーーーーー


 そしてその決意を果たす時が私に訪れていた。


 ある空が暗くなりかなり冷え込んだある日の事。雪では無く雨が降り眠くなるような水のはじける音が響いていた。

 私は暫くこの薬草屋でお世話になっていて今日も店の奥で、ずっとその人が来るのを待っていた。


 すると更に雨が酷くなり寒くなった昼下がりの事。店の入店ベルを鳴らす音が私の鼓膜を揺らすのと同時に、あるよく聞き慣れた声が店内に響いた。


「お久しぶりで~す」


 私はその良くも悪くも待ちわびた声を聞くとナイフを忍ばせ店頭へと向かったのだった。

 

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