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全ての想いを君に  作者: ねこのけ
第六章
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第百三話 失意


「・・・・どうすべきか」


 私はロタール卿の身柄を拘束してから帝都までの道のりを馬車に揺られていた。そして丁度今その帝都の城門をくぐった辺りだろうか、馬車の外が少しだけ騒がしくなっていた。


「フェレンツ中佐に釘を刺すべきか・・・?いやでも・・・・・・」


 私がさっきからブツブツと何を悩んでいるのかというと、フェレンツ中佐の処遇についてだ。元々は私のスケープゴートとして泥を被って貰う予定だったが、一度話した感じ私を道連れにしてきそうな雰囲気を感じていた。

 当初は何をフェレンツ中佐が告発した所で、私との軍内での経歴と信頼の差から聞く耳を持たれないから大丈夫だと考えていた。

 だが陛下に関しては別ではないだろうか。彼女はエルシア様に関する事となると異常な執着を見せている。だからもし仮にフェレンツ中佐が私の行動をそのまま言ったとしたら、その真偽をすっ飛ばして私もろとも一緒に首が飛ばされる可能性だって大いにある。それぐらい陛下の情緒は信用できない物であるのは、私が良く分かっているから。


「やはり一度フェレンツ中佐と話すか」


 私がそう行動を決め運転手の爺に、目的地の変更を伝えようと御者台に乗り出して肩を叩いた時。その私の視界では、既に馬車は城前に到着してしまっている様だった。そして馬車内から顔を出した私は明らかに不機嫌そうに待つディアナ陛下と目が合ってしまった。


「待っていましたよ」


 ただ怒りを滲ませたように睨んでくる陛下に、私は爺の肩を掴む手が強くなるのを感じつつも、ここで固まったらいけないとまた思考を回し出した。


「すみません陛下。先に済ませたい要件があるのでその後でも良いですか?お時間は取らせませんので」


「ダメです。私の要件がこの国で一番に優先されるべきです」


 やはり妹君関係になると人が変わったように傲慢で怖くなる人だな。一国の主が私情だけで権力を振るうなんて以ての外だと言うのに、やはりこいつに権力を与えるべきでは無いと確信させてくれる。


「・・・・・分かりました。すぐ参ります」


 だが文句を言っていても仕方ない。今はとりあえず私が上手く生き延びつつ、陛下のご機嫌を何とか取らなければ。そう城内へと戻っていく陛下を追いかけるように馬車から降りると、傍に居たらしかった宰相殿に肩を叩かれた。


「ご苦労だったね。最悪私が君を拾ってあげるから」


 小声で囁くようにしゃがれた声で私の耳元で喋る老人は、まるで名目上でもこの国のトップに対する気遣いも感じられなかった。

 こいつは陛下に比べれば現実を見れているが、こういう嫌らしいと言うか汚い所が好かない。腹芸を否定するわけではないが、あの老人と内通していたりとこの国の民の為に動く政治家では無いのは確かだ。


「ご厚意感謝します」


 でも私は組織の人間で立場上従うべき相手ではある。いくら気に食わないと言ってもいい顔して気に入られなければならない。

 そして私は宰相殿から離れ陛下の背中を追い廊下を進んで行った。


 その間陛下は一切言葉を発することなくその態度から機嫌を窺い知ることが出来なかったが、カツカツとした激しい足音から、おおよその今の感情が怒りである事は理解出来た。

 だからこそ私がエルシア様を逃がした事を何とか言い訳しないと、そのまま勢いで私の首を処刑台へと運びかねないと直感で感じていた。


「・・・・・・ここです」


 陛下がドレスを揺らして使用人に開けさせた部屋は、いつも政治家連中や上級将校が会議をする部屋だった。私も偶に使うから分かるが、こんな私用で使っていい部屋ではないはずで、相変わらずの無茶苦茶ぶりな用だ。


「失礼します」


 私はこの時ある決断をした。ここで当初の予定通りフェレンツ中佐を犠牲にしてもいいが、もし陛下が中佐に事情を聞いたりしたら私に怒りと疑念が向く可能性が高い。ならばそもそもそんな出来事が無かったとすれば、私としても中佐としても都合が良いはずだ。

 そして渡曽は陛下と微妙に離れた位置に座ったが、すぐ眼前で詰められている様な圧を目の前の女から感じていた。


「で、今回の失態はどういう事ですか。私のエルシアはどこにいるんですか」


 怒りが強いと思っていたがどちからと言うと焦燥という表現が目の前の女にはあっている気がした。これは本格的に私を処分する事も有り得そうか。


 だが所詮お飾りの権力で粋がっている女だ。こんな奴に私の理想を阻まれてなるものか。

 私はそう腹を据えてその女と向き合った。


「まず完結に事態を説明するとエルシア様はいませんでした。もしかしたら誰かしら内通者がいて私達が来ることがバレていたのかもしれません」


 そんな内通者がいる根拠も情報も無い。なにせ私が今作った存在だからだが、架空の内通者に陛下の怒りが向けば良いと考え付け足した。内通者がいる事は証明できるかもしれないが、居ない事なんて証明できるはずも無いしな。それにその証明の過程で、その疑いの目が宰相殿に行くと私としては満点の展開なのだがどうだろうか。


 そう私は心の奥底の緊張を隠すようさも淡々としているかのように陛下の返事を待っていた。すると陛下はひどく顔をしかめて額を抑えると深くため息をついた。


「やっぱりあの宰相ですか」


 その言葉を聞いて私はニヤケそうになるのを抑えるのに必死だった。やはり既に宰相殿と陛下がかなり仲が悪いと言う噂は本当だったらしい。


「・・・・・・だけれど本当にいなかったのですか?貴殿は二日でロタールの館まで行ったそうですけど、それより早くその内通者とやらが館に使者を送ったのでしょうか?」


「・・・・それは」


 気付かなければ楽だったが流石に分かるか。それはそうで反乱の兆しが伝わった瞬間に、私達が指令を受け取り帝都を出て最速でロタール卿の館まで行った。だから内通者がいたとしても私の動きが早すぎたせいで、その内通の使者が行く隙が無かったのだと考えているのだろう。

 

 だが私だって考え無しで発言はしていない。それぐらいの応対は考えてある。


「事前に内通者がそういうシナリオを決めていたのなら可能では?そもそも私がエルシア様を逃がす理由なんて無い訳ですし、こうやって私と陛下の信頼関係を崩すのが目的なのかもしれません」


 そして更に陛下に思考の隙を与えないために、そして少しでも疑いの視線を他に向けるよう私は畳みかけるように続けた。


「それこそこんな計画を立てれるのはこの国でほんの一握りでしょうけど」


 実際私に陛下を裏切る理由なんてものは私の心の中を覗かなければまるでないはずだ。その信用を得るためにこれまで国に奉仕してきたのだからな。


「・・・・・確かにそれもそうかもしれませんね」

 

 その言葉を聞いて私がやり切ったと椅子の背もたれに背中を預けると、まだ何かあるのか陛下が額から手を離し再び私を見てきた。


「じゃあフェレンツ中佐にもお話を聞いて判断しますね」


 その言葉を聞いた時柔らかいはずの背もたれが硬く感じ、冷や汗が垂れる嫌な感覚がしたのを良く覚えている。

 それと同時に部屋の扉が開かれたのだった。


ーーーーー

 

 そして少しの後私はフェレンツ中佐を、緊張した面持ちで見ていた。


「えぇ姿が見えませんでした。銀色の髪は良く目立つので間違いありません」


 だが私が肝を冷やしたのも少しの間で、フェレンツ中佐は何か察したように私を見るとそう陛下に答えてくれていた。どうやらアーレンス少佐も付いてきているようだが、陛下は私を呼ぶ前からこうする事を決めていたのか。滅茶苦茶な事ばかりする人だが思いの外慎重な選択をするものだな。


 私がそう安堵からか思考が増え始めていると、その間何か考え込んだように陛下も黙ってしまっていた。それを見てフェレンツ中佐も答え方を間違えたのかと心配するように、私に頻繁に視線をやってくるが私もどうしようも出来ない。


「・・・・・・・」


 重い沈黙の中私達が陛下の言葉を待っていると、考えがまとまったのか下を向いていた視線を上げた。


「エルシアはいませんでしたか・・・・・・・。では引き続き捜索お願いします」


 がっかりしたような元気のない様に肩を肩を落とした陛下は、そう言って部屋から力なく出て行ってしまった。さっきまでの気迫が魂が抜けたようになってしまっていたが、そこまでなぜ妹に執着するのかが私には分からなかった。

 

 そして部屋から出て行く陛下を見送り、三人になった部屋の中私はフェレンツ中佐の方を見た。


「ありがとうございますね」

「い、いえ!こちらこそ助かりました」


 一応陛下の使用人が外にいるから具体的に話せ無いが、フェレンツ中佐には感謝しないといけない。もしかしたらアーレンス少佐の入れ知恵かもしれないが。


「では私もこれで失礼しますね」


 だがそれ以上話す事も無いので私がそう席を立って部屋を出る瞬間。腕を組み私を睨む先生と目が合ったが、何も言えずそのまま私の足は部屋の外へと出て行った。


「っと。どうなさいました?」


 だが今日の仕事はまだ終わっていなかった。部屋から出て気が抜けたように欠伸をしようとしていた私の目の前には、外で待っていたのか宰相殿の姿があった。


「いや心配でね。でもそれも杞憂だったみたいだけど」


 そう言った宰相殿の後ろには見慣れない従者二人が立っていた。フードを深くかぶってて顔が見えないが宰相殿の事だし、身分を明かせないまともな人間では無いんだろうなとは察する事は容易かった。だが触れない訳にもいかず私は従者の顔を窺うように聞いた。


「そちらの二人は?」

「ん?あぁ腕利きの冒険者でね。いつ暗殺されるか分かりませんから」


 宰相殿はやはり見られたくないのか従者と私の間に入りながらそう答えてきた。

 まぁどちらにせよ良くない事を考えているんだろうけど、いつまでこいつらは内で争っているんだか。

 南方の動きが不穏だと言うのにいつになったら、この国は団結する事が出来るのだろうか。

 

 そうは思いつつ私はこれ以上話してても仕方ないかと、宰相殿に一礼をした。


「じゃあ私は失礼します」

「うん。お疲れ様ね」


 私は今度こそ宰相殿の脇を通り抜け一日を終えたのだった。その時背格好的に男であろう従者の内一人が私を見ていた気がしたが、私からはその顔を窺う事が出来なかった。


ーーーーー


「彼はすごそうだね」


 廊下に響く足音が聞こえなくなったタイミングでクソジジイが楽しそうにそう呟いていた。でもそれとは対照的に目の前の髭を生やした老人は困ったようにしていた。


「もう良いですか?流石に私の胃が持ちませんよ」


 今私達は何故か王城にいる。帝都に向かうとは聞かされていたけど、到着するなりそのままここまで連れて来させられていたから、何が目的なんだと思っていたがあの人を見たかっただけらしい。


「うん。良いよ。しばらく帝都内にいるから連絡よろしくね」

「分かりました。例の件もお願いしますよ?」

「分かってるよ安心して」

 

 私を置いて二人が会話しているが、それからしてもこの老人も国の権力者なのだろうな。本当にこのクソジジイの正体が掴めなくなっていくが、もう私としてはこの世界は消化試合だからなんでも良いっちゃ良い。

 

 そうして私達はすぐに地下道を通って城の外に出ると、待機していたカーラとラウラと合流しつつクソジジイの案内の元、冷え込んだ街中を歩いて行った。まだ年越し前だがこれから寒くなると思うとうんざりする。


 そう私が真っ暗な空を見上げていると、視界端では何かカーラが話したそうにしていたので、先を行くクソジジイと少し距離を取ってあげた。

 するとカーラは早速私の傍に寄ってきていた。


「私も連れて行って」

「・・・またそれ?」


 私は視線をカーラに移すとやはりそんな事を言っていた。まぁ大方そうだろうなとは思っていたけど、やっぱりため息しか出ない。中身違うしあいつを殺されても良いんだけど、フェリクスの姿をした人間が他人に殺されるのはなんか不愉快だ。


「無理だから我慢しな」

「で、でも!エルシッ、、、、」


 そう突然叫ぶカーラの口を私は急いで塞いだ。人がいないとは言え街中で私の名前を呼ぶなんてあまりにも不用意すぎる。

 すると流石にカーラもまずい事に気付いたのか、さっきの勢いがそがれシュンとしてしまっていたのでゆっくりと口から手を離した。


「私だって清算しておきたい事あるの。お願いだから大人しくしてて」

 

 すると不満そうだけどカーラはそれ以上何も言わず、私を置いて先に歩いて行ってしまった。それを不安そうにラウラが眺めてなぜか私の袖を掴んできた。


「なに?」


 私がそう聞いてもラウラは何も言わずに袖を掴むだけだった。色々ありすぎて怖かったり混乱しているのかもしれない。まぁ五歳だしそんなものか。

 

 するとその時この子は私が死んだらどうするのだろうかと一瞬考えてしまった。


「・・・・まぁでも今更か」


 今までどれだけの世界を捨ててきたんだと思っているんだ。今になって情が湧いたとでも言うのか。そんな甘さは何も意味を為さないと分かり切っているのに、なんでこんな風に後ろ髪を引かれてしまうのか。ルーカスの時と言い、いつになったらこの感情を捨てれるのか分からない。


「じゃあ君は暫くここにいて。フェリクス君が偶に来るらしいからさ」


 私がラウラと一緒に歩いている中。そうクソジジイが指差す店は以前私達が滞在していた薬草屋だった。


「ここって残ってたんだ」


 あんな事があったから取り潰されたのかと思ってたけど、上手く生き残れたらしかった。ここの店主の名前あんまり覚えてないけど、あの時の事謝罪しておかないといけないかな。


「君らは私と来てね」


 すると私だけを残すつもりなのかラウラとカーラを連れてクソジジイがどこかへ行こうとしてしまっていた。一応私達指名手配されているのに一人にして良いのかと思うが、クソジジイは私に向かって。


「君なら上手くやるでしょ?」


 それだけ言ってクソジジイは暗い路地裏へと消えてしまった。謎な私への信頼と相変わらず雑な対応だと思うが、どうせあいつの事だし何かしら手を打ってあるのだろう。

 

 そうして私は欠伸をしながらも薬草屋の入店ベルを鳴らしたのだった。



 

明日は投稿が遅れるかもしれません。すみません。

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