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私たちの出会い。いわゆる第一章って感じかな。

青くて大きな空を眺めている。

飽きそうにもないほど綺麗で幻想的な空を、灰色の瞳で眺めている。

近く見えるのに手を伸ばしたって届かない、足掻いたって前へ進めない、僕なんかじゃ到底釣り合わない空をただ傍観している。


僕は堕ちていく。

青く大きく綺麗で幻想的な世界を目指し進んでいたのに、汚く小さく醜くてつまらない世界に堕ちていく。

重くて濁っていて、それなのに真っ当で当然な無力感が、身体全体に強い波のようにのしかかる。

一方的な思考に、浅はかな感情に、不完全な精神に、堕ちている。

正しい事が出来ていたのか、これから正しい事が出来るのか、それともやってきた事は全て正しかったと自分を納得させられるのか。


過ぎたものは、もうどうにもならないのに。

そう、僕はもうどうにもならないのに。

退屈な時間のせいで、僕自身も退屈になってしまったみたいだ。

ずっとずっと続いていた、退屈な時間のせいで。


いや、もうやめだ。

何も知らないくせに、悟りわかったような顔をして自分に話しかけるのは。

自分を責める事で自分を守るなんて、そんなみっともない姿を晒すのはもうやめよう。

翼をもがれて飛ぶ事も出来なくなった僕にはまさに相応しい現実だし、その中で出来る事を探していかないと。


空元気は得意なんだ、猫を被るのも、いつも"やってた"から。

よし、きっと良い目覚めを迎えるんだ。爽やかな朝の風が僕の顔を撫でてくれて、鳥の囀りに愛おしさを感じながらも起された事に小言を言う。

そんな変哲もないけどひとつまみ程の幸せを、きっと。

そんな、日常を、きっと。。。



ピピピピ ピピピピ



「んんー。。。うるさ。。。」

必要最低限なモノしか無い無機質な部屋で、高校2年生になったばかりの青年はスマホのモーニングコールに起こされた。

朝の7時、何件かメッセージの通知が来ているスマホの画面を面倒に感じて、布団に顔を埋めながらもう一度目を閉じる。

それは彼の日課となっていた夢日記を記すために、夢を鮮明に思い出そうとしていたからなのだが、そんな日課はここ2週間前程から出来た浅いものだったが彼にとっては特別なものだった。


それは、ここ2週間程ずっと同じ夢を見ているからだ、2年生の始業式が始まったあの日からずっと。

一人の人間、恐らく男が清々しく青い大空から落下しながら、その空を眺めている。

その途中で天使は後悔のような反省のような諦めのような、そんなどこか共感できてしまうような自分への想いを語っている夢。

「今日もまた、同じ夢。」


何故そんな夢を見るのか、その落ちている人間は誰なのか、どうしてそんな想いを持っているのか。

こんなのただの何の変哲もない夢で、考えたって答えがあるはずもないのにどうしてもその事から頭が離れられない。

何か意味があるはずなんだ。そう感じていたし、ただの高校生からしたら何か特別なんだと心躍らせるのは当然の事だと思う。



優心(ゆうしん)!いつまで寝てるの?早く起きなさい!遅刻するわよ!」

やべ。気づけば10分近くも経っていたのか。もっと早い段階で教えてくれたって良いのに、なんでちょっと泳がしたんだよ。

自分が悪い事は充分わかっていたけど、母親という立場に甘えて愚痴ってしまう。

これ以上支度をする時間が無くなるのはマズいし、流石に下の階へ降りよう。


「おはよう、最近起きてくるの遅くなったわね。夜更かしでもしてるの?」

朝から始まる親特有の面白い話のおかげで、今日は絶好調なスタートが切れそう。

「別に、こんな馬鹿みたいに朝早く起きて行きたくもない所でしたくもない事をするのが楽しみで夜眠れないってだけ。」

「またそんな嫌味っぽい事言って、そんな事ばかり言ってちゃお友達も出来ないわよ。」

「これは嫌味じゃない、冗談だよ。本気で思ってなんかないって。それに連む奴らはいるよ、この"冗談"が母さん以外には好評だからね。」

「それなら良いけど、あなた心の底から仲が良いって言えるようなお友達出来た事ないから、どうしても心配で。」

「サラッと傷抉んのやめてくんない?外では人当たりは良くしてるし大丈夫だよ。つかそういう親友とかって作ろうとして探すものじゃないでしょ。」

親友なんて奇跡みたいなもんでしょ、カビから感染症の特効薬が見つかったみたいな。そんな複雑に見える奇跡だよ。

「まああなたが大丈夫と言うなら私もしつこくは言わないけど。でも本当に―――。」

「もう、わかってるから!大丈夫だって、本当に!そんな事より遅刻しそうな事を心配して!」

はいはい、わかってるよ。って軽く済ませられそうな話なのに、何をこんなにムキになってんだ僕は。

これほどまでに、心に余裕がない僕自身に心底イライラする。


急いで支度を済ませた結果、なんとか遅刻はせずに済みそうだ。

「それじゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい、気を付けてね?」

「ん。じゃあ。」


もういい加減にあの夢のせいで慌ただしい朝を迎えるのはやめにしたい。でもどうしても。どうしてかわからないけど、あの夢を考えると不安が溢れ出てくる。吐き気にも似たような、まるで心臓を鷲掴みされてるような、そんなグチャグチャした感覚。

自転車を漕ぎながら、またそんな答えの無い問題を頭の中で作って解いている。

どこかペダルを漕ぐ足取りが重く感じるのは、その夢だけが原因じゃないと思うけど。

母さんには「人当たりは良い」なんて言葉を使ったけど、蓋を開けると誰にも僕の本性で接する事が出来ない人間不信みたいなもんだし。

思ってもない事を言って、面白くもない事で笑って、どうでも良いのに優しくして。

そうしなきゃいけないから、そうしてるだけの僕で過ごさないといけない。

本当の自分の姿を否定しながら生きているような、そんな。

でも、本当の自分の姿って―――。



「うわ!いてて...。」

自分の世界で溺れていた僕を、現実に引き戻す声がふいに聞こえてきた。

小学生が転んでしまったようだけど、一目見ただけでわかりやすい状況に遭っていた。

「あ!プリントが...待って!」

転んだ拍子にランドセルの中身が飛び出てしまったようで、散らばった教科書や文具を放って風で飛ばされてしまいそうなプリントを追いかけていた。

でもごめんね、僕は"遅刻しそう"なんて理由で困ってる人を見捨ててしまう人間なんだよ。

そりゃ、こういう時に後先考えずに行動できる人は格好良いと思うけど。でも、タイミングが悪いんだ。遅刻しそうな今日じゃなかったら良かったのに。

だから、僕が見捨てるのは。

―――――。

はぁ。もう何やってんだろ、自分に言い訳って。

「僕、大丈夫?」

「え...。」

そんなだから、毎日自己嫌悪の渦から逃れられないんじゃないのか。

「はい、大変だったね。怪我は、大丈夫?」

子供と話すときは目線の高さを合わせた方が良いって、何かで知ったから実践してみよ。

片膝立ちで少し微笑みながら僕の方で拾えた何枚かのプリントを手渡しすると、目の前の子供は今にも泣きそうになっていた。

「うう...。ありがとうございます...。」

パッと見は大きな怪我とか無さそうに見えたけど、もしかしたら捻挫とか骨折とかあるのか、不安になった。

「えっと、やっぱりどっか痛い?」

「ううん、痛いのとかは平気だけど、僕プリント無くしちゃうって、怖くって、それ宿題だから、怒られちゃうって思って。」

「そしたらお兄ちゃんが助けてくれて、本当に嬉しくて、ありがとうございます...!」

ありがとう。魔法の言葉だな。

「そっか、ならお兄ちゃんが丁度通って良かったね。君は凄くラッキーな子だ!」

「えへへ、お兄ちゃんこそ優しいね!」

「あ!やっべ、ごめんね僕。お兄ちゃん急いでたんだった!じゃあね、気をつけて学校行きなね。」

「あ、うん!お兄ちゃん本当にありがとう!」

膝についた砂を軽く落としながら、僕は立ち上がった。

ずっとゴチャゴチャ考えていたせいで、頭も心も散らかっていたけどすっかりあの子が晴らしてくれた。

僕の方こそありがとうと言いたくなったけど、ここで言ったらおかしいし困らせちゃうかもしれないから。

心の中だけで思ってるね、ありがとう。



さっきより軽い足取りと心で、学校へ着いた。

でも、やっぱりHRには遅れてしまいそう。

不思議だな、そんなもの大した問題じゃないように今は感じる。

自転車を駐輪場に停めて、ほんの少し急いで教室へ向かう。

階段を上がり3階の2年2組、教室の後ろ側の扉を開けた時、いつもの光景とは少し違った。

「おい遅刻だぞ、滝谷。」

その言葉の返事を、僕はすぐにする事が出来なかった。

黒板には見た事がない名前、都宮とみや 愛依めい、黒くて綺麗な髪、品のある落ち着いた佇まい。

僕と目が合った後に、少ししてもう興味が冷めたように目を逸らした姿。

でも僕はその子から目が離せなかった、なぜならその子の目が。

僕の奥の奥にいる僕自身を、見ているような。

どこか遥か遠くを見ているのに、見るべきものはわかっていて、その焦点は定まっているような。

そんな確かな目をしていたから。

「おいおいどうした優心、一目惚れかよ?」

そうやって僕をからかうのはクラスで1番のお調子者、桑田 実 (くわた みのる)。

1年の頃から一緒にいる僕の友達だ。

「ははっ、違うよバカ。先生が怖い顔で睨んでんのかと思ったら、案外優しい顔だったからさ。あー転校生には優しい先生って思われたいんだなーって考えてただけだよ。」

「滝谷、後で生徒指導室に来るか?」

「いえ!なんでもありません!いつも優しい先生です!」

教室は笑い声でいっぱいなのに、僕の目を奪うあの子の顔はずっと変わっていない。少し口角を上げて微笑んでいるだけ。

どうしてこんなに目を奪われるのか、よくわからないままに僕は自分の席に着いた。


それにしてもほんと、どうして1番後ろの席というのはこんなにも居心地が良いんだろう。

先生との距離も遠くて、後ろの席に誰かがいるという視線的な意識もない。

「それじゃあ都宮、今遅刻してきた滝谷の隣がお前の席だから、ちょっと待ってろ。」

今までは、そうだった。ついさっきまでは居心地の良い席だったのに。


彼女がゆっくりこっちに来る。

足音とか椅子を引く音とか、そんな些細な音が大きく聞こえる。

隣に座った彼女を正直なところジロジロ見てみたい、気になる。

でも決して恋愛的な意味ではない。

それだけはわかる。

どうしてこんなに気になるのかを明確にしたいという、知的好奇心なだけだ。

「これからよろしく、滝谷くん。」

「あーうん、よろしくね。えっと、都宮さん。」

なんかやりづらい。

この子の、笑ってはいるけど笑ってはいないような、そんな顔を見ながら話をするのは息が詰まりそうだ。


「そういえば滝谷、お前なんで遅刻してきたんだ。」

うわ、先生の鋭い質問が飛んできた。転校生歓迎ムードで僕の遅刻が無かった事になるんじゃないかって期待してたのに。

「えーっと、すみません。シンプルに寝坊しちゃって。夜更かしとかしてないのに、最近なんだか起きられなくって。」

半分嘘だけど半分事実みたいなもんだし、大丈夫でしょ。

誰かを助けていた、なんてのは自分の口から言うものじゃ無いしどうせ信じてもらえないだろうから。

「ったく、最近お前遅刻ギリギリで学校来てたのもそれか?次やったら課題出すからな。」

「いえーい、じゃあ課題したくなったら遅刻しますね。」

「くだらない事言ってんじゃないぞ。」


キーンコーンカーンコーン。


朝のHRが終わったチャイムが聞こえる。

ふう、なんだかんだいつも通りの朝になりそうかな。

「ねぇ、滝谷くん。ひとつ聞いてもいい?」 

急に話かけられた事による心臓の跳ね上がりは、"いつも通り"には含まれていない。

「な、なに。どうかしたの?」

「急にごめんね、大した話じゃないんだけど遅刻した理由が寝坊って本当?」

ん?急になんなんだこの子。いや、本当に。

さっき初めて話したばっかで人の言った事を疑うなんて、肝が据わっているというかなんというか。

「うん、本当だよ。嘘言ってるように聞こえた?」

「ふーん、じゃあ寝坊の部分も一応本当って事なのかな。」

何が言いたいんだよ、考えてる事が読めない。

「えっと、ごめんね。都宮さんの伝えたいことがわかんないや。」

向こうの思惑がわかれば、こっちでも言葉を選べるのに。

「じゃあ、今日登校する途中で転んだりした?」

「え、いやしてないけど。なんで?」

「そっか。」

「どうしてズボンの片方にだけ砂が付いてるの?」

「え!あ、いや。えっと。」

その瞬間、この子の思惑が全て僕に流れ込んできた。

やたらと遠回しな聞き方、一つ一つ情報を集めるような質問。

くそ、そういう事か。

「あー!あれだ、靴紐が解けちゃって!そん時のかな?」

「ふーん、靴紐ね。滝谷くんって歩いて学校まで来てるの?」

「いや、自転車だよ。」

「自転車に乗ってる最中に靴紐が解ける事ってあるの?乗る前には気付けなかったの?」

なんでこんなに聞いてくんだよ!別に良くないか?僕がそんな些細な嘘をついていたって!何をそんなに引っ掛かかってるんだよ。

「あー、そうなんだよ。気付けなくってさ、なんか違和感あるなーって思って見てみたら解けてたんだ。」

「そっか、うーん。まあそういう事もあるのかな。」

「私はてっきり、公園で困ってる子供がいて、その子と目線の高さを合わせる時についた、とかそういう感じで遅刻したのかなって。」

「そういう素敵な人だったら良いなって、思っただけ。」

「え。な、なにを言って。」

「ごめんね、しつこく聞いちゃったよね。」

「い、いや。はは、全然大丈夫だよ。」

は?見かけてたのか。今朝、僕を。

いや、遅刻スレスレの状態だった僕を、転校生のこの子が見かける事は無いはすだよな。

じゃあ本当にただの予想というか、当てずっぽうで言っただけなのか。

「あ、でもさ。もしね、もし子供と目線の高さを合わせるために付けた砂だったとしたらさ。」

「別に片膝立ちじゃなくて良いんじゃない?あまり見かけないと思うよ、そんな騎士みたいに子供と話す人。」

なんか、恥ずかしいな。

「はは、じゃあもし子供と話す時があれば片膝立ちで話さないようにするよ。」

なんとなく、僕はこの子の事が好きになれなさそうだな。



それからいつも通り授業を受けた、わかってはいたけど全く集中できなかった。

別に都宮の事を考えたい訳じゃないのに、それでも考えてしまうのが癇に障る。

どうやって今朝の僕の嘘を見破ったのか、というかそもそも嘘を見破ってそれをお披露目する必要なんてなかっただろ。

そういう性格ってだけなんだろうけど、それでもなんか引っかかる。

それで結局気になって横目でチラッと見てしまう。

ったく、何でそんな涼しい顔してるんだよ。

「よお、なんか難しい顔してんな。」

「あー、桑田。」

「もう昼休みだぞ、早く購買行こうぜ。狙ってる唐揚げおにぎりまた買えねえぞ。」

「本当だ!もうそんな時間じゃん!」

自分でも驚いている、そんな簡単に時間をスキップさせる能力が都宮にあった事を。

「おい今更かよ、ほら行くぞ!」

「あ、優心、実。うちクリームパンでおねがーい。」

「ふふっ、じゃあ私はサンドイッチがいいな!ハムのやつ!」

図々しい二人組に捕まってしまった。

ギャルの千倉ちくら りん、朗らかな真野まの 詩織しおり。僕が人当たり良くしている事を良い事によく利用してくる二人組。

こいつらも一応は、僕の友達。

「ふざけんなよ!お前ら自分で買ってこい。」

「えー超ケチ過ぎね?でも滝谷は買ってきてくれるしょ、桑田と違って優男だもんねー。」

「はいはいわかったよ。優しい性格って損するなあほんと。」

「そこは滝谷の魅力なんだよ?桑田と違ってね!」

「あーあ、もう俺知らね。滝谷お前が責任取って全部買ってやれよ。」

「えー!?やっぱり損してるじゃん。」

「わーったから、さっさと行ってきなって!」

割と毎日こんな感じのやりとりをしている。

昼休み皆でご飯食べたり、帰り道一緒に帰ったり、その道中どこか寄り道したり。とか。

コイツらは僕にとって、ありがたい存在ではあるとは思う。

でもやっぱり、偽物だけど綺麗な僕を、本当の僕では無い僕を見ているようで。

虚しい気持ちになる、時もある。

深呼吸のようなため息が出る。

買う物は買ったし、さっさと教室に戻ってお腹を満たそう。

唐揚げおにぎりは無かったけどね。

まあでも代わりにソーセージパンあったし、まだセーフーーー。

教室の扉を開けた時、朝以来の違和感がまたきた。



ん?なんかいつもと違う所があるな。

「あ!2人ともおかえり!」

「やーっと帰ってきた!マジ遅すぎだって、お腹と背中がくっついてた所だよ!」

「そんな遅くなってねーよ、つか人に物頼んだ態度かよそれが。」

いや、そんなのはどうでも良いんだよバカ。

「あれ?都宮さんも一緒に食べるの?」

「あーうん、転校生って事はまだ友達とかいないっしょ?」

「だから、良かったら一緒に食べよ!って私達から誘ったの。」

この2人の陽キャパワーというか、人の良さというか。本当に眩しく見えるよ。

「ごめんね滝谷くん。折角のお誘いを断っちゃうのも悪いし、私も嬉しかったから。」

「なに、優心。うちらの友達になんかケチつけようっての?」

もう友達になってんのかよ、流石だな。

「いやいやそんな訳ないでしょ。僕はただ、2人が無理やり都宮さんを巻き込んだんじゃないかなって心配しただけだよ。」

「うっわ!優心超失礼くんじゃん。」

「滝谷には私達がそう見えてたんだー、ちょっとショックだなー。」

「まあ確かに、お前らならやりかねないっちゃあやりかねないな。」

僕の肩を持ってくれた桑田には悪いけど、本音を言うとそんな心配は全く無い。

うっかり嫌そうに聞こえる言い方をしてしまったのは、ちょっとした拒否反応のようなモノだったと思う。

席に着いて頼まれていたご飯を2人に渡している僕を、都宮さんはジッと見ていた。

ような気がした。多分。

「ねえねえ、愛依ちゃん。このうるさいオラオラしてそうなやつ、桑田!」

「ども!桑田でーす!こいつらあんま失礼してない?急に来て怖かっただろ?」

「うわー、実まだそういうこと言うんだ。」

「ふふ、ううん。大丈夫だよ、優しくしてくれて嬉しかった。よろしくね、桑田くん。」

「それでこっちは滝谷!でもまあ、あんま紹介必要なさそう、だよね?」

「うん、さっきちょっと話したから。ね、滝谷くん。」

こいつらにバレないようにしないといけない。

「そうだね、ちょっとだけだけどね。」

僕が都宮と長い時間、目を合わせられないという事を。

というか何で都宮はこんなに目を合わせてくるんだよ。

「そんじゃ軽く紹介済んだとこで、次は愛依ちんの事聞かせてよ!」

良くやったぞギャル、僕が簡単に聞けない事をそんな容易く。

「いいね!謎の美少女転校生の素性、実は俺らめっちゃ気になってんだよ。」

「素性と言っても、私そんな特別な生い立ちとか無いよ?」

「そんなの必要ないよ!何でも良いから愛依ちゃんの事が知りたいのー!」

良いなこいつら、こんなアプローチをかけれるなんて。ありがとう、とんでもなく助かる。

「そっか、ありがとうね。じゃあ軽く自己紹介とかしようかな。」

「よっ!待ってました!」

「ちょい待ち!うちらメモの用意まだ出来てないって。」

「はは、そんなガチでやんなくていいでしょ。」

「じゃあ、私は都宮愛依です。誕生日は8月22日、好きな食べ物は冷やしたチョコレート。」

「転校してきた理由は、運命の人と出会うため。」


その瞬間、場に静寂が訪れた。それと少しの理解する時間。

「あ、ごめんね。冗談のつもりだったんだけど、分かりづらかったよね。」

ん、冗談?

「な、なんだ冗談かよ!」

「ちょっとびっくりしちゃった!」

「え!愛依ちん今のガチ冗談!?もし本当だったら超ときめくんだけど!」

「うふふ、そんなに反応してもらえるなら言って良かった。」

「滝谷くんは。びっくりした?」

「ああ、うん。なんて乙女なんだって思ったよ。」

その急な名指し質問、びっくりしちゃうよ。

「そっか、私って乙女なのかな、滝谷くん。」

「え、まあさっきの話が本当ならって話だけどね。」

「ふーん、そっかそっか。」

なんの意図があっての会話だったんだろ、乙女ってワードはマズったのかな。

「あれー?なんか二人良い感じだったりするのかな?」

「ふふ、どうなんだろうね。滝谷くん。」

「ええ!?なんで僕に振るの!?」

本当にこの子は僕を驚かせるのが得意みたいだ。

でも、みんなが笑顔になって良い空気が流れた。

こういうの、やっぱなんか良いな。



今日のお昼みんなと過ごした時間のおかげで、都宮さんはクラスでの居場所を見つけられたんじゃないかなって思う。

その証拠に、帰り道自然とみんなと一緒になって帰っているし。

僕の心臓はでたらめな方向に飛び跳ねたりしたけど、でもまあこういう結果になってホッとしている。

今もみんなと一緒に談笑して楽しそうにしているし。

「そういえばさ、前から気になってたんだけど。」

「ん、何?どしたん?」

「優心さ、前まで遅刻とかギリギリに登校とかそんなの全くしそうなタイプに見えなかったよな。」

「まあ確かに、そう言われれば。優等生!って感じだったよね。」

「いやいや、僕はまだ優等生やってるよ?ちゃんと。」

「へえ、そうだったんだ。今日のはじゃあレアなケースだったの?」

「レアもレアだって。去年も同じクラスだったけど、こんな事無かったんだよ。」

1年間普通に登校してた奴が、初めて遅刻しただけなのに、こんな盛り上がる話かな

「もしかして滝谷、2年生になって優等生キャラが剥がれて本性でてきた?」

適当に付き合って、流そう。

「まあでもなんだろ、学校に慣れて寝る時間遅れてるのはあるかも。勉強したりとかたまに夜更かしゲームしたり。」

「そんな大した理由無くてごめんな、盛り上がりに欠けるような話しかなくて」


「変な夢を見た、とかじゃない?」

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