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聖痕がある妹ばかり可愛がられて育った王女ですが、そんな家族なんて捨てて自分を選んでくれた隣国の王太子の元に参ります!

 王都の郊外に一団は馬車を停めると、ここを今回の拠点にする許可をもらいに行くと団長が言った。それまで全員休んでいても良いし街に遊びに行っても良いと許可が出た。

 それぞれが動き出した中、アリーチェはサリーと団長を呼び止めた。

「ここまで連れてきてくれて本当にありがとうございました。おかげさまで無事にフランディー王国の王都に来られました。皆さんに出会わなければ私は今頃この世にいなかったかもしれません」

 アリーチェは丁寧にお辞儀をした。

「親戚のとこに無事にいけそうか?サリーはこの街に慣れてるから送らせようか?」

 団長さんが聞いてくる。それにアリーチェは首を振った。どうなるかわからないことに付き合わせることはできない。

「ありがとうございます。でも一人で行ってきます。それからこれを」

 アリーチェは鞄からブローチを出すとサリーの胸につけ、ネックレスは団長さんに渡した。

「お礼です。受け取ってください」

「こんな高そうなものもらえないわ!」

 サリーがはずそうとするのをアリーチェは止め首を振る。

「サリーがいつも側にいてくれたからめげずに楽しくここまで来られたの。だからお願い。受け取って」

 目を丸くしている団長さんにもお願いする。

「私はお礼をすると約束しました。通行証のない私をここまで連れてくるなんて危険を冒させてしまったのだから、正当なお礼です。

 これでは足りないくらいかもしれませんが、どうか受け取ってください。売ればそれなりの金額になります。劇団の運営費にしてください」

 アリーチェが何度も頭を下げお願いすると、二人は顔を見合わせ最後にはうなずいてくれた。

「直ぐに親戚のところに行けずに困ったらまたここに戻ってきます。その時はよろしくお願いします。では行ってきます」

 アリーチェは二人や残っていた団員たちに手を振り皆に背中を向け歩き出した。その背中に、

「アリー!理由がどんなことでも、あなたが誰でも、私たちは友達よ!いくらでも帰ってきて!」

「ありがとう!サリー!また会いに来るわ!」

 ぶんぶんと大きく手を振ると駆け出すようにアリーチェは街の中へと入っていった。


 王城は探すまでもなく見つかった。というか街の外からでも見えた。アリーチェがいる場所から街の中心部を抜けた反対側に、王城としか思えない建物がある。かなりの大きさだ。すぐ近くに感じる程だが、実際はそこそこ距離がありそうだ。

 アリーチェは王城へ向け歩き出した。レニアはアリーチェの腕から降りると隣を歩き出した。

 街は賑わっていた。そしてとても美しい街並みだった。比べてはいけないと思いながらも、コーランド王国より全体的に裕福に感じた。

 街の外れでも小さな子どもたちが走り回って遊べる程治安が良く、途中にあった聖堂からは子どもたちがボールを転がし何かのゲームでもしているのか歓声があがっていた。

 更に行けば市場では整然と商品が並び、新鮮な野菜や果物、調味料にやはり新鮮な魚などが揃っている。

 確か王都の隣の領には海があったはず。輸送技術もしっかりしているのだろう。

 アリーチェは真っ赤なトマトを三つ買うと鞄の中に入れレニアを見て笑いかけると、もう少し頑張って歩こうと声をかけた。

 更にアリーチェは歩き続ける。素敵なドレスがショーウィンドウに飾られた店、入ってみたいと思わせる雑貨店。見るからに高級そうな扉の宝石店。様々なお店が並ぶ表通り。試しに入ってみた裏通りも小さくて可愛いお店がたくさん並んでいて、同じく清潔な街並みだった。

 入ってみたいというわくわくする思いを抑えながらアリーチェは本来の目的を果たす為に表通りへと戻った。

 アリーチェはコーランド王国にいた時、慰問先に持っていくものは自分で町で買っていたので雑貨店とかを見るのが大好きなのだ。

 やはり思った通り遠いなと思いながらも真直ぐ前を見て歩く。周囲を見ていたら今日中に王城に着かない。それ程魅力的な街だった。

 お店が立ち並ぶ街並みが終わり、主に住宅街になりそれも終わりを迎える頃、アリーチェは王城へと続く道に入った。

 小高い丘に建っている為坂道が少し辛い。レニアも辛いだろうと抱き上げると一歩ずつ王城に向かった。横を豪華な馬車が通り過ぎる。貴族だろうか?それを見送り更に歩くとやっと城門が見えてきた。

 

 アリーチェは門番にさすがにフェリクスに会いたいとは言えずとりあえず知っている名前を出す。

「私はアリーチェと申します。近衛騎士のノエル様にお会いしたいのですが取り次いでもらえませんでしょうか?」

 当然だが不審そうに見てくる。

「帰れ。お前のような女は山のように来るが、まあ見てくれは良いが諦めろ」

 困った。ノエル様はおもてになって女性がこうやって訪ねてくるのが多いのかもしれない。

「では、外務大臣のメルディレン侯爵様にお取次ぎください。アリーチェが来たと言えばわかってくださると思います。お願いします!」

 アリーチェは門番に頭を下げる。

「次は侯爵様か。おまえ何者だ?何が目的だ?」

 声に凄みが増してくる。

「怪しい者ではありません。ノエル様かメルディレン侯爵様にお会いしたいだけです。お願いします」

 更に頭を下げ続けるが周りに人が増えてきた。

「そんな身なりの者が侯爵様やノエル様と知り合いとは思えんな。すぐに立ち去らなければ捕らえるぞ!」

「侯爵様に名前だけでもお伝えください。お願いします!」

「もういい、捕えろ!」

 門番たちがアリーチェに手を伸ばした時だった。レニアがアリーチェの腕からするりと飛び降りると門番たちの足元をすり抜け王城に入っていった。

「レニア!」

「おい!あの猫を捕まえろ!」

 門番三人にアリーチェは押さえつけられ、側にいた他の衛兵たち数名がレニアを追って走っていく。

「私のことは良いからあの子に乱暴なことは止めて!あの子は私の大切な友達なの!」

 アリーチェが叫ぶ。アリーチェは後ろ手に縛りあげられ腰紐をつけられると立たされ歩かされた。

 失敗した。私は捕らえられた後身辺調査されるだろう。劇団には迷惑をかけられないから口が裂けても言えない。

 黙秘を続けるか?メルディレン侯爵の名前を出し続ければ少しは聞いてもらえるか?少なくともフランディー王国の人間ではないことがバレるだろう。

 アリーチェが連れて行かれたのは城門の側の小部屋だった。どうやら取り調べが今からここで始まるようだ。直ぐ様牢屋じゃなかっただけマシだと思おう。何とか解放されないかとアリーチェは願い、レニアの無事を祈った。


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