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聖痕がある妹ばかり可愛がられて育った王女は家族という言葉の意味を知りたい

 アリーチェが王宮の入口をくぐるとセレーネが立っていた。逃げる間もなく髪を掴まれると引きずるように歩かされた。どこへ行くのかと痛みを堪え、何とかセレーネの手を外そうとするがもの凄い力で抗えない。

 連れて行かれたのは応接室だった。まだ両親たちが残っている。そして困ったような顔をアリーチェに向けた。

「お父様!何故お認めになったのですか!!私は認めていませんわ!」

 セレーネがアリーチェを引き倒し叫び出す。

「フェリクス殿下とは私が結婚します!婚約者を交代して欲しいとお願いしたじゃないですか!」

 アリーチェは驚いた。そんなこと許されるわけがない。セレーネには聖痕があるのだ。王家から、この国から出せるわけがない。

「私の方がフェリクス殿下には相応しいですわ。こんなみすぼらしいお姉様がフランディー王国の王太子妃なんて務まるはずがありませんわ!」

 言いながらセレーネがアリーチェの背中を蹴る。

「落ち着けセレーネ。おまえは我が国の大切な王女なんだ。他国には出せないんだよ」

 アリーチェが聞いたこともない優しい声で父親がなだめている。

「嫌よ!私が王太子妃になるの!あんな素敵な方だと知らなかったんだもの!元々あっちは私を王太子妃にと書いた親書を送って来てたんでしょ?だったら代わってもいいじゃない!元に戻すだけよ!」

「いや、親書にはどちらかと書いてあったんだ。本当はもちろんセレーネが良かったんだろうが、うちが手放すわけないのも向こうも分かっている。それでも更なる友好関係を結びたいというので申し込まれたのだ。代わりにアリーチェが行くしかあるまいよ」

「そんなのおかしいわ!お姉様が行ったって何の役にも立たないのに!私こそが相応しいわ!」

 アリーチェたちが婚約式に行っている間ずっとこんな感じだったのだろう。だから父親はあんなに疲れた顔をしていたのか。

 変わらず蹴られながらアリーチェはひたすら耐えた。

「許しておくれ。おまえにはこの国を繁栄させるという素晴らしい力があるんだ。おまえを失うわけにはいかないんだよ。その代わりおまえが好きな男を国内から選んで婿に来てもらおう。セレーネは誰からも愛される存在なんだよ」

「嫌よ!だったらフェリクス殿下に婿に来てもらってよ!国内の男なんて見飽きたわ!でもフェリクス殿下以上に素敵な方なんて見たことないわよ!お姉様には勿体ないわ!フェリクス殿下も本当は私を望んでくれているのに!!」

 セレーネは疲れるどころか段々蹴る力が強くなってきている。背中も足も脇腹も蹴られ続けているがアリーチェは丸くなって耐えるのみだ。

 ふと視線をあげるとカルロが見下ろしていた。しかしその目には何も映っていないかのように感情が感じられない。見たくないものは見えないように体が反応しているのだろう。

「無理をいうな。王太子だから婿には来られない。国内の男が嫌なら他の国の王子から選ぼう」

「セレーネ。他にも良い人はいるわよ。それよりアリーチェが予想より高く売れたわ!アリーチェ!フランディー王国に行ったら王太子にねだってもっと私に宝石を送って来なさいよ!」

 母親はそれしか見ていないのか。自分の娘がこんなに妹に蹴られているというのに止めもしないくせに、何故アリーチェだけが言うことを聞かねばならないんだ。

「さあ皆、朝から疲れただろう。少し休もう」

 そう言って父親が侍女たちを促すと母とカルロが出て行き、セレーネは最後の一発とばかりにアリーチェの背中を踏みつぶしながら歩くと出て行った。顔を上げると父と目が合ったが何も言われなかった。そしてそのまま出て行った。

 こんな時でさえ声をかけてくれないのか。手も差し伸べてくれない。彼らはやはり家族とは呼べない。ずっと思っていたが、本当に自分だけ家族ではないのだ。セレーネは聖痕をもつ王女。カルロは世継ぎ。アリーチェは、そこにいるだけの存在ということか。

 アリーチェは側の椅子に手をつきながら何とか立ち上がると自室に戻る為に歩き出した。


「荷物は全部積んだな。忘れ物はないな」

 王太子担当の近衛騎士団長エリクが全員に声をかけている。忘れ物ならある。できればアリーチェも一緒に連れて帰りたかった。しかしさすがにそれは言い出せなかった。王族として婚約期間をちゃんと持ち、王太子宮も結婚式も万全の体制でアリーチェを迎えたい。帰ったら直ぐに準備に取り掛かろう。 

 自分の中にこんなに強い思いをこの短期間で持たせたアリーチェは、もはやフェリクスにとってなくてはならない存在になっていた。

 アリーチェはフランディー王国で愛される存在になる。国民からも家族からも、そしてフェリクス自身からが一番。

「改めまして、殿下、ご婚約おめでとうございます。私を信じて良かったでしょう?」

 ステートが近づいてきて聞いてくる。

「ああ。ステートの人を見る目は確かだとより思わされたよ。帰ったら何が欲しい?」

「何もいりませんよ。これでやっと王太子妃が決まるのです。それ以上に必要なものなんてありませんよ。いやー、やっと国内が落ち着きます。

 アリーチェ殿下は愛される王太子妃になるでしょう。そうだ、欲しいものではありませんが、少し年が離れていますが私の娘に勉強させたいのでご結婚なさったら宮に是非ご招待ください」

「そんなのいくらでも来たら良い。直ぐに招待状を用意させることを約束するよ」

「殿下、準備が整いました。馬車にお乗りください」

 エリクが声をかけてきた。フェリクスが馬車に乗るとその後ろの馬車にステートが乗った。他にも数台フランディー王国の紋章が付いた馬車に侍女たちが乗り込む。どの馬車に王太子が乗っているかわからなくする為だ。

「出立!」

 エリクの号令でフランディー王国一行は帰途についた。一週間の道のり。行きよりも帰りの方がきっと短く感じるだろう。あんなに到着しないでくれと願った行きの道より、早く帰って婚約証明書を聖堂に保管してもらわなければという思いが強いからだ。

 流れるコーランド王国の街並みを見ながらアリーチェの笑顔を思い出し、思った以上に浮かれている自分に笑いがこぼれた。


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