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大賢者様の残したレシピではなく、正規の万能薬の練成に成功した。
今まで色々なポーションを作って来たが、なかなかに気力も魔力も必要としたので思ったより大変だった。
ロザリアンヌが持っていた素材で3本作れたので、1本はソフィアに新しいポーションの試作品だと言って飲ませ、もう1本をアンナにお母さんに飲ませる様に言って渡し、残りはマジックポーチに仕舞った。
その翌朝・・・
「あのポーションはいったいどういう効果があったんだい」
いつもより少し若返って見えるソフィアに聞かれた。万能薬には即効性が無い様だ。
「良く分からなくてごめんなさい。ただとても貴重な素材で作ったから特別な効果があるかと思ったんだ」
「なんていうものを飲ませたんだか。私を人体実験にでも使ったのかい?」
「そんなつもりじゃなくて、ただ元気になって欲しいって思って・・・」
「ああ元気さ。いつもより身体が軽くて驚いている。節々の痛かったのも、目が霞んでいたのも全部治っていてびっくりさ。もしかしてアレは迂闊に口に出してはいけない代物だったんじゃ無いだろうね?」
ソフィアは昨夜飲ませたポーションが何かは何となく察している様だった。
「Sランクダンジョンで手に入れたレシピを試してみたんです。でももう素材が無いので作れません」
「それなら良いよ。私は何も聞いていない。何も飲んでいない。私の考えている事が合っているのなら、ロザリーも絶対に口外するんじゃないよ」
ソフィアにそう念を押され、ロザリアンヌは何度も頷きながらアンナに渡した万能薬の事が心配になった。
アンナの事だからきっと不用意に誰かに口にする事は無いだろうが、やはりきちんと話しておくべきだと考え慌ててアンナの店に走った。
「ロザリー、今私の方からロザリーを訪ねようと思っていたのよ」
魔導書店の扉を開けた瞬間、ロザリアンヌを確認すると同時にアンナが駆け寄って来た。
「こんにちは」
ロザリアンヌは少したじろぎながら遅れて挨拶をする。
「昨日貰ったあのポーション本当に凄いわ。母の病気がすっかりと良くなったみたいなの。何だか若返って見えるし元気過ぎる程元気になっていて私驚いちゃった」
アンナはロザリアンヌの両方の二の腕辺りを強く握りしめ、崩れ落ちながら涙ぐんでいた。
「あのぉー、そのポーションの事なんだけど、あれ実はSランクダンジョンの隠し宝箱で手に入れた物で、もう手に入らないんだよね。実際どんな効果があるかも良く分からずに渡してしまって後悔していたの。人体実験の様な真似をしてごめんなさい」
ロザリアンヌはけして嘘を言ったつもりは無かった。
それでもアンナの様子から効果があった事を知り、アンナに負担にならないように考えてソフィアの言葉も借りてみた。
ロザリアンヌの言葉に初めはキョトンとしていたアンナも、ロザリアンヌが何を言いたいかを悟った様だった。
「ああ、人体実験にされたのね。あれは凄いポーションよ。お陰で母はとても元気になったわ。でももう手に入らないのなら誰にも話せないわね。母にもロザリーから貰った事は伏せて、他の人に言わないように良く言い聞かせておくわ。それでも私が本当に感謝している事だけは言わせて」
「私は非難されても仕方ない事をしたと思っています。感謝は止めてください」
どういう訳かいつもより丁寧な口調になっているロザリアンヌだった。
そして万能薬の事をアンナは絶対に誰にも口外しないのだと信じる事ができた。
大賢者様が絶対に世に出せないと忠告しレシピまで燃やさせたのに、ロザリアンヌは正規のレシピを手に入れた事が嬉しくて、作れたことが嬉しくて、ソフィアやアンナのお母さんに元気になって欲しくて渡してしまった。
錬金術師として反省はしたが、しかし後悔は無かった。
ソフィアとアンナのお母さんが元気で長生きをしてくれるのならそれで良い。他の誰かの事なんて今は考えていられない。
二人とも驚くほど若返ってもいないし、口外する事が無ければ誰にバレる事も無いだろう。
「母が一度ロザリーに会ってお礼が言いたいと言っているんだけど、良かったら母も一緒にお茶でもしない?」
「だからあのポーションの事は内緒って事で」
「違うわよ、いつも頂いていた母の病気に効くポーションのお礼よ。母はあのポーションもそれと同じだと思っているわ。そのお陰で病気が良くなったんだってね。すっかり元気になってそんな事にも気が廻る様になったのよ。病気のせいで暗くなっていた気持ちまで明るくなったみたい。でもポーションの事は念のため口止めしておくから安心して」
「それは本当に良かったです。じゃあまた日を改めて伺います」
「そうね、とびきり美味しいお茶とお菓子を用意しておくわ、楽しみにしてて」
「アンナが結婚したらそう簡単にお茶もできなくなるし、本当に楽しみにしておきます」
ロザリアンヌは万能薬問題が大丈夫そうな事にホッとして、本当にアンナとのお茶会を楽しみにした。
そして家へと戻り学校へ登校すると、今度はユーリに呼び出された。
Sランクダンジョンを踏破した事が耳にでも入ったのか?と思いながら、また何を言われるのかと気持ちを重くしユーリの執務室へと向かった。




