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気が付くとSランクダンジョン90階層のボス部屋に戻っていた。
ダンジョン踏破特典といいながらやられた感がハンパなく、ロザリアンヌはすっかり疲れ果てていた。
一緒に転移させられたはずのキラルとレヴィアスはキョトンとした様子だった。
「ロザリーいったい何が起こったの?」
キラルは辺りを確かめるようにキョロキョロしながら聞いてくる。
「さっきの白い空間での話聞いていなかったの?」
「白い空間って?」
「何も見えない真っ白な空間で男の人の声がしてたでしょう?」
「何を言っているんだおまえは、大丈夫か?」
レヴィアスにまで突っ込まれてしまった。
これはアレだな、キラルもレヴィアスもロザリアンヌに宿った精霊だから一緒に転移はしたが、会話には加われなかったから意識か記憶を飛ばされたんだろう。
もっともあんな内容の話この世界の他の誰にも聞かせられないし、話しても信じても貰えないだろう。
それにしてもロザリアンヌに強制的に世界を冒険させるって、いったいどうするつもりなんだろう?
それに言語理解スキルが嫌がらせってどういう意味だろう?
ロザリアンヌが色々考えていると「隠し部屋は探さないのか?」とレヴィアスに声を掛けられた。
答えが分からない疑問をいつまで考えていても仕方ないと、ロザリアンヌは隠し部屋を探し始める。
そして見つけた部屋の宝箱を開けるとそこには、≪万能薬のレシピと足りなかった素材≫が入っていた。
大賢者様の残したレシピは燃やしたが、一応そのレシピはロザリアンヌの頭の中にはあった。
しかし副作用があったんじゃないかとロザリアンヌは疑っていたので、検証するのを躊躇っていたのだがやはり足りない素材があった様だ。
それもきっとこの大陸では手に入らないだろう素材。
もしかしてこの宝箱の中身で、他の大陸へ興味を向けさせようとしているのだろうかとロザリアンヌは考えた。
でも万能薬なんてそんなにたくさん作る気も無いし、正規のレシピと素材を手に入れただけでロザリアンヌは満足だった。
(ふふふ~、残念でした)
ロザリアンヌはあの声だけの男に内心で舌を出していた。
「ロザリー、ダンジョン踏破しちゃったね。これからどうするの?」
キラルは少し気が抜けたのか次の目標を聞きたい様だった。
「素材を手に入れたいからこれからもダンジョンに入るよ。当然でしょう」
「取り合えずダンジョン課に報告だな」
レヴィアスは早い所Sランクダンジョン踏破の報告をしたい様だった。
「そう言えば浮遊魔法の交渉はダンジョン踏破が優先って言ってたけどどうなってるの?」
ロザリアンヌはSランクダンジョンを踏破した理由の一つを思い出していた。
「それならもう既に交渉を済ませている。ソフィアも手伝ってくれたからな、思いの外簡単だった」
「ええぇ、いつの間に?って言うか何で黙ってたのよ」
「ソフィアの考えだ。あの妖精の羽の有効利用方法を見つけてからじゃないと公開しないつもりらしい」
「有効利用方法って普通に楽しむだけじゃダメなの?」
「それも含めて今色々と慎重に考えている様だ。事故があっても困るしな」
ロザリアンヌは錬成する新しい物に対してあまりにも簡単に考えていた事を思い知らされた。
自分の錬成した物に対する利用方法や責任にまで考えが及ばなかった事を反省した。
そして家に帰ったらソフィアに感謝し良く謝ろうと考えていた。
「ソフィアの交渉術はかなり勉強になったぞ。おまえもいずれはあの位できるようになると良いな」
明らかに落ち込んでいるロザリアンヌをレヴィアスは慰めるように言ったが、ロザリアンヌには追い打ちの様に感じられた。
「私じゃどう頑張っても無理な気がするよ」
「そんな事は無い、おまえは間違いなく成長している。私の目から見ても随分変わったと思うぞ」
「どう変わったって言うのよ?」
「ロザリーはコロコロ忙しくなったよね」
キラルが何やら訳の分からない事を言い始めた。
「おまえは身構えるのを止めたのだろう。その時の考えやその時の感情に素直に行動する様になった。それが良いか悪いかは私には何とも言えないが、間違いなくおまえの心は成長している最中だと私は考えている。だからこそこれからのおまえに期待している」
「そうだよ、ロザリーはきっと養分を蓄えている最中なんだよ」
キラルの笑顔にロザリアンヌの半ばやさぐれた気持ちが癒されて行く。
思い浮かべてみれば初めはゲームの世界に参加しないと頑なに考え、周りすべてをゲームの中の出来事の様に身構えていた。
しかしアンナに出会いキラルを宿しレヴィアスを宿しソフィアを現実の祖母だと認識し、マリーや探検者達に優しくされ知り合いが増えていくにつれ感情が動く様になっていた。
そして理屈や考えじゃなく、感情に動かされるままに行動する事も多くなっていた。
深く考えないで行動する所や一つの事に夢中になると他に考えが及ばないところは、きっと元からだから治すのは難しいだろう。
しかしそれをキラルもレヴィアスも成長途中だと言ってくれるのなら、ロザリアンヌはこれからも心の思うままに行動しようと考えた。
「迷惑じゃない?」
「私はおまえを助ける為にここにいる」
「僕もー」
レヴィアスの大きくて優しい手がロザリアンヌの頭の上に乗せられた。
キラルの温かく柔らかい手がロザリアンヌの掌を握りしめた。
ロザリアンヌはとても穏やかで優しい二人の心に触れ、心から安心し嬉しさが込み上げていた。
種明かしをしますと元々前回の話の後実はAIと人間の脳を利用した実験世界を研究員に観測されていた、そもそも【プリンセス・ロザリアンロード】をプレイした記憶自体も作られたものみたいなオチで完結を考えていたのですが、書籍化の話をいただき所々ストーリを変えながらこの先の続きを練っている所です。
ここで発表してしまった以上このオチは使えなくなってしまいましたが、この先次の大陸での冒険を楽しみたいと考えています。
そしていよいよ書籍化の為に加筆・改稿作業に入る事になり、書き溜めてある分が無くなりしばらくUP数は減るかと思いますが、毎日の更新は続けられる様に心掛けます。
皆様の応援があっての書籍化だと心より感謝しています。
これからも少しでも楽しんでいただける様に心掛け、続けて勉強して行こうと考えていますので、この先も気軽にお付き合いいただけると幸いです。




