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のんびり過ごそうと決めていた冬季休暇だったのに、結局キラルとレヴィアスの探検者レベルを上げる為にダンジョンに入る日々が続いていた。
もともとダンジョンに入るのが好きなせいもあるが、今年の冬季休暇はソフィアともっと親密度を深めようと考えていたのに計算外の行動となってしまったのが残念だった。
もしかしたらこれもソフィアの何かの思いが働いての差し金かと考える事で、ロザリアンヌの計算通りに運ばなかった焦りと残念な気持ちを打ち消していた。
もっともソフィアに提供できる素材もまた沢山手に入るし、キラルもレヴィアスも探検者レベルを上げられるのだから問題など無いと考える事もできた。
しかし結局こうしてダンジョンに入る事になるのなら、その分Sランクダンジョン踏破を早めても良かったのではないかという思いも正直拭えなかった。
その反面、Sランクダンジョンをロザリアンヌが踏破したらどんな事が起きるのかという不安もあった。
まぁ何にしても折角始めた事なのだから、あまり思い悩む事も無く進めてしまおうと、いつものペースでダンジョン攻略をしていた。
そしてそのいつものペースというのが、他の探検者達からしたらちょっと驚きの速さなのはご愛敬だった。
「ロザリー良い仲間が見つかって良かったな」
探検者にそう声を掛けられるのが今のロザリアンヌにとって一番嬉しかった。
「ありがとう、Sランクダンジョンも踏破してみせるから期待してて」
最近のロザリアンヌの返事はそればかりだった。
のんびりしようと決めていたのに、不安な思いも抱えているのに、心のどこかでは一刻も早くSランクダンジョンを踏破したいという思いが強かったのだろう。
そうしてあっという間にキラルもレヴィアスもSランク探検者としてSランクダンジョンへ入れるようになり、晴れて堂々と3人でSランクダンジョン踏破を目指せる様になった。
「ロザリーがんばれよ」
「ロザリーが踏破したら俺らもSランクダンジョン目指してみるかな」
「おまえには無理だから諦めろって」
「そんなことあるか、ロザリーにできるなら俺にもできる」
「ロザリーはきっと何か秘密の道具でも使ってるんだよ」
「何しろ今注目の錬金術師様だからな、俺らじゃ思いつかない凄い秘密の道具を使ってるに違いない」
探検者達のそんな話を聞きながら、ロザリアンヌは自分が探検者として強いという認識ではなく、錬金術師としての認識の方が強いのだと知り正直驚きだった。
「秘密の道具って程の物じゃないわ。魔物の意表を突いたり弱点を狙ったおもちゃみたいな物よ」
ロザリアンヌは以前自分用に作った物を思い浮かべたが、似た様な物を既にソフィアが店に置いていたので、何も珍しい物でもないとばかりに話した。
「そんな便利な物があるなら俺らにも使わせてくれ」
「だって店で既に売ってるよ?」
「あれは威力が弱いからな、高ランクダンジョンではあまり使えない。ロザリアンヌがSランクダンジョンで使ってるのなら威力も高いんだろう?それを譲ってくれよ」
ロザリアンヌは既にすべて魔法で解決できる様になっていたので、最近は爆弾や煙球など使っていなかったが、探検者が求めている威力の高い物を練成できないか考え始めていた。
ダンジョンの外で犯罪に使われては困るから爆弾はダメだな。
そうなると目潰しや嗅覚潰し等も同じ様な理由で改良するのも憚られる。
ダンジョン内でしか使えないとか、魔物にしか効かない何か・・・
「分かったわ、譲っても良い物をちょっと考えてみる。できたら店に並べるから絶対に買いに来てよ」
「おお、楽しみにしてるからな!」
ロザリアンヌはこれがロザリアンヌにとって初めての依頼になるとは思いもせず引き受けていた。
手に入りづらい素材じゃ数を作れないし売値も高くなってしまうから、探検者達もそう簡単に買えなくなるだろうしと、珍しい事に価格の事まで考えていた。
そしてデバフを与える為の素材をあれこれ考えていたが、結局答えは闇魔法の中にあった。
大賢者様の残した魔導書をすべて覚えてしまおうと決めたロザリアンヌは、毎日一冊ずつ開いては少しでも理解できる様に良く読みながら覚えていた。
その中に魔物の持つ魔石や魔晶石の魔力に反応させるという魔法があった。
この魔法はそれ単体ではどうって事の無い魔法だが、使い方によってかなり応用が利く魔法に思えた。
初めは魔道具で使ったらスイッチにも使えるのじゃないかとロザリアンヌは考えた。
しかしスイッチで使うとしたら却って複雑になりそうな気がして、魔石に反応して何かと考えて咄嗟に思いついたのが、探検者に頼まれていたデバフ攻撃アイテムだった。
高難易度ダンジョンともなると耐性を持つ魔物も多い。
しかしどの魔物も必ず体内に魔石や魔晶石を持っている。
その魔石や魔晶石に反応するのなら、耐性はきっと無効化されるんじゃないかとロザリアンヌは考えた。
この魔法に暗闇や睡眠や魅了・幻惑といった闇魔法のデバフを組み込めば良いんじゃないかと。
しかしそれをどうやって発動させるかが問題だった。
探検者達はきっと煙球の様に魔物に投げつけるアイテムを期待しているだろう。
それに探検者が持ち運ぶ間、荷物の中で魔物を倒して手に入れた魔石に反応される危険もある。
それらの問題をクリアするにはどうしたら良いかと、何日か頭を悩ませ試行錯誤を繰り返した。
そうして出来上がったのがガチャガチャケースの様なケースに入った手榴弾の様なアイテムだった。
魔物に当てた衝撃で魔力感知を断絶させたケースが破れ、その衝撃で中に入れた魔石に書き込んだ魔法陣が発動する様にした。
投げやすいように重さを調整するのが難しかったが、錬成自体はケースも含め意外に簡単だった。
後は過度な衝撃を与えないように持ち運んでくれればOKなのだが、マジックポーチに入れておけばその心配も無いだろう。
実際にロザリアンヌも使ってみたが、思っていた以上の効果はあった。
魔石を使わなくてはならない分少しだけ値段が高くなったが、その効果に比べたらお安い方だろうと思われた。
デバフ効果も雷魔法を覚えた事で麻痺も付けられる様になり、氷魔法のフリーズもなかなか効果があった。
これが本当に探検者達に喜んで貰えるかどうか、ロザリアンヌはドキドキしながら店に並べそして宣伝をした。
結果はみんなに心から喜んで貰えた。
「ロザリーこれ本当に凄いな」
「ロザリーこの麻痺はあれだな、見ていて怖い位の魔法だな」
「ああ、このフリーズって言うのもびっくりだぞ。あんなに大きな魔物が粉々に砕け散るんだからな」
「ロザリーこれでダンジョン攻略が大分楽になった。本当に助かったよ」
(こんな物でも喜んで貰えるのか)
ロザリアンヌは初めて人からの要望で作った物が、思った以上に喜ばれた事で錬金の必要性や自由度が自分の中で広がった気がしていた。




